さてどこをどうしてこんな事態に陥っているものか、飛剣士パドルが遠い目を  
するのもむべなるかな。今や彼の身の上は正しくまな板の鯉であった。  
 といっても戦の最中に孤立したわけでも苦手な権謀術数に巻き込まれたわけでもない。  
四族合同の講和会議に出席した空き時間、庭の散策に出ているだけである。  
ただその途中で彼の左腕がこの世で最も解き難い鎖に捕まってしまったのだ。  
 
 その鉄鎖の名をナタージャという。  
 
「あの……」  
「なぁに?」  
 出来る限り控えめにかけた声もこの距離では問題なくその耳に届いたようだ。  
 しかし彼が意志を伝えようとする相手は今やすっかり気もそぞろ。  
 力のない相槌を返したナタージャは自分の濃い金髪を前に引っ張り、引き寄せた  
男の頭と楽しそうに見比べている真っ最中。色の違い、質の違い、パドルは  
考えたこともないような事柄を時折独り言のように呟いては悦に入っている。  
 くつろいでいるのかどうか、細く長い兎の耳は力なくしなだれてパドルの眼前に垂れ、  
桃色の内側と包み込む白い柔毛から構成されたそれは、メトロノームか催眠術師の  
指先のごとく小さく揺れていた。  
「できればもう少し離れて頂きたいっス」  
「どうして?」  
 
 ナタージャの体は成熟した女性らしくめりはりがあり、細い腰と比べると重心の悪さを  
心配しそうになるほど豊かな胸が現在その両腕に抱きかかえられたパドルの左腕に確かな  
質量と僅かな熱を伝えている。  
 相手の毛皮とパドルの礼服を通してさえ分かるたわむような乳房だ。戦場で切り裂く  
人体のような湿った重い弾力とは全く違う。  
 目と意識のやり場に困ったパドルは気を逸らして視界に揺れる白い耳先にすがるような  
視線を送りながら口を濁す。  
「いえ、その」  
 言葉にして明示することを憚られる自分の現状をどう伝えるべきか。悩みぬくその頬に  
心なしか焦燥の翳りが見え始めた頃、ふと思い出したようにナタージャがその赤い唇を開いた。  
「あぁ胸だったらご心配なく。当ててるから」  
 当たってるんじゃなくて。と事も無げに言われて瞠目したパドルはもう二の句が継げない。  
貞淑を美徳とする飛天の女性とは価値観が違いすぎる。  
 相手の品性を疑うべきか自身の羞恥が獣牙側の基準に合わないのか考え込むパドルを尻目に、  
ナタージャはやはり楽しそうにその髪を掻き混ぜていた。  
 

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