うちの大学に森井夏穂という学生がいる。  
 去年の大学祭で写真が飾られていたことで有名だし、なかなかの美形だと俺は思う。  
 その彼女のヘンな噂を聞いた。  
 ……援助交際。それも『3万円』という具体的な金額込みでだ。  
 俺もときどき行くキャロムというバーで、彼女が男と話しているのを小耳にはさんだ奴がいる。  
 その友人が情報源だが、聞き間違いかもしれず確信は持てないと奴も言っていた。  
 本当だろうか?  
 興味はある。あんないい女とヤれるなら、幾許かの金を払ったっていい。  
 偶然キャロムで見かけたとき、俺は彼女を観察してみた。  
 どこか遠い目をしてタバコをくゆらせる彼女に男が近づく。  
 そして二言三言会話を交わしたかと思うと連れ立って出て行った。  
 その跡をつけた俺は二人がホテルに入るのを見てしまった。  
 やはり噂は事実だったんだ。  
 
 翌日、学校で彼女を見かけた俺は思いきって声をかけてみた。  
「森井さん、だよね」  
「あなた…たしか同じクラスの」  
「そう。話すのは初めてだね」  
 年度が変わり、彼女と初めて知り合ってからまだ2週間足らず。  
 それだけに彼女の顔には警戒の色が浮かんでいる。  
「なにか用?」  
「3万円ってホント?」  
 一瞬ぽかんとした顔をした彼女は、  
「ちょ、ちょっと」  
 あわてたように声をひそめると俺を廊下の隅に引っ張って行った。そして  
「誰から聞いたの?」  
 あたりに目を配りながら小声で訊ねる。  
「あ、うん……キャロムで…ちょっと、ね」  
 嘘はついていない。それに友人の名を出すのはなんとなくはばかられた。  
「それで…誰かに言った?」  
 視線を合わせずに聞いてくる。  
「いや、誰にも」  
「ふぅ……」  
 安堵のため息が聞こえた。  
「森井さん?」  
「このこと、誰にも言わないでほしいのよ。約束してくれる?」  
 上目遣いに俺を見る。その表情にドキッとした。  
「ああ。わかった」  
「ありがとう。……それであなた、講義は?」  
「今日はもう終わった。仮にあってもサボったっていいし」  
「いいわ。行きましょ?」  
「え?」  
 俺の返事も聞かず、彼女は歩き出した。  
 事態がとっさには理解できなかった俺も、少し遅れてそのあとを追った。  
 
 大学を出た彼女はまっすぐに駅に向かう。  
 途中で追いついた俺は並びながら問いかけた。  
「どこに行くんだ?」  
 そんな問いに彼女は答えず、ただ前だけを見て歩いていく。  
 やがて俺たちは駅の裏手にある胡散臭そうな雰囲気の道に入っていった。  
 しばらく行くと目の前に怪しげな雰囲気の建物が見えてきた。……ラブホテルだ。  
 その少し手前で彼女が立ち止まった。  
「するんでしょ?」  
「………」  
 即答できずに言葉を探していると彼女をが言葉を継ぐ。  
「だから付いてきたんじゃないの?」  
 混乱する。もちろん下心はあったが、こんなに急に話が進展するとは思ってもいなかったからだ。  
 頭に血が上った。股間も熱を帯びてくる。動悸が激しくなり、息も荒くなる。  
 それでも冷静に財布の中身を思い出す。バイトの給料が入ったばかりで余裕はある。  
「………」  
 俺の沈黙を合意と受け取ったらしく、彼女はそのまま中に入っていった。  
「どうしたの? 入らないの?」  
 植え込みの奥から彼女の声がした。  
「あ、ああ」  
 まごついた返事を返し、俺も門をくぐった。  
 
 フロントで料金を払う。その際に手が震えた。後ろに立っていた彼女には気付かれなかったと思う。  
 部屋に行く。中に入ると彼女をがカギをかけた。手馴れている。そう感じた。  
「緊張してる?」  
 くすくすと笑いながら彼女が聞いた。  
「ま、まぁね」  
 虚勢を張ったが、動揺が顔に出ているかもしれない。なにしろ俺は童貞なんだから。  
「ねぇ、悪いんだけど……先に…もらえるかな?」  
 申し訳なさそうに彼女が言った。  
「あ、うん」  
 財布から3万円を取り出し、彼女に渡す。  
 彼女は受け取ると、紙幣を数え、  
「たしかに」  
 思わせぶりな瞳で微笑んだ。  
 
「じゃあしましょ?」  
 彼女に手を取られ、ベッドまで連れて行かれる。  
「森井さん!」  
 何かに衝き動かされるように彼女を抱きしめた。  
 そんな俺をやんわりと押し返すと  
「夏穂でいいよ。先にシャワー浴びるわね」  
 そう言いながら脱ぎはじめた。  
 つられて俺も脱ぐ。  
 先に脱ぎ終えた夏穂はタオルを手にバスルームに向かった。  
 その後ろ姿を見送りながら、俺は所在なげに立っていた。  
 しばらくするとバスタオルを体に巻いた夏穂が戻ってくる。  
 交替に俺が浴室に向かう。  
 手早く体を洗い、裸でベッドに戻ると腰を下ろしていた夏穂が俺を見上げて聞いた。  
「違ったらごめんね。もしかして、こういうの初めて?」  
「こういうのどころか、女の子とするのも初めてだよ」  
 ここまで来て虚勢を張っても仕方がない。俺は素直に告白した。  
「そう。やっぱり……いいわ、今日は私がしてあげる」  
 夏穂が微笑んだ。  
 
 促されてベッドに横になる。  
 足を開くように言われ、それに従うと夏穂は俺の足の間に身を移した。  
 そしてバスタオルを外した夏穂が太ももに手を置いて問いかける。  
「いい?」  
 なにが『いい』なのかよくわからなかったが、俺は素直にうなずいた。  
 と、細い指が男性器に巻きつくとゆっくりとしごき始めた。  
 その時になっても俺のモノはうなだれたままだった。  
 性欲はあるのに、極度の緊張が興奮を妨げているのかもしれない。  
 夏穂の指は茎の根元を押さえたまま、静かに頭が下りていく。  
 ……そのまま口に含まれた。  
「っ!」  
 初めて味わう強烈な快感に腰が跳ねた。  
 他人、それも異性に触れられるのがこんなに気持ちいいなんて……。  
 ぬるりとした温かい粘膜に覆われた空間が醸し出す悦楽に俺は声も出せなかった。  
「ごめん、気持ちよくなかった?」  
 口を離した夏穂が聞く。  
「逆。気持ちよすぎて……」  
「ふふっ」  
 俺の言葉に夏穂は笑みを浮かべると、  
「少し我慢して」  
 そう言いながら再び口を寄せていった。  
 
 今度は亀頭に唇を軽く押し付けるようにしてくる。同時に手は茎をやわやわと刺激する。  
 くすぐったさにも似た感触が少しずつ快感に変わっていく。  
 中心部に芯が入ったような感覚がしたあと、ついにペニスが勃起を始めた。  
「あぁ……」  
 思わず吐息が洩れた。  
 その満足そうな声に、夏穂の愛撫が徐々に激しくなっていく。  
 亀頭を口内に収め、舌で尿道口をつつき、唇でカリをこすりあげる。  
 とうとう完全に勃起した。  
「うふふ、大きくなったよ」  
 ゆっくりと勃起をしごきながら夏穂が淫靡な笑みを見せる。  
 そして伸ばした舌で茎部を舐め下ろし、舐め上げ、睾丸も転がす。  
「気持ちいい?」  
 もう俺はうなずくことしか出来ない。返事の代わりに剛直がビクビクと震える。  
「出したくなったら、我慢しないでいいからね」  
 言うなり再び口淫が始まった。  
 ねっとりした舌が亀頭部を這いまわる。裏スジをやわらかく包み、わずかに前後させる。  
「んふ…」  
 小さな吐息が夏穂の口から洩れるのを聞き、得も言われぬ愉悦が腰の奥で生まれてくる。  
「くっ!」  
 歯を食いしばって射精感を押さえ込む。  
ちゅっ、あむっ…む…ん、ちゅっ……  
 淫らな水音が夏穂の口から立ちのぼる。  
「うぁっ!」  
 限界が近づく。全身を硬直させ、俺は必死に耐えていたが、そんなにもちそうもない。  
「夏穂っ! イキそう! 出るッ! イッてもいい?」  
「ん…」  
「あぁっ! イクっ! ……っっ!」  
 直後、射精した。尿道を熱い塊が通っていく。  
 だがそれはあたりにまき散らされることなく、すべて夏穂の口の中に放たれた。  
 今まで経験がないほど大量の精液が射ち出される。  
「んっ、ん……」  
 小さくうめきながらそれを夏穂が受け止める。  
 ……そしてようやく放出が止まった。  
 
 ぐったりとベッドに身を投げ出し、俺は力を抜いた。  
 足元で夏穂が顔を上げる気配がしたので見ると、ベッドサイドのティッシュに手を伸ばすところだった。  
「夏穂……」  
 声をかけたが返事がない。頬がふくらんでいる。そうだ、あの中に俺の精液が……。  
 俺と目が合った夏穂はティッシュを口元にあてがった。そして静かに口を開ける。  
とろり……  
 乳白色の粘液がこぼれ落ちる。  
 淫猥な眺めに心臓がドキンと脈打った。  
「あなたの精子、濃いね。それにいっぱい。……溜まってた?」  
 ティッシュの上で盛り上がる白濁を見ながら夏穂が言った。  
「夏穂みたいなきれいな子にしてもらったから。それにとっても上手だったし」  
「ふふっ」  
 照れたように夏穂が白い歯を見せた。だがそれは小悪魔のような笑みでもあった。  
「夏穂、夏穂のも口でしてみたい」  
 力を失った性器が回復するまでまだ少し時間がかかりそうだったし、何より興味があった。  
 白い太ももと、その上で黒く繁茂する陰毛とが俺の目を奪っていた。  
「……見るの、初めて?」  
「ああ」  
 うなずく俺に夏穂が軽く微笑んだ。  
「じっくり見られると恥ずかしいけど……いいわよ」  
 そしてそう言うと仰向けになって足を開いた。  
 
 目の前に女性器があった。俺は呆けたようにソレに見入っていた。  
 真っ白い太ももと、対照的に黒い陰毛。そしてその下に息づく薄桜色の陰唇が俺を魅了する。  
 陰毛は同じような長さに切り揃えられ、きれいな逆三角形を描いている。  
 こういう『仕事』をしているからなのか、よく手入れされているように見える。  
 その下にはぷっくりと盛り上がる恥丘が透けて見えた。  
 そこから始まる複雑な形の肉のひだが小陰唇だ。  
「見える?」  
 無言になってしまった俺に、確認をするかのように夏穂が聞いた。  
「あ、ああ……」  
 緊張のせいか、それとも興奮のせいなのか、俺の声はかすれた。  
「ふふっ……さわってもいいのよ」  
 その声に後押しされるように、俺は夏穂の女性器に手を伸ばした。  
 
 左右の肉ひだを両手の指で押しひろげる。  
 とても人間の皮膚とは思えないほどソレはやわらかかく、しっとりと湿っていた。  
 ぱっくりと開いたすき間の奥は鮮紅色で、ヌメヌメと淫らに光っている。  
 見ようによっては醜怪にも思える部分なのに、俺にはとてもいやらしく感じられた。  
 さらに下へと陰唇を広げていく。と、奥へと続く穴が見つかった。……ここに入れるんだ。  
 俺は憑かれたようにそこに指を差し入れた。  
きゅっ  
 指が優しく包まれる。  
(指だけでこんなに気持ちいいのに、実際に入れたらどんなに気持ちいいんだろう……)  
 中に入れた指をほんのわずかに曲げてみた。つぶつぶが指先に感じられる。  
「濡れてないと痛いから……ね?」  
 夏穂がやんわりと拒絶する。そうだ。女の子はセックスに準備が必要なんだった。  
 それを思い出した俺はあわてて指を抜いた。  
「ご、ごめん」  
「ううん、平気。……ねぇ、濡らしてくれる?」  
 頭の上で夏穂の声がした。  
「う、うん……で、でも、どうすればいいんだ?」  
「どうしたい?」  
 蠱惑的な目が俺を見る。  
「な、舐めたい……」  
「いいよ」  
 そう言うと、夏穂は自分の指で陰唇を大きく広げた。  
 深呼吸して気持ちを落ち着かせる。そうしてから俺は夏穂の股間に顔を寄せた。  
 
 ほのかに甘い香りが漂う。これが女の子の匂いなのか?  
 舌を思い切り伸ばしたまま俺はその香りを胸いっぱいに吸い込んだ。  
「あんまりかがないで……」  
 小さな声。そうだ、夏穂も恥ずかしいんだ。俺は行為を再開した。  
 粘膜に舌が触れた。あたたかく、そしてくちゃっとしたやわらかな感触が伝わる。  
「くぅん…」  
 愛らしい吐息が頭の上で聞こえた。  
 それが俺を勇気づけた。夢中になって舌を動かす。  
「あんっ!」  
 夏穂は小さく鳴きながら足をより大きく広げた。そのことでさらに自由度が増す。  
 俺は顔全体を夏穂の股間に押しつけるようにして舌を大きく使った。  
「くん……」  
 とろりとした液体が舌にこぼれる。俺はそれを音を立ててすすり、飲み込んだ。  
 少しも汚いとは思わなかった。抵抗もなかった。  
「気持ち…いい……っっ!」  
 陰唇を広げていた夏穂の指が小さな肉芽に移った。  
 そしてそこを中指で円を描くように動かす。オナニーだ。  
 初めて見る強烈な体験が俺の欲望をかき立てた。……我慢できない。  
「夏穂、もういい?」  
 すでに力がみなぎっている。  
 ソレにちらりと目をやった夏穂が言う。  
「いいよ、入れる?」  
 
 夏穂は身を起こすと枕元のコンドームを手に取った。  
 予想していたとはいえ、いざ現物を目の前にすると少しだけ気落ちした。  
 そんな俺の様子が伝わったのか、夏穂は  
「ごめんね。みんなにも着けてもらってるから」  
 済まなそうに詫びた。  
 そうして封を破る。  
 二、三度裏返して向きを確かめると、  
「着けるね」  
 言いながら俺の股間にかがみこんだ。  
 包皮が引き下ろされるようにして勃起の根元が握られ、角度が固定される。  
 もう片方の手でコンドーム先端の空気溜まりをつまむと、夏穂はそのまま亀頭にかぶせた。  
 そして巻かれた部分を手慣れた動作で根元に向けてほぐしていく。  
 陰毛を巻き込まないよう夏穂の指は器用に動き、程なくして男性器はゴムによって覆われた。  
 
「どうする? 上になる? それとも最初は私がやる?」  
 童貞喪失の瞬間だ。失敗はしたくない。  
 さっきの前戯で女性器の位置は把握できている。あとは入れるだけだ。だが……。  
「俺、最初だから上手くできないかも」  
 気弱になった。  
「いいよ。じゃあ最初は私が入れるね。言ってくれればすぐ変わるから」  
 俺を安心させるように笑顔を返し、夏穂はひざ立ちした。  
 そして俺のそばにすり寄ると、  
「寝て」  
 両肩を静かに押し、俺をベッドに横たわらせた。  
 
 腰の上を夏穂がまたぐ。  
 勃起を握ったまま腰を前後させて位置を合わせる。  
「うっ!」  
 コンドームが隔てているとはいえ、夏穂の性器のヌルヌル感が伝わり、俺は声を立てていた。  
「いい? いくよ」  
 場所が決まったのか、夏穂はそう言うと片手を俺の腰にあてがった。  
 もう片方の手は勃起を握ったままだ。  
 そのままゆっくり、ゆっくりと腰が下りていく……。  
 
ぐぐっ……  
 なにかを割り開く感覚のあと、勃起が固定されるのがわかった。  
 心地よい圧力が亀頭を押し包み、それが剛直全体に広がっていく。  
「ほら、入っていくよ。女の子の中……」  
 夏穂に言われるまでもなく、俺は二人がつながっている部分を凝視していた。  
 醜い肉の茎が夏穂の鮮紅色の陰唇の中に飲みこまれている。  
 そしてそれは少しずつ夏穂の中にうずまっていく。  
 やがて夏穂の腰が降りきり、俺たちは完全に一つになった。  
 
 根元まで夏穂の中に咥えこまれた。  
「どう? どんな感じ?」  
 ささやくように夏穂が聞く。  
「………」  
 言葉が出てこない。  
 感覚としてはわかるが、それを言葉として表現することができなかった。  
 いや、言葉を発する余裕がなかったというほうが正しいだろう。  
 初めて女性の膣と接した感激はそれほど大きかった。  
「どう?」  
 重ねて夏穂が聞いた。  
「あ、うん……すごく気持ちいい」  
 それだけを答えるのが精一杯だった。  
 もっと何か言わなくては……。そう考え、必死に言葉を出そうとする。  
 ペニス全体が締めつけられる。しかも時折、きゅっ、きゅっ、と搾られる。  
 それでいてちっとも苦痛ではない。やわらかく、ぬるぬるした不思議な空間。  
 そんな感想を言おうとしたとき、夏穂が  
「うふふ……動くね」  
 そう言って腰をわずかに浮かせた。  
 途端に淫茎を取り巻いている粘膜が、まるで抜けるのを妨げるように強烈にからみつく。  
「おおぅっ!」  
 あまりの快感に俺はうめいた。  
 同時に俺の腰は反射的に跳ね上がり、夏穂を下から突き上げていた。  
「きゃっ!」  
 衝撃で夏穂の体が大きく揺れ、それまでの動きも止まった。  
「はぁ、はぁ、はぁ………」  
 深呼吸して息を整える。  
 夏穂は俺の腹を両手で押さえながら訊ねた。  
「いきなりだからビックリしちゃった。……どうしたの?」  
「あ、ごめん……気持ちよすぎて……」  
「え? ふふっ、もっと気持ちいいこと…してあげるね」  
 
 淫らな笑みが俺を魅了する。  
 言葉どおり、夏穂は次の行動に移った。  
 腰を浮かせ、俺の先端だけが夏穂の中に入った状態にするとそこで動きを止めた。  
「もし我慢できなくなったら、そのまま出しちゃっていいからね」  
 言うなり、そこで小刻みに腰を上下しはじめた。  
「うぁあぁっ!」  
 圧倒的な快感が押し寄せ、俺は絶叫にも似た悦楽の声を洩らした。  
 カリの部分が夏穂の粘膜にこすりつけられる。  
 そこはさっき夏穂の中に指を入れたときに見つけたツブツブの場所と思われた。  
 その柔突起が俺を容赦なく攻めたてる。  
「気持ち…いい?」  
 息を弾ませて夏穂が言う。  
「う、うん! うん!」  
 うなずくことしかできない。  
「イク? いいよ、出してもいいよ……」  
 とろんとした目で夏穂が俺を見下ろした。夏穂も感じている?  
 このまま射精したい誘惑にかられる。夏穂も出していいと言っている。我慢できそうもない……。  
「夏穂…イク……っっ!!」  
 
どくんっ! どくっ! どぷっ!………  
 コンドームを突き破りそうな激しい勢いで射精が起きる。  
「っっ! んっ! うっ!」  
 何度もうめき声を立て、俺は夏穂の膣を味わいながら精を吐き出した。  
「ぁは……ん…ん……」  
 満足したような吐息を洩らし、夏穂も動きを止めた。  
 ヒクヒクと膣が収縮している。イッたのか?  
 
 射精が終わった。  
 大量の精液を射ち出したはずなのに勃起は少しも衰えていない。  
 過度の興奮が神経を昂ぶらせているのか?  
「まだ固いよ。……もっとする?」  
 目元を染めて夏穂が聞いた。  
 正直、もっと夏穂と愉しみたかった。もっと一緒の時間を過ごしたかった。  
「うん」  
「ふふっ」  
 うなずいた俺に笑いかけると、夏穂は腰を落として俺を再び根元まで収めた。  
 
 二度、それも短時間で精を放った俺は余裕を取り戻していた。  
 それでも自分が上になるとは言い出せず、夏穂を乗せたままつながっていた。  
 何とか主導権を握りたい。  
 そう思った俺は、先ほど夏穂を突き上げたときのことを思い出していた。  
 今度は俺が攻めよう。そう考えた。  
「夏穂」  
 言うなり、いきなり腰を突き上げた。  
「きゃっ!」  
 不意をつかれた夏穂が背中を反らした。  
 腕を取って体が倒れないように支えると、間髪入れずに下から突き立てる。  
「ぁあんっ!」  
 甘い響きの夏穂の声が俺を勇気づけた。そのまま遮二無二腰を振り上げる。  
「は…んっ!」  
 艶を帯びた声で夏穂が鳴く。  
 
 ベッドの弾力に阻まれ、また、夏穂の腰が密着しているためそれほど大きく腰が振れない。  
 むしろピストン運動よりは性器をこすり合わせる動きのほうが多いはずだ。  
 だが夏穂はさっきまでとは違い、明らかに乱れていた。  
 しかも全身はほんのりと紅く染まり、汗ばみ、性器からはメスの匂いを漂わせている。  
 感じている?  
「夏穂も気持ちいいの?」  
 俺の問いかけに夏穂がガクガクとうなずく。  
「あぁ…いい……気持ちいい……」  
 そして恥ずかしそうに答えた。  
 自信を持った俺は夏穂の腰に手を添え、男性器を膣に叩きこみ続ける。  
 そうしながら、今度は夏穂の胸に手を伸ばした。  
 重量感のあるふくらみが体に合わせて上下する。  
 そこにつかみかかると、信じられない弾力が俺の指を押し返す。  
 テクニックも何もなく、ただ指を立て、手のひらで揉み上げ、乳首を転がす。  
 そんなつたない愛撫にも夏穂は身をくねらせて悶えた。  
 そのとき、俺は二人がつながっている場所がぬちゃぬちゃと潤んだ音を立てているのに気がついた。  
 見ると夏穂の膣から愛液があふれ、俺の陰嚢に垂れ、ベッドを濡らしている。  
 本当に感じているようだ。  
 
「くふぅん……」  
 上体を支えられなくなったのか、夏穂が俺の上に倒れこんだ。  
 胸が合わさり、頬が密着する。夏穂の前髪が俺の顔に当たり、吐息が耳をくすぐる。  
「はぁ…はぁっ! あひっ! ひんっ……」  
 熱い吐息が俺を興奮させる。俺は両腕を夏穂の背中に回し、強く抱きしめようとした。  
 だがその腕を逃れるように夏穂が手を付いて上体を起こした。  
 ……見つめあう。上気した頬、潤んだ瞳、かすかに開いた唇。……官能的な表情だ。  
 と、夏穂が淫らな動きで腰を前後させはじめた。  
 シャンプーなのか、夏穂の髪の甘い香りが俺を刺激する。  
「夏穂っ!」  
 キスしようと首を持ち上げた俺を  
「やっ…ダメ……キスはだめ……」  
 顔を背けて夏穂が拒んだ。  
「……夏穂」  
 落胆が顔に出たらしい。  
「唇はダメだけど……」  
 その直後、頬にやわらかいものが触れた。夏穂の唇だった。  
 それに応えて俺も夏穂の頬に唇を寄せた。頬をすり寄せ、唇以外の場所に舌を這わせる。  
 何度か唇の端に舌が触れることがあったが、夏穂は何も言わなかった。  
 だが俺は夏穂の意思を無視してまでそれ以上の行為を求めることはしなかった。  
 
「夏穂、上になりたい」  
 射精感が高まっていた。今度は夏穂を組み敷いて果てたい。  
 そう思って希望を伝える。  
「うん、いいよ。このままグルッと横に回る? それとも一度起きる?」  
「えっと……」  
 経験のなさが裏目に出、どうしたらいいのかがわからない。  
 そんな俺をリードするように夏穂が身を起こした。腕が取られ、俺も上体を持ち上げる。  
 ベッドに座ったままの姿で俺たちは抱き合う。  
 今までとは違う角度で結合し、性器にかかる圧力も変化した。  
 この体位でも夏穂を味わおうと俺は腰を振った。  
「あんっ!」  
 俺の首にすがりつくようにして夏穂が跳ねる。  
(これはこれでいいかもしれない……)  
 だが俺の感興をよそに夏穂が体を倒した。それにつられて俺も体を伏せる。  
 ……先ほどまでと逆転した姿勢となった。  
 
 一連の動きの中で、射精感はやや遠のいていた。もう少しだけ夏穂を楽しめそうだ。  
 そう判断した俺は少し乱暴気味に腰を使った。  
「あはぁっ!」  
 背中を大きく反らして夏穂が応えた。  
 手ごたえを感じた俺は夏穂の腰に両腕を回して抱えあげた。そのままひざ立ちする。  
 下半身を持ち上げられた夏穂がはしたなく乱れる。  
「あっ! あんっ、やっ…あはっ……んーっ! ひんっ! ぁう……」  
 上半身をベッドに投げ出し、下半身を俺に突き出した夏穂が淫らに鳴く。  
 肉と肉がぶつかりあい、パンパンと小気味いい音を立てる。  
「やはっ……あっ、ひっ! すご……あぁっ!」  
 俺に貫かれながら、夏穂はビクビクと震えていた。  
「やっ……イク! イッちゃう!」  
 苦しそうな息の下から夏穂が叫んだ。  
 それを聞いた瞬間、俺の中を急速に昇りつめる何かが感じられた。  
「ひっ! ……イクっ! イクのーーー」  
 絶叫に続き、夏穂の体がピンッ、と突っ張った。  
「っっ!!」  
 次の瞬間、俺の腰の奥で熱いものが弾けた。  
びゅっ! びゅくっ! どびゅっ!………  
 三度目だというのに射精が止まらない。  
びゅるっ! どぴゅっ! ずびゅっ!………  
 目の前が真っ白になりながら、俺は白濁を夏穂の中に送りこみ続けた……。  
 
「気持ちよかった?」  
 俺に組みしかれたまま夏穂が聞いた。  
「うん……」  
 答えながらも、俺は夏穂のやわらかい体から離れるのがイヤで動かなかった。  
 満足しきっていた。肉体的にもそうだが、精神的にも満ち足りた気持ちでいっぱいだった。  
「いっぱいしたね」  
 額に汗で張りついた髪を払いながら夏穂がポツリと言う。  
「うん……」  
 そう答えて俺も大きく息をついた。もう童貞じゃない。経験…したんだ。  
「シャワー浴びようか」  
 夏穂の声に俺はようやく身を起こした。  
 そうしてティッシュを取ってお互い後始末をはじめる。  
 白濁で満たされたコンドームを見て、童貞ではなくなったことを改めて意識する。  
「いっぱい出したんだ」  
 背後から夏穂の声がした。振り返ると夏穂が俺を見て微笑んでいる。  
 その笑顔を見た瞬間、俺の中で夏穂への思いが大きくなった。  
 ただ一度肌を合わせただけなのに、夏穂が俺にとって特別な存在になろうとしていた。  
 今度は真剣に、それもきちんと友人から始めたい。そう思って俺は聞いた。  
「あ、あのさ…よかったらケータイかメアド教えてもらえないかな?」  
「え?」  
「迷惑じゃないなら、夏穂と付き合いたいんだ……」  
「……ごめんね。私、誰かと付き合うとか、そういう気全然ないから」  
 寂しさをたたえた瞳で夏穂が返す。  
「………」  
「こういうことするのはね…忘れられない人を、いっときでも忘れられるから……」  
 目を伏せた夏穂の表情が翳る。  
 聞いてはいけない話なのか?  
「………」  
 言葉を探して俺は黙ってしまった。  
「あ、ごめんね。あなたには関係ない話だったよね」  
 そんな俺の様子を気にしたのか、無理に明るさを装った声で夏穂が笑い返した。そして  
「よかったら……また買ってね」  
 おどけた調子で言葉を継ぐ。  
 
 夏穂には俺の知らない過去がある。  
 それに踏み入る覚悟が俺にあるのか? 夏穂を過去から解き放つ自信はあるのか?  
 初体験の歓びから一転した複雑な思いを抱えながら、俺はその場に立ち尽くしていた。  
 
 
        おわり  
 

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