「弓は力で引くというより……そうですね、体の骨組みで引くといった感じでしょうか?」  
『骨組み?』  
「はい。それに使うのは日常ではほとんど使わない筋肉なので、練習を休むと衰えてしまい引けなくなるんですよ」  
 
 あの人との電話。  
 以前は連絡の付かないことも多かったものの、私たちが付き合うようになってそんなこともなくなりました。  
 京都と東京。  
 電話ではすぐそばにいるように感じられるのに、いざ会おうと思うと決して近い距離ではありません。  
 秋も深まりつつあり、人恋しい季節です。  
 少しでも寂しさを紛らわせようと、私は大切な人に電話をかけました。  
 話題はいつしか弓道に移り、自然と饒舌になってしまいます。それをあの人は真剣に聞いてくれる。  
 そんな小さなことでも心が躍る。幸せ。それなのに……。  
 
 優しい声が私の感情に作用するのか、胸のドキドキが高まります。息も苦しくなります。  
 それは少しずつ体に影響を及ぼすのでしょう。……お腹の奥が熱くなってきます。下着が…濡れます。  
 いけないとは思っていても、体の疼きが止まりません。受話器を持っていない手をそろそろと足の間に……。  
「んっ!」  
 敏感なところに指が触れた途端、声が出てしまいました。  
『ん? 若菜どうかしたの?』  
 私がこんな淫らな振る舞いをしているなど想像もしていないようなあの人の声が聞こえます。  
「い、いいえ……なんでもありません」  
 あわててスカートから手を抜いて答えました。  
『そう? 少しずつ寒くなってきたからね。風邪ひかないようにね』  
「あ、ありがとうございます。あなたもお体には気をつけて」  
 思いやりに満ちたあの人の言葉に罪悪感が湧き上がります。あの人の声で…自慰を……。  
 その時、電話の音が規則的に途切れました。キャッチホンでしょう。  
「キャッチホンではありませんか? 出なくてもよろしいのですか?」  
 せっかくの電話を中断したくはないのだけれど……。  
『あ、うん…でもいいよ。若菜と話してたいし』  
 とてもうれしい言葉でしたが、  
「いけません。何か大切な用件かもしれませんし……」  
 その気持ちを押しとどめます。  
『そう? じゃあちょっと待ってて』  
「はい」  
 電話が切り替わって、  
ツー、ププッ、ププッ………  
 無機質な音が響いてきます。しばらくそのままでいると、  
『若菜ごめん。こっちの話がちょっと長くなりそうなんだ。また明日にでも僕からかけるよ』  
 本当に申し訳なさそうにあの人の声がしました。  
「わかりました。今日はとても楽しかったです。それでは、また明日」  
 
「ふぅ」  
 電話を終えて大きく息をつきます。  
 いくら大好きな人とはいえ、あの人と話しながらはしたない行為に耽ろうとしたことを思い出すと顔が熱くなります。  
「シャワーでも浴びましょう」  
 あの人と電話していたため、今日はまだお風呂に入っていません。  
 私は火照った体を冷やそうとお風呂場に向かいました。  
 
 少しぬるめのお湯を全身に浴びると昂ぶりが鎮まっていきます。  
 髪を洗い、ボディータオルに石鹸をまぶして体を清めます。  
 首筋から上肢を、そして上半身に続いて両足のあと、秘められた部分を……。  
 体を洗い終え、私は泡を落とすためにシャワーをひねりました。  
シャーーー  
 勢いよく噴出するお湯が心地よい刺激となって全身をほぐしていきます。  
 肩から腕、胸、それからお腹を過ぎて足へとお湯をかけていきます。  
 最後に足の間の…あそこ、に……。  
「……あっ」  
 奔流が敏感な部分に当たり、私は思わず声を上げてしまいました。  
(いけない……)  
 そうは思うものの、体の奥から湧きあがる悦楽にシャワーをはずすことができません。  
 洗い流すためにかけたお湯が、今では違う目的で恥ずかしい部分に当てられています。  
「だ、だめ……」  
 なんとかしてシャワーの当たる位置を変えようと、ノズルを持つ右手に左手を添えました。  
 ですが、どうしても向きを変えることがかないません。  
「あ…ああぁ……」  
 立ち込める湯煙の中、お湯と湯気で朱が差すのとは別の理由で肌が染まっていきます。  
 あの人の声を聞いた晩はいつもです。こんなはしたないこと、してはいけないのに……。  
「ひぅ…あ、ぁ…」  
 脳裏にあの人の笑顔が浮かびます。私に向けられる微笑み。私にかけられる優しい言葉。  
「あ…み、見ないでください……」  
 首を左右に大きく振ってあの人の眼差しから逃れようとしました。面影を振り払おうとしました。  
 清い交際を続ける私たちは、まだ手をつないだこともありません。なのに私は……。  
「ひゃんっ!」  
 いちばん感じる部分をシャワーがえぐりました。  
 それが引き金になり、私は淫らな行為に耽ってしまいました。  
 シャワーを投げ出して自らの指で秘所をなぶり、性感の頂に向けて登っていきます。  
 もう止まりません。  
「んふっ…くぅっ!」  
 手馴れた動きで巧みに性感を引き出します。絶頂が見えてきます。  
「あっ、イク! イキます……っっ!」  
 お腹の奥がびくびくと収縮し、お湯とは違う液体が指を濡らしました。  
「イクうぅっ!」  
 髪を振り乱し、背中を大きくのけぞらせ、私は達しました。  
「はぁ、はぁ、はぁ……」  
 荒らいだ息が落ち着くまで、私は浴槽のへりにつかまったまま立ち上がることができませんでした。  
 
 その数日後のことです。私は学校から帰るなりおじい様方への挨拶もそこそこに部屋に向かいました。  
 自室に入り、制服を着替えることもせず学生鞄から一冊の雑誌を取り出します。それは学校で友人から借りて来たもの。  
 表紙には同じ年頃の女の子が写っています。彼女を囲み、芸能人の名前やメイクやファッションという文字が配されています。  
 東京や横浜から広がりつつあるらしい流行についての最新報告ともあります。  
 高校生や中学生を対象にした、若い女の子向けのよくある雑誌の一つでした。  
 
 私は自分で洋服を買ったことはありません。普段はお母様やおばあ様が見立ててくださった服を着ているし、それに不満はありません。  
 けれども、私だって自分で着てみたい服はあるし、お化粧や装いに関心もあります。  
 そう言って借りてきたのだけれど、本当の理由は別にありました。  
ぺら、ぺらっ  
 ページをめくり、目指す記事を探します。……ありました。  
 『投稿企画・彼との初体験』。  
 この夏に意中の人と一線を越えてしまった女の子たちの告白手記のコーナーでした。  
 赤裸々な内容が、過激とも言える筆致でつづられています。  
 それを学校で目にしたとき、私は居ても立ってもいられなくなりました。……どうしても読みたい。  
 ですがこの手の本を買うのはためらいがあります。下校の途中で中島さんに本屋さんに寄ってもらうのも気が引けます。  
 雑誌を借りるのは思いのほか簡単でした。  
『若菜もたまにはこういうの見て勉強しなよ。高校生のうちしか着られない服ってあるよ!』  
 そう言って、友人は気安く貸してくれました。私の本当の目的も知らずに。  
 
 誌面に目を落とします。  
『カレの指が乱暴に私のアソコに』  
 その情景が頭に浮かびます。文中の女の子を自分に置き換えて読みすすめます。  
 いつしか私の右手はスカートにもぐりこんでいました。そして下着の上からゆっくりとなぞっていきます。  
「んっ……」  
 洩れ出る声をおさえながら左手でページをめくります。  
『クリちゃんをカレがいじってきたら、頭の中に火花が散ったみたいに』  
 指をショーツのすき間からねじ込むように侵入させ、敏感な突起に触れました。  
ビクッ!  
 それでも指は止まりません。ここまで来たらもう戻ることはできないでしょう。  
 性感が高まっていくのが意識されます。でも指が動かせません。もどかしい……。  
 私はとうとう下着を取り去ってしまいました。  
 
 狭い空間から開放されて、指の動きに自由度が増しました。  
 溝に沿って激しく指を動かすと、  
くちゅ、ぬちゃ…  
 淫らな水音が立ちます。  
「あっ、あっ!」  
 何度もした行為だけあって、どこをさわれば快感が得られるのかを私は知っています。  
 その部分を的確にこすりたてるうち、頂が見えてきます。  
 
 東京に住む愛しい人の名前を呼びながら絶頂に向かっていきます。そうしながらも目は文字を追っていきます。  
『行くよって言って、カレの熱くてたくましいアレが私の中に入ってきたの』  
 あの人に貫かれる自分を想像しました。  
「んんーっ!」  
 嬌声を洩らすまいと食いしばった歯から押し殺した声が上がりました。  
「あっ、好き…好きです……」  
 私は目を閉じ、彼の顔を思い浮かべながら一心に恥ずかしい突起をこすりたてました。  
「もっと、もっとしてください……」  
 はしたないことを口走りながら快楽をむさぼります。体中が熱い。意識が薄れていきます。もう何も考えられません……。  
「あ、ダメ……イキます……」  
 次の瞬間、私は  
ビクンッ  
 と体を跳ねさせると絶頂しました。  
 
「また、してしまいました……」  
 ティッシュを使いながら後悔の念が胸にわき上がります。  
「こんな女の子だって知られたら……嫌われてしまいます」  
 悔恨の情がよぎるものの、この悦楽のとりことなった体はまた疼きはじめていました……。  
 
「ご無沙汰しております」  
 翌日、私は玄岳和尚さまの許を訪れました。  
 校則に従って制服で境内を歩く私を、若いお坊さまが興味深げに見てらっしゃいます。  
「して、どうなされた」  
 柔らかな笑顔で和尚さまがお尋ねになります。  
「己自身の不完全さに悩んでおります。心に浮かべてはならないものが、浮かんでしまうのです」  
 ……煩悩。  
 あの方と唇を重ねてみたいのです。そして、抱かれてみたい……。淫らな行ないを想像し、心が乱されます。  
 そんな私に和尚さまがおっしゃいました。  
「煩悩は良いとか悪いとかいうものではない。強いて言えば、あるものなのだ」  
 和尚さまの説法が続きます。  
「良いか悪いかは、それをどう捉え、どう生きるかによって変わる。人間は煩悩があるからこそ成長し、発展することが出来る」  
「煩悩は…決して悪いことではない……」  
「迷った瞬間、煩悩は見え、悟った瞬間、煩悩は見えなくなる。それでいいのだ」  
 まだ人として幼い私には難しい部分もありますが、何かわかった気がしました。  
「ありがとうございました」  
 私は深々と頭を下げました。  
 
 和尚さまのお話は私から迷いを断ち切らせました。  
 私はあの人が好き、あの人と愛し合いたい。それは素直な感情です。  
 ならば、それに従うのは間違いではありません。節度さえ守れば……。  
 今度、あの人に私の正直な思いを伝えてみよう。  
 ……あなたと手をつないでみたいのです。唇を…重ねてみたいのです。  
 
 あれからあの人と何度も電話で話しています。  
 けれどいつも他愛のない話ばかり。思いを伝えることは叶いません。  
 もちろん私としてはあの人の声が聞け、息遣いを感じられるだけで幸せなのですが。  
 
 その日もあの人の声を聞きながら、私の手はスカートの中に差し入れられていました。  
 和尚さまに話を聞いていただいて以来、私の中の罪悪感は薄れていました。  
「っ!」  
 指が敏感な部分に当たり、思わず息を呑んでしまいました。  
『若菜……違ってたらごめんね。電話しながら…何かしてるの?』  
「!」  
 驚きのあまり、思わず声が出そうになりました。  
『もしかして若菜、僕の声聞きながら……』  
「い、言わないでくださいっ! そんな淫らで恥ずかしい子だって知られたくはあり……あっ!」  
 墓穴を掘ってしまいました。よりによって、私は自分で何をしていたか言ってしまったのです。  
『………』  
 電話の向こうであの人が沈黙しています。あきれているのでしょう。嫌われてしまったかもしれません。  
「………」  
 私もどうしたらいいのか分からず、かといって切ることもできずに黙っています。  
『僕も…その、若菜を想って……自分で…してるよ……今だって、さわってるんだ』  
 突然、思いもかけない言葉が返ってきました。  
 ……うそ。あの人も、私を想いながら?  
「本当ですか?」  
 幾分か混乱しながら聞き返します。  
『え?』  
「私に恥をかかせまいと、そういう作り話を……」  
 そんな私の言葉をさえぎってあの人が言いました。  
『若菜にだけは嘘をつきたくない。ありのままの僕を若菜には知っていてもらいたいから』  
 不意に涙がこぼれそうになりました。  
 あの人は、そんなに真剣に私を想ってくださっている。  
「私も、私もあなたには本当の私を……私のことを知ってください」  
 それからは堰を切ったように思いの丈を伝えました。  
 手をつなぎたい。抱きしめてもらいたい。……唇を重ねたい。そして……。  
『若菜……電話しながら、自分で触ってごらん。若菜のえっちな声が…聞きたい』  
 
 あの人に言われるまま、私は下着をひざまで下ろしました。  
 一気に取り去る勇気がなかったのです。  
「あ、あの……」  
『………』  
 電話口は静かなままです。ただあの人の気配だけが伝わってきます。  
 意を決し、私は下着をさらに下ろしました。そして片方ずつ足から抜き、畳んでそばに置きました。  
「も、もしもし……」  
『脱いだ?』  
「は、はい」  
 いま自分がどんな恰好をしているのか、それを思うと頬が熱くなるのがわかりました。  
『若菜はいつもどうやってオナニーしてるの?』  
 直接的な言葉に動悸が激しくなります。  
「あ、あの……クリトリスを……」  
 普段なら決して口に出来ないような単語なのに、何かに魅せられたかのように言葉が出てきます。  
『胸は触ったりしないの?』  
「はい、あまり」  
『じゃあアソコを触ってみて』  
 横座りしたひざを少し開き、右手を足の付け根のあたりに持っていきます。  
 そして言われるままに恥毛をかき分け、割れ目に沿って上下に指を動かしました。  
「くふぅっ!」  
 吐息がこぼれます。  
『感じてるの?』  
「そ、そんな……」  
 言い当てられ、動揺が広がります。  
 同時に体の奥から恥ずかしい液体がにじみ出、割れ目の中が滑らかになります。  
「あぁっ……」  
『濡れてきた?』  
 まるで見ているかのように、あの人は的確に私の状態を指摘します。  
 もしかして、女性経験が豊富なのでしょうか? 不安や嫉妬心が芽生えます。  
じゅく……  
 そんな心理状態なのに、私の体は刺激に素直に反応します。  
 粘り気のある液体を指にまぶし、股間の突起を私はいじり続けました。あの人の指を想像して……。  
 
「あ…あっ、ぁぁっ!」  
 隠そうとしているのに、あられもない声が出ます。  
 そしてそれは、電話線を通じて東京にいるあの人に聞かれているのです。  
 それが私をいっそう興奮させるのでしょうか、いやらしい水音を立てるほどに陰唇が潤っています。  
「あ、あなたも感じているのですか?」  
 乱れているのは自分だけなのか。そんな不安が私にそんな質問をさせました。  
『………』  
 けれどその返事はありません。少し荒く、そして激しくなったあの人の息が受話器から聞こえるだけです。  
『若菜、若菜のアソコの音が聞きたい。受話器をマンコに近づけて』  
「!」  
 関東の言葉で、あの人が女性器から立つ音を聞かせてくれと言っています。  
 自分でも意識して聞いたことのない音をあの人が聞きたがっています。  
『お願い』  
 ためらう私を促すように、あの人の声がします。  
「は、はい……聞いてください」  
 興奮しているせいでしょうか、ますます湧き出すいやらしい液体を意識しながら、私は股間に受話器を近づけました。  
 
ぐちゅ、くちゅ、くちゃ………  
 指を立ててクリトリスを親指でいじりながら、人差し指と中指で陰唇をかき混ぜるように撫でます。  
ちゅぐ、くちゅ、くちゅ………  
 私の性器から立つ淫らな音が、電話の向こうのあの人に全部聞かれています。  
 そう思うと、一層体は火照り、それに伴って体の奥から恥ずかしい液体が染み出ます。  
「んんっ!」  
 膣の周辺で動かしていた指が中に入りそうになりました。  
 あの人のペニスの他は、たとえ自分の指でも最初に入れたくありません。  
 私はあわててクリトリスに意識と攻めを集中しました。  
「あふぅっ……」  
 徐々に絶頂に向かっていくのがわかります。このまま達したい……。  
 ですが、あの人の声を聞きたい。あの人の声を聞きながら昇り詰めたい。  
 女性器に近づけていた受話器を再び耳に当てました。  
「も、もしもし……」  
『若菜ってこんなにエッチな子だったんだ』  
「ち、違います……」  
 反論する声に力が入りません。  
『だってこんなに濡れてるよ? エッチじゃない子がこんなに濡れるの?』  
「そ、それはあなたに聞かれていると思ったから……」  
 恥ずかしさで声が小さくなります。  
『僕が聞いてると興奮するの?』  
「はい……」  
『だったら、これからはいつも聞いてあげようか?』  
 思ってもいなかった意外な提案に心が揺れました。私のオナニーを、あの人に聞いてもらう……。  
『若菜、聞いててあげるから最後までしてごらん』  
「は、はい。私の……えっちな声を聞いてください」  
 そう告げると、私は絶頂するために指を激しく使いだしました。  
 
ちゅぷ、くちゅ、ぐちゅ………  
 恥裂に沿って指を動かし、充血しきったクリトリスを回すように玩弄します。  
 大きく足を広げ、はしたない恰好で私は自慰にふけりました。  
「あんっ、くふぅん……はぁっ」  
 あられもない声が受話器を通してあの人に伝わります。  
『………』  
 あの人は電話の向こうで黙っています。私の痴態に真剣に耳を傾けているのでしょうか。  
 腰がヒクつきます。ピンと伸ばした足先に力が入ります。絶頂の予感がします。  
「わ、私は……若菜はっ、若菜はイッてしまいそうです」  
『何をしてイッちゃうの?』  
「あ、あなたに……あなたにオナニーを聞いてもらってイッてしまいますっ!」  
『イキそう? いいよ若菜、イッてもいいよ』  
 優しい声が聞こえました。それが引き金になりました。  
「イ、イキそうです、イキます……気持ちよくてイッちゃいます!」  
『若菜、イッて。若菜がイクところ、僕に聞かせて』  
「イ、イクっ! イキます! 若菜はイキます……イクぅっ! っっ!!」  
 
ビクンッ!  
 全身が跳ね上がり、私は絶頂しました。  
 振り乱した髪が顔にかかり、視界がさえぎられます。  
ビクッ、ビク…ビクン……  
 私の体を貫いた快感の余波の痙攣が少しずつ治まっていきます。  
 
 ドロドロの液体が膣からこぼれているのに気が付きました。  
 と、受話器の向こうからティッシュを抜くような音が聞こえました。  
 大きく深い息遣いと共に、ガサゴソと何かしている様子も伝わってきます。  
 ……あの人も達したのでしょうか? それも、私の痴態を聞きながら。  
『イッたの?』  
「は、はい…イキました……」  
『気持ちよかった?』  
「はい。こんなに感じたのは…初めてです。……あの」  
『なに?』  
「あなたも……あなたもイッたんですか? 私の声を聞いて」  
『うん。いっぱい出た。若菜の声聞いてたら僕も我慢できなくなっちゃったよ』  
「あ……」  
 急に恥ずかしくなりました。私はあの人にオナニーを聞かれてしまったのです……。  
 そして私の声で、あの人も……射精を。  
 
『若菜、今度の週末にそっち行くよ。そのときに若菜と、その…もっと深い関係になってもいいかな?』  
「は、はい……お待ちしています」  
 もっと深い関係。あの人と結ばれる。あの人に私の初めてをささげる。  
 返事をしたあとでその意味が理解できました。  
 ですが後悔も反省もしません。私はあの人が好きだから。あの人も私を好いてくださっているから。  
 好きあう男女が結ばれるのは自然なこと。私たちにもそのときが来ただけのことです。  
『若菜、ホントはもっと話してたいんだけどさ……えっと、飛び散った精液拭かないといけないから切るね』  
 気まずそうにあの人がその単語を口にしました。  
「あ、はい……私も、……愛液の始末をしないといけませんので、今夜はこれで」  
 それに応え、私も恥ずかしい単語を言葉にします。あの人にだけ照れくさい思いはさせたくありませんから。  
 電話を切った私は、週末のことに思いを巡らせながらオナニーの後始末を始めました。  
 
 
              おわり  
 

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