九留夜明日の館に泊まったその日。風呂から上がった志乃に、彼は言った。
「ねえ志乃ちゃん。お散歩、行こっか」
初め、志乃には彼の言葉の意味を理解することができなかった。
「これから…行くの?」
「そうだよ。志乃ちゃんは嫌かな?」
「別に構わない。……ちょっと待って」
着替えに備え付けの浴衣を取ろうとした志乃の腕を、彼の手が掴んだ。
その力が存外に強くて、志乃は一瞬驚いてしまう。
「違うよ。志乃ちゃんはそのままの格好でお散歩に行くんだ」
屈託の無い顔で笑う彼。その笑顔に逆らう術を志乃は持ち合わせていなかった。
彼に手を引かれるがまま、部屋のドアを抜ける。
裸足にローファー、未熟な身体にはバスタオル一枚を巻いただけの姿。
薄桃色のバスタオルは取り立てて大きなものでは無い。
風で裾が捲れでもしたら、大事な部分が見えてしまうかもしれなかった。
もしも館の谷傘や、メイドの宮村にこの格好を目撃されたら?
その可能性は極めて少ないだろうが、もし万が一……
何せ、今の自分は条件さえ揃えば道端で犯されてもおかしくない格好をしているのだ。
そんなシーンを想像すると、それだけで外気に晒された小さな肩は震え上がってしまう。
彼の手を握っていない空いた方の手で、志乃はバスタオルの胸元をしっかりと握り締めた。
離れと母屋を結ぶ道から脇に逸れる。散策道らしきその小路は、暗い森の中へと続いていた。
「宮村さんに聞いたんだよ。この先に夜景の綺麗な丘があるんだって」
彼の声はずいぶんご機嫌だった。まるで無邪気にはしゃぐ子供のようだ。
繋いだ手は痛いくらいの力が込められている。志乃の方から振りほどくことは出来ないだろう。
真っ暗な森の中、散策道沿いに一定間隔で灯る誘導灯だけが二人を照らしていた。
ギリギリまで露出した幼い太ももを、冬の北風が通り抜けてゆく。
バスタオルの股下から入り込む冷気が綻んだ秘所を冷たく弄る。
その心許なさに、志乃は一瞬、自分が全裸でいる錯覚さえ覚えてしまった。
冷たく乾いた空気に、洗いざらしの長い黒髪もとうに乾いてしまっている。
それなのに……真冬の寒ささえ気にならない程に、志乃の身体は熱く火照っていた。
なぜ? 志乃は自問自答する。
きっと… それはひとえに、この異常な状況の所為だ。
バスタオル一枚で他人の家の敷地を引き回されるという倒錯的なシチュエーションに
幼い少女の身体はすっかり酔わされてしまっている。
これから自分の身に起こるであろうもっと酷い仕打ちに、期待に胸の動悸を止められない。
厚いバスタオルの布地越しでも分かる程に、二つの胸の頂点は硬く勃ち上がっていた。
「バスタオル姿の志乃ちゃんも可愛いね。他の人にも見せて自慢したい位だ」
「…………………ばか」
身体の中で熱く蕩けた液体が下腹部からトロリと流れ落ちる。
胸の高鳴りは、いつしか甘く切ない疼きに代わっていた。