「ま〜ゆ〜み〜ちゃん!」  
「わわっ!?」  
茂みに潜んでシャッターチャンスを狙ってた麻弓の背後から明るく大きな呼び声が  
聞こえる。  
「な、なんだ!? 」  
「あ、あそこに人が……きゃあ!!」  
麻弓がターゲットにしていたカップルはそそくさとその場を足早に去る。  
「し、しまったぁ〜〜!! 折角のスクープが……シアちゃん、邪魔しないでよ!」  
獲物を逃がした麻弓はちょっと立腹した様子で声の主の方を見る。  
声の主は神族のプリンセス、リシアンサス(シア)だった。麻弓の様子に構わず、  
ニコニコと微笑んでいる。その無邪気な様子に溜め息をつく麻弓。  
 
「……で、何なの。こんな所まで」  
「エヘヘ……♪ この前の仕返し、いつさせてくれるの?」  
ワクワクと目を輝かせて麻弓を見つめるシア。  
「この前のって……『あれ』の事?」  
「そう! あ・れ♪ 楽しみにしてるんだからね」  
「楽しみって……仕返しが?」  
「うん! 麻弓ちゃんのアソコ、可愛がってあげたいの♪」  
「ちょ、ちょっと……誰がいるかも分からないのに声に出して言わないでよ」  
慌ててキョロキョロ周囲を確認する麻弓。シアはニコニコ微笑んだままだ。  
麻弓はシアを引き寄せ、耳元に口を当てる。  
「そんなにしたいの?……電気あんま」  
「うん! やりたいッス!」  
「だ、だから、大きな声を出さないでってば!」  
麻弓が慌ててシアの口を塞ぐ。モゴモゴとまだ何か言いたそうなシア。  
 
「そうね……。ねぇ、シアちゃん達って今度海に行くんだよね?」  
口をふさがれたシアがコクコクと頷く。  
「シアちゃん家とリンちゃん家と土見家か……いいなぁ。私も行きたいな〜」  
「いいよ、麻弓ちゃんも。緑葉君も誘おっか?」  
麻弓の手を外し、シアが言う。  
「だ、だから何であいつが関係あるのよ! ……いいの、本当に?」  
「勿論っス! 麻弓ちゃん、友達だもん」  
「ありがと〜、シアちゃん! じゃあ、その時にしない? この前の続き……  
水着とか浴衣姿で電気あんま、なんてどうかな?」  
麻弓が悪戯っぽく言う。  
 
「本当!? じゃあ、水着姿の麻弓ちゃんに仕返し出来るんだね?」  
爛々と瞳が輝くシアに麻弓は少し気圧され気味になる。  
「う……。ま、まあそうだけど……」  
「やったぁ〜! 頑張るッス!」  
「え、えっと……お手柔らかにね。その時に、シアちゃんにも一つ協力して欲しいん  
だけど……」  
「なに? 何でもやるよ♪ どんな事?」  
「フフフ……リン(ネリネ)ちゃんや楓を無理なく虐める方法を考えたの。あの二人は  
なかなか電気あんまに乗り気になってくれないもんね」  
ニヤリとオッドアイが煌く麻弓。  
 
「それって、どういう方法?」  
ごくり……とシアは唾を飲み込みながら身を乗り出す。  
「それはね……」  
麻弓はシアの耳元で何かを囁いた。シアの顔が段々驚きの表情に変わる。  
「ええ〜〜!? 稟君との……デートけ……」  
「しぃ〜〜!! 声が大きいったら!」  
またしても麻弓はシアの口を塞ぐ。シアはモゴモゴ言いながら頷いた。  
(シアちゃんを抱き込めばこの計画も成功したも同然ね……。フフフ、前から虐めて  
みたかったんだ〜、リンちゃんは♪)  
麻弓はネリネのほっそりとしながらボリュームのある胸を思い出し、瞳を煌かせた。  
 
 
         *         *          *  
 
 
そして当日――。  
 
「やっほ〜〜!!!」  
ペンションのプールにざぶん!と飛び込むのは稟たちの先輩、時雨亜沙。  
……亜沙先輩?  
 
「まぁ♪ ステキですわ。燦燦と輝く太陽の下、女の子達は開放的な気分で殿方の  
お誘いを受け、二人は人気のない洞窟で……」  
「妄想にはまってないであんたも入りなさい!」  
「はい……? きゃ、きゃああ!!」  
 
ザブン! 太陽の下で妄想にはまるカレハの足を掴んで亜沙がプールに放り込んだ。  
楽しそうにじゃれあう先輩達の様子を麻弓とシアはプールサイドで見守っていた。  
 
「……なんか、随分大所帯ね」  
「だって、お父さん達がウキウキして大声で話すんだもん。断れないし……」  
「まあ、亜沙先輩達はいいとして……なんでこの人までいるのかな?」  
「私がどうかしたか?」  
二人の傍らにはベンチでのんびりとくつろぐ黒ビキニを着た紅薔薇撫子の姿が。  
 
「どうしてなっちゃんがここに……?」  
「子供達だけで遠出は危険だろう?」  
「子供達だけでって……神王様と魔王様もいるのに」  
「『あれ』達が保護者になるというのか……?」  
 
丘陵上にあるペンションから下を望むと、ビーチで楽しそうに追いかけっこを  
している神王と魔王の姿が。  
 
(まー坊、待ちやがれ〜〜♪)  
(アハハ、追いつけるかい? 神ちゃん♪)  
 
「……まぁね」  
呆れ顔で同意する麻弓。  
「お恥かしい……」  
シアが本気で恥かしそうに俯く。  
 
「それに危険人物も混ざってるようだしな。つっちーも災難な事だ」  
「緑葉君達、ずっとナンパしてるモンね。なっちゃんはそっちの方を監視して  
なくていいの?」  
麻弓が追求すると、  
「……いいんだ。私はもう疲れた」  
フッ……と太陽が眩しそうに額に手をかざす。  
 
(結局、なッちゃんは何のために来たのかな?)  
(……さあ?)  
韜晦する撫子を見ながら、ひそひそ声で首を傾げる二人。  
麻弓としては撫子がここにいるのは『計画』上、ちょっと問題があるのだが……。  
(まあ、なるようになるかな。いざとなればなっちゃんも巻き込めば……)  
「あ、リンちゃん達だ!」  
シアが手を振る。水着に着替えて現れたのは楓とネリネ、そしてプリムラだった。  
 
「これで全員揃ったね……しかし、リンちゃん、その格好……」  
「え……? あ、はい。お父様にこれを着なさいって言われたんですけど……」  
ネリネが着ていたのはスクール水着だった。気のせいかサイズが小さく見える。  
と言うか、胸の部分がやたらと……。  
 
「「ごくん……」」  
思わず唾を飲み込む貧乳シスターズ(=無論、麻弓&シア)。  
「私、まだ終わってないもん……」  
「私だって終わってないわよ! ……多分。……元へ。り、リンちゃん、その  
水着、キツくない?」  
「え……ええ、少し。胸の辺りが特に……」  
頬を染めてモジモジするネリネ。その姿にその場の全員が注目してしまう。  
「ん……このあたりが……こうすれば……」  
これ見よがしに?(と貧乳シスターズには見えたw)胸を揺らせながら水着を  
直すネリネ。この段階で彼女達のネリネへの電気あんまポイントが+1された事は  
言うまでもない。  
 
「…………」  
ネリネの様子を見て黙って自分の水着の胸元を開けて覗き込むプリムラ。  
楓が苦笑いしながら止める。その彼女もネリネの姿態には何かしら思うところが  
あるようで、スク水に悪戦苦闘している彼女をじっと見つめていた。  
 
 
         *         *          *  
 
 
「さて……女の子達は全員揃ったし、邪魔な男どもは海の方に行ったし……  
そろそろ始めますか」  
貧乳をスポーツタイプの虹色ビキニに包んだ麻弓がにんまりとその場にいる  
面子の顔を見回す。  
「始めるって、なにを?」  
キョトンと顔を見合わせるグリーンの紐で結ぶタイプのビキニの亜沙と背中が  
大きく開いた黄色のワンピースのカレハ。白ビキニ姿の楓とブルーのタンクトップ  
ビキニのプリムラも何事かと麻弓を見る。  
 
「シアちゃん、リンちゃん、結界を張って」  
「「はぁい」」  
白ベースでオレンジのストライプが入った配色の紐ビキニ姿のシアとキツ目の  
スクール水着姿のネリネが呪文を唱えると、気の流れの様な煌きがプール一帯に  
広がった。それらはあたりをドーム状に形を作ると淡雪の様に消え去った。  
 
「な、なんだこれは?」  
転寝から目が覚めた撫子が不思議がる。  
「フフン……。結界を張ったのです。これで暫くの間、誰もこのプール近辺には  
近づけません。神王様と魔王様様には魔力に反応する地雷が予めこの周囲に敷いて  
あります」  
麻弓が得意げに言う。実際は彼らに対抗する魔力兵器?を作ったのはプリンセス二人  
なのだが。  
 
「敷いてあります……って。一体何の目的でこんな事を?」  
「それはですねぇ……これです! じゃ〜〜ん!!」  
麻弓が大きく横断幕を広げる。そこには、  
 
『第一回土見稟君とのデート権争奪水上プロレス大会!』  
 
と書かれてあった。  
 
「「「「「「「…………」」」」」」」  
唖然として得意気な麻弓を見つめる一同。水上プロレス大会? このプールで?  
そういえば、プールサイドに大きな人工芝が引いてあったような……。一同は  
そちらの方に目を向ける。  
 
「そう、ここにいるメンバー全員であの人工芝の上でプロレス大会を行いま〜す。  
勝った人には土見君とのデート権が進呈されます!」  
「で、で、デート権……!? それはそのう……稟君は承知してるんですか?」  
楓が聞く。稟の気持ちも大事だと思う彼女はそこも確認しておきたかった。  
「ううん、全然。土見君にはまだ何も言ってないし」  
「そ、それじゃあ勝っても無意味になる可能性が……」  
「無意味になる……かな?」  
ずるそうにオッドアイを瞬かせる麻弓。  
「例えば、楓が土見君とデートしたい為にがんばってプロレス大会に勝って権利を  
得たって言ったら、土見君、断るかな? 私は断らないと思うな〜♪」  
「う……」  
確かにそう言えば稟は断らないだろう。だが、楓には勝手に優勝商品にされる稟に  
申し訳ない気持ちもやっぱり残る。しかし……。  
「まあ、いらないなら楓は参加しなければいいだけの事だし……」  
「そ、そんな! ……参加します! 勿論!」  
結局、目の前の餌に釣られてしまったw。  
 
「それ、ボクも参加していいんだよね!?」  
亜沙が手を上げて聞く。麻弓は頷いた。  
「亜沙先輩も参加と……カレハ先輩は?」  
「まあ、私が稟さんと……。そんな……どうしましょう♪」  
何を想像したのか、嬉しそうに真っ赤になって頬を押さえるカレハ。  
「カレハ先輩も参加と……」  
「ねぇねぇ、麻弓ちゃんは土見君の所を緑葉君に変更して参加するの?」  
「そんな変更しません!」  
亜沙の悪戯っぽい質問に本気になって怒る麻弓。  
「ふ〜〜ん……じゃあ、麻弓ちゃんが優勝したら、稟ちゃんでいいんだね?  
後で確認するよ?」  
「う……」  
亜沙のにんまりした目に少したじろいだが、  
「わ……私は後で決めます」  
恥かしそうに誤魔化しにならない誤魔化しをする麻弓。  
その様子を見て亜沙だけでなく、シアとネリネ、楓たちも忍び笑いする。  
 
「ぷ、プリンセス達も参加ね? 土見ラバーズが参加しなきゃ意味がない  
もんね……うん? どうしたの、リムちゃん?」  
「私も……参加する」  
「「「「「「え?」」」」」」  
既に参加表明した全員が驚く。  
「で、でも……リムちゃんじゃまだお姉さん達には勝てないんじゃないかなぁ?」  
麻弓が宥めようとするが、  
「魔法……使う」  
プリムラは引き下がらない。  
「「絶対にダメです」」  
プリンセス達が止める。プリムラが暴走したらプールどころか当たり一帯が  
消し飛ぶ。ネリネも同様だが、今回は沸点の低くなる対象が近くにいないので、  
大丈夫だろうか。  
 
「えっと……。魔法はその……相手を直接傷つけたりするのは禁止ね。補助魔法や  
治癒魔法はOKだけど……」  
「そ、それずるいです! 麻弓さんが有利じゃないですか」  
珍しくネリネが抗議する。  
「へへ、バレタか♪ 力をコントロール出来ればリンちゃんも使っていいよ」  
「う……そんな」  
それが出来れば苦労はしない。ネリネは不満そうに麻弓を見る。  
「ねぇねぇ、じゃあ、椅子は!?」  
ワクワクした声でシアが聞く。  
「限度を考えてね……大きい方のデッキチェアは禁止」  
「う……あっちの方が強いのにぃ〜」  
「あんなもので殴られたら神王様以外は生き残れません!」  
麻弓としては5秒以内の反則を認めてもいいとは思ってるが、即死に繋がるのは  
勘弁して欲しい。  
 
ああだ、こうだ、とルールに対するディスカッションが繰り広げられていたが、  
ここで、今まで一言も発しなかったあの人が立ち上がった。  
 
「ちょっと待て!」  
「はい? なっちゃんも参加するの?」  
「違う! さっきから黙って聞いてれば、つっちーとのデート権を賭けて水着で  
プロレスだと!? こんな人の多い往来で破廉恥な……」  
「人、いませんよ。結界が張ってありますから、見ることすら出来ません」  
「なに……?」  
そう言えば、あれだけいた人が自分達を除いて誰もいなくなっている。プールは  
風に押されてちゃぷちゃぷと小さな波を立てるだけ、周囲から聞こえるのも蝉の声と  
風に揺らされる木々の葉が擦れる音だけ……。  
 
「勿論、準備万端ですよ。私たちだって見られたら恥かしいですから」  
「準備万端って……それに、恥かしい?」  
「だって……」  
クスッと麻弓が小さく笑う。撫子にはオッドアイが妖しく煌いた気がした。  
「エッチ攻撃ありのプロレスをするんだもん……電気あんま攻撃とか、ね♪」  
「な……」  
撫子だけでなく先輩達も驚いた。麻弓はそういうプロレスのつもりだったのだ。  
 
「ば、馬鹿! そんなのを私が許すと……」  
「なっちゃんはそう言うと思いました……それっ!!」  
「なに……!? あっ!!」  
麻弓が予め仕込んでいた省略呪文を唱えるとプールサイドにあったロープが撫子の  
体に巻きつき、締め上げた。たちまち身動きが取れなくなる撫子。  
「補助魔法は得意なんですよ、私」  
懸命にもがく撫子を見ながらにんまりする麻弓。  
「こ、こら……! 離せ! いたた、胸に食い込む!!」  
「む……。それは私に対するあてつけ?」  
「違うわ! 早く解きなさい! さもないと……」  
「なんですか?」  
「当然、後で酷いよ!」  
「そうですか……。仕方ないなぁ。シアちゃん、リンちゃん♪」  
「「は……はい」」  
「な、なに……? うわっ!?」  
上半身のロープの締め付けが強まったかと思うと、撫子は物凄い力で空中に持ち上げられた。  
そのまま監視台の支えの横棒の上まで持ってこられる。大きな魔力の必要な物体移動には  
プリンセス二人の力を使う。RPGの勇者ばりのマネージメント能力を見せる麻弓。  
 
「な、何をする?」  
「なっちゃんにはそこで見ててもらいます。ね、カレハ先輩?」  
「まぁ! 昼日中から胸をロープで縛られ、鉄棒を木馬代わりにだなんて……  
なんと倒錯的で美しい光景なんでしょう……ああ」  
胸を自分で締め付け、まるで自分がされているように身悶えするカレハ。  
「なじみすぎだよ、カレハ……」  
呆れたようにカレハを見る亜沙。  
 
(けど……あの子、なかなかやるじゃない)  
亜沙はそっと麻弓を盗み見る。彼女のおかげで自分向きの面白い展開になりそうだと  
内心ほくそえむ。  
「じゃあ、ゆっくり降ろしてね、シアちゃん、リンちゃん」  
「は、はい……」  
その時、一迅の風がネリネの鼻をくすぐった。これがあの悲劇を生もうとは……。  
 
「なっちゃん、そこ、足がつかないから……どうなるか、わかる?」  
「な……!」  
どうなると言われても、なる現象は一つだ。撫子は細く丸い鉄棒に足がつかない状態で  
跨がされ、ビキニの股間に自分の全体重がかかり、激しく食い込む。それ以外にない。  
 
「やめなさい、麻弓! でないと……」  
「あとで酷い、ですか? さっき聞きましたよ、それ」  
撫子が真っ赤に怒り、クスクスと麻弓が笑っている時、唐突に悲劇が起こった――。  
 
「……クシュン!」  
ネリネがくしゃみをする。  
「あ……!」  
魔法への集中が途切れ、シアと二人で支えている撫子の浮遊状態のバランスが崩れる。  
「とっと……り、リンちゃん!!」  
「は……はい!!」  
「う、うわっ!?」  
シア一人では支えきれず、ネリネの立て直しも間に合わない。撫子の体はそのまま  
自由落下の法則どおり……。  
 
ご〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん☆………………  
 
やたらと余韻の長い激突音が響き、その場にいた全員が顔面蒼白になった。撫子の体は  
ものの見事に鉄棒上に落下していた。勿論、跨った状態で。  
 
「…………」  
撫子は白目を剥いて泡を吹いていた。クタッ……とロープで支えられ、失神している。  
シアは先日の自分の体験を思い出し、紐ビキニの自分の股間を思わず押さえ、内股に  
なってしまった。だが、撫子の落下した(させられた)高さはあの時の2倍近くは  
あっただろう。気絶して当然かも、とシアは思う。  
 
あたりはシーン、と静まり返ったが、  
「ま、まぁ、これでなっちゃんも大人しくなったし、予定通り始めましょうか?」  
麻弓が何事もなかった振りをして言う。だが、それがあまりにも想定外であった事は  
本人が全身でかいている冷や汗と上ずった口調が証明していた。  
 
とりあえずカレハが治癒魔法で手当てをする。流石の彼女も撫子の様子に得意の  
妄想は出ないようだ。珍しく黙って真面目に治療している。それでも撫子は当分  
目を覚まさないだろうが。  
 
「あれは大変だったっス……」  
シアが思わず実体験を韜晦していると、  
(本当ね――)  
「ん……? あっ!」  
(私だって同じ体験をするんだから気をつけてよね、全く――)  
シアの意識が急に遠くなり、視界がホワイトアウトした。  
 
「どうしたの、シアちゃん?」  
ネリネが俯いたシアに聞く。  
「……何でもないわ」  
「……シアちゃん?」  
面を上げたシアの表情がいつもと少し違うような? ネリネはそう思いながら  
シアの横顔を見ていた。  
 
 
         *         *          *  
 
 
「ふ〜ん、じゃあ、エッチ攻撃は何でもありなんだね?」  
亜沙が麻弓に確認する。結局撫子はカレハが治癒魔法でダメージを軽減した後、  
木馬責め状態で鉄棒の上に置かれていた。失神から覚めて復讐されるのが怖いからだ。  
だが、この状態のほうがかえって恨みが深くなるような気もするが……。  
 
「ええ、何でも……。脱がすのは勿論、おっぱいを揉もうとお尻をいじろうとアソコを  
電気あんましようと」  
にんまりと悪戯っぽく麻弓が微笑む。だが、亜沙は動じる様子も無かった。  
「それはそれで面白いんだけどね〜」  
「ムッ……。何か不満があります?」  
「折角『みんなが欲しがる商品』を賭けたプロレスなんだから、もう少しスリルが  
欲しいかな、なんて♪」  
亜沙が嘯くように言う。稟の事を『商品』と言われて楓が他人に悟られないようにムッと  
したのを亜沙は見逃していない。  
「例えば?」  
「シアちゃんの得意な凶器攻撃はありなんだよね?」  
椅子の事を言ってるのだろう。さっきの議論で小さな折りたたみ椅子は許可している。  
「だったら、もう一つの反則もOKにしようよ」  
「もう一つの反則?」  
「そ。 急所攻撃♪」  
「きゅ……」  
ざわっ……と麻弓以外の女の子達もざわめいた。急所攻撃――つまり股間を攻撃する  
のもOKにしようと亜沙は言うのだ。ざわつく女の子たちを面白そうに眺める亜沙。  
 
「電気あんまOKなんだから、これも大丈夫だよね?」  
「で、電気あんまとは違いますよ。……さっき、なっちゃんの事、見たでしょ?」  
「うん。だからこそ面白いかな、って。すっごいスリルがあるよ、きっと♪」  
そこにいた女の子は思わず股間に手を触れた。先輩達とプリムラ以外、先日のシアの  
事故を目撃していた。そして今日の撫子の事故?はここにいる全員が見ている。  
スリルがありすぎるような気もするけど……と麻弓が考えてると、  
 
「いいわ。それでやりましょう」  
シアが亜沙の提案に同意した。  
「シア……ちゃん?」  
ネリネと麻弓が顔を見合わせる。股間強打の体験を味わったのは他ならない、この  
シアではないか。だが、シアは髪をかきあげ、平然としている。  
(ん……? 何か雰囲気が変わったかな、この子?)  
亜沙はシアを検分するように見た。それに気づいたのか、シアも亜沙をチラリと  
見たが、すぐに視線を逸らせる。  
 
現在二人が急所攻撃ありに同意。しかし、次の同意者は意外な所から出た。  
「私も……それでいいです」  
「楓さん!?」  
ネリネが驚いた声を上げる。あの大人しい楓が? と麻弓も思ったが、提案者の亜沙は  
軽く微笑んでいた。彼女には楓が同意するであろう目算があったようだ。  
 
(これで……少しはこちらの手が増えます)  
内心で楓は思う。プロレスの場合、楓の武器はその抜群の運動神経だった。しかし、  
同じく運動神経の良いシアには飛び道具の椅子攻撃があり、他のみんなにはそれぞれ  
魔法のオプションがある。その事をあわせ考えると、純粋な人間の楓には何かしらの  
上積みが欲しかった。反則技でも使えるならば、使う。稟君のデート権はやっぱり  
他の子にはあげられない――。  
 
「これで3人が同意、ね……。他の人はどうかな?」  
麻弓が面子を見回す。  
「まあ! 急所攻撃だなんて、恥かしいですわ。……でも、私……もしそんな事を  
されたらどんなに苦しむのでしょう……?。私が大事な所を押さえて痛さと恥かしさに  
悶えているのを亜沙ちゃんや楓さんが意地悪な顔で見下ろしているなんて……なんて  
屈辱的で惨めな光景……ああ、考えただけで背筋がゾクゾクと……♪」  
「カレハもOKみたいだよ、麻弓ちゃん。これで4人。他の人が全員反対でも多数決で  
可決されると思うけど?」  
亜沙が無邪気そうに微笑みかける。麻弓は軽く吐息をつき、同意した。  
 
ルールをまとめると――。  
 
・プールエリア一帯を使ったバトルロイヤル戦。勝ち残りが一人になったら終了。  
・基本はプロレスルール。ただし、エッチ攻撃・急所攻撃・凶器攻撃(凶器限定)・  
 魔法攻撃(破壊系大魔法は不可)あり。合体技勿論可。  
・電気あんま推奨(スレ違い防止の為)  
 
と案外シンプルなルールに落ち着いた。過激ではあるが。  
 
「これでいいね、みんな? 他に異議がなかったら始めるよ〜。  
名づけて『シャッフル・バトルロイヤル』開幕〜〜! 稟君のデート権が懸かってる  
けど正々堂々と闘おうね!」  
「「「「「「おー!」」」」」  
麻弓の音頭に全員が唱和した。燦燦と輝く太陽と涼やかな風、気持ちの良いプール。  
絶好の格闘日和であった――(そうか?)。  
 
 
(プロローグ・終わり)  
 
 

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