ひとりで食事をするのが当たり前だった。  
別に珍しいことじゃない。  
父親も母親もどうしようもない人間で、たまに帰ってきたかと思えば、子供の前で平気で身体を交わらせる。  
俺はやつらが奏でる下品で卑猥な音楽を聴きながら、ぼんやりとテレビを見ていたんだ。まあこれも、特に変わったことじゃないんだろう。  
それでもどうしようもなく耳を塞ぎたいとき、俺はテレビをつけるのが日課になっていた。  
父親だか母親だかもう判別もつかないほど乱れきった掠れた声が聞こえてくる中、テレビの中に映る人間はどれも清潔に見えた。  
どうしてあんなに綺麗な女がいるんだろう。  
どうしてあんなに頼もしい男がいるんだろう。  
どうして、俺の周りには、薄汚い人間しかいないのだろう。  
綺麗なドレスを着た女が美しく微笑み、それを見た誰かが言った。  
「完璧なレディだ」  
それが耳に残っていた。  
どうしても最期まで親だと思えなかった男と女の血にまみれ、ナイフを手に立ち尽くしたあの時でさえ、  
俺の脳裏には綺麗な女の姿と、それを形容する「レディ」という言葉が、いつまでも離れなかったんだ。  
 
 
「素晴らしい…」  
ビルカバンバの遺跡の奥深く、門を解放せんがために歩き続ける、レディ、キラー、ギルバートの三人は、  
仕掛けにも屈することなく、突き進んでいた。  
膨れた上半身に異様に細い下半身を持つギルバートは、すたすたと歩く長身のふたりの速度に追いつくのがやっとで、  
それでも遺跡を目にする悦びで、先ほどから「素晴らしい」を繰り返し、ちょこちょこと小走りに進んでいる。  
ギルバートのことはどうでもよかったが、キラーは一心に歩き続けるレディの体調を気遣った。  
「レディ、急ぎたい気持ちはわかるが、ここは空気が悪い。少しだけ休もう」  
決して口を開かない美しい少女の背中に声をかける。振り向くことはないだろうとどこかで思っていたが、少女は意外にもこちらを向いた。  
さらりと髪が揺れ、感情のない顔がキラーをわずかに見つめ、こくんとうなずく。  
キラーはほっとして、何かレディのためになるようなものがないかと、辺りを見回した。  
「おやおや、そんな悠長なことを言っていていいのですかな。  
 レディさんの望みのためには、もう少し彼女に頑張ってもらわねばならないというのに」  
レディがこちらを向いてくれた喜びで笑みをもらしかけたキラーに向かって、ギルバートがいやらしく笑いながら言った。  
「だったらてめえが先に行け。門でもなんでも開けて待ってりゃいいだろうが!」  
がっとギルバートの胸倉をつかみ、キラーは吼えた。  
「ひいいぃっ! い、いえ私はただ、レディさんのためにと」  
「何がレディのためだ! レディのことは、俺だけが考えてりゃいいんだ!」  
苦しげにうめくギルバート。キラーはこの汚らしい喉笛をナイフで裂いてやれば、どれだけ清々するかと思いながら、そのまま放り捨てる。  
どすんと大きな音を立ててしゃがみこんだギルバートは、しばらくぜいぜいと喘いでいたが、  
やがて薄ら笑いを浮かべながら、へらへらと立ち上がった。  
「それは失礼いたしました。私も少々足にきていますし、休憩はありがたい」  
「てめえは行っていいんだぜ。視界に入るだけで殺したくなるんだよ」  
「ひひひ、しかし、私を殺せば、レディさんを人間に戻す方法は、永遠に失われることになりますよ」  
「く…っ」  
弱い所を突かれて、キラーは詰まり、ぼんやりと立ち尽くすレディを見た。  
この少女が人間ではないことは、とうに知っている。  
助からない傷を抱えて逃亡していた自分を囲む警官を、あっという間に殺してみせ、自分の傷を癒したのだ。  
今のままでもいいと思う。  
しかし、彼女の目的が、人間になりたいということならば、全力で叶えてやりたいのだ。  
人を殺すことしか知らなかった自分を救ってくれた、自分が与えた名を了承した彼女の願いは。  
ギルバートはにやにやと笑い、おや、と声をあげて周囲を見回した。  
 
「水音がしませんか?」  
「水音?」  
キラーはふっと周囲を見回す。  
「…俺には聞こえねえ」  
「いいえ、確かに聞こえますね…ここは地下ですから、湧き水でもあるのでしょうか。  
 時にキラーさん、レディさんは私に会うまで、何か食事のようなものはしましたか。  
 ここは蒸しますし、水があるなら、彼女の身体にもいいと思うのですが」  
「音なんか聞こえないぞ」  
ギルバートはうろうろと歩き出し、一点に止まると、耳をそばだてた。  
「ああ、この奥から聞こえる。私じゃ行けそうにありませんね」  
ギルバートは人工的に作られた真四角の石の柱を見上げた。人がひとり通れそうな隙間が見える。キラーならなんとか飛び上がれそうだ。  
キラーはうさんくさげにギルバートを見下ろし、離れた所にいるレディを見つめた。  
「レディ、喉渇いてるか?」  
「……」  
レディは小首を傾げ、こくんとうなずく。  
「そうか」  
もしこの世界がひとつの国で統一され、その王様に「水を持て」と命令されても、絶対に従わない自信がある。  
どれだけ偉かろうが、権力を持っていようが、鼻で笑って退けるだろう。  
今のキラーの絶対者は彼女なのだ。こんな小さな仕草だけで、キラーはたったひとりの王様だって、殺せる。喜んで殺せる。  
「わかった。待ってな」  
だから行く。たった一杯の水だろうが、彼女の望みだ。荒ぶるモンスターの巣窟にだって、飛び込んでいける。  
キラーは少し下がって助走をつけると、軽々と石柱の隙間へと大きな体躯を滑らせた。  
「ギルバート、この先に水が沸いてるんだな?」  
「ええ、恐らくは」  
「…もしなかったら、わかってるだろうな」  
「ひひひ、少しは信用してください」  
死ね。虫けらが。  
キラーは胸中で毒づくと、向こう側へすたりと降り、駆け出して行った。  
「さて…」  
足音が小さくなるのを注意深く聞いていたギルバートは、キラーの帰りを待つ少女へ、その下卑た顔を向ける。  
「やっとふたりきりになれましたね、レディさん」  
片目にはめたレンズが、妖しくきらりときらめいた。  
 
彼女に関しては、調べたいことがいくつもあった。  
本当なら、どこかの研究室に監禁して、ばらばらに解体し、ひとつひとつの細胞を、顕微鏡で覗いてみたいほど、研究意欲を沸きたてる存在なのだ。  
マリスの集合体とも呼べるレディの身体。  
エミグレ文書による蘇生術によって奇跡的に蘇った彼女には、生前の意志も心も残されていない。  
ここ数日行動を共にしたが、一言も声を発することもない。美しい姿をしているが、これは化け物なのだ。  
「レディさん、ここにお座りなさい。そうして私に、あなたを調べさせて欲しいのです」  
柱に背を預ける形でレディを座らせ、ギルバートは脂ぎった顔をぎりぎりまでレディに近づけ、長細い手を差し伸べた。  
「あなたの中には、一体どれほどの力が眠っているのか…ふふ、素晴らしい」  
レディが何もしないのをいいことに、柔らかな頬をすっと撫で、肩に触れ、腕に触れた。  
研究材料だと己に言い聞かせても、彼女の美貌はギルバートの黒い心に火をつけるのに充分だった。  
大体会ったときから思っていたが、レディの格好は挑発的で、背の低いギルバートは、見上げればいつでも嫌でも身体のきわどい所が見えてしまうのだ。  
キラーがギルバートを好ましく思わない原因のひとつに、この視線が含まれていることは間違いなかった。  
胸当ての上の部分、素肌をさらしている場所を人差し指ですっと撫で、ギルバートは抑えきれない笑いをくつくつと漏らし、長い鼻をこすりつけた。  
「中身はどうであれ、生身の女性に触れるなど、何十年ぶりでしょう。私にも子供時代がありましたが、女性は皆私を気味悪がり、逃げていきましてね」  
女のにおいを鼻腔に感じ、ギルバートは恍惚となりながら、胸当ての下の部分に手を差し入れた。  
 
こちらに都合のいいようにあつらえたとしか思えない無防備極まりない彼女の服は、実に色んな所から素肌を覗かせていた。  
ざわざわと蠢かせながら下から上へと指を忍ばせ、柔らかな丸みある肉に触れただけで、小男は快感に身体を震わせ、息を荒げた。  
「ああっ、これが、これが女の――」  
レディがわずかに身じろぎした。  
ギルバートはハァハァと喘ぎながら、レディの背に手を回し、赤い紐が斜めに交差しているだけのそこにもう片方の手を突っ込み、座ってつぶれかけている尻をつかんだ。  
「……っ!」  
レディが口を開け、声にならない悲鳴を発する。  
「無理はしないでくださいね、レディさん。気持ちよかったらにっこりと微笑んでくれるだけでいいんですよ。  
 私があなたを、とことんぶほああああっ!」  
唐突に顔を横から蹴りつけられた。  
哀れな小男が面白いように飛ばされて、石の壁に激突する。  
「……」  
レディがぼんやりと見上げると、鬼の形相のキラーが無言で振り上げた足をかつんと元の位置に戻した。  
赤く濁る瞳が、憎しみの光を蹴り飛ばした男に向けるが、すぐに座り込むレディを見下ろす。  
物言わぬ少女に向かってひざまづき、きょとんとする彼女の唇を、咄嗟に奪った。  
ぴくりとレディの身体が揺れる。キラーは両手でやや乱暴にレディの頬を押さえ、唇を割り、そこに口に含んでいた水を流し込んだ。  
「……っ」  
突然のことに、レディは目を丸くするが、やがて懸命に喉を鳴らして飲み下す。それでも入りきらない水が、顎を伝って流れて行った。  
「は…っ、だい、じょうぶか、レディ…」  
水を流し終えると、キラーは顔を離し、レディの顔を覗きこんだ。レディは口元を拭いながら、こくんとうなずく。  
「すまん。ひとりにするんじゃなかった…」  
キラーは苦々しく吐き捨てながら、遠くに転がる虫けらを射殺す勢いでねめつける。  
それから、されるがままだったレディを非難するつもりで、顔を戻した。  
「なんでだ、レディ。なんで、殺しちまわない!」  
「……」  
あんな小者を殺すことくらい、わけもないはずだった。  
生き返らせることだって、簡単にしてのける。  
人が彼女を悪魔と呼ぼうが、キラーにとっての神は、レディだ。  
大体人々が信仰する神とやらは、一体自分に何をしてくれたか。  
彼女だけが、自分を見てくれた。命を救った。彼女が何者だろうと、それだけは真実じゃないか。  
それなのに、何故、あんな男に…!  
どれだけ言っても口を開かない彼女をいらいらしながら見つめていたキラーは、レディの胸元に赤い痕を見つけ、かっとした。  
「レディ…!」  
激昂し、両肩を強くつかむ。レディがわずかに眉をひそめ、痛いと目で訴えた。  
「あんな男に、あんな…!」  
悔しさで、息もできない。激情した心のままレディを抱きしめ、肩に顔を埋めた。  
「おまえまで、あの女みたいになっちまうなよ…!」  
淫らに声をあげ、身体を激しく揺らしていたあの女。母などと呼ぶのも苦痛でしかなかった肉の塊。  
腕の中の少女もなるのか。  
あんなクズの手によって、簡単に堕とされてしまうのか…!  
「…あ…っ」  
あまりの締め付けに、物言わぬ少女が、初めて声らしきものをあげた。  
キラーははっとし、レディの顔を見る。  
「しゃべれるのか、レディ」  
「……」  
レディは息をつきながら、首を振る。  
「でも今…!」  
混乱する思考は、正確な判断を鈍らせる。  
レディ、赤い痕、発した声、あの女、下卑た男…  
ぐるぐると回り続ける思いの中、キラーが選び取ったのは。  
「……っ」  
水の味がする唇を、もう一度味わうことだった。  
「俺も堕ちてやるよ、レディ」  
――元々俺は、これ以上堕ちる所なんてねえんだ。  
 
少し冷たい唇を、舌を出してなぞる。  
レディが両手で軽くキラーの胸を押した。恐らくわかっていない。水はもういいと言いたいのかもしれない。  
「おとなしくしてな。あの男に嫌なことされたんだろ。俺が忘れさせてやる」  
耳元で囁いても、レディはきょとんとするばかりだ。だが自分なら、レディは受け入れてくれるに違いない。確信していた。  
顎に指をかけ、痛いくらいに顔を見つめた。胸にこみあげてくる気持ち。泣きたいくらい、胸が張り裂けるほど叫びたい気持ち。  
口が利けないと思っていた。だがおそらくそうじゃない。知らないだけだ。忘れているだけなんだ。  
口を開けて、レディの唇を覆うほど口付ける。この唇が、いつか名を呼んでくれる日がくればいいと思いながら、舌を差し入れた。  
あの男が触れた汚らわしい部分を手でこすり、服の隙間から手を入れ、豊かな胸をゆっくりとつかむ。  
「…ん……っ」  
レディが目を見開いて、キラーの腕をつかんだ。その手を振り下ろせば幾人も殺せる力を持っていながら、彼女は自分にはそれをしない。  
「ん、レディ……」  
唇を離し、少女の名を囁きながら、キラーはレディの首筋に唇をつけた。人間じゃなくてもいい。彼女は温かいのだ。  
しばらく胸を揉み解していると、頂が形を持ち始めた。レディが小さく息を呑むのを見て、安心する。  
石の上では痛いだろうと、キラーはコートを脱ぎ捨て、地面に落とすと、その上にレディをゆっくりと寝かせ、囁いた。  
「レディ、俺はお前の望みなら、なんでもかなえてやりたい。  
 今までは自分のため以外に何かをしたことはなかった。だけど、おまえのためなら。  
 そんな俺を、いつまでもそばに置いてくれると、約束してくれるか…?」  
レディの瞳に、キラーの赤い瞳がくっきりと映る。  
人々を震え上がらせた大量殺戮者、キラーが唯一心を開いた相手は、人間ではなかった。  
だがその相手は、罪深き殺戮者に唯一安らぎを与える存在として彼の前にあり、そうすることを、許した。  
キラーは微笑んだ。その笑顔を見つめることができるのは、この世界で目の前の人ではない存在だけだろう。  
「…ありがとう」  
そう言って、キラーはもう一度、壊れ物に触るように、ゆっくりと唇を重ねた。  
その唇を下にずらしていき、手でこすった穢れた部分に到達すると、キラーは強く唇を押し付け、浄化を試みた。  
あの汚物にはもう触れさせやしない。この女に触れていいのは自分だけだ。  
そう思うと知らずに手に力が入り、レディが小さく呻く。手の中の肉をつぶれるほど握り締めていることに気づき、慌てて離す。  
「すまん、レディ! …痛かったな」  
顔を覗きこむと、目に涙が浮かんでいる。キラーは目を開き、口を開けた。  
泣くこともできるのか。  
唇がわななき、こみあげてくるものを必死に押し留めた。  
浮かぶ涙をなめとって、指の痕を残してしまった胸から手をどけ、腹をなで、もっと下へと這わす。  
ぴくりとレディが反応を示し、不安げにキラーを見つめた。  
安心させるように微笑みかけ、秘所に到達した中指を、服越しからゆっくりと押し、割れ目の中心へ沈めた。  
 
「……っ! ……っ」  
枯れた声を出そうと必死になっているような息が漏れていた。  
沈めた指の先に感じる熱さ。間違いなかった。  
「おまえ……感じてるのか…?」  
感動と言ってもいいほどの気持ちがキラーを満たし、ただ喘いでいるレディを見つめる。  
レディは涙を溢れさせて、キラーを見上げる。  
割れ目の周りの布は極端に少なく、容易に手を滑り込ませることが出来た。  
布の色が変わるほどにじみ出るものをもっと確かめたくて、キラーは布をどけ、それを指ですくいとる。  
目の前にかざせば、それは悦びの印だった。  
「俺に感じてくれるんだな、レディ…」  
指をなめ、キラーは熱に浮かされながら言った。レディはただ、キラーを見つめるばかりだ。  
キラーはゆっくりと割れ目の中に指を入れる。密接した肉がすぐに指をしめつけてきた。  
「…っ、あ……っ」  
レディが背を逸らせて口を開く。  
充血し、愛液を溢れさせる彼女の中を慎重にさぐりながら、キラーはそこに女が感じる場所を探り当て、指の腹でそこをなぞった。  
「! っ! …っ!」  
海の魚が跳ねるような動きでレディの身体がしなる。  
柔らかな肉の中をずぶずぶと突き進み、隙間を空けるために指を左右に押して、触れる襞を指先で軽く引っかいた。  
「あ、あ…、あ」  
目を見開き、涙をこぼしながら、レディはされるがまま、キラーに全てを預けている。  
キラーはズボンの上からでもわかるほど膨張しきった己自身を取り出した。  
最後まで入らなくともいい。ただ、こうすることで、レディに自分の気持ちを伝えたい。  
半ば強引に、キラーは先端を、指で広げた箇所にあてがい、ゆっくりと沈めていった。  
「く…っ」  
それでもさすがに早すぎたか、入り口は果てしなく狭く、これ以上は無理そうだった。  
今は、それだけで…  
「レディ…!?」  
苦しげに息をつくレディが、わずかに起き上がった。慌てて腰を引こうとするキラーの腕をつかんで止めると、  
レディは自ら秘所に手を伸ばし、人差し指と中指を割れ目の上に乗せると、喘ぎながら広げて見せたのだ。  
「おまえ…!」  
驚愕に言葉がうまく出ない。  
レディは涙を浮かべて首を振る。  
 
やめないで。  
 
初めて、彼女が何を考えているのか理解した気がした。  
 
「は……! っ! あ、あ、あ…!」  
自分勝手な気持ちは止まらない。  
本当は、こんなことをしている暇などないというのに。  
自分の思いだけで大切な人を抱き、今は苦痛に歪む彼女の顔が見たくないという理由だけで、  
彼女を抱きしめ、腰を動かしている。  
キラーはあぐらをかく格好で座り、いきり立つものの上にレディを乗せ、こうして激しく動いている。  
自分の首に腕を回し、レディは耳元でだんだんと甲高い嬌声をあげるようになった。  
耳をくすぐる吐息が官能的で、キラーはレディへの配慮を忘れ、ひたすら腰を突き上げる。  
根元まで自分のものを飲み込んだレディの身体は、異様なまでに熱くなり、その熱でこちらも溶かされそうだった。  
「レディ…!」  
レディの中で極限まで昂ぶる雄が、限界を訴える。  
キラーはぐっと動きを止め、はやる気持ちを抑えて、つながったままレディを仰向けに寝かせた。  
「はあ、はあ、はあ…」  
レディの目がうつろになり、だらしなく唾液を口から流しているのを見ても、キラーの目にその姿は醜い母の姿と重なることはなかった。  
愛しげにその頬に触れ、唇をなぞると、キラーはレディのほっそりとした腰をつかみ、一気に最奥まで貫いた。  
「きゃ、ああああっ!」  
大きくのけぞり、悲鳴をあげるレディ。  
びくびくと痙攣する雄をレディの中に沈めたまま、キラーは満足げに息を吐いた。  
 
「私が気絶している間に、キラーさん、あなたレディさんにとんでもないことをしましたね」  
くたりと石柱に背を預け、瞳を閉じるレディの身体を拭うキラーの背に、復活したギルバートの声が聞こえた。  
「死んだんじゃなかったのか。しぶとい害虫だな」  
振り向きもせずにキラーは答えた。ギルバートは肩を揺らして耳障りな声で笑うと、  
「ひひひ、レディさんに近づくために、私も自分の身体を多少は強化しているのですよ」  
そう言って、誰も見ていないのにくるりと回って見せた。  
「レディが門を開いたら、本当に人間に戻れるんだろうな」  
服を元に戻してやり、眠るレディの顔を見つめながら、キラーは低い声で言う。  
「門を開くことで、レディさんの望みは叶う。私の言えることはそれだけです」  
ギルバートは意味深に言って、キラーを苛立たせた。  
「てめえ、今度レディに何かしたら、例え人間に戻る方法を失っても、俺が殺してやるからな」  
「あなたには言われたくないですね、キラーさん」  
「…っ!」  
ぎっと振り向くキラーの顔を見て、ギルバートは肩をすくめる。  
「彼女はいわば巫女のような存在だ。処女を失くせば力を失う可能性だってあるのですよ」  
「なに…!」  
はっとするキラーを、ギルバートは手で制した。  
「ご安心ください。門を開くのに、処女は関係ないでしょう」  
ほっとして息をつくキラーに、しかしギルバートは苦い顔で言った。  
「ただしキラーさん、あなたがレディさんを抱くたびに、彼女は間違いなく消耗している。  
 門を開く力が失われるのは困ります。今後一切、彼女にこのようなことはしないでいただきたいですね」  
「てめえ…」  
ゆらりと立ち上がり、その手にいつの間にか数本のナイフを握る。  
ギルバートはひっと声を漏らしながらも、目を開けるレディを見て慌てて指を差した。  
「ほほ、ほらほらキラーさん! レディさんが目覚めましたよ!」  
「! レディ…」  
咄嗟に振り返り、よろよろと立ち上がるレディを見下ろす。  
物言わぬ少女は、キラーとギルバートに目もくれず、ふらふらと歩き出した。  
「レディ!」  
「さあ行きましょう。門が彼女を待っています」  
手を伸ばすキラーの隣を、ギルバートが嬉々として足早に通り過ぎようとする。  
「くそっ!」  
それをガンと足でなぎ払い、転がるギルバートを無視して、キラーはレディの背を追った。  
 
抱いているとき、間違いなくレディは自分だけのものだった。  
だけど今は、また同じだ。  
キラーは思う。本当は、門なんかなくなればいいと。  
あの忌々しい害虫も、彼女を追うあの連中も、何もかも、消えてなくなればいい。  
レディが自分だけを見つめてくれたら、他に何もいらない。  
彼女が門を全て開放し、自分の望みが叶うなら。  
神には頼まない。  
悪しき力にただただ、願う。  
どうか彼女とふたりだけで生きられる世界を、自分に与えて欲しい。  
互いが互いのことしか考えられない、素晴らしい世界を。  
それが全てを引き換えにしてしか得られないものならば。  
 
――俺は何でもしよう。レディとふたりだけの世界のために。  
 
キラーは赤く光る世界を思う。  
 
――どうかレディが、俺の名を呼んでくれますように。  
 
それができないなら、せめて死ぬ間際の望みだけ。  
 
 
 
 
終わり  
 
 
 

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