狭い浴室に響く水音、立ち上がる湯気。  
降り注ぐ温水の中に志乃は居た。  
 
何も特別なことは無い、平日の朝。  
いつからだろうか、朝食の前にシャワーを浴びるのが志乃の日課になっていた。  
元より綺麗好きな少女にとって、それは当然の行為だ。  
自分や彼の体液を匂わせたまま学校には行きたくない。  
身体を清め、昨晩に彼と交わした情事の名残を消し去るのが志乃の毎朝の勤めだった。  
 
古びたシャワーの栓を閉めて浴室のドアを開けると、そこにはキッチンに向かう彼の背中がある。  
今日の朝食は彼の当番だ。  
「朝ごはん、すぐ出来るから。遅刻しないようにね」  
「うん。大丈夫」  
背中を向けたままの彼に応えながら、黒髪に滴る水滴を拭き取る。  
そして発育の兆しすら見られない、起伏の乏しい未熟な身体をバスタオルに包むと、志乃は鏡台に向かう。  
朝の光が差し込む部屋に響くのは、野菜を刻む包丁と髪を乾かすドライヤーの音だけ。  
それは普段と寸分も変わる事の無い、そして志乃にとってはかけがえのない朝の風景だ。  
 
けれど…… 制服に着替えようとして箪笥の引き出しを開けた時、志乃はその風景が普段とは違うことに気付いた。  
そこには、有るはずの物が無かったのだ。  
「下着………」  
「ん、どうしたの、志乃ちゃん?」  
出来上がった朝食を手にキッチンから現れた僕が、志乃の呟きに首を傾げる。  
いや、彼はひとまず置いておくとして。  
 
―――無かったのだ。それも全て。  
引き出しの中から全て無くなっていた。  
こんな事をするのは誰だろうか? 志乃は考える。いや、考えるまでもないだろう。  
志乃は立ったままの彼を振り返る。  
「…………下着が、無い」  
やや強めの怒気を言葉に込めて、志乃は彼に向き合う。  
朝の忙しい時間に面倒を起こすのは御免だ。  
早いところ彼に自分のショーツの在り処を吐かせるのが得策だ、と志乃は判断したけれど。  
「そうだね、志乃ちゃん」  
今日の彼は志乃の怒りの視線を気にも留めず、優しく微笑んでいた。  
その笑顔は、まるで志乃の腹立ちなんて何処吹く風だとでも言いたげだ。  
 
「…………何故?」  
「志乃ちゃんの下着は、もう無いんだ」  
邪気の欠片も無い穏やかな笑顔で、志乃の問いに、彼はそれだけ応えた。  
嫌な予感がする。志乃はバスタオル一枚の身体がうっすらと汗ばむのを感じた。  
「…………どうして」  
「全部捨てちゃったんだ。志乃ちゃん、そういうの好きかなー、と思って」  
「え―――」  
彼の『捨てちゃった』という一言に、志乃の心臓が一際大きく跳ねる。  
それ以上、彼は何も喋らなかった。  
いや、それだけで志乃は十分に彼の意図を理解できた。  
胸の高鳴りが止まらない。ドクン、ドクンと響く音が一音毎に志乃の心を揺さぶる。  
 
「本気?」  
「もちろん。志乃ちゃんは今日からずっと下着無だよ。僕の言ってる意味、分かるよね?」  
彼はつまり、志乃には下着を着ける自由は一切無い、と命令している。  
その命令に、志乃は逆らうことが出来ない。  
これまでだって、彼の言う命令には何だって従ってきた。  
彼に従う事こそ志乃の本質であり、彼への恭順が志乃の悦びだった。  
志乃が志乃でいる限り、彼に反抗する事など出来る筈が無かった。  
それに、  
「もう新しい下着を買うのもナシだよ。ね? 志乃ちゃんは好きだよね、そういうの」  
違う、とは言えなかった。  
彼に自由を束縛されている感覚は、開発し尽くされた少女の色情を簡単に突き動かしてしまう。  
志乃自身が悦んで受け入れてきた、彼による調教の成果だった。  
言い返すことも出来ないまま、彼の問いに、志乃は無言のままコクリと頷いた。  
「良かった。それじゃあ朝ごはんにしよう?  
 志乃ちゃんも遅刻しないように、早く着替えないと」  
「う、ん」  
着替える、という単語が剥き出しにされた志乃の神経を嬲る。  
そう、学校に行くのだから着替えないといけない。  
 
志乃はもう一度、開け放しにされた引き出しに目をやる。  
戸棚の中は、本当にもぬけの殻だった。  
ショーツはおろか、志乃が普段使いにしていた肌着の類は一切無い。  
上半身に着けるスリップや学校指定のスクール用キャミソール、  
先日母に買ってもらったジュニア用のブラまでも、全てが捨て去られていた。  
―――もしかして。  
ある予感に、志乃は引き出しの他の段も開けてみる。  
すると予想通り。  
ジーンズにショートパンツやタイツさえも捨てられていて、残っているのはスカート類だけだった。  
「ん…………ふ、ぅ」  
必要な衣服を着る自由すら完全に奪われてしまったという事実に、バスタオルを纏った志乃の細い体が小刻みに波打つ。  
タオルの布地に隠された大事な部分がじゅくり、と水気を持つのがわかった。  
 
「ほら、あんまり時間ないよー?」  
朝食の配膳に戻った彼の声に、志乃はハッと我を取り戻す。  
そう、制服に着替えなくてはいけない。  
まだ震えが止まらない腕で、ハンガーにかかった冬服の黒いセーラー服を手に取る。  
今、自分が身に着けることが許されているのは、この上衣とスカートだけなのだ。  
そう考えるだけで簡単に欲情してしまいそうになる自分を必死に押し殺しながら、志乃はもじもじと着替えを始めた。  
ショーツを履かないままスカートを身に付ける。  
黒のプリーツスカートはミニと呼んで差し支えない程の丈で、志乃の細い脚を股下15 cm程度までしか隠してくれない。  
以前に彼の命令で丈を詰めたスカートは、教師に注意されないぎりぎりの長さに調節されていた。  
スリップをつけずに素肌の上からセーラー服に裾を通すと、裏地が肌に直接擦れる。  
普段とは違う着心地が、志乃の肌を妖しく刺激する。  
セーラー服の襟から長い髪を引き出すと、わずか2枚を着ただけで着替えが完成してしまった。  
確かに服を着ているのに、身体に触れる空気は何かが違う。  
「それじゃ、ご飯食べよう?」  
「……うん」  
身を包み込むどこか危うい感触に身を強張らせながら、志乃は朝食の席についた。  
 
 
 
「………ご馳走様」  
「はい、ごちそうさま」  
食事中、志乃はずっと箸を上手く持つことが出来なかった。  
これから過ごす一日を想像するだけで、甘い緊張が電流のように志乃の四肢を痺れさせる。  
そんな志乃を、彼は躾の行き届いたペットを見るような、優しい目で眺めていた。  
「洗い物は僕がやっておくからさ。志乃ちゃんはもう行っていいよ」  
彼の言葉に促され、志乃は今ひとつ力の入らない両足で立ち上がる。  
これから、この格好で外に出なくてはならない。それも、行き先は知った顔がひときわ多くの人が集まる学校という場所だ。  
 
立ち上がり際、志乃は鏡台に写った自分の全身を見やる。  
小学校指定の黒いセーラー服の上下に、ぴっちりと履いた同じく黒のハイソックス。  
太股の半分程を隠すプリーツスカートに赤いランドセルを背負った姿は普段の登校姿そのものだ。  
しかし……鏡に写った少女の表情は、決して小学生のそれではなかった。  
ほんのりと紅潮した頬に、淫らな期待に濡れた黒目がちな瞳。乾かす暇の無かった黒髪はしっとりと水気を含んだままだ。  
自分自身の顔だというのに、その表情に思わずドキリとしてしまう。  
数秒、志乃は鏡の向こうに立つ自分から目を逸らすことが出来ずにいた。  
 
「志乃ちゃん」  
優しい声に、志乃はその呪縛から開放される。  
振り向くと、彼は床にしゃがんで志乃を見ていた。  
クラスの中でも背の低い彼女と同じ目線の高さ。志乃は、それが彼の合図だと気づいた。  
一歩踏み込んで彼に近づく。  
息のかかる近さで見つめ合うと、志乃は彼の唇にそっと口付けした。  
「んっ……―――」  
毎日の習慣にしている、行ってきますのキス。今日のそれは、どこか一段と濃厚な味がした。  
 
唇を離すと、普段どおりの彼の笑顔。  
いつもの志乃なら、それを一日の糧に家を出るけれど……  
今日だけは勝手が違った。  
スカートの後ろが見えないように気をつけながらローファーを履き、ドアノブに手をかける。  
「行ってきます」  
開いたドアの隙間から冷たい外の空気が入り込んだ。  
志乃はゆっくりと確かめるように部屋を出る。  
 
「うん。行ってらっしゃい、志乃ちゃん。楽しんできてね」  
どこか意味深な言葉に見送られてドアを閉めると、外の世界で志乃は一人きりになる。  
他人の目は無いはずなのに、どこか落ち着かない。  
身に纏わりつく頼りなさに気を揉みながらゆっくりとアパートの階段を下りたところで、志乃はやっと人心地をつくことが出来た。  
ただ歩くにも、立ち上がるにも、何気ない動作一つ一つに緊張が強いられる。これから過ごす今日一日が思いやられた。  
 
「――――――っん」  
深呼吸に似た息を一つ吐き、澄み渡った空を見上げる。  
今は3月。  
まだ決して暖かいとは言えない、早春の朝だった。  
 
彼は急かしていたけれど、ホームルームが始まるまでに時間の余裕はたっぷりある。  
小学校までの通学路を行くのに慌てる必要は無かった。  
ゆっくり行けば良い。そう思い、歩き始めようとして、ふと道端に視線をやった瞬間。  
志乃の視線が凍りついた。  
 
アパート脇のゴミ捨て場に積み上げられたゴミ袋。  
その内の一つから、志乃は目が離せない。  
市指定の透明な袋の中には、白やパステルカラーの布地がぎゅうぎゅうに押し込まれていた。  
どの柄も、志乃には見覚えのある物で……そして、それらは全てが幾重にも切り裂かれていた。  
どう繕っても使い物にならない程に、完全に引き裂かれた衣服たち。  
 
『全部捨てちゃったんだ』  
先に聞いた言葉を志乃は反芻する。嘘偽り無く、それらは本当に捨られてしまっていた。  
彼はあくまで本気だった。  
家でも学校でも、下着の類を着けることは一切許されない生活を志乃は送らなければならない。  
『普通の格好』をすることすら、禁じられてしまったのだ。  
改めて認識した彼の狂気じみた発想に、思わず身震いがする。  
けれど、事実志乃はそれを受け入れた。  
彼に支配されることの倒錯的な魅惑は、いつだって志乃を絡め取って離さない。  
きっと死ぬまでこの関係は変わらないのだろうと志乃は思う。  
 
まだ人通りの少ない朝の住宅街を、志乃はそろそろと歩く。  
道すがら、近所のコンビニエンスストアが目に入る。  
『もう新しい下着を買うのもナシだよ?』  
思い出すのは、彼のもう一つの命令。  
もちろん志乃はそれに逆らうつもりは無い。いや、逆らうことが出来ない。  
最近、志乃は大した金額を持ち歩かないようになっていた。小銭がほんの少し、ランドセルに入っているだけだ。  
カード類を含めて、志乃の持つ資産は全て彼に預けてしまっている。  
今の志乃に、昔のような金銭的な自由は無い。それは志乃自身が彼に望んだ不自由だった。  
 
部屋を出た時から続く動悸はずっと止まらない。まるで熱に浮かされたまま歩いているかのようだ。  
気を抜けばその瞬間、甘い鼓動に全身を支配されてしまいそうになる。  
小さな布地一枚を着けていないだけなのに、外の空気に晒された脚の付け根は酷く心許ない。  
人に見せてはいけない大事な部分を隠してくれるのは、太ももまでの短いスカート一枚なのだ。  
けれど、その危うい頼りなさに、剥き出しにされた幼い秘所はしっとりと湿り気を帯び始めていた。  
足を踏み出す度、肌着を着けていない胸の先端がセーラー服の裏地に擦れる。  
一歩ごとに生まれる、チリチリともどかしい快感。  
硬く勃ち上がった乳首は、もしかすると黒いセーラー服の上からでも確認できるかもしれなかった。  
身体中を支配する淫らな熱。朝の路上で、いつしか志乃はそれすらも愉しみに感じていた。  
 
もし気づかれたら、どうなるだろうか?  
時折すれ違う他人に目をやりながら、志乃は思う。  
自分に隠された淫靡な秘密。それを目にした人は、一体何を思うのだろうか?  
この子に一体何があったのだろうと驚くだろうか。  
運悪く下着を無くしてしまった可哀想な子だと同情するだろうか?  
それとも……朝からはしたない遊びに興じる、厭らしい子供だと侮蔑するだろうか?  
いや、侮蔑されるだけならまだマシだろう。  
その先に続く最悪のパターンを、志乃は想像してしまう。  
 
それを見た人間が、特別悪い男だったら?  
朝の住宅街とはいえ、少女一人を囲い込むことが可能な『街の死角』は幾らでも見つけることが出来る。  
助けの来ない、暗い場所に無理矢理連れ去られた自分。  
抵抗の出来ないようにきつく縛り上げられ、唯一身に纏ったセーラー服の上下を毟り取られて………  
隠していた淫猥さを暴かれ、壊れるまで犯される自分を想像するだけで、幼い志乃の体はますます熱く、疼きを増す。  
彼以外の男に体を許すなんてあってはずなのに。  
そんな背徳的な妄想で身を焦がしてしまうほどに、志乃の心は堕落していた。  
けれど、志乃はそれを自覚しながらも、歪に染められた自分自身を否定できない。  
志乃がそうなるように調教したのは彼自身であったし、きっと今の自分は彼の望む姿だと信じることが出来たからだ。  
もっと、もっと彼の求める自分になれる。  
少しずつ人通りの多くなる通学路を、淫靡さと爽快さが交じり合った不思議な昂揚感に包まれながら志乃は歩く。  
 
しかし、その昂揚感のせいだろうか。普段なら当然備えているはずの警戒心を、今の志乃は失っていた。  
手を繋いだ、見知った顔の親子連れとすれ違った、その瞬間。  
 
それまで優しくそよいでいた筈の風が、その一瞬だけ急に勢いを増した。  
「え……? ぁっ、きゃあっ!」  
完全な不意打ちに、柄にも無く可愛い悲鳴が口から零れる。  
慌ててスカートの裾を押さえようとしても、愉悦に支配されたままの身体は上手く動かすことが出来ない。  
「ひっ……、あ、やぁっ」  
不自然な位に取り乱したまま、辛うじて押さえることが出来たのは身体の前側だけ。  
腰までの黒髪が舞い上がるのと一緒に、プリーツスカートの後ろ半分は完全に捲くれ上がってしまった。  
 
「……………」  
悪戯な風が治まった後も、志乃はその場から動けずにいた。  
嫌な予感が冷たく背筋を伝う。  
志乃が恐る恐る振り向くと、そこには母親と手を繋いだ幼い少女が、振り返ったままこちらを見ていた。  
水色のスモックに黄色い通学帽。おそらく母に連れられて幼稚園に向かう途中なのだろう。  
ぽかんと口を開けたまま、彼女は珍しいものを発見したかのような表情で志乃を見つめていた。  
「あら、どうしたのよ? 急に立ち止まって」  
「あのね、ママ。あのおねーさんね、――――――」  
母親の問いに志乃を指差す少女。  
彼女の言葉を最後まで聞くのを待たずに、志乃は駆け出していた。  
 
 
「はっ………はあっ………ぁ」  
息が切れるまで走り続けた志乃は、親子連れが完全に見えなくなった所でやっと立ち止まる。  
背負ったランドセルが嫌に重い。寒さなどお構い無しに、身体の全身から汗が吹き出る。  
けれど、その汗は決して全力疾走だけが理由では無かった。  
―――見られた。本当に見られてしまった。  
幼稚園児の少女はきっと自分の見たものを母親に話したのだろう。  
もしかしたら志乃自身の体液で不自然な位に潤った、脚の付け根の大事な部分のことまでも。  
あの二人は通学路で毎日すれ違う顔だ。明日自分と会った時、少女は、母親は、一体どんな顔をするだろうか?  
少女は母親以外の他人にも、志乃の痴態を言いふらすかもしれない。  
それに良く考えれば、あの道には親娘以外の人通りもあったのだ。志乃のスカートの中を見たのは少女一人とは限らない。  
噂が広まれば、どこかの悪い人間が志乃に狙いをつける可能性だってゼロではない。  
何せ、自分は今日以降、ずっと下着を着けない格好でこの道を歩かなくてはいけないのだ。  
 
(まさか……そんな)  
はっきりと形を見せた不安に、志乃は思わず両腕で自分の身体を抱きしめる。  
一枚きりの布地越しに感じる自らの身体はあまり細く、頼りなげだ。  
倒錯した妄想が徐々に現実を侵蝕し始める恐怖に、少女の脳内はにわかに錯乱していた。  
けれど、その恐怖には酷く危うい、強烈な官能を孕んでいて。  
 
「あっ……………う、んんっ」  
ぞくぞくと沸き上がる、抗うことの出来ない身震いが志乃の全身を襲う。  
立ちすくんだ志乃の内股を、一筋の透明な雫が零れ落ちた。  
 
(拭かないと―――)  
こんな状態で今度スカートが捲れてしまったら、何を言っても言い訳できない。  
理性で抑え切れずに溢れ始めた愛液を、どこか人目の無い場所で拭き取る必要があった。  
志乃は動きの鈍い頭をフル回転させて思い出す。  
そう、この道を折れた先の公園には、公衆トイレがあった筈だ。  
 
志乃は通学路から外れ、目的の公園へと早足で歩き始めた。  
何も着けていない素肌の上半身に、セーラー服が汗で纏わりつく。  
太ももに何本も筋を作り始めた恥ずかしい液体を隠したくて、志乃はいつのまにか内股同士を擦り合わせるに歩いていた。  
にちゃにちゃと濡れた肌どうしを擦り付ける度に、甘く悩ましい感覚が志乃の心をますます汚染してく。  
身体中が熱い。走っているわけでも無いのに吐く息が荒ばむ。  
このままでは足首のソックスまで汚してしまうのは時間の問題だった。  
 
悩ましげに腰を揺らしながら、何かを我慢するかのように内股で歩く少女。  
周りの人目を気にして姿勢を正すだけの余裕は、今の志乃には残っていなかった。  
暫く歩くうち、目的の公園が志乃の視界に入る。  
もうこれ以上我慢できないといった風で、志乃は公園内のトイレに駆け込んだ。  
 
一年近く前に起きた事件を受けたせいか、トイレは新規に改修されていて、決して薄汚い印象を与えない。  
けれど、空気中に漂うどこか不穏な臭いは、そこが不特定多数の利用する場所であることを物語っていた。  
けれど、その場所が持つ雰囲気など、志乃にとって些細な事項でしかなかった。  
今はとにかく公衆の視線をしのぐことが出来れば構わない。  
濡れたタイルに靴音を響かせながら、志乃は一番奥の個室に入り込む。  
「はあっ、はぁ…………、ぁ」  
乱暴にドアを閉めて鍵をかけると、これ以上堪え切れなくなった吐息が一度に漏れ出た。  
閉めた便器の蓋にランドセルを下ろした後も、流れ出す汗は止まることを知らずに志乃の肌を湿らせ続ける。  
けれど、これでもう大丈夫。  
此処なら誰の目を気にしないで済む。  
 
短いスカートをたくし上げると、それだけでショーツを履くことを禁じられた志乃の、幼い部分が露わになる。  
度重なる彼の調教にも関わらず、まるで汚れを知らないかのようにぴっちりと閉じあわされたスリット。  
その秘裂からはとめどなく透明な蜜が溢れ、白磁のように滑らかな太ももまでを濡らしていた。  
志乃はランドセルから取り出したティッシュを折りたたみ、まるで腫れ物に触るかのように慎重に秘所に近づけるけれど。  
「ひっ、ひぁっ………!? っくん!」  
優しく触れたはずのそこは想像していたよりずっと敏感になっていた。  
僅かに刺激されただけで全身を電流が駆け抜け、腰の力が抜けた志乃は個室の壁にもたれかかってしまう。  
手にしていたティッシュも思わず取り落としてしまった。  
 
志乃は慌てて新しいティッシュを袋から取り出そうとして………その手を止めた。  
冷静になって、自分の身体に起こっている異変を確かめてみる。  
トクン、トクン、と何かを訴えるように脈打つ胸の鼓動。  
呼吸は浅く激しく、必要以上の酸素を欲しがっている。  
そして全身に広がった切ない疼きが、身体中を熱く火照らせていた。  
特に下腹部、お腹の奥の部分はひとしお熱を集め、じんじんと鈍い痛みすら放っていて。  
発情したまま焦らされた身体は、いっそうの刺激を渇望している。  
今が朝の通学路だという理性の認識が、辛うじてその欲求を抑えつけていた。  
けれど、疼く身体は、これ以上の我慢は無理だと必死に訴えていて。  
志乃は諦めに似た感情と共に、僅かに残った理性を手放した。  
 
 
出来るだけ冷静に、万が一にも他人に見つかることの無いように。  
快楽に支配された頭で、志乃は必死に考える。  
ティッシュをランドセルに仕舞い、代わりにポケットからハンカチを取り出す。  
薄水色のハンカチを口に咥えると、白魚のような指をそっと秘所に差し伸べる。  
「ん……………っ!」  
外気にひくついたソコは、包皮の上から触るだけで鋭い快感を生む。  
足の先まで鳥肌が立つ。まるで全身が性感帯になってしまったかのようだ。  
刺激が強すぎて、反射的に手を引いてしまう。見ると、透明な蜜が細い指の先を濡らしていた。  
中指の先を口に含んでみると、慣れ親しんだ自分の味がする。けれどその味は普段よりもずっと濃く感じられた。  
 
志乃は個室の壁に身体を預け直し、刺激に綻んだスリットにもう一度手を這わせた。  
もう一度、今度は腟口をなぞるように、恐る恐る指を伸ばす。  
そして刺激への衝動に、思わず指を挿し込んでしまった瞬間。  
「んくっ、くううぅぅぅんんっっ!!!」  
今までに感じたことの無いくらいに強烈な快感が志乃の全身を駆け抜ける。  
余りに強い刺激を逃がそうと、小柄な身体は自然につま先立ちになってしまう。  
必死で噛み締めるハンカチに、ジワリと唾液が滲む。  
黒目がちな瞳は焦点を失い、快楽にトロンと蕩けていた。  
 
―――もっと。もっと欲しい。  
そこから先は、もう止めることが出来なかった。  
「んう、んっ、くふっ、んんんっ!!」  
とめどなく溢れる愛液を指先に絡め、ぐちゃぐちゃに掻き回す。  
もう一方の空いた左手をセーラー服の腹から差し入れると、硬く尖った二つの乳首に行き当たる。  
膨らみの全くない胸を揉みしだくように刺激すると、それだけで狂おしい感覚が生まれた。  
衣服の自由を奪われ、下着を着用することすら禁じられて。  
他人の視線に発情した上、挙句の果てには公衆トイレで欲求を発散させなければいけない程に身を堕とされた自分。  
けれど、そんな惨めさまでも志乃の被虐心を煽るスパイスになる。  
 
昂ぶったまま焦らされていた身体に、限界は容易く訪れる。  
「ふぅっ! っく――、んっ ぅんっ……ふ」  
押し殺したまま徐々に切迫していく喘ぎ。  
絶頂が近いことを悟った本能が、いやらしい部分を責め立てる両手をいっそう激しくさせる。  
蜜にまみれて硬く勃った肉芽を、爪先でできるだけ乱暴に摘み上げる。そして、  
「んんんんんっ!! ――くふ、ひっ… はあっ、あ、やぁっ ひあぁぁぁぁんっ!!!」  
押し寄せる絶頂の波に堪えきれず、とうとう口に咥えたハンカチを落としてしまう。  
壁にもたれかかったまま大きく背中を反らすと、長く伸ばした黒髪が艶やかに翻った。  
「ひぁっ、やっあ、ひうっっ、ひゃあっくっぅ!!?」  
狭いトイレの中に響く、ひときわ甲高い嬌声。  
何度も連続して訪れる絶頂に、志乃の細い身体は小刻みに痙攣していた。  
身体の奥から熱いものが流れ出し、それと一緒に手足から力が抜けていくのが分かる。  
まるで自分に憑り着いていた淫らな何かが蒸発していくかのようだ。  
「はっ……………あっ………ぁ」  
絶頂が去った後も、快楽の余韻に痙攣が止まらない。  
緊張を失った口許から、一筋の涎がつぅ―――――、と流れ落ちた。  
個室壁に体重を預けたまま、自分の足で立つこともままならない。  
心地よい痺れに包まれて、このまま眠ってしまいそうだった。  
 
 
そのまま個室に隠れたまま10分ほど休んでいるうち、志乃の瞳に理性の光が少しずつ戻り始める。  
まだ体は上手く動かないけれど、志乃は何とか脚に力を入れて立ち上がる。  
学校が始まるまで、あまり時間が無い。これ以上休んでいる暇は無かった。  
「あ……………」  
その時になって、志乃は気付く。  
冷たくなった愛液でねっとりと濡れた太股からふくらはぎ。  
履いていたハイソックスはたっぷりの蜜を吸ってぐずぐずに変色していた。  
ため息を一つ。志乃は仕方なくティッシュを手に取った。  
 
後始末と証拠隠滅を何とか終え、手を洗おうと洗面台に向かった時。  
備え付けられた鏡に映し出された自身の姿に、志乃はハッとする。  
薄暗い蛍光灯の下でも分かるほどに赤く染めた顔には、汗で髪の毛が張り付き、酷く艶かしい。  
自慰行為の余韻からか、黒い瞳は妖しげに濡れ輝き、まるで男を誘っているかのようだ。  
大量の汗でセーラー服の上衣は素肌に直接べったりと張り付き、肩から腹にかけての少女の細い輪郭を如実に表していた。  
目を凝らすと、セーラー服の胸に、布地を押し上げる二つの突起をはっきり確認することが出来た。  
―――こんな格好で、人通りの中を歩かないといけない。  
あまりにも残酷で、甘い仕打ち。  
落ち着きかけていた志乃の奥の本能が、再びむくむくと頭を出しつつあった。  
 
足早に公園を出た志乃は、元来た道を逆に歩く。  
最初から歩いていた通学路に戻って少し進むと、人通りの多い国道にぶつかる。  
通勤途中のサラリーマンや大学生、自分と同じ位の子供達。  
比較的広い歩道では、数多の視線が行き交い、交錯していた。  
その中の幾つかに自分が囚われた気がして、志乃は立ち止まる。  
僅か布一枚下の素肌を見透かされているような感覚。自分が裸で道に立っているような錯覚すら覚える。  
スカートの裾やセーラー服の腹から入り込む風が嫌に冷たい。  
突き刺さる視線が、志乃の身体を熱く火照らせていた。  
 
多くの人が行き交う中を志乃は歩く。  
すれ違う他人が時折向けてくる自分への視線が、志乃の身体をますます熱くさせていた。  
大勢の人々の中で、自分だけが下着を奪われた、異常な格好をしている。  
短いスカート一枚の下では、淫らな秘部を外気に晒しているのだ。  
じっとりと滲む汗にセーラー服を張り付かせた姿は、それだけでも人目を引く。  
もし、さっきのような突風が今ここで吹いたら、何人が自分の秘密を知ることになるだろうか?  
危険な衝動が志乃の胸をまさぐる。  
いや、その可能性は決してゼロではない。たとえ今日が無事だったとしても。  
明日も、明後日も―――もしかしたら永遠に、自分は下着を禁じられたまま生活しなければならないのだ。  
毎日こうして身体を発情させながら道を歩かなくてはいけないのだろうか?  
淡い不安と淫らな期待が入り混じり、胸の鼓動をますます加速させていた。  
 
結局、少し急いだだけで、時間までには小学校まで辿り着くことが出来た。  
学校が近づくにつれて、自分と同じ格好をした少女達が辺りに増えはじめる。  
けれど、同じ格好に見えるのは表向きだけ。服一枚剥げば、志乃の身体には淫らな仕掛けが施されているのだ。  
まるで着せ替え人形のように、身に着ける衣服ひとつ自由にならない自分。  
けれど、それは間違いなく志乃が彼の所有物である証だった。  
人間らしい扱いなんて要らない。彼に愛されるのなら、奴隷だって、動物にだって、モノにすら堕ちることができる。  
視線だけで発情してしまうような堕落した身体には、それこそ着せ替え人形のような仕打ちがおあつらえ向きだろう。  
 
「支倉さん、おはよー」  
黒いセーラー服のうちの一人が声を掛けてくる。  
志乃のクラスメイトだった。  
 
表面上だけは取り澄ましながら、布一枚下ではドロドロの欲望を飼い馴らして。  
「…………おはよう、三澤さん」  
普段どおりの何食わぬ無表情を顔に浮かべて、志乃は平然と挨拶を返した。  
 

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