森の中を銀の矢が疾る。ひたすら何かから逃げるように…
「ふぅ どうにか撒いた…か…?」
銀の矢…コランダムは立ち止まって振り返った。その瞬間だった。
「ニャアアアアアアアア!!!」
「うぉおおぅう!?」
コランダムの持っている極意書を盗むため追ってきた褐色の弾丸…ベリルが
彼に組み付いた。
「よこせっ それをよこせぇぇ!!」
ベリルの目はまるでルビーを思わせるように光っていた。
「おい その眼…本気か?」
−盗賊だった頃のベリルの 小さくて大きな奮戦記−
滑るように走る。絡みつくように手を伸ばす。それをかわして体勢を立て直す。
一進一退の均衡はすぐに崩れた。不意にベリルが飛びのく。
「ん? なっ!!」
ゴゴゴと岩が崩れ落ちる轟音とともに土煙が舞う…ベリルはこれを察知していたのだ。
あたりに静寂が戻る頃、彼女はこっそりと姿をあらわした。
「巻き込まれたかニャ?」
落ちてきた岩のあたりをグルっと見てまわろうとした瞬間不意に声をかけられる。
「大丈夫か?」
「にゃ!? お前…何で平気なのにゃ!?」
「フン オマエが平気なら俺だって平気さ」
「に゛…なめるにゃー!!」
飛び掛る山猫の腕をグイっとつかみ狼は言う。
「俺と来い 獣牙の王エドガーに紹介してやる」
「!?」
「人手不足なんでな 少しでも使える駒が欲しい ましてオマエは危険察知に優れてるようだ」
もともと独り身放浪の身、行く当てなど無い人生に王族と関わりを持つ
絶好の機会が訪れた。断る理由は無い。ベリルはくくっと笑って言い放つ。
「お前の極意書はひとまず後回しニャ! アタシのすごいとこたーっぷり見せてやるニャ!」
「フッ とくと拝見させてもらおうじゃないか」
文字通り猫の目のように変わる態度にコランダムは一本取られたと言わんばかりに苦笑いを見せた。