「お前が支倉と付き合ってるってゆー男だな!?お前なんかにはぜってー負けないからな!」
「って、学生服姿の子に言われたんだけど。志乃ちゃんの知り合い?」
ご飯時、僕は正面に座る志乃ちゃんに尋ねる。
制服は彼女が通う学校のものだったし、志乃ちゃん以外の支倉さんで僕を訪ねてくる理由も無い。
「…たぶん、クラスメイト。以前、告白された」
「ふぅん…そっか、あの子が志乃ちゃんをねぇ…。若いっていいねぇ」
「…それだけ?」
…お。
「うん?」
「……………………なんでもない」
すっとぼけると、かなり長い沈黙の後にぼそりと呟く志乃ちゃん。
うーん、可愛いなぁ。この前のマッサージの時も可愛かったけど、今回の様な志乃ちゃんはかなりレアだ。
「…ご馳走様」
拗ねたように食事を終え、シンクに向かう彼女の背に僕は声を投げる。
「で、…なんて言って断ったの?」
「で、…なんて言って断ったの?」
彼が食卓から動かないまま声をかけてくる。
『答えた』ではなく『断った』という表現で。
それは既に確定的な事項で、事実私は断っている。
だけど、もしも。断ってない、と答えたら…彼はどんな反応をするのだろう。
知りたい。
怒るのか。驚かれるのか。悲しそうに笑うのか。それとも、ふぅん、と何気なく流されるのか。
今までなかった、欲求。
「…志乃ちゃん?」
「…彼の気持ちに、応えました」
「………え?」
カタン、と小さな音。小さく振り向くと、茶碗がテーブルの上に転がっていた。
そして、見たことの無い彼の表情――驚愕。
「ぁ…」
流石に罪悪感を覚え――その後のことは、よく覚えていない。
「………え?」
思考が凍りつき、思わず茶碗を取り落としてしまう。
志乃ちゃん…嘘でしょ?
第5話サブタイトルの様な声を出そうとして、失敗。声が上手く出なかった。
小さく振り向いた当の志乃ちゃんは表情を変え――
次の瞬間、僕は彼女に押し倒された。
「し、の…ちゃ…」
「嘘です」
今にも泣きそうな表情で僕を見下ろし、
「貴方の反応が見たくて、嘘をつきました」
そのまま僕の方に顔を寄せ、
「ごめん、なさい…!」
謝罪とともに、口を塞がれる。
――志乃ちゃんの、唇で。
「志乃ちゃん、今日はいつになく積極的だったね」
「…それは、だって…あんな表情されたら」
布団の中で、罰が悪そうに目をそらす志乃ちゃん。
「僕、そんなにマズい顔だった…?」
「…ごめんなさい」
志乃ちゃんがここまでとなると、よほどヒドかったんだろう。自覚は無いけど。
確かにあれはダメージ大きかったけど…というか、もう二度とやって欲しくない。心臓に悪すぎる。
「でも、………よく、わかったから」
あ、志乃ちゃん照れてる。可愛いなぁ。
「あはは…僕もよくわかったよ…。ところで、志乃ちゃん。いったい、なんて言って断ったの?」
目をそらしたままの彼女を背中から抱きしめて尋ねる。少しの沈黙の後、彼女は小さく教えてくれた。
「…私はもう、貴方のものだから、と」
その夜、たっぷりとサービスしてあげたのは…言うまでも無い。