12月24日、クリスマスイヴ。
彼と一緒にクリスマスプレゼントを買いに行き、アクセサリーやぬいぐるみなどを冷やかして回る。
色々な物の試着をした、ぬいぐるみの抱き心地も確かめた。
あの銀細工風のイヤリングはなかなか可愛らしく、正直に言って少し気持ちが傾きかけた。
けれど最初から私の欲しい物は決まっていたので、それらに費やした時間は彼との愛情の確認作業のようなものだった。
私の素振りから、彼も私が既に本命を決めているのを理解していたはず。
そして、イヤリングを戻して彼に言う。
「……可愛い、けれど。他に欲しい物がある」
普段物欲を示さない私の自発的な欲求に、彼は微笑む。
「うん、知ってる。だって志乃ちゃん、さっきから上の空だし」
しかし、『本命』を扱っている店に行ったときには流石に彼も困惑したようだった。
「ねえ、志乃ちゃん……このお店でいいの?」
「間違っていない。ここ」
予想しうる、当然の反応ではあった。
「だって、うちじゃ飼えないよ?」
「……」
そんなことは百も承知でいるとはいえ、少し鼓動が早くなる。
彼を見ると私の思惑に気付いたのか、とぼけたような表情を浮かべている。
「志乃ちゃんの家でも、そもそも飼い主の志乃ちゃんがめったに帰らないんだから意味が無いと思うんだけどなぁー」
「……」
薄々気付いているくせに、よくそんな白々しい台詞が吐けるものだ。最近、彼の若干嗜虐的な嗜好が強まっている気がする。
「ねえ、志乃ちゃん?」
「……気付いているのにその反応は、卑怯」
結局ここでも私が言わされてしまう。普段の柔らかな表情と優しい声音のままで、彼は待つのだ。
「顔を真っ赤にしながらそんな事言っても僕を喜ばせるだけなんだけど……それに志乃ちゃん、本当は自分で言いたいんでしょ?プレゼントのおねだりだもんね」
本当に爽やかな笑顔だ。自覚してやっている分非常に性質が悪い。涼風真白や鴻池キララは彼のこんな顔を知っているのだろうか?
「欲しい物は、違う。ペットではない」
彼の手を引いて連れて来たのは、ペットショップ。
ショーケースの中では、子犬や子猫がじゃれ合い、まどろみ、愛らしい仕草を見せている。
その姿を見て、私の中に恥辱や期待がない交ぜになった感覚が込み上げてくる。
「じゃあ、何が欲しいの?」
耳に口を寄せて、彼が問う。耳にかかる吐息の暖かさが私に染み込んでいく。
「…………」
分かっていてそんな事を聞く彼に、私は。
欲しかった物――――革製の、細い首輪を渡すことで答えた。
「うん、よく出来ました」
ぽすん、と手が頭の上に乗り、細い指が私の髪を梳き始めた。
温かさが伝わってくるようなその指遣いから、純粋な愛情を感じる。
「でもほら、やっぱり志乃ちゃんの口から聞きたいな。この首輪、どうしたらいいの?」
前言を撤回。純粋さの向きを間違えた嗜虐心が伝わってくる。
……そしてそんな彼の嗜虐的な態度に、俗っぽい言い方をするのならば『感じてしまっている』自分の気持ちも。
「貴方の手で、着けて」
これを言ってしまえば、もう人間に戻れない気がした。
けれど、踏みとどまるのなら今だとか。そんな想いは微塵も無かった。
全ての私が同じ方向を向き、全ての私がそちらへ加速していき。
心から汲み上げた純粋な欲望が、言葉になって流れ出す。
「私を、支倉志乃を貴方の物にして欲しい」
言うと同時、後ろから優しく抱擁された。
細い腕が身体に絡み、彼の熱が伝わってくる。素直に言えたごほうびとして、その温もりを存分に堪能していると。
ふと、店の中で客に抱かれる子犬と目が合う。
人懐こそうにじゃれ付くその子犬。顔を舐め、匂いを嗅ぎ、尻尾を振り……媚を売っているようにも見えるその動きを見て、思う。
――――あぁ、あの犬と私と。一体何が違うのだろうか。
彼の傍にいるために。
彼の寵愛を受けるために。
彼の愛玩物であり続けるために。
きゃうん!と吠える犬が、彼の下で嬌声を上げる私に重なった。
今夜彼を悦ばせるための吠え声は、とびきり可愛らしいもにしようと。そう思う