>>844が  
僕なら  
 
「…………」  
撫で撫でというよりは、わしゃわしゃ。  
自分でやっておいて今更だけれど、この撫で方はどうかと思う。綺麗に整っていた志乃ちゃんの髪も、僕の手の動きにあわせてグシャグシャに乱れてしまった。  
「あ……、ごめんね志乃ちゃん」  
今度は手を一定方向に。撫でるのではなく髪を整えるように動かす。  
と、そんな僕の手を、伸びてきた志乃ちゃんの手がそっと押さえた。  
「……別に、いい」  
「え?」  
何が? と問い返すより先に、志乃ちゃんは僕の手を自分の髪に強く押し付けた。  
 
「もう手だけじゃ直せないくらいに乱れてるから。…………もっと、撫でて」  
 
 
 
 
 
×なら  
 
「う……」  
髪を撫でようと思った瞬間、まるで心を読んだかのように支倉がこちらを見た。まだ行動に移った訳でもないのに、冷や汗が背筋を伝う。  
「な、何だよ」  
声が震えないように、必死に抑える。そのかいあってか、何とか普段と変わらない声を出せたと思う。  
「別に」  
支倉はぽつりと呟いて、また視線を正面に移した。  
俺達の物理的な距離は限りなく近い。二十センチも無いだろう。二人、隣あって壁にもたれているんだから当然だ。  
けど、支倉の心は―――  
支倉の視線の先に目をやる。  
 
そこでは、支倉の自称保護者サマが、何やら難しげな顔をしながら値札と睨めっこをしていた。  
 
 
 
 

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