いつだったか、次の目的地の町に着く前に日が傾き、しかたがないから野宿の
用意をしていたときだった。
皆が残り少なくなった薪の補給と食料を探しにいき偶然、アナスタシアとウルが
二人きりでその場所に残されていた。
パチパチパチ。
薪の燃える音があたりに広がる。
しかし、薪は残り少なくその火は小さく、ひどく頼りない。
調理のための道具を準備し終わったため手持ち無沙汰になったアナスタシアが
その火をじっと見つめていたとき、火の番をしていたウルがポツリと呟くように
言った。
「なあ、アナスタシア・・・。」
小さな声だった。
彼の声・言葉には彼自身の内を象徴するかのように力にあふれているのに、
今日のソレは違った。
生気が欠けている。
そのことをいぶかしく思いながら彼女はいつもそうしているとおりの調子で彼の
呼びかけに応えた。
「なによ?」
「あのさ、おまえ・・・。
蔵人のこと、好きか?」
彼が、今までうつむいていた顔を上げる。
真剣に、まっすぐにアナスタシアを見る。その目に射竦められ逃げたくなるのを
こらえて、強い口調で挑むように彼に対峙する。
「そうよ。
私は蔵人さまが好き。」
アナスタシアの答えに更にその目の強さを増しながらウルが、その強さを声にも
こめる。
「なら、お前は絶対蔵人のために死ぬなよ。」
なぜウルの声や言葉にいつもの生気や力が無いのか、気付いた。
−ウルはアリスをまた失った。
彼は、彼のために死んだ最愛の人を蘇生しようとした。
だが、蘇生の秘術は失敗した。
そうして、また、彼は彼女を失った。
−なんか、・・・いたい。
アナスタシアの胸がわけもわからずいたむ。
けれど、その痛みを決して表面に出してはいけないような気がして・・・。
だからアナスタシアはいつもどおりのウルとの会話のときのようにすまし顔を
つくりこの場にふさわしい、そしてウルが望んでいるであろう答えを口にする。
「あったり前でしょ!!私は絶対に死なないんだから!
だって蔵人さまが私のこと守るって約束してくださったんだもの!!
キャー!!アナスタシア恥ずかしいっ!!!」
アナスタシアの言葉にウルは思わず脱力して「はあ・・・。」と満足とも呆れとも
とれるどっちつかずなため息を漏らす。
「蔵人も大変だよな〜。」
ウルが、にやにやとしながらアナスタシアの頭をわしわしとかきまぜる。
そのいつもどりの調子に内心ホッとしながら、しかしそれを隠してウルにかみつく。
「うっさいわね!
髪が乱れるからやめてよ。
この馬鹿ウルっ!」
「へいへい。こわいね〜。
そんなんじゃ蔵人に嫌われちまうぞ。」
言いながらウルは背を向け歩きだす。
「あんた、どこ行くの?」
「あいつらの手伝い。
おまえはそこで火みてろよ。」
そのまま前を向いたままひらひらと手を振り、歩みを進めていく。
木立に消えようとする背中に、アナスタシアが呟く。
「私は蔵人さまがすき・・・。
すきなんだから・・・。」
自分に、もしくはウルに言い聞かせるような口調になってしまったことに彼も彼女も
気付くことはできなかった。
<終わり>