【ジャドウハーツ】
「………ん〜〜?」
彼女は眉間に皺を寄せると、ゆっくりと上体を起こした。桃色の艶のある唇を少しだけ口腔内に埋め込み、アクビを殺しつつ、手探りで掛け布団を退ける。
そこでようやく、エメラルドブルーの瞳が現れた。まだ眠気色を混じらせたその瞳は、振り子のように左右に揺れる。
部屋に敷かれているのは自分の布団だけだ。右隣で寝ていた赤毛のドイツ人女性も、左隣で寝ていた幼いロシアの皇女も既におらず、ガラス窓から寝坊を責めるような日光が差し込んでくる。
彼女は今度は大口を開けてアクビをすると、茶色い髪を指で軽く梳き、ズルズルと布団から這い出した。
着替えようかとも思ったが、先ずは顔を洗おうと立ち上がる。借り物の浴衣の襟を直すと、障子を押し開けた。
「………?」
洗面所へ向かおうとした時、ふと気配を感じる。そっと廊下を渡り、僅かな襖の隙間から、八畳間の中を覗いてみた。
菫色と橙色で美麗に染め分けられた着物を着て、小豆色の襷をかけた青年が、目を閉じ、八畳間の中央で正座をしている。
美少年と美丈夫の中間という、そんな感じの彼の顔は、直ぐ前に置かれた蝋燭の炎で淡く照らされていた。
「………」
突然刮目する。右足を立てると当時に、左手で握っていた刀の柄に手を掛け、一気に抜き払った。そして刀を回し、あっという間に鞘に納める。
蝋燭の炎が消えた。いや、炎だけが虚空に舞い上がり、そしてそれはゆらゆらと揺れながら、また蝋燭の先端に着地する。再び蝋燭が灯った。
「すご〜〜いっ」
「!?」
突然横から聞こえてきた素っ頓狂な声に、青年ははっとして刀を握る。
「やぁねぇ、アタシよぉ」
「あ…ルチアさん…」
褐色の肌の彼女は少し頬を膨らませてみせると、青年に近付いていった。
「お早うございます、ルチアさん」
「おはよ〜、蔵人君。………みんなは?」
「はい。ウルさんとゼペットさんは、日本橋のピエールさんの所へ、コーネリアのドレスを仕立てて貰いに行かれました。カレンさんとアナスタシアさんはお買い物へ。
ヨアヒムさんはグラン・ガマさんの所へ。親方様とお嬢様、それにブランカは、芝居小屋へ行かれました」
「親方様って、川島さんも? 蔵人君は行かなくてよかったのぉ?」
この青年の使命は、川島浪速と川島芳子の護衛。ロリコンオオカミのブランカが付いているとは言え、普段なら彼も同行する筈である。
「親方様、ウルさん、それにカレンさんから、ルチアさんの護衛を頼まれました」
「……へ? 私の?」
ルチアは首を傾けた。
「何で?」
「それは…」
そこで蔵人は言葉に詰まる。
何に付けてもおっとりし過ぎているルチアである。例え家で大人しくしていようとも、何をしでかすか分かったものではない。
だから、護衛と言うよりは寧ろお目付……と、そこまですんなりと言えるほど、彼は無神経ではなかった。とは言え、ウソが上手い訳でもない。
「………き…きっと、僕にも休養をと…そう思われたのではないでしょうか?」
「ふぅん…」
バレバレだ。それは蔵人も自覚している。が、幸いと言うべきか、彼女は真偽を確かめようとするほど律義でもなかった。
「じゃーあー。蔵人君は、今日一日ヒマなのよねぇ?」
「ええ、まぁ……」
「それならぁ、デートしよっか?」
「………デート?」
犬神家の次代当主として、17歳のこの歳まで“精進あるのみ”がモットーの蔵人には、少し難しすぎる単語かも知れない。
「えぇっと…お買い物よ、お買い物」
「分かりました。それでは、支度が出来たら声を掛けてください」
使用人達も皆暇を貰っており、しっかりと戸締まりをして出掛けなければならなかった。
外務大臣石村貫太郎、そして今は亡きウルの父、特務機関の英雄日向甚八郎大佐。この二人の師である、川島浪速の無響庵を荒らす輩もいないだろうが、用心に越した事はない。
筆を取り出し、蔵人はさらさらと半紙に一筆認めると、それを丁寧に折り、玄関の下駄箱の上に置いた。
「さてとぉ……」
相変わらず間延びした掛け声で立ち上がり、ルチアも着替えるために脱衣場へ向かう。
そのあまりにもほのぼのとした声に頬を緩めている自分に気付き、蔵人は慌てて表情を正すと、婦人達に宛われた八畳間へと向かった。
案の定、今までルチアが寝ていたであろう布団だけ敷きっぱなしである。枕はあらぬ所へ転がり、掛け布団はずり落ち、布団の皺は蝸牛の殻のように渦を巻いていた。
片膝を突いて掛け布団の端を握り、ぶわっと広げる。皺が伸び、長方形になったそれを、今度は折り目正しく畳んでいく。そして、次に敷き布団に触れた時…。
(暖かい……)
ルチアの体温を吸収したその布団は、ほんのりとまだ暖かみを残していた。
「………」
さっきまであの褐色の肌が、浴衣の布一枚を隔てただけで、確かにここで無防備な姿を晒していたのである。
(……!)
急いで布団から手を離した。
(…僕は……)
犬神家次代当主、犬神蔵人。古よりウルの日向家と共に、この日ノ本の国を影で守護してきた一族の末裔。守護……それが、犬神の役目だった。
(それなのに……)
以前は、皆に迷惑を掛けてしまった。敵の陰陽師の術中に嵌り、暴走してしまった自分。
(寧ろ、守られている…)
別に仲間を疎ましく思った事は一度もない。それは断言出来る。が、不甲斐ない自分にどうしても憤りを感じずにはいられないのだ。
(この歳で無外流を修めるとは……末恐ろしい子供じゃ)
師からそう言われた。封印された刀・無銘狼を受け継ぎ、最強の鬼・狩天童子も調伏する事が出来た。
(まだ足りない)
性急だと言う事は分かっている。しかし、これも若さ故なのだろうが、どうしても心の中では焦ってしまう。
(……………止めよう)
蔵人は強制的に思考を阻んだ。戦うときは戦い、休むときは休む。それが大切……と、そう自分に言い聞かせ、再び布団に手を伸ばした。
「きゃああああぁぁぁ!!!」
突然、何の前触れもなく聞こえてきた悲鳴。
(ルチアさん……)
そう認識する前に、既に身体は部屋の外へと出ていた。
戦闘の時でも、彼女のこれ程の悲鳴はあまり聞かない。
(守護!)
頭の中にただ二文字、それが浮かぶ。一気に廊下を駆け抜け、角を曲がり…あっという間に脱衣場に飛び込んだ。
「どうしました!?」
少し大きな声でそう言いつつ、状況を確認する。
「……わあああぁぁぁ!?」
今度は青年の悲鳴が上がった。まるで逆再生のように跳び下がり、戸の前で背を向ける。
「く…蔵人君?」
驚き顔のルチアに、背中越しに大慌てで謝る。
「すいませんごめんなさい失礼しました申し訳ありません面目ありま」
「ちょっと、落ち着いてよぉ…」
今度は困り顔をする彼女だったが、勿論蔵人には見えていない。彼の脳裏には、今し方目に入ってしまったルチアの裸体が、まるで油絵の具のようにこびり付いていた。
しかも目を強く瞑れば瞑るほど、その映像はより鮮明になる。
褐色の双丘の先端の、淡い桜色の突起。
踊り子という職業に相応しい、くっきりとくびれた腰のライン。
そして髪と同じ色の、足の付け根の……
(うああああ!?)
要するに、一瞬だけとは言え上から下までバッチリと見てしまった。こういう時、自分の動体視力を心より憎らしく思う。
「蔵人君、どうしたのぉ?」
「そ…その…」
彼女の方は、あまり動揺していなかった。
「ル……ルチアさん、所でさっきの悲鳴は…」
「あ……あれ…ね…」
何やらモジモジと、言い難そうにしている。
「と、取り敢えず、何か着て頂けませんか?」
「ああ、でもその前に…ちょっとお願いがあるんだけどぉ」
「……何です?」
「こっち向いて」
「無理です」
「……いいからっ」
ルチアは蔵人の両肩に手を回すと、彼の身体を一気にこちらに向かせた。更にぎゅっと目を瞑る蔵人だったが、彼女は一向に許そうとしない。
「お願い、ね? 大事な事なの」
真摯に訴えかけてくる声。暫く黙っていた蔵人だが、やがてゆっくりと、恐る恐る瞼を開いた。やはり正視出来ず、顔を真っ赤にして、眼球を精一杯左にずらす。
「それで…一体…?」
「アタシ……太った?」
「………は?」
思わず聞き返す。
「ねぇ、太ったように見える?」
「い…いえ、そんな事は……」
「ちゃんと見てよぉ。踊り子としては、大事な事なの!」
なるべく一点を見るようにして、周辺視野を可能な限り意識せず、ルチアの腰を見た。別に太ってはいない。大きくくびれている。……が、第一印象に比べると…。
「……少し、ふっくらと…」
「ああもぅ、やっぱりぃ」
彼女はガクンと項垂れた。
「だってさぁ、日本って美味しいモノばっかだしぃ。お雑煮とかお汁粉とか、お餅とかぁ…」
「全部太りやすそうな食べ物ですね…」
「……今、体重計乗ったらねぇ……5sも…」
「はぁ…」
この人は…裸を見られて何で平気なんだ!?
ダメだ、自分には理解出来ない。夏になると中年男性にこういうタイプが増えるそうだが、まさかルチアが同系統な筈はない。
「……どうしたの? 具合悪い?」
頭と胃が痛いです。
異性の裸体と言えば、母親と、幼い頃のサヨリしか見た事がない。何度か春画本に興味を持ったこともあるのだが、全て抑え付けた。
「ひょっとして…照れてるの?」
今頃そんな事言いますか、あなたは。
「は…早く服を着て…」
相変わらず背を向ける蔵人の背に、何か柔らかいものが当たった。
(え……?)
「可愛い〜!」
胸の前に手を回される。言うまでもなく、この柔らかいものは…。
「……っ!」
「照れてる照れてる、可愛い〜!」
どうやら今の蔵人は、ルチアのツボにクリティカルヒットだったらしい。更に身体を密着させ、巻き添えのようにして座らせた。
「うわっ…」
「ねぇねぇ……ドキドキしてるね…」
服の合わせから手が入り込み、青年の胸に触れる。
蔵人のSP、急激に減少中。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい……
「ルッ、ルチアさん! 離れて…」
何か来る何か来る何か来る何かが来る……
「え?」
突然蔵人の身体は光に変わった。ルチアが呆然としていると、不意に手の感触が変化する。
随分筋肉質だ…。
「……よォ、姉ちゃん」
頭の上から、人を舐めたような声が落ちてきた。蔵人の肌はいつの間にか褐色に変わり、そして何より服は腰布だけになり、菫色に変色した頭髪からは、角が一本突き出ている。
狩天童子…。蔵人のヒュージョンモンスター。天界へさえも攻め上る、最強の鬼。
「え…くらんど…君…?」
ルチアが呟いた途端、彼女は脱衣所の床に押し倒されていた。
「きゃっ…!?」
狩天は閉じられた両足を掴むと、無理矢理こじ開け、ルチアでさえ恥ずかしい場所を外にさらけ出す。
自分の胴体をその間に入れ、足を閉じられないようにすると、彼女の胸の膨らみを掴んだ。
「ふぁっ……」
「デケェ乳じゃねぇか。……宿主があんまり奥手なんで、少しばかり力を貸してやった。……からかっただけ…なんて言っても、もう遅いからな?」
「ちょ……ひぅっ…!」
尖った犬歯を見せてニィッと笑うと、胸の突起に吸い付いてくる。
「ん…? もう固くなってんじゃねぇか」
勃起した乳首を指で摘み、軽く歯で噛んでみた。
「やぁぁっ…!」
それだけで彼女の背は海老のように反り、唇の間から荒い吐息が漏れる。
「何だ、結構感じてんだな」
思い切り摘み上げたかと思うと、もう片方の手でゆっくと乳房をさすり、更に褐色の肌を吸い上げた。
「やふっ…ぁあああっあ…くふぁぁっ…!」
狭い脱衣所の床で、必死に身をよじらせる。尚も狩天は乳房を弄り回し、ルチアに休む間を与えない。
片手が離れた。そして次の瞬間、
「! ひああああああっぁぁあぁあ!!」
下方に伸びた手は、肥大化したクリトリスを摘んでいた。
「淫乱な……この程度で濡れるなんてなぁ?」
邪悪さを形にしたような嗤い。チュクチュクと湿った音を立てつつ、狩天の指は彼女の洞窟の周辺を嬲る。湧き出る甘露は止まることを知らず、音はどんどん大きくなっていった。
「ひんぅぅ…あふぁっ、ん…やぁぁ……んんっ…!」
体温が上昇し、褐色の肌が汗ばむ。まるで更に愛撫を望むかのように、豊満な乳房は狩天の掌に吸い付いてきた。
「あふっはっ…はぁぁっんん…ひやぁっ!」
ルチアの身体が強張る。
「ひっ…アぁぁあアァぁああああアんンっ…!!」
突然狩天の腕を掴み、ガクガクと震えた。目は潤み、唇の端からは唾液が流れ出す。
「………ちっ…もうイキやがったか」
絶頂に達し、息を乱している彼女の髪を掴んで無理矢理引き起こす。ルチアの目の前に、明らかに大きすぎる剛直が構えていた。
「一人で楽しみやがって……ほら、しゃぶれよっ」
肉棒を鼻先に突き出す。戸惑っていたルチアだったが、やがて恐る恐る唇を開き、先端に口付けた。
「んっ……」
餅を頬張る時くらいの大口を開けても、苦しいほど口腔内を占領する大きさだ。収まりきらなかった金棒を両手で包み、前後に扱き始める。
窮屈ではあったが何とか舌を動かし、亀頭を愛撫していった。
鈴口に沿って舌先を這わせ、カリの裏側までまんべんなく刺激する。が、ちらりと上目遣いに狩天の顔を見て、愕然とした。平気な表情で、ニヤニヤとこちらを見下ろしている。
「はっ……化け物でもぶっ潰してた方が…全然気持ちいいな」
「んむっ…ふっ…んんんっ…んんふっ…」
いいように弄ばれ、絶頂の瞬間まで見られ。このままでは、意地でも済ませられなかった。
両手に力を込め、更に扱くスピードを上げ、舌で敏感な部分を撫でる。
「終わりだ」
頭の上から、そんな声が降ってきた。髪を引っ張り、狩天は自分自身をルチアの唇の間から抜き取る。
「ふぁっ…」
そして再び髪を引っ張られ、彼女は慌てて立ち上がった。
「あっ…!」
狩天の手が、正面から太股を掴む。狩天童子にとっては、重さが“重量”のルチアの身体でも箸を持ち上げるようなものだ。足を大きく開いた格好で、彼女はふわりと持ち上げられた。
「仕方ねぇ、もっぺんイかしてやるよ」
「え…」
狩天はその場にどっかりと胡座を掻く。そして突然ルチアの腰を下げると、足の付け根の割れ目へと正確に自分自身を突き刺した。
「ぃあああぁぁぁああぁっ!!」
確かに既に十二分に濡れてはいたが、それを利用して一気に根本まで挿入された。ぶるぶると体を震わせ、思わず目の前の鬼の肩を掴む。
時間を掛け、ようやくその状態に慣れた。が、そのままである。
「……?」
「何だ、欲しいのか?」
そっと自分を見つめてくるルチアに、狩天は残酷とも言える言葉を吐いた。
もう意地などどうでもいい…。彼女の思考は、答えを出していた。それよりも先ず、今のこのたまらない疼きを止める事の方が、何十倍も大切だ。
「……自分で動けばいいじゃねぇか」
「!!」
「どうした? さんざん裸見せといて、今更恥ずかしがるなんて事ねぇよな?」
「………」
「……どうなんだ?」
すっかり敏感になったルチアの胸の突起を、ぎゅっと摘んでみる。
「ひぐぅぅぅっ…!?」
「……動け」
両手で乳房を強く握った。それに反応した喘ぎ声を上げるヒマさえ与えず、上へと持ち上げる。つられるようにして、彼女の腰が浮き上がった。
「動け…」
今度は下方へ引き下ろす。
「あ…ふぁ……」
腰が下がり、ルチアの膣は再び狩天の金棒を呑み込んだ。
何度かそれを繰り返すと、いつの間にか何もしなくても彼女は腰を上下させ始める。狩天の顔に自分の乳房を押し付け、より一層の愛撫を求め、更に腰の動きを激しくした。
「ひぅあっ、はっ、ぃああぁっ…ッッ…ふぁっ!」
「ん…!? 何だ、やれば出来るじゃねぇか。……気持ちいいぜ」
その言葉を耳にしたルチアは、心の何処かに、それを喜んでいる自分がいるのを見た。更に強く頭を抱き締め、ガクガクと膝を振るわせる。
「ひぅああんんっ、はふっ、ふぁふぃっ、あっ、あああっ、んんんぁっ!!」
自分の中の狩天が蠢動を始めた。この鬼も絶頂に達しかけているのだと思うと、自然と腰の動きは早くなる。下半身に力を入れ、締め付けを強くすると、初めて狩天の頬が動いた。
「…んふぁっ、ぁっんっふぁっひっあぁあああっ、ッんっ!」
「……ぅ……!」
乳房から手を離した狩天は、素早くルチアの腰を掴むと、一気に持ち上げる。
ビュルッ…
「はぁぁぁあぁんんんっ…!! ………ふぁ……ひふっ……」
どうやら二度目の絶頂を迎えたらしい。洞窟の入り口に当たる熱い感触に声を上げると、やがて狩天の胸に倒れ込んできた。
「……いい女じゃねぇか…」
滅多に持たない感想。狩天童子は褐色の肌の彼女を膝の上に座らせると、そっとその背を撫でた。
自分でさえ驚くほどの、優しい仕草だった。
「………」
ルチアは縁側に腰掛け、庭の池を眺めていた。彼女の後ろの畳では、蔵人が黙って正座している。
「……僕が…それを?」
「うん」
彼から返事が返ってこない。
「くらんど君…?」
心配になって振り向くと、握った刀をカチャカチャと鳴らしながら、青年は肩を震わせていた。
「降魔化身術に……呑み込まれるとは…!」
日頃の鍛錬が……精神修行を……煩悩滅殺し……と、口の中でブツブツと何か呟いている。
「くらんどく〜ん?」
「……未熟さ故の………己の力を………」
「お〜い……」
「い…いぬ…犬神……くく…く…くら…くらくくら蔵人……い…いいいい一生の…ふふふかふか不覚…!!」
まだ17年しか生きてないだろうに、何故一生の不覚か。ルチアがそう思っていると、突然蔵人は刀を抜き払った。
「!?」
「死んでお詫びをぉぉっ…!!」
半紙を添えた刃を持ち、逆手に構え、自分の腹に擬する。
「ちょちょ…ちょっとぉ!!」
「離してくださいっ、護衛するべき人に狼藉を働くなど…!」
「待って待って待って待ってぇぇ!!」
ほとんど悲鳴のように叫ぶルチア。
そしてようやく、蔵人の手から刀が離れた。
「とっとに…かくっ…」
肩で息をし、ばしばしと蔵人の胸を叩くルチア。
「死ぬのはダメ。……いい?」
「………はい」
「その代わり…って言ったら何なんだけどぉ…」
じっと蔵人の顔を見つめ、口籠もっている。
「一つ…お願い聞いてくれる?」
「勿論です。僕に出来ない事でも、何でもどうぞ」
「じゃあ…」
ぐらっ…と、青年剣士の視界が回った。気付いたときには、畳の上に押し倒されており、そしてルチアは…自分の上だ。完全に乗っている。
「………!!」
顔を真っ赤にする蔵人。柔らかい尻の感触に反応してか、下半身の一部が巨大化した。そしてよりにもよって、ルチアの臀部に当たる。
「……固くなったわねぇ」
「ルチアさん…!?」
「さっき…私が犯されちゃったからぁ……今度は、私に犯させてね?」
「!? ルチ…」
蔵人の言葉は、目の前の踊り子の唇によって封じられた。
「オーーーッス!」
いい歳して元気いっぱいに、一番乗りで帰ってきたのは、ウルだった。
「わああああ!?」
玄関にまで聞こえてきた悲鳴に、ビクリとなる。慌てて駆け上がり、和室へと向かう。
「どうした!?」
「う…ウルさぁぁん……」
泣き出しそうな顔の蔵人。化粧道具を手にしたルチアに追いかけられていた彼の顔には、うっすらと化粧が施されていた。
「……何それ?」
「寝てたら…そのスキに…」
「ルチア、お前な。あんまり蔵人いじめんなよ。俺の従兄弟だぞ」
「だってぇ、あんな可愛い顔して寝てたら、無性にやりたくなっちゃってぇ…」
「お前ね、蔵人いじめすぎなの」
「ふぅん。………じゃあ蔵人くんも、私をいじめていいよぉ?」
「! る…ルチアさんっ!」
「おう、やったれやったれ! 狩天童子にヒュージョンして、お得意の金棒でいじめまくってやれ!」
「!!」
「……。あれ? 蔵人、どうして突っ込まねぇんだ?」
「いや、その……」
顔を覗き込んでくるウルから、必死に目を逸らす蔵人。
ウルの目の前で、蔵人に抱き付いてみせるルチア。赤面する蔵人。いじめてやれコールを続けるウル。
コールに応えて勝手に出てきた狩天童子が、ウルの目の前で、彼の想像を超えるプレイを披露し、ウルを固まらせるのは、それから一瞬の後のことだった。