「やっぱり僕は夏穂みたいには走れないよ」  
「ほんとごめんねぇ」  
 僕の足にマッサージを施しながら夏穂が詫びる。  
 
 ここはスポーツセンターのロッカールームだ。  
 市民の健康増進を目的に作られた施設で、グラウンドやプール、トレーニング室などの設備が揃っている。  
 夏穂は普段から暇を見つけては走ってたみたいだけど、僕は一度も足を踏み入れたことがなかった。  
 もともと運動がそんなに好きじゃないからなんだけど、今日は違った。  
 『体がなまるし、最近お腹が出てきたんじゃないか? 私が好きなら一緒に走ろうよ』。  
 そう言われて断れるものじゃない。  
 あまり気乗りはしなかったけど、夏穂に連れられて僕は初めてスポーツセンターにやって来たというわけだ。  
 だけど、日頃から運動不足の僕に夏穂と一緒のランニングはきつかった。  
 足がつったはずみで転び、ひざもすりむいてしまった。  
 そうして今、夏穂にマッサージを受けているというわけだ。  
 
「痛くない?」  
 そう聞きながら夏穂のやわらかな手が僕の足を揉み、さすっていく。  
 ふくらはぎを中心に、太ももから足の付け根へ。そして内ももを丹念に撫であげていく。  
「うん、痛くない。……っていうか別の意味で気持ちいい」  
「バ、バカっ!」  
 うつぶせになっていたベンチから身を起こし、腰をかけた。  
 そしてふくらんだトレーニングウェアの前を見せ付けながら言った僕の言葉に、夏穂が頬を染める。  
「だってこんな風に刺激されて、感じるなってほうが無理じゃない?」  
「まじめなマッサージなんだから、変な気持ちにならないでよね……」  
「こっちの凝りもほぐしてくれるとうれしいんだけど」  
 言うと同時に、僕は夏穂の手を取って股間の昂ぶりにあてがった。  
「ちょっ……」  
 でも夏穂はその手を振り払うことはしない。  
「ね、夏穂?」  
「……私はなんにもしてないのに、どうして大きくなってるのよ」  
 ぶっきらぼうな口調で夏穂が言う。  
 でもそう言いながら、夏穂の手はゆっくりと剛直をなでさすっている。  
「してるだろ?」  
 夏穂の手を取ってウェアの中に導く。  
「だめだって……ここじゃえっちできないよ?」  
「そうだな……ねぇ夏穂、手でしてくれる?」  
「……しょうがないなぁ」  
 あきれた、といった顔で夏穂がうなずいた。  
 
 半勃ちになっていた男性器がみるみる硬化していき、ついには完全に勃起した。  
 夏穂は入り口に背を向け、バッグをベンチに置いて目隠しの代わりにする。  
 僕もウェアと下着を一緒に膝まで下ろし、手を後ろについて体を楽にさせた。  
「ふふっ、固い。……あっ、ピクピクしてる」  
 いたずらっぽい笑顔で夏穂が、固さを確かめるように先端を指先でつつきながら言う。  
「夏穂、じらさないでよ……」  
「ちゃんとイカせてあげるから、心配しないの」  
 そう言って夏穂はペニスを握った。  
 静かに揉むような動きから、一転して強くこすりたててくる。  
 そう思っていると3本の指の腹でつまむように亀頭がなでまわされる。  
 軽く爪を立てて引っかくように裏スジがなでられ、カリを回すようにさすってくる。  
「くっ!」  
 緩急をつけた夏穂の攻めに思わず声が出た。  
「気持ちいい?」  
 そう聞く夏穂の顔も上気している。  
「……最高」  
「うふふ…まだ出しちゃダメだよ」  
 僕に体重を預けるようにもたれかかりながら、夏穂がささやいた。  
 
「夏穂」  
 名前を呼びながら夏穂のあごに手を添えた。そのまま少し持ち上げる。  
「うん」  
 僕の意図するところを察した夏穂は、目を閉じて顔を上向けた。  
 ……唇が重なる。  
ちゅっ、ぴちゅ、ちゅっ…………  
 舌をからめ、唾液を交換する激しい口づけが続く。  
 そうしながら、僕は夏穂の胸に手を伸ばした。ウェアの上からまさぐるようにしてふくらみを攻める。  
「んんっ……」  
 小さく鼻を鳴らして夏穂が身じろいだ。  
 そしてお返し、とばかりに勃起に対しての攻めに熱がこめられた。  
 
 袋を手のひらに収めたまま夏穂が淫茎をしごき上げる。  
 先端の割れ目が爪の先で引っかくようにくすぐられる。  
「むんっ!」  
 圧倒的な快楽は、キスをしてふさがれた唇から押さえきれずに声を洩らした。  
 カリの出っ張りを弾くようにして指がおどる。エラの張った部分を指の腹で強くこすられる。  
 そのたびに強烈な悦楽が立ちのぼり、僕は腰をガクガクと震えさせた。  
 性器に与えられる快感と、夏穂を思い通りにしている満足感とが相まって僕の中で渦を巻く。  
 ……射精が近い。  
 
「んぁっ!」  
 呼吸が苦しくなったのか、夏穂が唇を離した。  
「はぁはぁ」  
 僕も大きく息をつく。深呼吸して、少しでも射精感が遠のくよう試みる。  
 だけど無駄だった。精液がもう根元まで来ている。  
「夏穂…イク……」  
 やっとそれだけを口にした。  
 と、夏穂が素早く僕の股間にかがみこんだ。  
 そして亀頭を口に含んだ次の瞬間、溜まりに溜まった欲望が発射された。  
どくんっ! びゅっ! ずびゅっ!…………  
 夏穂の唇に締めつけられた部分を精液が通過していくのがわかる。  
「うぁっ、ぐっ…くぅっ!」  
 全身がバラバラになりそうな快感で、白濁が射ち出されるたび息が止まった。  
どくっ! びゅっ!………  
 放出が続く。おびただしい量が夏穂の口の中に送り込まれていく。  
 ……そうして僕は、長い射精を終えた。  
 
 いままでフェラチオの経験はあっても、口で出したことはなかった。夏穂の口を穢してしまった。  
 夏穂が顔を上げた。怒ってる?  
 わからない。夏穂の表情は普段のままだ。少なくとも厳しい表情はしていない。  
 と、  
こくん  
 のどが上下した。  
「けほっ、こほっ……精子って、けほっ、こんな味なんだ」  
「か、夏穂……」  
「なんかのどにからむぅ〜。けほっ、でも仕方ないよね。ロッカールームを精子で汚したらマズイし」  
 恥ずかしいのか、夏穂は頬を染めてそう答えた。  
「あ、ありがとう。……っていうかごめんね、飲ませちゃって」  
「いいよ、私が自分でしたことだもん……ねぇ、これで終わりってことはないよね?」  
「え?」  
「あなただけ気持ちよくなってズルくない? ……今度は私も。ね?」  
 そう言うと夏穂が僕に腕にすがりついた。  
「ホテル、行く?」  
 僕のその言葉に、夏穂が頬を染めてうなずいた。  
 
 
        おわり  
 

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