仲の良い兄妹を街中で見るたび、私は優越感を覚える。
兄にじゃれつくあの子も、何かをねだるあの子も、いつかは兄と離れなければならない。
それを考えると私は自らの境遇に多大な幸福を感じる。
私は違う。私は、彼とずっと一緒に居られる。
彼女等は、彼らの兄を『兄』としてしか知ることができない。
けれど私はもう知っている。父性を発揮する彼を。兄としての彼を。
そして夫としての彼も、これから。
彼と同じ家庭に生まれなかったことに。私と彼の両親に、とても感謝しています。
「――――――以上です」
教室がざわつき始めた。
保護者の視線が、しばらく何かを探した後に僕に集中し始めるのが分かる。
授業前にやたらと僕のことを「お兄ちゃん」だなんて呼んでいたのはこれが理由だったのか……
志乃ちゃんの中学校、その授業参観。
小父さん小母さんに頼まれて代わりに来たけれどまさかこんなことになるとは。
ただでさえ他の保護者と比べて若い僕は注目を集めてしまう。
そこにこの志乃ちゃんの発言だ。
国語の時間、作文の発表。課題は「私の家族」。
先のような本文と粛々と、まるで裁判所で調書を読み上げる裁判官のように読み上げる志乃ちゃん。
担任の先生はまだフリーズしている。
周りの生徒もざわつき、特に女子はヒソヒソと話を話をしながら僕のほうをうかがってくる。
目が合った。キャーじゃないよ君たち。
そしてそんな異様な空気の教室の中。
志乃ちゃんがくるりとこちらに向き直る。
その顔に浮かべられた美しい笑みに、ざわついていた教室が息をのむ。
――――本当の兄妹じゃなくて良かった、僕もそう思うよ志乃ちゃん。