「コーラーンーダームー」  
 呼ばれて見上げた先、幾多の齢を重ねたのだろう巨木の節くれだった枝の上、  
見慣れた細い尾が二本揺れている。  
「どした、ベリル」  
 そのまま視線を上げて相手を確認すると尻尾以外にもひらひら揺れるものがある。  
少女の小さな手だ。  
 手招きに促されて跳躍する。  
 狼に連なるコランダムはあまり木登りが得意ではないが、この高さなら脚力だけで  
一気に到達できる範囲だ。むろんベリルをそれを知っているから呼んだ。これでも一応  
パートナーを務める二人、互いの身体能力は正しく把握している。  
 着地の瞬間にびんと枝が大きく揺れ、先端に潜んでいたらしい鳥が飛び立った。  
「ほれ、来てやってゼ」  
 すぐ横に自らの倍以上ありそうな重量が運動エネルギーと共に飛来した時すら顔を  
向けなかった少女は、そう耳元で声を出されると初めてコランダムに気付いたように  
横を向く。しかし  
「顔近いよ」  
 むっとしてベリルが顔を逸らすと、おお悪ぃ女の子だもんなぁと、読めない言い様で  
コランダムが少し離れてから座り込んだ。そうすると二人の視線はベリルの方が少し  
高い位置になる。  
 
「で、どした?」  
 不安的な足場で器用に胡坐をかき、膝の上に肘をついて背中を丸めると更に見上げる  
ような位置からベリルを見やる。ゆらゆら揺れる二股の尻尾を目で追いながらも話を  
聞いてやる気になったようだ。  
「あのさ、あの凱羅のお姫様さ」  
「お姫様じゃなくて女王様な」  
「エドガー様のお嫁さんになんの?」  
「……何でそんな話になってんだ?」  
 話の繋がりが見えないコランダムが呆れた口調で聞くと、機嫌を損ねたのか唇を尖らせ  
ながら耳に馴染んだ名前を挙げた。  
「セツナが言ってた」  
「あーそういう事か」  
 真実は推察するしかないが恐らくベリルが伝えたことはそのままではあるまい。  
パワーバランスだの外交戦略だの、そういうごちゃごちゃした事の一端でふと口にした言葉を  
聞きかじったベリルが短慮にもそういう解釈をしたというだけの事だ。  
 しかし、それにしても。  
「お前嫁さんになりたいのか?」  
 そういう話に興味があるお年頃、というやつなのだろうか?  
「コランダムのお嫁さんならなってやってもイイよ」  
「そりゃ10年早いな」  
 えへんと胸を張ったベリルに、その胸元を眺めながらコランダムが返すと  
「胸がでかけりゃイイなんてそっちこそ10年早いな」  
 ふんと鼻で笑われた。  
 

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