朝、けたたましいアラームが鳴って目が覚める。
敷かれている布団は一組。彼と同じ布団に、いや。彼に包まれて寝ていた。
身体の前で組まれた彼の腕に阻まれてアラームを止めることができないでいると
その腕がするりと抜けてスイッチを押して止めた。
「おはよう、志乃ちゃん」
耳の間近、息のかかる距離で彼が言う。抱き締める力がより強くなる。
彼の胸板が押し当てられた部分がじんわりと熱くなるのを感じた。
すっ、と襟元と腹から彼の細い指が入りこんできた。
「んっ……、駄目。学校がある」
彼がどんな顔をするか分かっていて、敢えてそう言ってみる。
「あ――――ご、ごめん、ね」
肩越しに見る、彼の顔。
捨てられた子犬のような顔。
私に嫌われるのが怖くて仕方がないのだ、彼は。
そして、彼をそうしたのは。他ならぬ私。
「大丈夫。怒ってなんていないから」
彼の方に向き直り、頭を撫でてやる。
位置が高いので、ずり上がって彼の頭を私の胸に押しつける。
「うん、ごめんね。で、でも、でも今日は志乃ちゃん学校だから、朝の内に色々したいよ」
「私は逃げないから。帰ってきてから」
私がそう告げると彼は私の胸の内から抜け出し、
恥ずかしそうな、泣きそうな顔をしながら枕元に置いてあった携帯を手に取った。
「あ、もしもし。お忙しいところ恐れ入ります。○年○組、支倉志乃の保護者ですけれども、ええ、ええ――――
はい、実は今日風邪を引いてしまいまして、はい。今日は休ませますので。先生によろしくお伝えください」
テキパキと必要事項を述べて通話を終わらせ、改めて私に向き合う彼。
「強引な……」
「…………でも、さ。今日は、どこにも行ってほしくないんだ」
私を軽く持ち上げ、仰向けに寝た自分の上に横たえた。
別に騎乗位でするわけでもなく、ただ私を上に載せただけ。
彼の臍のあたりに私の愛液の跡が付く。
「今日は一日、布団の中から出ないでいっぱいセックスしよう――――嫌、かな」
「嫌だったら、ごめんね」
「あぁ、いや、本当に。ど、どうして電話なんか」
「学校があるからって、こ、断られたのに!僕は」
「ごめんね、志乃ちゃん。あやまるから。もう一度きちんと学校にも連絡するから。だから」
話すタイミングがおかしい。
テンションが下がるにしても、急すぎる。前後の行動に対して一貫性がない。
独りで言葉を続ける彼、それはだんだんと取りとめのないものとなる。
その度、彼の顔は悲愴な面持ちになり。
そして、
「だから、僕のこと、嫌いにならないで――――お願いだから」
この言葉。これに今の彼の全てが集約されている。
自殺という形で恋人に先立たれた過去。その古傷に潤いを与え、膿ませ、腐らせた結果がこれだ。
私は彼の心を造り変えたのだ。
彼の潜在意識にあった、置いていかれるという恐れを利用した。
その為にわざとクラスの男子からの誘いに乗ったこともある。当然当て馬として利用したら後は用済みであったが。
両親にも手伝ってもらった。
私の養育を切り上げるようなことを仄かに匂わせたり、架空の知己から私に向けてアプローチがあったなどと嘯かせたり。
あの頃の彼は見ていて痛々しかった。
口では何ともないような素振りをしていたが、明らかに情緒不安定であった。
そして崩れかけたところに、身体を使った。
それらの出来事のおかげで私を女として見始めていた彼。その欲望を思い切り叩きつけられた。
凄かった。獣のように貪られ、求められた。射精回数は10回を越え、その全てが膣内射精。
事前にピルを服用していなければ危なかっただろう。未通であった私の膣が、事後には精液袋となっていたほどだ。
彼の頭をもう一度抱きかかえ、今度は私が耳元でささやく。
「大丈夫。私は貴方を嫌いになったりなんてしないから。貴方を置いてどこかに行ったりもしない」
その一言で、彼の顔がパッと明るくなる。
心を造り変えてから、彼はこういった情動を今まで以上に顔に出すようになった。
そこも、可愛い。
「欠席も、撤回しなくていい」
そして何より、
「だから、沢山しましょう」
そう言ったとたんに私の手に自分の手を絡ませ、騎乗位の体勢を作る彼。
こうして欲望に忠実になったところがすばらしいと私は思う。