あれは日本へと旅立つ数日ほど前…  
ホテルの部屋でアナスタシアは暇を持て余していた  
「も〜、なんで誰も相手してくれないの〜?」  
いつもならヨアヒムかブランカが遊び相手になってくれるはずが  
今日は二人(本当は二匹)ともいない  
どうやらゼペットが出掛けるので付いていったらしい  
「はぁ〜」  
寝転がるにも飽きたのかアナスタシアは起きあがる  
隣の男部屋に行くつもりのようだ  
(たしかウルは用事ないとか言ってたような…)  
しかし、ウルに遊び相手を要求してもあの性格だ、ろくな遊び相手になりゃしない  
「いないよりましよね〜」  
一人呟きながら部屋をでようとするアナスタシアの動きが止まった  
ドアの向こうから話し声が聞こえる  
(ウルと…カレン?)  
「なぁ〜、いいだろ」  
「ダメ!今日はダメだっていってるでしょ!」  
「そんなこと言わないでさ〜、ねっ、一回だけ!このと〜り」  
「くどいっ!!」  
(何の話をしているのかしら?)  
アナスタシアが二人の会話に疑問を感じているうちにカレンだろうか、足音が遠のいていった  
「あ〜ぁ」  
ウルの落胆の声だけが聞こえてくる  
 
再びドアに手を伸ばすアナスタシア、しかし  
「どぉ〜したのぉ〜?」  
ルチアだ  
「いや、別に…」  
ウルはまだへこんでるらしい  
「そうだ!あのさ〜、ちょっと頼みたいことがあんだけど」  
「?」  
いきなり元気になったと思うと何やらルチアに耳打ちをするウル  
(ちょっと!聞こえないじゃない!)  
「………何だけどさ」  
「えぇ〜、わたしとぉ〜?」  
「そうそう」  
「だ〜め〜、わたしはぁ〜そんな軽い女じゃないの〜」  
どうやら怒ってるようだ  
(来るっ!)  
ルチアがドアに近づくのを察し離れるアナスタシア  
ガチャ  
「まったくぅ〜、あっ、アナスタシア〜」  
「あ、おかえりルチア」  
「ただいま〜」  
「ど、どうかしたの?」  
「ん〜?、アナスタシアじゃわからないと思うから〜、教えてらんないのぉ〜、ごめんねぇ〜」  
「べ、別にいいのよっ」  
盗み聞きに罪悪感でもあるのか動揺するアナスタシア  
 
「じゃ、じゃあわたし出掛けるわね」  
「いってらっしゃ〜い」  
出掛けるといっても  
隣の部屋にいるであろうウルに会いに行くだけなのだが  
 
「ウル〜、いるの〜?」  
ウルのいる男部屋の前で呼びかけるアナスタシア  
「………」  
返事はない  
「勝手に入るわよ」  
言葉通り勝手にドアを開け、部屋に入る  
「ぶつぶつ……」  
ベッドの上でうなだれながら何か呟いているウルがいた  
「ウル?」  
「ダメだ…、このままじゃ、ホントまじぃな…」  
何やら言ってるようだがよく聞こえない  
「ウ〜ル〜?」  
「!、……あぁ、アナスタシア」  
「どうしたのよ、元気ないなんて、あんたらしくないわね」  
普段と違う様子のウルに少なからず心配なようだ  
 
「いや…、ちょっとな、で、何のよう?」  
「えっ?、あ、あんたが暇みたいだったから、遊びに来てやったのよ」  
とりあえず自分が遊びたいという事にはしたくないらしい  
「ふ〜ん、!…うっ」  
突然ウルが苦しみだした  
「ちょっと!ウル、どうしたのよ!?」  
「だ、大丈夫…」  
見た目には大丈夫そうではないが  
「悪いけど、遊ぶ気分じゃないから、他あたってくれ」  
そういうとウルはベッドに横たわってしまう  
「わ、わかったわ」  
病人(?)が相手では遊ぶわけにもいかない  
アナスタシアはしょうがなく部屋を出ようとする  
「まてよ…」  
「ん?なんか言った?」  
ウルが何か呟くがアナスタシアには聞こえない  
「そうか、お前がいたな」  
「えっ?」  
 
起き上がりアナスタシアに迫るウル  
「ちょっと!、どうしたゃったのよ!?」  
「…呪いのせいか知らないけど、身体がおかしいんだ…」  
ウルの目はもう普通ではない  
「大丈夫だアナスタシア、すぐ終わるよ」  
異様な雰囲気に身の危険を感じたアナスタシア  
「い、いや、こ、来ないで!」  
逃げだそうとドアに手をかけるより早く、ウルに捕まってしまう  
「キャッ、離して!」  
「………」  
無言のままベッドに連れて行かれる  
「キャッ」  
手荒くベッドにアナスタシアを放り投げる  
「まだ…、下は、無理、か…」  
なにやらぶつぶつ言っているようだがアナスタシアには意味がわからない  
「え、な、何?、何する気?」  
「…でも、ゆっくり、やれば…」  
ウルの中で最悪な結論が出ようとしていた  
「アナスタシア」  
「な、何よ」  
 
突然だった  
「!!!!」  
ウルがアナスタシアに唇を重ねてきたのだ  
「んんっ!!」  
初めての経験に少女は思考が止まる  
そして刺激的すぎる濃厚なキスに段々意識を取り戻す  
「…はぁ、はぁ、な、何するのよ!!」  
目からは涙が溢れてきていた  
「…そういう趣味は無いんだが場合が場合だしな…」  
何やら自分に言い聞かせるようにウルは呟く  
「ちょっと…、何するのよ!」  
「大丈夫、言ったろ?すぐ済むよ」  
ウルがアナスタシアの服に手をかけ始める  
子供ながら身の危険を感じながらアナスタシアは動けなかった  
ただただ目をつむり、今起きてる事を記憶しないようにとしていた  
「………?」  
だがおかしい、すぐ済むと言っていたけど何もしてこない  
恐る恐る目を開ける、そこには  
 
「ウル……?」  
ウルはなぜかベッドに頭から倒れている  
「まったく…」  
「…カレン!」  
声でカレンがいることに気付いた  
「大丈夫?アナスタシア、ウルに変なことされなかった?」  
「だ…大丈夫よ!!私がウルなんかに変なことさせるわけ、な、ないでしょっ!!?」  
「それもそうね」  
安心したように笑みを見せるカレン  
どうやらウルはカレンに殴られ気を失ったようだ  
「じゃあ、ウルは私が引き受けるからアナスタシアは部屋に戻ってて」  
「わ、わかったわ」  
カレンに言われ部屋を後にする  
しかし、気になるのかドアに耳を当てる  
 
「ウル!起きて」  
「んぁあ!おお、カレン、どうしたんだ?」  
「はい、これ」  
「えっ!、これって…、じゃあいいのか!!?」  
「まったく…、しょうがないんだから…」  
そして、ドアの鍵が掛けられる  
 
(部屋に戻ろうっと)  
 
 
「あら〜、早かったのねぇ〜」  
「えっ、あ、うん」  
自分の部屋に戻るとルチアが窓の外の景色を見ていた  
「どうしたの〜?顔真っ赤よ〜」  
「えっ!?」  
急いで鏡に向かう、鏡を覗くとアナスタシアの顔は真っ赤に染まっていた  
「やだ…」  
「何かあったの〜?」  
ルチアの質問にアナスタシアは答えられなかった  
「…………」  
「?」  
「何もないよ…、何も」  
 
 

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