1月3日。
僕ら二人は近所にある神社の境内を歩いていた。
当然というか、初詣である。昨日は結局、一日アパートで二人して何もせずに過ごした。
新年の英気も養ったところで、改めて神様にお参りしようという事になった訳だ。
近所の神社と言ってもアパートから電車で3駅。案外遠かったりする。
まあ、本当に近所の小さな神社でもいいんだけど… 折角だからということで、ここまで来たのだ。
何が折角なのかと言うと…
「寒くない? 志乃ちゃん」
「大丈夫」
僕の隣を歩く志乃ちゃんである。
今日の彼女は、まごうことなき振袖姿だった。
紺地に薄紅の梅を散らした意匠。
まだ小学生の志乃ちゃんにはちょっと歳不相応な柄にも思えるけど、
これが不思議と良く似合っているのだ。
普段と違う髪形もなんだか新鮮だ。
長い黒髪を後ろで一度纏めて、右肩に垂らしている。
前髪をに留まるピンも梅で、ちょっとしたアクセントになっていた。
話によればおじさん達が今日のために、これら晴れ着の一式を用意してくれたらしい。
怖くて聞けなかったけど、恐らくレンタルでは無いのだろう。
このために一体幾らのお金が… そこまでで僕は考えるのを止めた。
だめだ。こうやってすぐ金額のことに結び付けて考えるから、先輩たちに貧乏性なんて言われるんだ。
…なんて、僕の負け犬根性はさておき。
そんな訳で、今回の初詣は近所の神社への往復で済ませる訳には行かないのだ。
本日限定、振袖姿の志乃ちゃんの可愛らしさを存分に撒き散らす使命を、僕は負っているのだから。
――実際には他にもう一つ、理由があるんだけど。
恐るべきことに、志乃ちゃんは一人で着付けをすることができた。
何でも、一時期は着物教室に通っていたこともあるそうで。
…とりあえず、小学生向けの着物教室なんてものが存在することに僕は驚愕した。
まあ、そんな志乃ちゃんだったからこそ、あんな無茶な注文にも応じることが出来たんだろう。
いちばん最後、帯の結びだけは僕が手伝ったけど、全部が彼女による指示の下だった。
志乃ちゃんにあれこれ指導されながら不器用に帯を結ぼうとする僕。
はたから見たら実に無様だったかもしれない。
まあ、お姫様のお召しを手伝うのも案外悪い気分じゃなかったけれど。
最後に志乃ちゃんは長い髪を上手いこと結い上げる。洗面所の鏡だけで仕上げたとは思えない、完璧なヘアメイクだった。
そうして見事な着付けをこなした志乃ちゃんは僕とお参りを済ませ、破魔矢を手に参道を帰り歩いている。
でも、僕の隣を歩く志乃ちゃんは、どうも様子がおかしい。
…どうにも顔が赤い。日本人形を思わせる白い頬に、幾分濃く紅がさしていた。
吐く息も荒かった。白い吐息が絶え間なく彼女の口元を曇らせている。
足元も少々覚束ないようだ。今日の履物は足の高い草履だし、仕方ない部分もあるだろうけど…
そろそろと、ずいぶん歩きにくそうな足取り。
石畳に時折つまずきそうになっては、危うく僕の手の袖をつかんでバランスを取っている。
「志乃ちゃん、本当に大丈夫? 体調悪いんじゃ…」
「大丈夫。もう何度もそう言っている」
「でもさ。こんなに寒いし、もしかしたら…」
すると、彼女はむっとした表情で僕の顔を見た。
「…分かっている癖に。本当に貴方は意地悪」
そう、分かっている。
彼女が今、こうなっている理由を。
志乃ちゃんは体調が悪いんじゃない。疼いているんだ。
今日の志乃ちゃんは下着の類を一切、身に着けていない。
素肌の上に直接、半衿を縫いつけた振袖だけを纏っている。
もちろん僕の命令だ。彼女は僕の言うことに逆らわない。いや、逆らうことが出来ない。
ちなみにもう一つ、今日の朝ごはんに混じってちょっとした薬を飲んでもらったけど… それは彼女には内緒だ。
『ねえ志乃ちゃん、下着無しで振袖着てみてよ』
それは半分思いつきで、僕の口から出た言葉だった。
『…わかった』
多少訝りながらも素直に従った彼女はショーツやスリップ、肌着に長襦袢さえ身に着けないまま、晴れ着に袖を通した。
人ごみの中、彼女の裸身を隠すのはたった一枚の布地だけだ。
胸からは半衿も覗いていて、ぱっと見には長襦袢だって着ているように見える。
外から見ても、一見おかしな所は無いだろう。
けれど志乃ちゃん本人にとっては相当恥ずかしいようだ。
普段は飄々としている彼女にも、少女らしい羞恥心があったみたいで。
僕はそこに付け込み、開拓することに決めた。
「ねえ志乃ちゃん。やっぱり恥ずかしい?」
「……」
無言。こっちも向いてくれない。
そっぽを向いたまま歩いていってしまった。
けれどこちらも負けずに繰り返す。
「ねえってば、教えてよ。恥ずかしいかどうかだけでいいからさ」
「………恥ずかしいに決まってる」
押し殺した声で、ようやく答えてくれた。
でも彼女の口から肯定の言葉を引き出せたことに、思わず僕はにんまりと笑ってしまう。
「そっか。でも体調が悪くないんなら良かったよ」
ぬけぬけと言ってみせ、僕はその場で歩みを止めた。
そこは参拝客の多く行き交う参道の真ん中。
でも、歩いていなくても志乃ちゃんはもじもじと落ち着かない。
そろそろ志乃ちゃんに内緒で飲んでもらったお薬――早い話が媚薬という奴だ――が、全身に廻った頃だ。
普段は彼女の胸を覆っているはずのスリップも今日は無い。
きっと素肌や胸の先を擦る裏地のざらざら感触を持て余しているに違いない。
しかし、彼女は自分の身体に起きた異変の原因を知らない。表情には出さないけど、さぞかし困惑していることだろう。
けど、まだだ。彼女を屈服させるには、もう一押しが必要なみたいだ。
落ち着かずに佇む彼女をよそに、僕はまた歩き出す。
「でもさあ、下着なんてあんな小さい布、着けてないだけで恥ずかしいの?
外から見たって別にノーパンだなんて分からないよ?」
幾らか離れて着いてくる志乃ちゃんにも聞こえるよう、大きな声で言ってやった。
僕の声を耳にした、すれ違いのカップルがこっちを見る。上手くいったみたいだ。
僕は振り返りもせずに歩き続けようとしたけど、ぐっとポケットに入れていた右腕を引っ張られる。
見ると、首まで赤くした志乃ちゃんが両手で僕の腕を掴んでいた。
「ばか。最低」
普段から他人を攻撃することのない彼女にしては、最上級の侮蔑を込めた言葉だろう。
でも、震える声でそんなことを言われても、てんで気にもならない。
僕の腕を掴む手にも力がない。だんだん余裕がなくなってきたみたいだ。
軽く言葉で苛めてやることにする。
「ねえ。恥ずかしいのは分かるけど、どうしてそんなに震えてるのかな。
なんか息も荒いし… ひょっとして、恥ずかしくて興奮しちゃったの?」
すると、既に紅潮した志乃ちゃんの顔はますます真っ赤になった。
確かに彼女は寒空の下で、一枚の服しか纏っていない。
けれど彼女の振るえが寒さから来るものでは無いことは、一目見ただけで明らかだった。
「やっぱり、貴方は最低」
罠に嵌められたと知らない彼女にとっては、それは図星だったらしい。
ぎこちない足取りで、気丈にも僕をおいて先に行ってしまった。
さて、どうしたものかと思ったけど…
そうだ、あの手を使おう。
僕は今日、「幸いにも」手袋を忘れて家を出てしまった。
1月の冷たい風に当てられ、バッグを持つ左手は痛いくらいに冷え切っている。
僕は先を歩く志乃ちゃんに気取られないよう、ゆっくりと後ろから近づく。
髪を結ってアップにしている今日の志乃ちゃんの後姿は、普段拝むことのできない、綺麗な白いうなじを晒していた。
僕はすっかり冷たくなった左手の平を、彼女の無防備なうなじ目がけ――
――ぴとり。
「――――――ぅっ!」
志乃ちゃんの身体がびくんっ! と跳ねる。本当に飛び跳ねたのかと思う位だ。
それでもやっぱり声を上げないのは流石かもしれない。
そんな彼女にも構わず、僕は首筋にあてた手を放さない。
振袖の襟に手を入れ、首根っこを掴むようにして冷たさを送り込む。
志乃ちゃんは痙攣するように、びくびくと何度も肩を跳ね上げさせる。
もしかして……
……どうやら軽く達してしまったようだ。おそらく薬の効果で、全身が性感帯のようになっているのだろう。
「………っ!」
志乃ちゃんは振り返り、精一杯の眼力で僕を睨み付ける。
けれどその目は酷く潤んでいて、まるで僕のことを誘っているかのようだ。
もう余裕なんて無いだろう。ここぞとばかりに追い討ちをかけてやった。
「志乃ちゃん、今ひょっとしてイっちゃったの? 僕、ちょっと触っただけなのに…
それにここ、周りにこんなに人がいるんだよ?」
耳許で囁いてあげる。志乃ちゃんは小さく震えながら、俯いたままだった。
「志乃ちゃんって露出狂のケがあるのかな? 下着つけてないってだけでこんなに興奮しちゃってさ。
こんな昼間のお外でイくなんて、普通じゃできないよ」
「……」
志乃ちゃんは何も答えれず、歯を食いしばってうつむいている。
恥ずかしがる心と欲情する躯に責めさいなまれ、困惑しているのだろう。
その上、昼間の往来でイかされてしまった事実が彼女を縛り、反論を封じていた。
「ほら見て。あそこの家族連れなんか、今の志乃ちゃんをびっくりしながら見てたよ」
「やめて、お願いだから…」
実際には小さな女の子が僕の悪戯に驚いた、位にしか見えなかっただろう。
けれど多分、今の志乃ちゃんには、周りの人間全てが自分の痴態をあざ笑っているかのように見えるのだ。
『見られていた』と報告されるだけで、
志乃ちゃんは羞恥に身を焦がし、身体を熱くさせてしまう。
まあ、下を向きながら細い声で懇願する志乃ちゃんが存外に可愛かったので、ここは許してあげようか。
震えながら立つ志乃ちゃんを余所目に、僕はまた歩き出す。
「そっかあ。志乃ちゃんは昼間の外でイっちゃう変態なんだね」
振り返ると、彼女は必死にトコトコと着いてくる。
「そんな、ちがう…」
弱々しい否定の声。志乃ちゃん自身、自分の言った事に自信が無いのかもしれない。
何とか僕に追いついて横に並んだ志乃ちゃんは、僕の仕打ちにだいぶ参ったようだった。
本殿へ向かう人ごみを抜けた先で、脇の小路に逸れる。
そこはあまり人が寄り付く事の無い、竹林の中を通る道だった。
まばらに竹が生える林の中は、割合に明るい。
冬の木漏れ日に照らされて横を歩く志乃は、いよいよ切羽詰まってきたようだ。
白い吐息は目に見えて荒く、その足取りはたたらを踏むかのよう。
見ると、歩きながらも腰をくねらせている。内股同士を擦り付けるような歩き方だ。
ちょっとイった位で媚薬の効果が消える訳がない。
むしろこれからが本格的に効いてくる頃のはずだ。
と、道の先にベンチを見つけた。
「志乃ちゃん、あそこでちょっと休憩しようか」
「……ん」
彼女の手を引いて、そこに向かったけれど。
「…座らないの?」
「……いい」
なぜか志乃ちゃんは俯いたまま、僕と一緒に座ろうとはしなかった。
――ああ、そういうことか。
僕は座ったまま、おもむろに志乃ちゃんの振袖の裾を割り、その中に手を入れる。
「――っく、やぁ……っ!」
着物に隠された内股に触れると、案の定、そこはべっとりと濡れていた。
溢れた液体を受け止める布が無いのだから仕方ない。
確かに肌着も着けずにこのまま座ったら、せっかくの晴れ着を汚してしまう。
快楽に支配されながらも、そういうところは忘れない子だ。
でも、だからといって僕は責めを容赦してあげることは無い。
肉付きの薄い彼女の脚はかたかたと震えていた。
「んぅ……あぁぅっ!」
愛液で濡れた内股をさすってやると、彼女は太もも同士をくっつけ、僕の手を挟み込んでしまった。
見ると、志乃ちゃんは胸の前で祈るように破魔矢を握り締め、必死で躯を蝕む欲望を我慢している。
きつく目を瞑り、快楽に耐える志乃ちゃんの顔。目尻には涙の粒が浮かんでいる。
その顔を見ていると… ああ、堪らない。
もっと彼女を壊して、バラバラにしてしまいたい。
彼女を自分だけの物にして、他の人間には決して触れられないようにしたい。
そのためには彼女の心も身体も、僕一人しか見れないようにすればいい。
もっと壊して… 僕しか見ることができない変態に作りかえてあげるよ。
太ももに挟まれた手を抜き取り、裾の中を移動させる。
下着を許されていない無毛の秘所に触れると、彼女の身体が再度跳ねた。
ソコは今も、熱い蜜を奥から吐き出し続けていた。
「うわ、志乃ちゃんのココ、凄い大洪水だ。 もう僕の手、びしょびしょになっちゃったよ?」
「――そんな…、私は、こんなんじゃ、変…!」
「変なのは志乃ちゃんじゃない。誰が通るかも分からないのに、何こんな興奮してるの?
ノーパンで歩いただけで明るい内から猫みたいに発情して、恥ずかしくないの?
ああ、それとも変態の志乃ちゃんは恥ずかしいのが良いのかな」
言葉でなじってあげると、彼女の幼い身体は否応なく欲情してしまうのを知っている。
そういう躯に僕が仕込んできたのだから。
今だって僕の言葉に反応して、秘所から溢れ出させる蜜の量を増していた。
薬の所為だけじゃない。白昼の神社で、間違いなく彼女の躯は悦んでいた。
だけど、二回もイかせてあげるつもりは無い。
裾の中に入れた手は縦に閉じたスリットを軽くなぞるだけで、ナカを弄ってはやらない。
代わりに僕は言葉で苛め抜いてやることに決めた。
「いや… わたしは、こんな…、ちがう…」
「嘘。本当は嫌じゃないでしょ?
下はこんなに涎垂らして嬉しそうなのに」
「ちがう、ちがうの…」
いやいやと首を振る志乃ちゃん。
今の自分に芽生えつつある何かを、どうしても認めたくないらしい。
志乃ちゃんに“躾”をするようになって大分経つ。
彼女の身体は僕好みに作りかえることが出来つつあるけど、
強情で芯の強い心は未だに変わらなかった。
――でも、だからこそ調教のしがいが有るのかもしれないな。
どうやって彼女の心をへしおってやろうか考えるだけで、
僕の胸の奥、どす黒い部分がぞくぞくと波立ってくるのが分かる。
そうして僕は、責め苦に耐える目の前の子猫に、さらなる追い討ちをかけた。
「…いい加減にしてよ。どうして正直に認められないの?
これじゃあ志乃ちゃんを躾けてあげてる意味が無いじゃない。
ちゃんと僕の言うことを聴けないなら… 要らない。志乃ちゃんは僕にとって必要ないよ」
刺すような毒を含んだ言葉。
その冷たさに、一瞬で志乃ちゃんの顔が引き攣る。
もともと黒目がちな瞳が目一杯に開いて僕を見つめる。
その奥に覗くのは、普段の彼女が見せる事の無い感情――恐怖だ。
“捨てられる”恐怖。おそらくは彼女が最も恐れていること。
志乃ちゃんの身体が目に見えてガタガタと震えだす。
「嫌… やだっ…、捨てないで…! おねがいだから、捨てないでっ…!」
さっきまで快楽に蕩けさせていた顔は何処へやら、嗚咽混じりに嘆願する志乃ちゃんの顔は血の気を失っている。
すがるような目つき。
瞳には大粒の涙を浮かべ、今にもぼろぼろと泣き出してしまいそうだ。
それ程までに――
志乃ちゃんにとって僕を失うという事は、世界を失うに等しい事なのだろう。
それまでギリギリの所で頑張っていた彼女の心は、たった一言であっさり折れてしまった。
さて、これから如何してやろうか。
くいっ。
「ひぅっ―――!」
未だ裾の中に入れたままだった指を、ちょっとだけ膣の中に入れてやる。
途端、忘れていた快楽を思い出した志乃ちゃんの体に電流が走る。
「そうやって悲しそうな顔しといて、結局は気持ちよくなりたいんでしょ? …淫乱」
「――っく、ごめんなさっ―、 ごめんなさい……」
とうとう泣き出してしまった。涙の筋が頬を伝って流れる。
泣きながらも彼女の肉体は欲情し、布一枚に隠された下の口は涎を垂らして僕の愛撫を欲しがっている。
志乃ちゃんの小さな体躯は快楽に支配され、もはや彼女の思い通りにはならないだろう。
「じゃあさ。今、志乃ちゃんのカラダはどんな感じなのか教えて? 正直に、ちゃんと言うんだ」
「あ……ぅ」
言われた志乃ちゃんは、性欲に半ば乗っ取られた頭を必死に働かせて考えはじめる。
まったく、『要らない』の一言でここまで従順になるんだから便利なもんだ。
今までにも志乃ちゃんが嫌がる度、こうやって調教してきたっけ。
やがて志乃ちゃんは歯の根も合わないような唇で、何とか言葉を紡ぎ始めた。
「裸の上に振袖だけ着て、恥ずかしくて、いぅっ…周りに気付かれたらと思ったら緊張して、
嫌なのに、恥ずかしいのに……っふ、 しばらくしたら熱くなってきて、それで…」
僕の愛撫に可愛らしく身悶え、息を切らしながらも志乃ちゃんは何とか先を続けようとする。
「服の裏側が胸とか肌に擦れて、それが気持ち良くなってきて…」
「うん、それで?」
「…どんどん、欲しくなってきて、それが恥ずかしくて、恥ずかしいのに…――きゃぅっ!」
ぷっくりと膨れたクリトリスを探り当て、爪の先で思い切り摘み上げる。
流石に耐え切れなかったのか、小さく悲鳴が漏れた。
「もういい、良く分かった。志乃ちゃんはやっぱり露出狂の女の子なんだよ。
ねえ、もう認めちゃいなよ。自分は見られて恥ずかしいのが大好きなヘンタイです、って。
認めて、きちんと言えたら許してあげるよ」
「ヘンタイ…、わたし…」
「そう。服一枚しか着てないってだけで発情しちゃって、すぐイっちゃう変態だ」
志乃ちゃんの瞳は暗く澱み、光を宿していない。
あと一押しだ。
「さあ、言って?」
「わたしは…… わたしは、ノーパンで歩いて感じちゃう、露出狂の、ヘンタイ… です…っ!
ヘンタイ、だから…っ、素直になるから… だから、お願い…っ」
――ようやく、陥落してくれた。
彼女を屈服させることが出来た喜びに、自分の顔が邪悪ににやけるのが分かる。
「やっと言えたね。志乃ちゃんが自分は変態だって認められてよかったよ」
彼女の裾を分けて入れていた手を抜く。
「あっ……」
どこか残念そうな声が、小さく漏れる。本当は今すぐにでもナカをかき混ぜて欲しい筈だ。
でも僕は聞く耳を持たず、愛液でべとべとになった手を彼女の目の前に差し出した。
「ホラ、舐めて綺麗にして」
「……っく、は…ぃ」
志乃ちゃんは涙に濡れた目で命令に従い、小さな両手で僕の手首を持つと
同じく小さなお口で、濡れた指を一本ずつ口に含んだ。
ちゅぱ、ちゅぱと響く水音。ねっとりと、熱い舌の感触が指に纏わりつく。
顔を上気させ、時折体を快感にビクつかせつつも、志乃ちゃんは僕の指を一本一本丁寧に舐め取る。
僕に奉仕しながらも彼女の身体は刺激を求め、くねくねと誘うように腰を振っていた。
ちゅぷっ――
息を荒げながら、志乃ちゃんは僕への奉仕を終える。目にはまだ涙の粒が浮かんでいた。
「あとは家に戻るまでお預けだよ。それじゃ、帰ろうか?」
けど、志乃ちゃんは肩で息をしながら身を捩らせ、歩き出そうとしない。
「…お手洗いに」
見ると、林立する竹の向こう、すぐ近くにトイレがあった。
「ああ、志乃ちゃんの下、ベトベトだから拭かないとね。
一緒に行こうか」
「一人で行ける、から」
「ダメだよ。志乃ちゃん、どうせ一人でトイレ入ってオナニーするつもりでしょ?
だからダメ。そんな勝手なこと許さないよ」
先に釘を刺しておく。
これだけ発情させて放り出したら、一人で勝手に盛り始めるのは目に見えている。
「………あぅ」
どうやら本当に図星だったらしい。
怒られた子供のように俯き、何も言えない志乃ちゃんの手を引いて僕はトイレを向かった。
二人して人気の無いトイレの個室に入り、僕はお漏らしをしたみたいな志乃ちゃんの脚を拭いてあげた。
発情して敏感になった志乃ちゃんが決してイくことの出来ないよう、細心の注意を払いながら。
けど、後から止め処なく湧き出て来るそれを一時的に拭き取った所で、大した意味は無いようだった。
一通りを終えてトイレから出る。
志乃ちゃんは僕の支え無しでは歩くことすら出来なかった。
薬の効果だってピークは過ぎたはずなのに、口をつく吐息はますます熱く、艶を帯び始めている。
今や彼女は自分自身の性質でその身を欲情させていた。
表向き華やかな晴れ着の下に隠れて、少女の幼い躯は快楽でぐずぐずに溶けつつある。
まるで重病人のような足取りの志乃ちゃんを支えながら、牛の歩みで神社の入り口まで向かう。
志乃ちゃんは両手で僕の腕にしがみ付き、何とか歩くことができる様子だ。
「うーん、仕方ない。帰りはタクシー使おうか…?」
「……!」
無言のままコクコクと頷く志乃ちゃん。
よっぽど辛いのだろう。もう口をきく余裕すら無いらしい。
それにしても…
なんというか、周囲の目が痛い。
そりゃあ小さな女の子に縋り付かれながら歩いていれば、周りの注目を集めるのも当たり前だろうけど…
おそらく、傍目には調子の悪くなった子を連れて帰っている、位に見えているのだろう。
顔を紅潮させた女の子がまさか下着も着けず、欲情しながら歩いているとは夢にも思うまい。
やっとのことで境内を後にし、大通りに出る。
信号を渡った向こうにタクシー乗り場が見えた。
「………」
ゴールが見えて人心地がついたのか、志乃ちゃんが僕を見上げて来る。
何とか苦難を乗り切った、苦しみからの解放に安堵した顔だ。
そんな彼女は暖かい場所を見つけた子猫のようでとても可愛かった。
あんまりにも可愛いくて、もっと可愛い志乃ちゃんが見たくて僕は――
「考えが変わったよ、志乃ちゃん。やっぱり電車で帰ろうか。
志乃ちゃんのはしたない表情を、もっと沢山の人にみて貰うんだ」
彼女の瞳が絶望に見開かれる。
そう、その顔だよ。
やっぱり絶望した時の志乃ちゃんが一番かわいいよ。
それから。
とても長い時間をかけて、僕達は帰ってきた。
何せまともに歩くことも出来ない彼女を、僕は負ぶってやったりはしなかったのだから。
向こうを出たのが11時頃だったのに、アパートに着いてみれば午後の1時。
屈むこともままならない志乃ちゃんの代わりに履物を脱がせてあげると、
彼女はフラフラと部屋の中に上がりこんだ。
「よく頑張ったね。…それで、どうして欲しい?」
意地悪く聞いてあげると、潤んだ瞳が僕を誘惑してきた。
もはや彼女の望みを邪魔立てする者は居ない。タガが外れたかのように、彼女は淫らな願いを口にした。
「私を…思い切り犯して…、壊して、ぐちゃぐちゃに……してっ! お願い…っ」
――奇遇だな。僕もそうしたいと思ってたところだよ。
「後ろを向いて、志乃ちゃん」
大人しく後ろを向いた志乃ちゃんの、細い腰を締め付ける帯を解いてあげる。
僕が手伝って結んだ帯は、簡単に解くことができた。
帯を解いて帯枕も外すと、彼女の和装を留めるのは腰紐だけだ。
腰紐を解くと、はらり、と振袖の前が崩れる。
僕はその紐を手に――いい事を思いついた。
「志乃ちゃん。手、後ろに廻して?」
「ぁ……」
僕の意図を悟ったのか、志乃ちゃんは嬉しそうに小さな吐息を漏らす。
今までの躾の成果か、志乃ちゃんはすっかり縛られたまま犯されるのが大好きな子になってしまった。
今では縄で縛られると、それだけでアソコをはしたなく濡らしてしまう位だ。
志乃ちゃんは腰の後ろでバツの字に手を交差させる。
振袖を羽織らせたまま、僕はその手首を決して解けないように腰紐できつく縛ってあげた。
抵抗もできなくなった彼女の小さな身体を、予め出したままにしておいた布団に勢い良く押し倒す。
「きゃんっ…♪」
乱暴に扱われながらも、嬉しそうな声。
着物の前合せがはだける。下着一つ着けない、上気した幼い肌が露になった。
自分は裸の彼女にこんな布一枚だけを纏わせ、白昼の往来を連れ回したんだ。
そのことを改めて考えると、僕の中から熱いものがこみ上げるのが分かる。
正直なところ、僕の方もいい加減限界だ。今すぐ彼女に突っ込んで、滅茶苦茶にしてしまいたい。
封を解かれた志乃ちゃんの小さな躯は、すっかり出来上がっていた。
透き通るような白磁の肌はしっとりと汗ばみ、酷く熱を持っている。
その上、彼女の細い腰から下は愛液と汗が混じり、ぐずぐずに蕩けきっていた。
まさか羞恥プレイで志乃ちゃんがここまで昂ぶってしまうとは思ってもいなかった。
おそらくそれは彼女の中で眠っていた、資質の一つだったのだろう。
まったく、毎回おもしろい位に志乃ちゃんは僕の無茶な欲求に応えて、
その都度淫らな性質を開花させてくれる。
肉の殆どついていない、細くてすらっとした志乃ちゃんの脚を大きく広げてやる。
彼女のソコはひくつき、今か今かと僕の挿入を待ちわびていた。
秘所から下は潤滑液がぬらついている。さっき拭いてあげたのも結局意味が無かったみたいだ。
僕の視線にも感じてしまうのか、不自由な身体を捩らせる。
「お願い、はやく…っ」
切なくて、苦しそうな声。
今更じらす理由はなかった。
僕はカチャカチャとベルトを外し、ズボンと下着を一緒に下ろす。
取り出した僕のソレは、ギンギン…というのだろうか、とにかく禍々しいまでに怒張していた。
「志乃ちゃん、入れる、よ」
「ん……」
無毛のそこは前戯の必要さえ無いくらいに蜜で良く解れていた。
一見スリットにしか見えない包皮を剥いてみれば、
とめどなく蜜を流し続ける源泉が何処なのかが良く分かる。
僕はその奥向かって自分の肉棒をズブズブと突き入れていった。
「ひゃっ? ヤぁ…!」
何度も馴らしているのに、相変わらず狭い膣内。
その半ばまで達したと思った瞬間、内壁の締め付けが急に鋭くなる。
「ひあっぅ! やっ… わたし、キちゃぅ――!」
志乃ちゃんの瞳が大きく見開かれる。
「わた…! わたしぃっ、ヤあぁっ…!!」
僕のモノを中にくわえ込んだまま、腰を中心にその身体がビクビクと何度も震えた。
「志乃ちゃん…?」
「あっ…… あぅ……」
「えっと… もしかして挿れただけでイっちゃった?」
「ん、う……ぁ」
志乃ちゃんはどこか呆けたような表情でどこか中空を見つめている。
口の端から、よだれがつぅっ――、と流れた。
「志乃ちゃん?」
よっぽど深く達してしまったらしい。
頬をぺたぺたと叩いてあげると、ようやく目が焦点を取り戻す。
「わた、し…」
「大丈夫?」
「あっ…… ごめっ… ごめんなさぃ――」
謝り、志乃ちゃんはぽろぽろと泣き出してしまった。
「うっ… ぅっく、ごめんなさ…、い」
「ね? 志乃ちゃん、泣かないで?」
「だって…、だって、まだ」
僕を置いて一人でイってしまったことを悔いているんだろう。
確かに僕のペニスは彼女の中で大きく膨れ上がったままだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
振袖が肌蹴て露出した、小さな肩で息をしながら泣き止まない志乃ちゃんが可愛くて――
――ちゅっ。
その唇に、優しく口づけしてあげた。
「あ……」
「ね、そんなこと気にしないで?
今の志乃ちゃん、とってもエッチで可愛かった」
縛られて涙も拭えない志乃ちゃんの代わりに、濡れた頬を舐めとってあげる。
志乃ちゃんの涙はしょっぱくて、少し甘かった。
間近で僕らは見つめ合う。志乃ちゃんの黒くて大きな瞳に、僕自身が映っていた。
「ぁの… もう一回、動いて」
「志乃ちゃん? でも…」
肩を震わす彼女は目に見えて疲労困憊している。
これ以上、志乃ちゃんの身体に負担をかけるのは――
でも、彼女は気丈に僕の事を気遣って言う。
「お願い、だから。わたしの身体を使って、貴方を満足させて」
全く、本当にこの子は…
「ありがとう、志乃ちゃん」
僕は身体を起こし、そのまま志乃ちゃんも抱え上げる。いわゆる対面座位、という体勢だ。
「ひぅ……!」
入れたままの肉棒がナカを刺激したのだろう、志乃ちゃんは可愛らしく悲鳴を上げた。
「それじゃ… 動くよ、志乃ちゃん」
「…うん。私のことを好きに使っていいから。だから……やあぅっ!」
言い終わらない内から僕は彼女の腰を掴み、上下にスライドさせ始める。
「ひャぅ、やっ、は、あっぅ…!」
彼女の中の一番奥を何度も突くと、その度に上の口から嬌声が漏れる。
一度イって多少絞めつけの緩くなった膣内は、暖かくて心地良い。
ジュヅッ、ニジュッ――
羽織らせたままの振袖が影になって、その結合部は良く見えない。
けどそこから発せられた淫らな水音が部屋の中に響いていた。
「やぁ、きゃぁぅっ… はっ… っと、もっとぉ…♪」
艶のある喘ぎ声に、苦しげにつく息が混じる。
両手を縛られて支えることができず、志乃ちゃんの上半身は酷く不安定に揺れる。
その細い腰を折れそうなくらいに強く掴み、僕はますます激しく、彼女の軽い身体を上下に動かした。
「…っも、もう、わたしっ… またぁ…!」
一回目と同じくらい、また中の締め付けが強くなる。
僕ももう限界だ。
自分の先端から白濁が吐き出される瞬間。
「――志乃ちゃんっ…!」
僕は志乃ちゃんを思い切り抱き寄せ、彼女の唇をキスで塞いだ。
「んぅ――!」
ビクン、ビクンと揺れる志乃ちゃんの身体を、両腕の中に押さえつける。
ナカで熱い液が噴出しているのが分かった。
「――――っは…」
全ての欲望を彼女の中に吐き出し終えた所で、僕らは唇を離した。
「ふあ………ぅ」
彼女の目はトロンと蕩けて、夢見心地で僕のことを眺めている。
彼女の着ていた振袖は乱れ、縛られた腕のところで丸くなっていた。
「可愛いよ、志乃ちゃん」
「あ……」
僕らはもう一度キスをする。
それが僕たちの愛の証明。
いびつで、歪んでいても、二人が二人であるための楔だった。
――汗やらナニやらで汚してしまった、しわの寄った振袖の事は今は考えないでおこう。
その後、僕達は二人でお風呂に入った。
まだ媚薬が体内に残っていたのか、敏感に身もだえする志乃ちゃんを苛めながら湯船につかる。
狭い風呂場の中で互いを清め、暖めあった。
「……ふぅ」
お風呂から上がると、時計は午後3時を指していた。
日の短い冬の一日とはいえ、まだまだ明るい時間帯だ。でも…
「ん………」
傍らで髪を拭く志乃ちゃんは酷く疲れた様子だった。
無理もない。朝からずっと、人ごみの中で緊張を強いられていたんだから。
「志乃ちゃん、お昼寝しよっか?」
「…そうする」
何せ、年に一度のお正月だ。それ位の怠惰は神様だって許してくれていいだろう。
……ついでに姦淫も許してくれると嬉しいのだけれど。
僕は布団の脇に放り出したままだった寝巻きを取り、それに着替える。
志乃ちゃんも倣って引き出しからパジャマを取り出し、それを着ようとしてるけど――
――ああ、そうだ。志乃ちゃんのこと、ちゃんと躾けてあげないと。
言い付け忘れてたことがあったよ、志乃ちゃん。
「ダメだよ、志乃ちゃん」
「え……?」
ショーツを履こうとした志乃ちゃんから、それを取り上げた。
志乃ちゃんは僕のする事の意味が分からず、困惑した目で僕をみている。
不安そうな彼女に、僕は冷たく言ってやった。
「見られて感じちゃう変態に、こんなの要らないよ。
露出狂の志乃ちゃんは、今日からこの部屋では何も着ないで過ごすんだ」
「な――」
「部屋にいるときはずっと裸だよ。何も隠しちゃいけない。
寝てる時だって、ご飯を食べてる時だって。
ペッタンコな胸も、はしたないアソコも、ずっと僕に見られながら生活するんだよ」
へなへなと、裸のままの志乃ちゃんはその場にへたり込んでしまう。
驚愕に見開かれた目が、許しを請うように僕を見つめていた。
もちろん、「許す」なんて単語を僕は知らない。
「外に出る時だってそうだ。下着ナシでいつも通り服を着て、学校に行けばいい。
見つからないかヒヤヒヤしながら、学校でもいやらしく発情しながら授業を受けるんだ。
そうだ、明日あたりに要らない服は全部処分しちゃおうか?」
「あ……、あ…」
残酷な取り決めに、志乃ちゃんの身体がカタカタと震えだす。
けど、それは恐怖だけから来るものではない。
志乃ちゃんの瞳の奥で蠢き、頭をもたげる好色の塊が手に取るように分かる。
そう、志乃ちゃんの心の底で悦びに打ち震えているんだ。
今日一日で開花させられ、知ってしまった羞恥から来る快楽。
それをもう一度僕に強要されたいという欲望が、彼女を支配している。
「志乃ちゃん、返事は?」
「は……ぃ」
奥歯をカチカチ鳴らしながら、志乃ちゃんは消え入りそうに返事をした。
「うん、良くできました。それじゃ寝よっか?」
「え…… あっ」
濡れた髪も構わず、僕は裸の志乃ちゃんを布団の中に引っ張り込んだ。
傾いた午後の日差しが照らす中、僕らは一つの布団で抱き合っていた。
と言っても、僕が志乃ちゃんを後ろから一方的に抱きすくめているだけなんだけど。
僕は寝巻きを着ていたけど、志乃ちゃんは何も着ていない、生まれたままの姿だ。
まあ布団をしっかり被っている分には、寒いという事は無いだろう。
隔てる布が少ない分、余計に彼女を温かく感じることができる。
「あなたに…」
ふと、志乃ちゃんが口を開いた。まだ眠れていなかったらしい。
「貴方に躾けられて、私はおかしくなってしまった。
嫌だった筈のことが、どんどん嫌じゃなくなっていく」
「志乃ちゃんは嫌? こうやって変えられてくの」
「別に、嫌じゃない。でも…」
そこまでで、志乃ちゃんは言いごもってしまった。
「志乃ちゃんも大好きでしょ? さっきだってあんなにエッチに喘いでたのに」
「………!」
背中を向けていた志乃ちゃんが思い切り寝返りを打つ。
ありったけの眼力を込めて僕のことを睨みつけてくれた。
……その瞳がとても綺麗で、僕は安心する。
光の宿った、小学生の女の子らしい歳相応の瞳。
それは以前の闇さえ飲み込むような、暗く澱んだ瞳とは全く違う。
一年前、人の死の先にある暗闇を見つめていた志乃ちゃん。
あの頃と比べて、今の志乃ちゃんはずっと素敵になったと僕は思う。
謙遜するつもりは無い。それは僕と出会うことができたからだ。
酷く強引なやり方で、僕は志乃ちゃんを作り変えた。
異常ともいえる性癖を引き出すことで、初めて彼女は「普通」になることができた。
確かに、僕が志乃ちゃんにしている仕打ちは、決して許されることではないだろう。
けど多分、彼女を深い闇の底から救い上げるには、こうする他に無かったんだ。
きっと… 僕は地獄に落ちる。
それでもいい。志乃ちゃんが幸せになれるなら、僕は一向に構わない。
多分そんなことは幸福の影にある、ほんの些細な不幸の欠片に過ぎないだろう。
たとえいつか、僕が裁かれることがあったとしても。
僕は胸を張って言うだろう。
誰も信じなくたっていい。それでも僕は彼女を救うことができた、と言い切る自信がある。
なのに……僕は、心に射す不安の影を未だに拭い去ることが出来ないでいる。
いつ彼女に、僕らの身に何が起こるのか。
頭にこびり付いて離れない、ナイフを片手に立つ血濡れの志乃ちゃんの姿。
真っ赤に染まった志乃ちゃんの影が、悪い何かを連れてきてしまうような気がして…
本当に僕らは来年の今頃も、こうして二人で過ごしていることが出来るんだろうか?
……そこまで考えて、僕はふと笑ってしまった。
ああ――
「来年の話をすると鬼が笑うんだっけ?」
「……どうしたの?」
「いや、ごめん。何でもないよ。ただね…」
今はただ、腕の中の小さな温もりを守ってあげたかった。
来年も再来年も、そのずっと先の未来だって。
誰が何と言おうと知ったこっちゃない。
お前はせいぜいそこで笑っていれば良いさ。
「来年も一緒に居ようね、志乃ちゃん」
冬の冷たい陽だまりの中、僕は彼女にキスをした。