『…子は箏を奏でたる若い女官に歩みより、その手に触れた。「私の箏  
 がお気に召しませなんだか」女官は震え、太子に平伏する。哀れな女  
 である。太子は女官の手を取り、命じた。「伽をせよ」と。この女官、  
 年はまだ十五、六であろうか、未通女かも知れぬ。未通女に通じるの  
 はまた良いものである。震える女官を半ば引き摺るように寝台に放り  
 込み、帯を解き、青さの残る裸体をしばし鑑賞するに、太子の逸物は  
 早くも屹立し始める。女官はやはりまだ未通女であったか、伽が如何  
 なるものか理解はしていようものの、どのように仕えれば良いか見当  
 もつかぬのか、手足を閉じて俯いている。そこで太子は衣の前をはだ  
 け、天を指す逸物を女官の前に差し出したのである。若い女官は、  
 「口を遣え」と命じられると、言われるが侭に舌を這わせ、唇で表面  
 を撫で擦り、吸い、考え得るあらゆる技を尽くして、懸命に逸物に仕  
 えた。太子はその趣を眺め遣りながら自らも衣を脱ぎ捨て、女官の肩  
 を押して寝台に横たわらせる。そして傍らの香具棚から小壷を取り出  
 し、香油を手に取って女官の若々しい乳房に塗り広げた。「この秘伝  
 の油を用いれば、未通女であろうと必ずや気を達することができよう  
 ほどにな」太子は女官の足を開かせ、そこにも香油を塗り込める。い  
 かなる作用であろうか、女官は初めこそ震えていたものの、やがて息  
 は乱れ、頬は朱を帯び、目は涙を湛えて足を擦り合わせ始めたのであ  
 る。太子が女官の白い足を大きく広げれば、そこには既に雫がこぼれ  
 んばかりとなった女陰が現われた。太子はいよいよもって、逸物を女  
 陰に挿し入れた。女官は、太子が律動する度に体の芯から溢れる快楽  
 に徐々に体を柔らかくし、前後する逸物の動きに合わせ、切々たる声  
 を上げ始める。肌は吸い付くが如く汗ばみ、髪も乱れ、先ほ………』  
 
 
「ウル! それは!」目を上げると、色気とは縁の遠い顔が見えた。  
「あ、じっちゃん。借りてるよ」  
「まあ貴方なら構いませんよ、ウル。後で戻しておいて下さいね。  
それよりも……」と、ロジャー。周囲を何度も見回して。  
「なに?」  
「実は前から研究していたものがあるのですが、実試験を行うのにウル、  
貴方の協力が必要なのです」  
「また走るの? やだなー…」アレきついし。  
「いいえ、違います。今、私たちしかいない今こそ、計画を立てるのに  
最適なのです。そして、協力を仰ぐのも、ウル、貴方だからこそです」  
「なんで俺?」  
「ウル、貴方は、魔術と科学だけに魂を捧げてきたこのロジャー・ベー  
コンに、新たな地平を開いてくれました! 齢七百を超えたと言えど、  
肉体の神秘を探求し、真理を見つけるのに遅すぎるということは無いで  
しょう。私たちは今こそ新しい扉を開くべき時なのです!!」  
「だからいったい何?!!」話がくどすぎる。  
「これです」ロジャーは小さな機械を取り出した。  
「飛ぶの?」  
「ウル、私の話を聞いていたのですか?! これは肉体の神秘を探るた  
めに開発した、『神経誘導装置』なのです!」  
「しんけーゆーどーそうち?」オモチャにしか見えない。  
 
「この神経誘導装置は、対象の神経中枢に作用し、選択された感覚を増  
幅します。感覚によって効果のバラツキはあると思いますが、この装置  
を用いることによって、通常の数倍の効果が見込めるでしょう」  
「何に使うんだよ?」  
「それはですね…」ロジャーは急にもじもじして。  
「交接する際の感覚をより高めて、古来の媚薬のように…」  
「……じっちゃんが? ……ヤるの??」そもそも立つのか?  
ロジャーは頬を染めて、こっくりと頷いて。  
「…だったらとっとと使えばいいじゃん。なんで俺が要るわけ?」  
「相手に女性が必要ではないですか!」  
「俺、女じゃないし」女でもたぶんイヤだ。  
「だから! ウル、貴方の力を借りたいのです!」切々と訴える爺。  
「…………で、どーしたいの?」半ば呆れて。  
ロジャーはごそごそと更に怪しげな瓶を取り出して。  
「こちらの薬品は、嗅ぐと数十分ほど運動能力を低下させ、意識レベル  
をやや下げる働きがあります。これを使えば…」  
「なんか、ちと、マズイんじゃ…?」何事にも同意は大切…。  
「ウル! 協力してくれないのなら、次の飛行から、貴方だけ自力で飛  
んで貰います! このベーコン号は使わせません!」  
「そ、それは………(汗)」なんかどっちもヤだ…。  
 
結局、押しまくるロジャーに俺が折れる形になって。  
とは言え、いくらなんでも合意なしはマズイだろって俺も説得して。  
連れてくるだけは連れてくる、後の交渉は自分でやってくれ、というこ  
とにした。無理強いも強行突破も禁止。  
まさか七百超えた爺の筆下ろしに付き合わされるハメになるとは、世の  
中、ホントーに予想がつかない。  
 
さて、誰に嗅がせるか…。  
まず、アナスタシアは却下。年齢的に。  
次にカレン。素直に嗅いでくれるだろーか? 否。腕も立つし…。  
とすると、ルチア。もともと調香をするし、試しに嗅いでくれって言う  
のはたぶんだいじょーぶ。  
そーゆー訳で、俺はルチアの元へ向かった。  
 
「ん〜、どうしたのぉ〜」相変わらずルチアはルチアで。  
「あ、あのさ、この瓶、ちょっと調べてみてくれる?」瓶を渡す。  
「何かしらぁ〜」振って、色を見て。  
「オイルではないみたいねぇ〜」栓を外す。  
「ん〜〜」バッチリ嗅いで、栓をする。  
「これは…え〜とぉ………あ〜れぇ〜?」  
前のめりに倒れてくるルチアを抱き止めて。あ、柔らかい……。  
と、堪能している場合じゃなかった。  
「ルチア、ごめん。ロジャーに頼まれたんだ、ちょっと付き合ってくれ」  
「え〜……なんでぇー?」そりゃわかんねーだろーなぁ…。  
そのまま担ぎ上げて、飛空艇へ急ぐ。  
ロジャーは待ち構えていて。  
取り合えず個室の寝台にルチアを横たえると、ロジャーは寝台の脇で身  
振り手振りを交えながら実験の意義やら何やら話し始める。俺は最後ま  
で付き合うつもりは毛頭なくて。  
「やれやれ……」と、飛空艇を出た。  
 
「撮ったわよ」と、唐突にアナスタシアの声。  
「えっ?!」バッっと横手を見ると、そこには彼女の他にも、カレン、  
咲叔母さん、そしてなぜかブランカまで。  
アナスタシアが誇らしげに掲げる手の中には、ルチアを抱えた俺が写っ  
ている。  
「何を、企んで、いるのかしら?」と、カレン。  
「隠し事はいけないわねぇ」叔母さんの瞳は射抜くようで。  
「中に、連れていって貰えるかしら?」カレンは既に危険領域っぽい。  
「は、はい……」俺は従うしかなかった。  
 
まだ事に至っていないのを祈りながら、個室のドアを開けると。  
「ウ、ウル?!」  
幸いなことに、まだのようだった。  
装置をいじっていたロジャーは狼狽して。  
俺は無言で背後を指し示した。  
「…………み、皆さんお揃いですね…」  
「ブランカが教えてくれたのよ」と、アナスタシア。  
「さあ、これは一体どういうことなのか、教えて下さらないかしら」  
カレンは刀に手をかけて。  
「ウルにぃ〜……薬を〜…嗅がされたのぉ〜……」うわ、言うなっ。  
「興味深いわねぇ」叔母さんの目は、装置とロジャーを見比べている。  
 
結局、ロジャーは全て吐かされて。  
勿論それだけで済むわけもなく。  
 
俺は、四人と一匹がかりで押さえつけられた上に、例の薬を目一杯嗅が  
され、動けなくなったところで手も足も縛られて。  
 
「さぁロジャー、用意はいいかしら?」カレンの刀を首にあてられて。  
「ご、ごめんね、ウル……(;-;)」ロジャーはハラハラ泣く。  
「俺…だけ…かよ……」くそぉ、動けない…。  
「元はウルが悪いんでしょ」アナスタシア、それは決めつけだ…。  
「さ、始めましょう」叔母さん、アンタ面白がってるだろ…。  
 
装置のスイッチが入れられる。  
「どれどれ」  
「ぐはっ…」  
アナスタシアのごく軽い蹴りが、まるで丸太で殴られたような痛さ。  
「おもしろ〜い」  
「うぐっ………」  
ルチアは思い切り蹴飛ばしやがった。意識が飛びそうになる。  
「手加減しないと気絶しちゃうわねぇ」  
叔母さんには扇子でピタピタと叩かれ。マジ、平手より痛い。  
「気絶したら起こせばいいのよ」  
カレンは容赦無く足をにじる。ああああああぁぁ……アリス助けて…。  
 
選択されているのは、そう、「痛覚」。  
 
それからの一時間、俺は地獄の方がマシなんじゃないかって目に遭い、  
じっちゃんの頼みなんて、当分聞いてやらねぇと心に誓った。  
 
もう、コリゴリだ………………。  
 
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