「・・・いやしかし、これは、すごいごちそうだね、というか・・・」
確かに、その食卓に並べられた食事は、豪勢だった。
少年が夏休みを利用して訪れたこの地、青森で、幼馴染である安達妙子は彼を暖かく迎えてくれた。
そして、観光と称したデートもそこそこに、彼は妙子の家に連れて行かれたのである。
彼女の家は、昔少年も住んでいたことのある懐かしい場所で、ノスタルジックな感傷につい浸ってしまう。
そんな少年を、妙子は手早く食卓に案内すると、次々と食事を運んできた。
しかもその食事は、少年の感想にもある通りかなり豪華なものだ。
でん、と真前に置かれた特盛りのどんぶりは鰻重で、蓋の内側で程良く飯が蒸されて、何とも食欲をそそる香り。
それ以外にも、なにやら高級そうな天ぷらや、紙で目張りしてあった壺に入ったスープやら。
しかも、テーブル中央には、カセットコンロが据え付けられており、どうやら鍋物も出る様子。
ちなみに、今は夏です。
「ちょっと旬は違うんだけど、安く手に入ったのよ」
妙子はというと、台所で火を使っている。
コンロに乗せる前の土鍋にコークスの青い炎を当てて、鍋を煮立たせていた。
どうやら、まる鍋(すっぽん鍋)を出してくれるようだ。
先ほどの鰻を割く手際といい、スッポンを捌く鮮やかな手つきといい、熟練の職人もかくや、といった腕前。
いつの間にこんな技を習得したのやら。
しかしまぁ、この食事、確かに美味い。
美味いのだけれど。
「喉、乾いたでしょ? はい、これ」
そういって差し出してきたのは、赤まむしドリンク。
妙子は、ご丁寧に、かしゅ、っとキャップをひねってそのドリンクを少年のコップに注いでいく。
そして、すこしの艶を含んだ表情で、少年に囁くのだ。
「ね・・・、今夜、泊まっていくんだよね?」