設定は小説「約束」の数年後。優の両親に結婚の承諾を得に行った晩の話です。  
 
 
 海外での公演が多く、留守がちな優の両親が珍しく日本に長く留まることになった。  
 この機会に僕たちは『挨拶』をすることにした。いわゆる『お嬢さんを僕にください』というやつだ。  
 高校卒業を機に本格的に優と交際をはじめ、4年近くになる。  
 来月からは僕も社会人。ここらでけじめをつけようと考えていた僕には絶好のタイミングだった。  
 
 優と一緒に新幹線で広島に向かいながら、僕は不安も覚えていた。  
「結婚を許してもらえなかったらどうしよう……」  
 つい悲観的な考えが口をつく。  
「多分大丈夫だと思うよ」  
 車窓をながめていた優が僕に向き直って答える。  
「だけど僕はまだ社会的に一人前じゃないし、収入だって優を養えるほどはもらえないと思うよ」  
「それを承知の上でキミの申し出を受けたんだよ。私ももう子供じゃないからね。親の許可がなくても結婚はできるよ」  
 笑いながらそう言うと、優はまた車窓に目を転じた。  
 
 結論から言うと、あまりにもあっけなく承諾が得られた。『貴様なんぞに娘はやれん!』は杞憂に終わった。  
 歓待され、食事やお酒まで振る舞われ、もう家族の一員みたいな扱いまで受けてしまった。  
 来る途中の気のもみようはなんだったんだというぐらい簡単に事は進み、こっちが恐縮したほどだ。  
 結婚の話を切り出す前からそうだった。  
 優の自主性を重んじ、そして優自身を信頼していることがご両親の言葉の端々からうかがわれた。  
 その優が選んだ相手なら、親として反対する理由がない。そういうことだった。  
 さすがに挙式の日取りまでは決まらなかったけど、結婚までの大まかな日程もその場で決まってしまった。  
 親御さんのスケジュール調整も必要だし、僕も納得して今後のことを話し合った。  
 
 その晩は優の家に泊まれと強く勧められたけど、僕たちはまだ結婚前だし丁重に断った。  
 たしかに体の関係はあるけど、こういうところはきちんとしておきたい。それに市内にホテルも取ってある。  
 優は久し振りに自宅で両親と過ごすべきだし、僕がホテルに泊まるのは自分で決めたことだ。  
「それじゃあ、ちょっとそこまで送ってくるよ」  
 僕が玄関に向かうと、優はそう言って出てきた。  
 
 優の運転する車でホテルまで送ってもらう。  
 だけど車はまっすぐホテルに向かわず、海岸線を走っていく。  
「優、どこ行くの?」  
「フフッ、着けばわかるよ」  
 なんだか楽しそうに優はハンドルを握っている。優としても一安心といったところなんだろう。  
 
 しばらく走った後、海岸沿いの駐車場に車を入れると優はエンジンを切った。  
「着いたよ」  
「ここは……」  
「覚えてる?」  
 いたずらっぽく優が笑う。  
「もちろん」  
 僕も笑顔で返す。  
 闇の中に灯台が立っていた。岬の灯台。優と初めて会った晩、自転車に二人乗りして来た場所。  
「フッ、行こうか」  
 あのときのように、僕たちは波打ち際を歩いて灯台に向かった。  
 
「大人になってから来るの、初めてだね」  
 らせん階段を上りきったところで僕は言った。  
「そうだね。きっと、あの頃と同じように星がきれいだよ」  
 にっこり笑って優が扉を開けた。  
 その途端、満天の星々が僕たちを包みこんだ。  
 
 長い間、僕たちは回廊にたたずんでいた。二人だけの時間がゆっくりと流れていく。  
「結婚……するんだね」  
 神秘的にも見える荘厳な星空を眺め、優がポツリと言った。  
「うん」  
「本当にキミと一緒に人生を歩んでいくんだ……」  
「……うん」  
「フフッ、なんだか夢みたいだな」  
 僕の肩に頭をもたれさせて優がささやくように言葉を紡いだ。  
 優のぬくもりが僕の心をあたたかくさせる。  
 不意にキスしたくなった。優を抱きしめたくなった。  
「優」  
 名前を呼ばれた優が僕に顔を向けた。その両肩を抱くようにしてそっと唇を合わせる。  
「ん……」  
 潮騒の音だけが聞こえる星空の中、僕たちは強く抱き合い、口づけを交わした。  
 
 唇が離れる。  
「興奮……してる?」  
 甘い吐息が僕の頬をくすぐる。  
 スラックスを突き破りそうなほど昂ぶっているのが服ごしに優にも伝わったらしい。  
「………」  
 体は優を求めている。だけど、今ここでそれを口にするのになんとなくためらいがあった。  
「いいよ。しようか」  
 わずかに微笑むと、優は僕の手を取って灯台の中に向かった。  
 
 僕を先に入らせると、優が後ろ手に扉を閉めた。  
 星たちのきらめきが消え、常夜灯の人工的な光が僕たちを照らし出す。  
 それはとても淡いものだったけど、夜の暗さの中にいた目にはまぶしささえ感じられた。  
 それでも目はやがて慣れ、細部がわからないほどの明かりに変わっていく。  
 らせん階段の頂上は備品や整備に使うらしい箱が置かれており、腰をかけることもできる。  
 そこに並んで腰を下ろすと、  
「苦しそうだね……」  
 言いながら優はスラックスの上からふくらみを撫でさすって僕を刺激する。  
「優……」  
「ふふっ……」  
 妖しい笑みを浮かべた優の手がベルトをゆるめる。チャックを下ろし、剛直を露出させる。  
 そして硬度を確かめるように二、三度しごくと、僕の足の間にひざまずいた。  
「するね」  
 優の頭が僕の股間に寄った次の瞬間、勃起があたたかく湿った空間に包みこまれた。  
 
ちゅっ、くちゅ、ぴちゅっ………  
 淫らな水音と共に尿道が強く吸われる。  
「あぁぁっ!」  
 先走りの粘液が吸い取られるような快感に、僕は思わず情けない声を上げていた。  
「くすっ」  
 優が淫靡な顔を僕に向ける。  
 唇の端からのぞかせた舌が、上唇を舐めるようにして移動する。  
「ゆ、優……」  
 余裕のなくなってきた僕とは対照的に、優は落ち着いているようだ。  
 そうして再び優のフェラチオが始まった。  
 輪にした指で茎部を上下させながら、優は先端だけをついばむように唇を移動させた。  
 同時に舌で裏側のスジを弾くように攻めてくる。  
 前髪が下腹部にあたるそよそよした感触も僕を興奮させる。  
 奉仕している顔を決して僕に見せないよう、優はうつむき加減で行為を続ける。  
「んっ、んんっ! ……んふっ」  
 それでも時折、優の艶を帯びた吐息が洩れるのが聞こえる。  
 
 ほの暗い照明の中、優の手が太ももの間でうごめいているのが見えた。  
 もじもじと足をすり合わせるようにもしている。  
 ……優がオナニーしている!  
 まさかと思って目を凝らした。間違いない。優は僕を口で愛撫したまま自分を慰めている。  
「優……」  
 僕の言葉に優が顔を上げた。頬が上気し、目元も潤んでいる。  
「あはぁ……」  
 切なげなため息に僕の陰毛が揺れた。  
「んはぁ、はぁっ! はぁ……」  
 続けられなくなったのか、優は勃起を咥えていた口で大きくあえいでいる。  
 それでも手は僕を絶頂に導こうと上下させているけど、すでに力は入っていない。  
「優、立てる?」  
 両手を腋に入れて優を立たせた。ひざが笑い、まともには立っていられそうもない。  
 かしぐ体を僕の肩に手を置くことでようやく支えている。優は達する直前のようにも見える。  
 だけど、射精まであと少しのところまで昂ぶっているのは僕も同じだ。  
 どうせイクならセックスをして、お互いの粘膜を感じながら果てたい。そう思って声をかけた。  
「優、自分で入れてごらん。できる?」  
こくん  
 力なくうなずいた優がキュロットと下着を脱ぎ、僕の腰をまたいだ。  
 それから、お腹にくっつきそうなほど屹立した僕のモノを逆手で握り、ゆっくりと腰を落とした。  
「んぅっ!」  
 優が僕にしがみつく。恥丘が下腹部をこすって降りていく。勃起が優の恥肉をこじ開けていく。  
 ……そうして僕たちはひとつになった。  
 
「んっ! んふぅっ……」  
 押し殺したような優のうめき声が灯台内に反響する。  
 筒状をしたコンクリートの建物は音がよく響く。それを知っているのか、優は決して大きな声で乱れようとしない。  
 そんな配慮を見せながらも、優は貪欲に性の快感を追い求めた。  
 僕がもっと深く収まるよう、そして感じるポイントを突くよう自分から腰の角度を微妙に変えた。  
 それに応え、僕も浅い部分で腰を動かしたり、強く突いたりして優の膣を味わった。  
 優は僕の首に両腕を回す。僕は優の腰を抱え、お尻を抱きとめて腰を使った。  
ぬちゅっ、ぴちゃっ、ずちゅっ………  
 二人が結ばれている場所からは絶えず淫らな水音が立つ。それが僕たちをあおり、燃え上がらせていく。  
 いつ見回りが来るかもしれない公共の場所での情事が僕たちを異様に狂熱させる。  
 もう止まることはできなかった。最後の瞬間に向け、僕たちはお互いをむさぼり続けた。  
「んふっ! んぅふっ!」  
 顔を僕の肩に押し付けて歯を食いしばり、くぐもった鼻息を洩らして優が悶える。  
 ……イクのか?  
 そう思った直後、  
ビクビクンっ!  
 小刻みな痙攣が優の全身を走る。同時に僕を包み込んだ膣が激しく収縮する。  
「んんぐっ! んんっ、んふぅっ!」  
 悲鳴にも似た声を発し、優の全身がこわばった。……そして、ゆっくりと力が抜けた。  
 
「優、イッちゃったの?」  
「はぁ、はぁ……今日のキミ、いつもより激しいよ」  
 とろんとした目で優が答える。イッた直後で力が入らないようだ。  
「想い出の場所だからね。僕も興奮しちゃったみたい」  
「……キミはまだ…射精…してないよね?」  
 膣の中で固さを保ったままの僕に優が気付いたらしい。  
「うん」  
「キミも…イカせてあげる」  
 優はそう言うと僕の肩に手を置いて立ち上がった。  
 今まで僕たちがつながっていた場所から粘液が糸を引き、明かりを反射していやらしく光った。  
 
「口で…いいよね?」  
 言いながら優は最初の姿勢に戻り、さっきまで自分の中に埋まっていた肉茎に唇を寄せた。  
ちゅぱ、くちゅ…ちゅっ……  
 口での奉仕が再開される。  
 これまでよりも熱のこもったフェラチオだった。  
 イク直前まで高まっていた僕は限界がみるみる近づくのを意識する。  
「優…出る……」  
 浅めのシャギーの入ったショートカットボブをつかみ、それを告げた次の瞬間、  
どくっ! どくんっ! びゅびゅっ! どびゅっ!………  
 熱い塊が優の口の中に放たれた。  
 あとからあとから、終わることを知らないかのように精液がほとばしり、優の口に送り込まれていく。  
「んぐっ! んんっ!」  
 わずかにうめきながら、優はそのすべてを受け止めていた……。  
 
 次々と優の口を穢して射ち出された精もようやく止んだ。  
 ぐったりと大きく息をつく僕から優が離れる。  
 固く閉じられた唇の端から、収まりきらなかった白濁が垂れこぼれている。  
こくんっ  
 僕の見ている前で優の細いのどが上下した。  
 さらに唇の端に残った精液を指ですくうと、優はそれも口に入れた。  
「いっぱい出たよ」  
 陶酔した表情で僕を見上げ、優も大きく息をつく。  
「優、ありがとう……すごくよかった」  
「中で出させてあげなくて……ごめんね」  
「いいよ。結婚したらいくらでも優の中でイケるから」  
 そんな僕の言葉に優が耳まで赤くなった。  
 そしてそれ以上僕にしゃべらせまいとするかのように慌てて言葉を続けた。  
「そうだ! ホテル行かなくちゃ。最終チェックインって何時だった?」  
「たしか22時だったかな?」  
 普段は見られない優の慌てぶりがおかしく、笑いながら僕は答えた。  
「じゃあまだ間に合うね。行こう。送っていくよ」  
 脱ぎ捨ててあった下着とキュロットを手早く身につけながら優が言う。  
「ホテルに着いても、まだ一回ぐらいならする時間あるね」  
 冗談で言った僕の言葉に、優がこれ以上ないというほど真っ赤になる。  
「! い、行くよ!」  
 そして一人でらせん階段を下りていった。  
「ゆ、優! 僕まだズボンはいてない!」  
 その声が聞こえないかのように、優は階段を下りつづけていた。  
 
 
            おわり  
 

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