胸が大きくなった  
身長も伸びた  
腰の位置は高く、脚もすらりと長い  
髪はあの頃からずっと手入れを欠かしていない。今は腰ほどの長さ  
雑誌のモデルや何かと比べてみても遜色はない。  
むしろ自然と勝ち誇ったような顔になってしまう。  
 
この5年間肉体を育て、磨き、女性らしさを身に付けた。  
全ては彼のために。  
彼のアパートは取り壊されて、今では私の家に居候している。  
勤め人になった彼の弁当を作るのが私の日課だ。  
桜でんぶでハートを描くのは恥ずかしかったけれど、帰宅してからの彼の表情を思えば苦にはならなかった。  
同居に加えてこの事実婚のような状態。  
両親からもプレッシャーをかけてもらっている。  
肉体的にも、仮に子供ができたとしても問題のない体格にまで育った。  
女として接することで、彼の倫理面の問題もいくらか取り払われていることだろう。  
そして何より、今日この日。  
彼と私の間に立ちふさがる壁にして、彼が私から逃げるのに格好の盾であったもの  
――――法律上の問題も無くなる。  
 
誕生日を祝ってもらった。  
プレゼントはいつか買ってもらったイヤリングと意匠の似た指輪だった。  
もう、これは絶対に大丈夫だと思った。  
意識していなければこのタイミングでこんなものを渡す筈がない。  
そう考え、彼がベッドに入ったタイミングで部屋を訪れた。  
 
「あれ、どうしたの志乃ちゃん。まさかー、16歳にもなって一人でさびしいなんて言うんじゃないよね?」  
「違う」  
言うのだ。今から。あなたと私の人生を決定づける一言を。  
「プレゼントのことで、話がある」  
震えるかと思った声は、意外なほど落ち着いていた。  
「ひょっとして、気に入らなかった?」  
そんな筈はないのに。貴方からもらったものは、どんなものであろうと私の大切なもの。  
「そうではなくて…………足りない」  
ただ、その大切なものよりも。もっと欲しいものがあるだけ。  
「…………僕の安月給だとあの一つで限界なんだけどなぁ。でも仕方ないか、今度の日曜日に」  
「行くのは市役所でいい」  
はい?と彼が聞き返す前に  
 
「貴方の人生を、私に下さい」  
 
彼が硬直したのが分かった。  
そのままでいてもらわれても困るので、とりあえず彼のベッドに入る。  
それでも固まったままなので、仕方なく自分の胸のボタンを――――  
「いや、いやいやいやいや。ねぇちょっと待ってよ」  
「……何?」  
「何って、結婚って、こと、だよね?え、本気なの?」  
「冗談でこんなことを言うはずがない」  
 
それから彼はしばらく沈黙を保ち、何かを考え。  
そして、口を開く。  
自然と口元が綻ぶのが分かる。  
答えはイエス以外には―――――  
 
なれる。  
 
 
「ごめん志乃ちゃん。無理だよ」  
 
   
                   は?  
 
 
何を言っているのか分からなかった。  
頭が真っ白になる中で、必死に言葉を掻き集める。  
「な、ぁ、り、倫理上の問題なら、私は!私は、貴方のことが」  
「違うよ」  
「法律上の問題も、今日で何の障害も」  
「いや、そういうのじゃなくって」  
「昔みたいに未成熟な身体じゃ」  
「ちゃんと言うから、聞いてよ志乃ちゃん」  
私の必死の言葉をさえぎって彼が言う。その顔は何かを諦めたかのようなアルカイックスマイルに似て。  
 
「僕はね、ロリコンなんだ」  
 
胸の中で何かが壊れた音がする。  
「実際、小学生の頃の志乃ちゃんはすごく好みだったんだけど」  
聞こえない  
「中学校に入ってからグングン背も伸びたじゃない?」  
聞こえない聞こえない  
「すっかり大人びちゃってさ、父性の部分では大好きなんだけど男としてはね」  
聞こえない聞こえない聞こえない  
「あのまま育たなかったら全然今の年齢でも大丈夫だったんだけど」  
聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない  
「実を言うと今、先輩と付き合っててさ。おっぱい小さいから――――」  
 
 
「――――ッ!!」  
心臓が締め付けられるような感覚に襲われ、そのまま飛び起きる。  
胸に触れる。わずかな膨らみが存在しているだけ。  
相変わらず丈の短い子供柄のパジャマ。  
黒髪は寝癖と異常なまでの発汗によってハネている。  
急いで洗面台の前に立つ。  
そこにはいつも見慣れた、小学五年生の支倉志乃がいた。  
足腰から力が抜け、情けなくへたり込む。  
動悸はいまだに収まらないけれど、それ以上に安堵感が強かった。  
 
彼を叩き起して朝食の準備を一緒にする。  
寝ぼけ眼で猫っ毛の彼は見ていて可愛い。  
『僕はね、ロリコンなんだ』  
あの一言を思い出すと、顔が熱くなる。  
もしあの言葉が本当ならば。  
夢の中の発言に信憑性を求める方がどうかしているが、それでも。  
もしそうならば、今のままでも十分に――――  
ニヤついている私の顔を彼が不思議そうに眺めるけれど、理由は教えてやらない。  
あと5年の間にどれだけのことができるか、それを考えるだけで今は十分に幸せに  
 
 

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