冬も近づき、それに伴い気温も下がってきている。そろそろストーブやこたつに頼るべきだろう。  
だけど彼は今回、それを渋っていた。  
ストーブとこたつを準備したのはいいが、ただそれだけ。  
彼は『気分だけでもあったかくなるように、ね?』と言っていた。  
今のところ、少なくとも私が小学校から帰ってくる時間帯までは点ける気が無いようだ。  
彼から理由は聞いている。ただ一つ、「節約のため」だ。  
 
今までお金を蓄える意志がほとんど無かった彼がなぜそうするかは未だ不明。  
今のアパートを出た後の為かと聞いてみたところ、どうやら違うらしい。  
お金があるに越したことはない。節約するのは大いに結構なのだがしかし、  
これではいつか彼は風邪を引いてしまいそうだ。  
そもそも気分だけ暖かくなったところで体の震えはどうしようもないのに。  
本気で節約したければ私の家で暮らせばいいとも思うが、彼はやはり譲れないらしい。  
私も彼の住むあのアパートは気に入っているから、そこで一緒に暮らすのもやぶさかではない。  
 
一瞬、以前のように風邪で寝込む彼の看病をするのもいいな。と考えたが、  
平日ならば彼は「自業自得だから」と言って私が学校をサボってまで看病するのを許さないだろう。  
そのくせ他所から看病に来た者はなんだかんだ言って拒まない気がする。  
特に涼風真白に知られたら事だ。アレは喜んで来てこの部屋に居つくだろう。  
そんなことにならないためにも、やはり彼には自分を大事にして欲しい。  
 
寒いならせめて布団に入る案もあったが、いささか不健康だし、  
何より布団が温まってしまったら「寒いから二人くっついて寝る」という大義名分がなくなる。  
それでは駄目だ。だからその提案はしなかった。  
なので今日はもう一つの考えを提案した。ただし、わざと誤解されそうな言い方で。  
もし、それで彼が誤解の方向でその気になったとしても受け入れる気でいる。  
そして案の定、彼は誤解してくれた。  
しかし狼狽えてばかりで埒があかないので、仕方なく誤解を解くことにした。  
 
――――――――――――――  
 
「――違う。そうじゃなくて、いつかのときのように、だっこして抱えて欲しい。と言う意味」  
 
「え、あぁ…なんだそういうことか。ごめんね志乃ちゃん。僕へんなこと考えちゃってたよ」  
 
 
休日、朝起きてストーブを点けようとしたら志乃ちゃんが、  
 
『貴方が節電してお金を貯めようとしたのは聞いたし、私はそれを応援したい。  
 だけどそのために体を壊したら元も子もないと思う。  
 私のために部屋を暖めてくれるのは嬉しいけど、それでは貯まるものも貯まらない。  
 私の家に移る気が無くて、自分の為に暖をとらないと言うのなら、  
 暖まる為に、私を抱いて欲しい。そうすれば私がいても節電できる』  
 
なんて言うのだ。健全な男子大学生が『抱いて』なんて聞いて、  
自動でその前に「(性的な意味で)」がつかない事があるだろうか?いやない。(反語)  
それを小学生の女の子に言われたのだ。これで混乱しないほうがどうかしてる。  
 
しかし、だっこか…。「いつかの」とは綾瀬シンに関わる事件の際、倉庫に潜伏していたときか。  
あのときも寒くて僕が誘ったんだけど、もしかして気に入ったのかな?  
 
「うん。志乃ちゃんがそうしたいなら僕も喜んで」  
 
 
そして今、志乃ちゃんは胡坐をかいた僕の足の上に膝を抱えて座っている。  
それだけではまだ寒いのでコートを羽織る。ジッパーは志乃ちゃんの顔が出せるところまで上げる。  
彼女の体温は高く、心地よい。さらに今回はそれぞれ服を着込んでいるわけでもないので、  
熱だけでなくやわらかさまで直に感じられる。  
 
しかし…この体勢はちょっとまずい気がしてきた。さっきのセリフがあるから尚更に意識してしまう。  
気を紛らわすために志乃ちゃんの綺麗な髪を指に絡ませ遊んでいたけど、そろそろ限界かも。だから、  
 
「し、志乃ちゃん、座ってばかりだと疲れるからたまに動こう?」  
「…そう。わかった」  
 
「ちょっと早いけど、今日の夕飯の買出しに行くよ」  
「…(こくり)」  
 
なんとか平静を保てた…。  
 
 
――――――――――――――  
 
特に何事も無く一緒に買い物を終えて、帰宅。  
歩いた分、多少体は温まっているが、それでも軽く震えてしまう。  
それでも暖房は使わず、出かける前と同じように体を寄せ合う。  
 
いや、少し違ったか。先ほどとは違い、私は彼に向かい合い、抱きつくように座っていた。  
腕だけでなく足も彼の腰に絡めている。  
彼に後ろから抱えられるのも捨てがたかったが、たまには私からも抱きしめたかったし。  
 
彼はまた私の髪を弄っていた、まるで気を紛らわすように。  
きっと彼は私を女として意識してしまっているからそうしているのだろう。  
こんな姿勢で抱き合っているのだから仕方ないと思うが、異性として意識されるのは嬉しかった。  
もう少しして私が成熟すれば、きっと彼とそういう関係も持てるだろうけど。  
 
私の体は未だ成熟には程遠くて、だからまだ彼と肉体的にはなかなか繋がれない。  
その隙間を埋めるためになるだけ強く触れ合いたい。  
私達は一つにこそなれないが、一つになれたと錯覚するくらいは許されると信じて。  
 
 
――――――――――――――  
 
「どうもこんにちは恋のキューピッドこと涼風真白です」  
そんなセリフが玄関の方から聞こえた。  
あの声と脈絡の無いセリフは間違えようがない。真白ちゃんだ。ていうか名乗ってるし。  
会うのも久しぶりだから玄関まで迎えに行きたいけど、足が痺れて動けそうに無い。  
 
「鍵開いてるから勝手に上がってきて〜」  
 
「はいはいお邪魔しま…って寒いですね。  
 いくら貧乏だからといっても暖房くらいつけないと風邪を引きますよ?」  
 
「自分がお邪魔という自覚があるのなら早々に出て行って欲しい」  
 
「支倉さんも相変わらずですねってああこれはこれは完全にお邪魔だったようで。  
 お楽しみの所すいませんでした。暖もとれて、だから暖房いらずで節電できて、  
 さらに腰の運動もできる。一石三鳥ですね。子種も含めれば四鳥でしょうか。  
 しかもその状態であるにもかかわらず、私を平然と招き入れて…。  
 見られながらのプレイをこなせるほどまでに二人の関係が進展しているとは思いませんでした。  
 完全な誤算です。こんなことならもっと早いうちから蜜月を出歯亀しておけば良かった……。  
 ところで差し出がましいようですが一つ提案が。せっかくそんな熱が篭る格好をしているのですから、  
 節電は捨て暖房を入れて、さらに汗を大量に流した方がそそると思うのですがどうでしょう?」  
 
おわり  
 
 

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