膝の上の志乃ちゃんが僕の胸にしなだれかかって来る。  
その表情は笑ってこそいないものの、この上無く安らかだ。  
小さな彼女の頭を優しく撫でてあげる。  
「暖かいね、志乃ちゃん」  
「………ん」  
返事ともつかない返事。そんなやり取りでも僕らの心は通じ合えた。  
腕の中の志乃ちゃんが、とても温かくて。  
今だけは忍び寄る破滅も終末も無かった。  
冬の柔らかな日溜りの中、そこには僕ら二人だけがあった。  
 
だけど。  
暫くのうちに冬の太陽は傾き、部屋の中の日向は次第に面積を減らしていく。  
「ごめんなさい」  
目蓋を閉じた彼女の呟きの意味を、僕は理解していた。  
この日向から日陰に一歩踏み出せば、すぐそこには破滅が待っているのだろう。  
今はきっと、二人に与えられた最後の安らぎなんだ。  
 
ならばいっその事、最後はこの温もりの中で。  
大丈夫だ。彼女を苦しませはしない。  
 
僕はそっと、志乃ちゃんの細い首に手をかけた。  
 
 

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