ある日志乃ちゃん宛てに届いたVHS。  
自分宛とのことでまず一人で中身を確認する志乃ちゃん。  
 
『あー、・……あー……っ!うん、OK映ってるね。  
どうも「志乃ちゃん」、初めましてだね。大薙詩葉です。  
驚いてるね、無理もないかな。キミも御存じの通り、ボクってほら未来が見えちゃうからさ。  
それで、この前映画を見たんだよ。アイツと一緒にね。時間旅行のSFモノさ。  
その中で主人公が過去からの手紙を受け取るシーンがあってね、それに触発されちゃって』  
 
映し出されたのはかつて写真で見た大薙詩葉その人。  
自分が死ぬことがこの時点で分かっているということを微塵も感じさせない明朗な様子で語りだす。  
 
『それで、何が言いたいか。……何をしたいかというと、キミにはこれから、ボクとアイツのセックスを見てもらいます』  
 
一瞬で頭に血が上る志乃ちゃん。  
 
『あ、怒ってるね。でも、駄目だよ。キミはこのビデオを観る。最後までね』  
『ボクがさ、いくら自分の死が分かっているっていったって、それを納得するかどうかっていうのはまた別の話で……  
正直言って、キミが妬ましい。キミはこれから数年後にアイツと結ばれるよ。  
一緒になって数十年、ずっと幸せなままでいられる。興が削がれるから詳しい年月は言わないけれどね。  
「こんな事情さえなければ」という条件で考えると、ボクがその場所に居たはずなんだ。  
あの子を、家族を守らなきゃいけないからああいう手段でボクは死んだ、いや死ぬんだけど。どうしても口惜しいことはある』  
 
ビデオデッキに手を伸ばしかけた姿勢のままで画面にくぎ付けになっちゃう志乃ちゃん。  
 
『アイツがボクの家に来るまで――――ボクを抱きに来るまで、あと12分』  
 
『どうかな?まだキミは見ていないよね。アイツの体。ボクは知ってる。見ていないけれど、知っているよ』  
 
『アイツがどうボクを抱くのか、どんな愛の言葉を囁くのか、どんな顔で果てるのか』  
 
『キミがアイツを愛するその気持ちが本物だっていうのは、ボクが一番よく知ってる。だからこそキミはもうこのビデオから目が離せない』  
 
『確認しておきたい、んだよね?キミのその「蒐集癖」がそうさせるんだ。彼を愛する一方でね』  
 
『ビデオの残量、見えるかい?ふふ、あと50分もあるね。あぁ、安っぽいアダルトビデオみたいなトークは無しだよ』  
 
『すぐに抱く、いや。抱かせるよ――――あと5分』  
 
『それじゃあそろそろベッドメイキング(笑)にとりかかるよ』  
 
『それじゃあね、「志乃ちゃん」。忘れて欲しくないのは』  
 
『あのひとの初めては私で、私の最初で最後はあの人』  
 
『あのひとはキミを抱く、けど。その最初の時に考えることは私とキミの体を――――』  
 
女としての怨念がこもったその言葉に重なるようにして、チャイムが鳴った。  
停止ボタンにかかった指は、動かなかった。  
 

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