*         *          *  
 
 
髪の長い亜沙は随分と大人びた印象だった。  
ここにいるメンバーより年上だから当たり前なのだが、やはり普段のショートカットは実際の  
年齢より若く見えるし、亜沙の明るいキャラクターが程よく子供っぽさを出していた。  
今の亜沙は長い髪が発光し神秘的な印象も相まって、本来持っている女性としての気品と  
美しさを醸し出している。それは普段の亜沙を見慣れたものにとっては不思議な感覚だった。  
 
「ままままぁ♪ 亜沙ちゃん、ステキですわ」  
カレハが何かを妄想しているのを見ながら呆れたように溜め息をつく亜沙。  
シアや麻弓の憧れの視線を感じながらも、亜沙は当面向かい合う相手を見据えていた。  
勿論、楓である――。彼女の横にはプリムラも付き添っていた。  
 
「亜沙先輩――」  
呆然と亜沙の変貌を見つめていた楓だが、ふと我に返るとクスクスと忍び笑いしていた。  
シアはその笑顔が意外と悪くない事にハッとした。楓はこの亜沙の『変身』について  
どう思っているのだろう?  
 
「何がおかしいの、楓?」  
シアと同じく訝しげに思いながらも聞きとがめる亜沙に対し、楓は挑発的に髪をかき上げる。  
「魔力解放ですか――漫画の主人公みたいでカッコいいですね」  
「そんなものじゃないけど――リムちゃんが楓の味方に付くならこちらも対抗しないとね。  
楓を懲らしめるために――」  
「私を――? クスクス、いいですよ。亜沙先輩に怒られるのってイヤじゃないです」  
楓は楽しげに笑う。影はない――が、やはりどことなく挑発的だ。  
「でも、もっと楽しいのは――先輩が苦しんでる顔を見ることなんですよ……行きます!」  
楓は亜沙の下半身にタックルする。亜沙はそれを受けに行かず、楓があたりに来たタイミングで  
飛び上がった。そして馬飛びの様に楓を飛び越える。  
 
「す、すご〜い!」  
「やる〜!」  
シアと麻弓が我を忘れて賛辞する。魔力を解放した亜沙は肉体的な動きも良くなっていた。  
無理に押さえつけるものがなくなって体が軽くなったのだろうか?  
「やりますね……。同じ手は二度と食らわないって事ですか?」  
「やっぱり頭突きでここを狙ったんだね。もうあんな手は食わないよ〜〜だ!」  
亜沙は股間を押さえて舌を出す。大人びた印象であってもやはり亜沙は亜沙、明るく快活  
なのが魅力だ。  
 
(それが憎たらしいんです――)  
少し熱くなった楓は不用意に飛び掛っていく。しかし、亜沙はその動きを読んでいた。  
「冷静そうに見えてすぐ熱くなるのが楓の特徴だよ」  
亜沙は楓の突進を受け流すと足を掛けて楓を人工芝に倒した。  
「きゃん!?」  
「電気アンマ、もらい〜〜!!」  
「だ、誰が……! やらせません!!」  
亜沙は長い髪を振り乱して軽快に動き、楓の左足を取った。右足も取りに行ったが、楓の抵抗が  
激しいと見るやさっきのシアと同じく、いきなり自分の右足を楓の股間を踏みつけるように  
あてがった。崩れ電気アンマの体勢だ。  
 
「くっ……! ううっ!?」  
「先制はこっちだね。この状態からでもボクは楓を逝かせてあげるよ。それ〜〜!!」  
「はぅん!? アアアアッ……!!!」  
 
ダダダダダッダダッダダダダ……!  
 
亜沙の送り込む右足の振動が楓の股間から全身を震わせる。大きく仰け反って悶える楓。  
体勢こそ崩れているが、亜沙の技術をもってすれば通常の固定式電気アンマに匹敵する効果を  
得るのは難しくない。  
「わ……私の時と同じです……」  
「リンちゃん?」  
失神から覚めたネリネがシアと麻弓の傍によってきた。  
「亜沙さんは一気に勝負をつけるつもりですね……激しい電気アンマですけど、私がやられた  
時も痛くはありませんでした。そのかわり、物凄い波が押し寄せて――」  
「波って……気持ち良さの波?」  
「はい……それだけじゃないですけど……」  
「きっと苦悶も快感に変わることも織り込み済みなのですよ」  
麻弓が口を挟む。  
「麻弓ちゃん」  
シアとネリネが麻弓を見る。  
 
麻弓は亜沙の電気アンマから目を離さずに言った。  
「女の子の体って一度火照るとなかなか冷めないでしょ? 私たちはもうお互いに電気アンマ  
されっぱなしだったから、体は熱くなったままだし。この状態ならココ(と言って麻弓は股間を  
指差す)に受ける刺激は必ず快感を伴うの。シアちゃんもその……蹴られた時、前に打った  
時とは痛さの感覚が少し違ったんじゃないの?」  
言い当てられてシアが股間を押さえて真っ赤になる。恥かしそうにコクリと頷いた。  
蹴られて気持ちよかった、とまでは言わないが、痛さと同時に体が震えるような刺激的な感覚に  
支配されたのだ。  
 
「本来電気アンマは女の子に快感と苦悶を与えて悶えさせる技――だけど、亜沙先輩はその  
苦悶が効果的に快感を増幅させる手段を知ってると思うのですよ。もしかしたら、この勝負、  
これで決着がつくかも?」  
これ以上荒れた展開を望まない麻弓は期待を込めてそう言った。ネリネも同意するように頷く。  
しかし、シアは不安げな表情を浮かべた。相手は疑心暗鬼に凝り固まった楓――その彼女が  
使うと言い切った『悪の必殺技』はまだ出ていない。  
 
「くぅううん……!! は……はなして……くださいッ……!! あうぅッ……!!」  
「離せと言われて離すわけないでしょ。まずはこのまま逝っちゃいなさい!」  
「い……いやです! こんな事で私を屈服させられると思ったら……大間違いです!!」  
「わっ!? ちょ、ちょっと……! 暴れたら危な…………はうんっ☆!?」  
 
ドガッ☆!!  
 
肉を打つ打撃音が麻弓たちギャラリーの耳にはっきり聞こえた。  
「☆$◆%〇#……$●@▽★……!!!」  
電気アンマしていた亜沙が楓の足を放り出し、自分の股間を押さえて背を向ける。何か叫んだ  
ようだが麻弓たちには聞き取れなかった。おそらく普段出さないような高周波の音域で悲鳴を  
あげたのだろう。まさしく声なき悲鳴だった――だが、経験者のシアたちにはそれがどんな  
気持ちで搾り出された悲鳴か、切実に理解できた。  
 
「……フフン」  
ゆっくりと立ち上がりながら亜沙のほうを見て、いい気味です、と言わんばかりに楓は髪を  
かきあげる。電気アンマはかなり効いていた様子で、息は乱れ、足腰も小刻みに震えている。  
すぐに追い打ちはかけられないようだ。  
 
「痛ぅ〜〜〜〜〜☆!!」  
涙目になって嫌な汗を額に浮かべながら亜沙は内股になって股間を押さえ、フェンスに手を  
ついて耐えている。楓の踵蹴りがまともに急所を直撃したのだ。ネリネが麻弓にやってしまった  
様に電気アンマ対決では良くある事だが、楓のは明らかに故意だった。きっちりと女の子の  
一番痛い所を狙って力一杯蹴り上げている。いくらハイパーモード?の亜沙とは言え、ここは  
普通の女の子のままだ。手や足を打った程度の並みの痛さではない。  
(てゆうか、何度目……?)  
何度打っても体が慣れてくれないこの痛さ――。  
毎度毎度その痛みは鮮烈で、一瞬、頭が真っ白になる。  
試合をちょっぴりカゲキに盛り上げよう、と急所攻撃OKの提案をしたのは亜沙自身なので  
自業自得ではあるがw、楓がここまで執拗に狙ってくるのは予想外だった。と言うより、  
彼女の思考がここまで深くネガティブになってくるとは――。  
(私がお嫁にいけない体になる前に何とかしなくちゃ――ね)  
女の子だから少々蹴られても目茶苦茶痛いだけで機能に問題はないだろう?が、あんまり打ち  
すぎて体が順応し、クセになってしまうのは困る。稟との夜の生活はノーマルに過ごしたい。  
もちろん、将来の話だが。  
 
カレハの位置からは亜沙が内股になってお尻をプルプル震わせている姿が見えた。  
その姿がちょっと可愛らしく、思わず妄想に入り込みかけたが、亜沙は急所を蹴られて苦しんで  
いるのを思い出し、我に返って傍による。  
「亜沙ちゃん……大丈夫ですか?」  
「カレハ……今度は妄想から立ち直るのが早いね」  
亜沙は多少の皮肉を込めて、苦悶を汗を手で拭いながら言う。  
「まままぁ……大事な所が腫れてますわ。治療しますから、じっとしてて……」  
カレハには皮肉などは通じず、素直に心配していたが――。  
「いらないよ」  
「えっ?」  
「よし、休憩終わり! 楓に仕返しするの! 電気アンマが効いているうちに!!」  
亜沙は思い切ったように気合を入れると、カレハを顧みずに楓に向かって行った。  
「亜沙ちゃん……」  
こんな際だがカレハは思わず微笑んでしまう。亜沙のこの積極的な姿勢が凍てついた楓の  
心を溶かしてくれる。そんな気がするのだ。  
麻弓やシア、ネリネも口にこそ出さないが亜沙に期待の目を向けていた。  
ただ一人、プリムラのみがゆっくりと亜沙の背後に回っていた。しかし、その事に気づいている  
ギャラリーはいなかった――。  
 
 
        *         *          *  
 
 
一方楓の方は、そんな亜沙の姿勢が嫌いだった。  
ウザイ――とは思わなかった。亜沙がそうやって元気をぶつけてくるように自分に構ってくれる  
のは悪い気はしない。実際、さっきまではそれで自分の頑なな気持ちも氷解しかけていた。  
 
(でも……大嫌いなんです)  
 
元々楓がこんな気持ちを抱くようになったのも稟に対する想いが鬱屈した形で抑圧され、  
その苦しみが辛くて、暗く凝り固まった情念をぶつける矛先を無意識に探した結果、ライバルの  
女の子たちにそれを転嫁してしまう事になってしまったからだ。  
 
プリムラは嫌いではない。基本的に彼女は成長しないので、普通に成長する自分は彼女と  
個性が被る事はないからだ。仮に樹の言うとおり、稟が本当にロリペドフィンであったとしても  
楓にはたいした問題ではなかった。稟は性的行為には余り慣れていない。女の子の事が良く  
分からない彼にロリータを導くのは難しいだろう。女の子である自分がその手引きをしてあげ  
れば、お礼に自分も稟に可愛がってもらえる――3Pって言うんだっけ? 今の家でそれが  
出来たらとてもステキではないだろうか――時折そんな事を夢想する。自分は一番でなくとも  
いいのだ。稟に必要とされ、居場所があればそれでいい――。  
 
ネリネも楓にとっては大した問題ではなかった。彼女は蠱惑的で性的魅力に溢れ、男の子に  
とってはまさに魔性の女の子になりつつある。稟が魅了されるのもありうる事だろう。  
だが、例えそうなっても、それは要するに人形としての存在意義でしかない。  
綺麗で可愛らしい人形――それに魔法が吹き込まれ、性的魅力を発揮しているだけだ。  
極端に言えば玩具やオナペットと大して変わらない。稟も最初は夢中になるだろうが、  
時が過ぎてやや飽きが来た頃に、家庭的で優しさに溢れた女の子もいいな、と思うように  
なる筈だ。それは勿論……自分の様な女の子――。  
 
カレハや麻弓は稟に対する想いその物が自分とは比べ物にならない。彼女たちにとって  
稟は好意を持っている程度の対象だ。勿論、デートに誘われたら喜んで行くだろうし、  
セックスを求められても拒んだりしないだろう。だけど、自分の様に稟に捨てられたら生きて  
いけない――と言うほどの事ではない。もし彼女たちが稟を好きになり、その後に振られても  
また新しい男を見つけて幸せに暮らすだろう。自分にはそれはありえない話なのだ。  
稟がいなくては生きていけない自分には――。  
 
ここまではいい。と楓は考える。  
だけど――。  
 
シアと亜沙は話が別になる。  
二人とも家庭的で優しいな女の子、と言う位置づけでは楓にとって真っ向からライバルとなる  
立場だった。しかも二人とも自分には全くない魅力を兼ね備えている。  
シアの明るい魅力は稟だけでなく、周囲の人々を楽しい気分にさせている。敵視する自分ですら  
そうなのだ。シアと話していると楽しく時間が過ぎていく。  
亜沙は頼りがいがあり、人間的魅力に溢れている。年齢もあるのだろうけど、気さくに悩みを  
打ち明けられ、嫌な顔一つせず相談に乗ってくれる彼女は自分にとっても大変魅力のある人物  
であった。――だから、ダメなのだ。  
 
他の女の子と稟が仲良くしても、稟はそのうち自分に帰ってくる。そんな自信があった。  
根拠のない自信ではあるが、それほど不安になる事もなかった。だけど、シアや亜沙が仲良く  
なれば、自分はその居場所ごと彼女たちに取られてしまう――そんな気がするのだ。  
自分が彼女たちに勝ってるところはどこか――無意識にそれを探してしまう。  
容姿に対するコンプレックスはそれほどない。元々、稟は容姿で女の子を判断する男の子では  
ないし、ネリネは別格としてもシアや亜沙が自分より遥かに綺麗な子だとまでは思わなかった。  
運動神経や能力もそれほど問題になる事でもない。やはり問題となるのは――性格だった。  
(私はどうしてこんなにつまらない性格なのだろう――)  
いくら優しく振舞って尽くしていても、自分と同じ事が出来る、明るくて頼りがいのある女の子が  
現れれば稟はそちらに靡くだろう。そして自分の事はそのうち忘れてしまうに違いない――。  
楓は深くそう信じてしまっている。  
 
無論、本来は明るいだけが女の子の持つ美点ではない。  
楓は自分には『気立ての良さ』と言う美点がある事を見失っている。男を安心させ、リラックス  
させてくれる雰囲気を作れる才能――それはシアの『明るさ』や亜沙の『頼りがい』に匹敵する  
事なのだが、暗い情念に凝り固まった楓はその事を思いつかない――。  
勿論、楓はこれらの考えが極端な自分の主観で、自分も含めた女の子達を正確に評価している  
わけではない事にも気づいていない。  
また気づいていたとしても今の楓にとってはどうでもいい事なのだろう。自分が納得できるか  
できないか、それによってその女の子は敵か味方か――それが厨と化した楓の考えの分岐点で  
しかなかった。  
そして、シアと亜沙は楓にとって『敵』になってしまっている。  
 
だから、楓はシアと亜沙に辛く当たった。  
シアに対する効果はとても楓を満足させるものだった。暗い情念をシアにぶつけ、彼女を  
惑わせ、陰鬱に追い込む――実際にさっきシアは本当に落ち込んだ顔をしていた。  
そんな顔をもっと見たくて仲直りするそぶりを見せ、直後にそうでない事を見せつけた。  
一度喜ばせておいてから再び奈落に突き落とす。そうされた相手は一時希望が見えただけに  
より深い絶望に陥るのだ。  
シアは基本的に単純な子だ。この楓の『悪意』に晒されて対応する術を知らない。  
友達だと思っている女の子にそんな仕打ちを受けたシアは泣きそうだった。いや、実際には  
泣いていたと思う。健気な彼女はそれを顔に表さないだけだ。  
その事が手に取るように分かり、楓は痛快だった。  
 
だけど、亜沙は違った。彼女は楓の皮肉や悪口雑言にはてんで耳を貸さず、楓に向かってきた。  
拒絶しても怯まない。逃げようとしても追いかけてくる。本当にこの先輩は苦手だった。  
その亜沙の行為が決してイヤなのではない。むしろ、こんな自分に気を使ってくれる事が凄く  
嬉しいのだが、それを認めると彼女の良さを認めることになり、楓の心の中で様々な矛盾が  
生じた。稟を巡る想い、亜沙に対する思い、それらの中から生み出される数々の齟齬をきたす  
事柄を解決できず、楓はそのフラストレーションのはけ口として亜沙に乱暴するようになった。  
 
亜沙に最初の急所蹴りを食らわせた時、胸がすーっとした。自分を悩ませるこの先輩が自分の  
やった事で苦しんでいる。その気持ちが楓をゾクゾクさせた。  
急所蹴りと言う手段も魅力的だった。痛さや苦しさは勿論だが、女の子にとってとても恥かし  
くて屈辱的な状態にさせられる――普段はカッコ良くて頼りがいのある亜沙がその恥かしい  
痛みに身を任せざるを得ない辛さ。楓自身もこの試合でシア(裏シア?)に食らっているので  
その気持ちは良く分かっていた。それだけに尚悪質とも言えるのだが。  
 
だからわざと『マン蹴り』と言う言葉を使って亜沙をより不安に陥れるつもりだった。  
その言葉には、文字どおり『マン』を蹴る――ソコを狙ってますよ、先輩♪ と言う意味が  
常に込められていたのだ。プロレスの様にピンチになった時の脱出手段として使うだけでは  
なく、それを使う必要のない時でも、或いは他の技を使った方が有効な時でさえ、楓は  
『マン蹴り』を狙っていった。それも亜沙に対してだけだ。  
逆に言えば、これも『亜沙先輩ならこういう事をしても大丈夫』と言う一種の甘えの様な  
気持ちも存在していたのだが。  
 
けれど、亜沙はそんな楓のちっぽけな脅しには屈しなかった。  
逆に楓を捕まえると自分の必殺技を使い、逆に楓に『オマンコ〜!!』と叫ばせてより以上の  
恥辱を与える反撃に出た。そこで畳み掛けられたら楓も屈していたかもしれない。しかし、  
亜沙は楓がそれで反省するだろうと思い、そこで許してしまった。  
楓は恥辱を恨みにこそ思え、反省することなどなく機を窺って、こうして再反撃に出たのだ。  
 
だけど――楓の本音は違うところにあるかもしれない。  
(今度は、亜沙先輩も許してくれないでしょうね――)  
魔力解放した亜沙を見て楓は逆に嬉しく思った。こんな陰湿で嫌な性格の自分を叩きのめして  
欲しい――今の亜沙ならそうしてくれるかも。そんな期待がこみ上げてくるのを楓は否定  
出来そうになかった。  
 
(だから……もっとマン蹴りしますね――陰湿に、執拗に――)  
亜沙が聞いたら「何でそうなるのかな〜〜!?」と激怒するだろうなと内心楓は思い、  
クスクスと忍び笑いをした。その表情は悪戯っぽかったが、決して嫌な笑顔ではなかった。  
楓の魅力に溢れた、人々をドキッとさせる笑顔だった。  
 
 
 
        *         *          *  
 
 
「楓! 何ぼぉ〜っとしてるの!?」  
亜沙が楓に組み付いて押し倒した。今度は素直に電気アンマにはいかない。  
(またさっきみたいに蹴られたら意味無いもん)  
マン蹴りによる反撃を避けるため、亜沙はある程度楓の体力を奪ってから電気アンマに行く  
作戦に変えたようだ。押し倒した楓をうつ伏せにし、背後から首に腕を回して組み付く。  
プロレスのスリーパーの様な体勢になった。楓は技を掛けられまいと懸命に抵抗する。  
全裸の美少女が二人、濡れた人工芝の上でくんずほぐれつする淫猥な光景に同じ女の身である  
少女達も思わずゴクリと生唾を飲み込む。  
 
「亜沙先輩、格闘技で私に勝てると思ってるんですか?」  
「そんな絶対の自信は無いけど……仕方ないじゃない。楓はマン蹴りばっかり狙ってくるん  
だから……こうやって密着してればマン蹴りは食らわないもん」  
「フフフ、亜沙先輩でもマン蹴りは怖いんですか?」  
「当たり前でしょ! すっごく痛いんだから――楓だって分かってるくせに……」  
亜沙は怒りながらも楓が少しずつ頑なだった心を開きつつあるのを感じていた。マン蹴りの  
話をするのはおそらく自分をからかうためだ。今の楓の笑顔はそんなに悪くない。  
「でも……マン蹴りを恐れてたら、先輩得意の電気アンマでお仕置きは出来なくないですか?」  
楓はスリーパーに抵抗しながら楽しげに言う。  
やはり闘っていると気分も解れてくるのだろうか?  
「……くっ! で、でも……」  
「『驚愕の亜沙』って実は余り大した事ないんですね。マン蹴り如きが怖くて逃げちゃうん  
ですから」  
「あんたがやってくるんでしょうが! それに軽くならともかく、あんな思いっきり蹴るのは  
反則だってば!」  
「フフフ、こうしてたって先輩はマン蹴りから逃れられるとは限りませんよ?」  
「な……!? このくっついた状態でどうしようっていうの?」  
「こうすればいいんです……えいっ!」  
「くっ……な、なにを…………はぅん☆!?」  
 
ズン――☆!  
 
密着状態だったが、無警戒で楓の背後に回りこんだのは失敗だった。楓はスリーパーから  
逃げながらも亜沙との位置関係を測り、踵を折り曲げれば股間に当たるポジションに調整  
していたのだ。  
探っている間は会話でその意図をごまかし、後はタイミングを見て亜沙が少し足を開いた所を  
狙って蹴り上げればいい。密着した状態なので、亜沙には全く蹴りの軌道もタイミングも見え  
ない上、確実にクリーンヒットする。間合いを取って力一杯蹴り上げなくとも急所に当たるの  
だから飛び上がりそうになるぐらいのダメージはある。  
 
(そ、それにさっきの痛みが〜〜〜〜☆!)  
またしても急所を蹴られた亜沙は楓から離れて股間を押さえながら人工芝の上をゆっくりと  
転がる。時々震えるように小刻みに痙攣しているのはさっきの痛みがぶり返してるからか。  
亜沙はカレハの治療を断って再び戦いに臨んだ事を後悔していた。  
「亜沙ちゃん、治療しましょう……ね?」  
カレハの治療を今度は素直に受ける。とは言え、これも結構恥かしいのだ。気心の知れた  
カレハではあるが、そのカレハに自分の股間をじっくり見つめられながら治療されるのは、  
気恥ずかしく照れてしまう。もっとも今は恥かしがってる場合じゃないが。  
 
楓は亜沙に追い打ちをかけようともしない。さっきの電気アンマのダメージを抜きながら、  
亜沙の悶える姿を楽しんでいるのだろう。  
「フフフ……亜沙先輩。マン蹴りのパターンはまだまだありますよ? それでも勝負します?」  
楓は朗らかに笑う。さっきと同じく、人をほっとさせる優しい笑顔――。  
「……その笑顔、嘘でもいいからシアちゃんに見せてあげてよ」  
「いやです」  
楓は即答した。完全な拒否だ。  
「シアさんには……もっと苦しんでもらいます。精神的に。精神攻撃が効かない図太い先輩には  
マン蹴り責めで苦しんでもらいますけどね」  
「楓さん……」  
亜沙と楓の会話にカレハが口を挟む。珍しく真剣な表情で、思わず言わずにおれなかった、  
と言う意志が表情に出ている。  
 
「……なんですか?」  
楓はカレハを強く睨みつけて黙らせようかとも考えたが、続きを聞いてみたくて先を促した。  
「亜沙ちゃんはともかく……シアちゃんにはもうやめてあげて。シアちゃん、本当に辛そう  
です……多分、シアちゃんは楓さんに屈しても許して欲しいと思ってますよ」  
その、『亜沙ちゃんはともかく』と言うのをやめろ! と亜沙は心の中で思ったが、カレハの  
要求に対する楓の答えは聞きたいので黙っておく。楓の答えははっきりとしていた。  
「イヤです。亜沙先輩が頼んでもカレハさんが頼んでもダメです。勿論、シアさん本人が頼ん  
でもダメです。私はシアさんを支配したいわけじゃないですから」  
楓は亜沙とカレハを見比べながら言う。自分の言葉に先輩達が困惑の表情を浮かべるのが楽し  
かった。  
 
「私がやりたいのは、シアさんと亜沙先輩を苦しめたいだけ――シアさんは精神攻撃が一番  
効くみたいだから、しつこくこれを繰り返します。亜沙先輩はマン蹴りで十分ですね」  
クスクスと楓は笑ったが、カレハは笑わなかった。  
「そんな事をして……楓ちゃんには何か良い事があるんですか? 友達を傷つけて心が痛み  
ませんか?」  
カレハが涙ぐみながら聞く。楓をちゃん付けで呼びながら聞くのは彼女に対し何か同情的な  
気持ちが湧いてきたからであろう。楓にもそれがわかったのか、少し顔をしかめる。  
「私は楽しいですよ――シアさんが私を見て落ち込むのも、先輩がマン蹴りされて悶えるのを  
見るのも」  
楓は俯きながら言う。もっとも、後者のは本当に楽しんでいるようだが。  
「それに……友達かどうかなんて分からないじゃないですか……私は……」  
「シアちゃんは楓ちゃんを友達だと思っていますよ。だから悲しんでるんじゃないですか」  
カレハが楓の言葉を遮って、真っ直ぐ見つめながら言う。カレハがこんな問答無用の態度を  
取るのを亜沙は初めて見た。声色こそいつもの様に大人しいが、ぽややんとした彼女が妄想  
でなく意志を表示するのは珍しい。  
「…………」  
さっきまでカレハを睨みつけていた楓のほうが逆に目を逸らせる。そしてこの会話を早々に  
打ち切りたいように亜沙のほうを向いた。  
 
「治療は終わりましたか? 続きをしましょう、亜沙先輩。マン蹴り地獄にご案内しますから」  
冗談めかして楓は言ったが、カレハのほうからは視線を逸らしたままだった。  
 
 
        *         *          *  
 
 
「楓ちゃん……」  
カレハが尚も言い募ろうとするのを、亜沙が軽く手で制した。  
「亜沙ちゃん……?」  
「カレハ……今の楓に正論を言ってもダメだよ。余計に頑なになって聞き入れてくれない」  
「でも……」  
「だから、ボクが……楓が人の言う事を聞く状態にするの」  
「どうやってですか……?」  
「楓を叩きのめして、力の差を見せ付けて、反省させて、謝らせるの。それしかない」  
「……でも、亜沙ちゃんさっきからやられてばかりですけど――」  
「あ、あれはマン蹴りにやられてるだけ! 本気になればボクだって……」  
クスクスクス……。  
カレハと亜沙の掛け合いが楽しくて仕方が無いような笑い声。それは楓から聞こえた。  
 
「亜沙先輩、『変身』してもちっとも変わらないですね。そういう所、大好きです」  
「ええ、ええ。ど〜せそうですよ。ボクにおしとやかになれって言ったり、大人っぽく振舞え  
って言っても無理。カレハや楓みたいに可愛い女の子になるのも無理!」  
「最後のは違うと思いますけど。…………私も……先輩みたいに楽しく振舞うのは無理って  
わかってます。でも……」  
「言葉じゃないんでしょ、もう? だったら闘いで決着をつけようよ」  
「え……? きゃっ!?…………きゃうん!?」  
 
楓の一瞬の隙を突いてまたもや亜沙が押し倒した。人工芝のマットにお尻を打って楓が呻いて  
いる間に亜沙は覆いかぶさる格好で密着した。お互いの裸の胸が押しつぶされ、変形する。  
二人が動くたびにそれ自体が別の生き物の様に蠢く様はどこか淫猥であった。  
 
「いたた……。お尻打ったじゃないですか……」  
「マンを何回も打ちまくってるボクより全然マシ! 楓、覚悟しなさい」  
「覚悟しなさいってこの体勢でどんな事を……?」  
亜沙はそんなに格闘技に優れているわけではない。組み付いてもそこから何が出来るのか?  
「こういうのはどう? えぃ!」  
「ひゃうん!? あ……ああん!」  
亜沙は胸合わせをした状態で上半身を固め、下半身は膝を立てて股間をグリグリした。  
 
グリグリ……グリグリグリ……グリグリグリグリグリグリ……!  
 
「はぁう……ん! だ、だめ……です……こんな……」  
楓が懸命に亜沙の膝を股間から退けようとする。しかし、上半身を固められているので手が  
股間に届かない。手の動きそのものも亜沙が両肘で押さえ込み、封じられてしまう。  
「膝電気アンマだよ……これも亜流だけど、結構効くでしょ?」  
胸合わせの時間が長引き、上気させた表情で亜沙が言う。楓の顔の両側に亜沙のロングヘアが  
蔽いをするようにかかり、視界が亜沙の顔だけに限定されるのは新鮮な感覚だった。  
 
「ハァ……ハァ……。こ、こんなの……ちっとも……きいてませ……ん…………ウウッ!」  
「息が上がってるけど? それに、こんなに頬を紅くして言う言葉かな〜?」  
亜沙はタイミングをずらしたり、テンポを変えたりして楓を一定のリズムに慣れさせない  
ようにする。  
クチュ……クチュ……。膝の動きにあわせて股間は濡れた音を発していた。  
「フフフ……流石に感じちゃうのが早いね。さっきの電気アンマの余韻が残ってたかな?」  
「あう……ん……。ち……ちが……」  
亜沙が楓を言葉責めにする。楓は何も答えられない。言い返せないのでなく、電気アンマに  
悶えていて会話ができないのだ。亜沙は電気アンマの効果の持続時間が長くなってきている  
事に気がついた。やはり長い戦いで体力も奪われているし、体も火照りやすく冷めにくく  
なっている。  
 
グリグリ……クチュ……クチュクチュ……グリグリグリ……  
 
「はぁあああ……あん!」  
亜沙は膝を巧みに使い、強く圧迫するようにグリグリしたかと思うと、頃合いを見計らって  
筋に沿うようにして軽く縦に膝を動かしたりした。その度に楓はゾクゾクと背筋を震わせて  
仰け反る。  
「はぁうん♪ こっちも効いちゃうね……」  
楓が背筋を仰け反らせるたびに、密着した胸が圧迫され、亜沙も感じてしまう。  
特に乳首同士が擦れ合った時などはお互いの体に電流が流れたように反応して弾けあった。  
楓は股間と乳首のダブル攻撃にも悩ませられる。  
 
「だめ……亜沙……せんぱ……い」  
ハァ……ハァ……と息を荒げて悶える楓。亜沙が膝を楓の太股に巧みに出入りするので内股に  
なって防ぐ事も出来ず、休みなく責め立てられている。油断したわけではないが、密着戦で  
さえここまで電気アンマを使いこなせるとは、時雨亜沙はやはり恐るべき存在だった。  
 
 
        *         *          *  
 
 
ギャラリーたちも息を呑んで二人の様子を見守る。  
「な……なんだか、こっちまヘンな気分になっちゃうね」  
「は……はい……」  
シアの呟きにネリネが受け答えする。しかし、二人とも亜沙たちに注目したままだ。  
(こんなのを見せられると……私が困ってしまいます――)  
ネリネが思わず股間に手をやる。どうやら彼女はこの中で一番エッチに反応しやすいようだ。  
カレハはシチュエーションの想像から妄想に入りやすいが、ネリネは視覚効果に弱い様子。  
さっきから手が股間付近をうろうろする。手をあてがおうとしたり、それに気づいて  
慌てて引っ込めたり。今も段々右手が股間に近づいてゆく――。  
 
「オナニー……したいの?」  
 
「えっ……!?」  
ドキッとして声の主を振り返ると、そこには麻弓が立っていた。ネリネが驚きの表情を  
見せるとにぱっと笑う。  
「そ、そ、そ、そ……。そん……な……事……」  
どもりながら返事をするネリネだが、語尾は消えてしまっている。自分自身でも完全には  
否定できなかった。事実だからしょうがない。  
「電気アンマしてあげよっか? オナニーよりいいでしょ?」  
「ええっ!?」  
麻弓にはさっきまで散々やられている。なのにまだ自分にしようと言うのか?  
「わ、私じゃ……飽きませんか?」  
言ってから何て妙な問い掛けをしてしまったんだろう……? とネリネは顔が熱くなる。  
「全然♪ むしろ、もっといっぱいしてあげたくなったよ」  
恥かしげに頬を染めるネリネに、にっこりと麻弓が微笑む。  
「私も手伝うッス!」  
シアがネリネの背後に回った。そしてその豊満な乳房を後ろから手を回して鷲掴みした。  
「きゃあん!? し、シアちゃん……?」  
「麻弓ちゃん、今がチャンスだよ」  
「そうね……フフフ……」  
「あ、そんな……いきなり…………はぁああん!」  
シアからは胸攻撃を受け、麻弓にはしっかり両足首を掴んだ固定式の正統派電気アンマを  
極められる。女の子の急所を上下ダブルで責められ、ネリネはたちまち甘い喘ぎ声を上げ  
始めた。  
 
「あ……ふわわッ……! あはぁ……!!」  
麻弓の電気アンマにネリネが身を捩って悶える。  
「フフフ……いきなり踵グリグリ式なのです♪ いまのリンちゃんには前戯なんて必要  
ないもんね」  
 
ダダダダダダ……ダダダダダ……ダダダ…………!  
 
「あああああああッ…………はぁん♪」  
振動を送る麻弓だが、その音はすぐにクチュ……クチュ……と濡れた音に変わってゆく。  
「わぁ〜〜……凄い洪水……」  
シアが驚いて目を見張る。ネリネのソコはいきなりびしょ濡れだった。じんわりと滲んで  
くるのでなく、泉が噴出すようにどくどくと湧いてくる。シアが洪水と言うのも無理はない。  
「テクニックタイプの電気アンマじゃないのにね。今のリンちゃんは威力の強い電気アンマ  
じゃないと物足りないかな?」  
「はぁ……うううっ!!」  
ネリネは二人の遠慮のない批評を聞いても反論できないまま悶えていた。実際に気持ち良すぎて  
抵抗する力が全くでないのだ。もう屈辱的とすら思わなくなってきた。自分はこういう事を  
されて喜ぶ、エッチでマゾ気質のいやらしい女の子なんだ、そう思うようになっていた。  
 
ネリネの割れ目は十分な潤滑油のお陰で滑らかに蠢いている。麻弓が割れ目に沿うように踵を  
動かせばヌルッと滑り、クリトリスを圧迫し、足先で突っつくようにすれば、ともすれば  
割れ目や菊門に指の関節が入りかける。その度にネリネの『天子の鐘』と呼ばれるソプラノが  
プールサイドに響き渡るのだ。  
 
「リンちゃん……もっと悶えていいよ」  
シアが耳元に息を吹きかけながら囁く。耳も性感帯であるネリネはゾクゾクと背筋を震わせた。  
「リンちゃんが逝ったら……今度は二人で麻弓ちゃんを責めよ♪ これと同じやり方で……  
麻弓ちゃんの胸、本当はステキなんだって二人で教えてあげようよ」  
「し……シアちゃん……」  
電気アンマの気持ち良さに虚ろになる表情だが、ネリネはコクリと頷いた。  
「フフフ……これで漸く本来の目的が果たせるッス♪」  
シアはワクワクしながらネリネの耳を甘噛みする。ネリネの官能的な悲鳴を聞きながら、  
校舎裏での約束――麻弓に電気アンマの復讐をする約束を思い出していた。  
 
「ウリウリ〜〜♪ どんどん責めちゃうよ、リンちゃん♪」  
麻弓は楽しくてしょうがない様子で蜜で溢れかえるネリネの股間をどんどん踵で責めている。  
シアの目線からはその標的となっている麻弓の股間の割れ目が電気アンマするたびに蠢くのが  
しっかりと見えていた。  
(今のうちにいい気になってるといいッス♪ 麻弓ちゃん……次はあなたの番なのです)  
シアはネリネの乳首をクリクリといじりながら麻弓の割れ目から視線を外さなかった。  
 
 
        *         *          *  
 
 
「こ、こうなったら……一度……リセットしないと……」  
楓が息も絶え絶えに言う。  
「リセットって……なにが?」  
責めている筈の亜沙の呼吸も乱れていた。やはりここまでマン蹴りに耐えていた間の体力の  
消耗が効いている。あれを一発食らうだけで、その苦悶に耐えるために全身の力を根こそぎ  
奪われてしまうぐらいの激しい消耗になってしまうのだ。  
また、膝電気アンマの体勢は通常電気アンマより不安定でバランスを取るのに力が必要になる。  
 
クチュクチュ……グリッ……クチュクチュクチュ……  
 
「ああ……うっ! はぁ……はぁ…………はぁ……んッ!! あああッ……!!!」  
 
膝を立てて押し込むようにグリグリする時間より、割れ目に沿ってしごきあげるように膝を  
動かす時間のほうが長くなってきた。この蜜でぐっしょりと濡れた状態なら、ピンポイントより  
性器全体を刺激する方が感じ方は深まっていくかもしれない。このあたりの責め方は流石に  
亜沙は一流であった。  
 
「はぁ……ハァ……。じゅ、純粋な……電気アンマ勝負なら……私は……勝て……ません……  
でしたね」  
楓が亜沙の体に強くしがみつきながら言う。そうして無いともう耐えられなかったのだろう。  
亜沙も楓も全身汗びっしょりだったが、楓はその状態で密着するのを不快だとは全然思わな  
かった。  
(それよりも……先輩――いい匂いがします……♪)  
すりすりと頬を亜沙の頬に寄せている楓。勿論、亜沙もそれには気づいているが剥がそうとは  
せずに楓のしたいままにさせておく。  
「マン蹴りされてもボクが有利だよ、楓。――どう? 降参する? しないと――意地悪な事を  
しちゃうよ?」  
「どういう事……ですか? フフフ……先輩にいじめられるなんてワクワクしちゃいます♪」  
「あのねぇ……」  
 
確かに「意地悪をして下さい♪」などと言われたら困ってしまう亜沙である。亜沙は基本的には  
S気の持ち主で、責められるより責める方が好きなのは確かだが、女の子を苦しめる方策は  
あまり持ち合わせていなかった。楓にやった木馬型電気アンマの様に気持ちよくさせる意地悪は  
沢山使うが、それも最終的には逝かせてあげるための技である。  
 
「このまま逝かせてあげても……楓は喜んじゃうだけなんだよ……ね?」  
「はい♪ あん……♪」  
楓は亜沙の膝の動きに感じながら答える。どうしたもんだか――亜沙は考えながら膝按摩を  
続けてきたが――。  
 
「手詰まりになったらリセットですよ、先輩」  
「だから、そのリセットって……なに?」  
「こうするんです……ウフフ♪」  
今まで大人しく膝電気アンマされていた楓が体を左右に揺さぶる。楓の上でバランスを取って  
いた亜沙は横転しそうになった。  
「きゃっ!? ……か、楓! あ、危ないよ!?」  
慌てて膝電気アンマしている足を外し、四つん這いになる。バランスを崩して倒れこんで  
肘とかを楓のボディに不意に叩き込んだりしたら彼女が怪我をするかもしれない。  
なんとかそうならない様に楓に覆いかぶさるような格好で踏ん張った。  
「こうして……こんな感じで……」  
「な、何をするつもりなの!? 止めなさいって!」  
「脱出の準備をしてるんですよ…………よし、準備終わりです」  
「だ、脱出のって、何の事……?」  
亜沙が不審に思った時――。  
 
ズドン――☆!!!  
 
「……はぐぅ☆!?」  
今度は下から楓の強烈なニーが亜沙の股間を直撃した。四つん這いになって全く無防備だった  
状態での衝撃。楓の膝蹴りは深々と亜沙の割れ目に食い込んでいた。  
またしても――またしても強烈なマン蹴りが亜沙を襲った。  
 
「☆◆%&$〇##?=%…………!!!」  
今日何度目になるだろう。カレハとプリムラには亜沙の高周波の悲鳴が聞き取れたように感じた。  
おそらく音域の問題ではなく、亜沙の吐き出した気を感じたのだろう。楓も満足そうににんまりと  
笑っている。  
 
「…………☆&%$#%!! ……うっくッ! ……くぅぅぅぅぅッ!!!」  
楓の上から転がり落ちた亜沙は内股になって股間を押さえ、両足をバタバタ激しく動かして  
のた打ち回った。悶絶――これほど今の亜沙にふさわしい言葉はあるまい。顔は苦悶の表情で  
真っ赤になり、悲鳴は断続的に聞こえる悲鳴、聞こえない悲鳴が入り混じってプールサイドに  
響き渡った。  
 
「あ、亜沙ちゃん……」  
流石にカレハが誰の許可も待たず、亜沙の元に駆け寄ろうとする。しかし、そのカレハにがっしと  
抱きついた少女がいた。プリムラである。  
「り……リムちゃん?」  
「カレハお姉ちゃん……だめ……」  
プリムラはカレハが亜沙の元に行こうとするのを止めた。  
「ナイスフォローです、リムちゃん」  
電気アンマの影響で腰が抜けた状態の楓が、プリムラの方に顔だけ向けてにっこり微笑む。  
「まままぁ……どうしましょう……」  
カレハはプリムラを振り切るわけにもいかず、オロオロするだけである。  
 
「か……れは……」  
亜沙は断末魔に近い呻き声を漏らすと、カレハが来れないと見るや、股間を押さえて内股に  
なって悶えている状態で横に転がる。そのままゴロゴロと転がってプールに体ごと落ちた。  
どっぽーん、と水飛沫が上がり、暫くの静寂があった後、落ちた位置と同じところに亜沙が  
顔を出した。そしてそのまま上半身だけ水面から体を出し、プールサイドに突っ伏した。  
そのまま暫く動かない。多分、先ほどの様に下半身を冷やしているのだろう。  
突っ伏したまま荒い息をつき、小刻みに体を震わせる気の毒な亜沙に誰も声を掛けられない。  
 
「油断しましたか、先輩?」  
一人、楽しそうな楓が声を掛ける。楓も度重なる電気アンマの影響で腰が抜けたように立て  
ないが、亜沙よりは全然状態は良さそうだ。  
「フフフ……。電気アンマが届く所はマン蹴りも届く所だって考えないと……。私と対戦する  
時に先輩が電気アンマしている間は、常にマン蹴りのリスクが伴うんですよ♪」  
からかう様に楓は言うが、それは真実だった。元々電気アンマは不文律の淑女協定で相手の  
股間を蹴らないのが前提で行うものだった。しかし、楓の様に悪意を持っていれば絶好の  
急所攻撃の機会にもなる。これは責める側責められる側両方に起こりうることだ。  
 
「これが『リセット』ですよ、先輩。先輩に電気アンマされるのは気持ちよくてイヤじゃない  
ですけど、負けたくないんです。謝るのはイヤだから――だから、何度でも『リセット』を  
狙いますよ。それがイヤなら――先輩がここで負けを認めるんですね」  
悠然と降伏を薦める楓。亜沙は黙って聞いていた(或いは痛みに耐えていた)が、体の震えが  
止まると、ふぅ〜〜っと息をつき、もう一度ザブンと頭を水に沈めてからプールサイドに  
上がってきた。カッコ良く跳ねるようにでなく、のたん、ぺたん、と這い上がるように。  
プールサイドに股間が触れた時、股間に電気が走り「ツゥ……!」と小さく悲鳴を上げた。  
体を震わせ耐える亜沙を楓は楽しげに他のメンバーは心配そうに見守る。  
四苦八苦しながらプールを上がると亜沙はそこでも大きく息をつき、呼吸を整えた。  
 
「フフフ……完全にグロッキーじゃないですか先輩。電気アンマされてる時間は圧倒的に  
私が長いのに……」  
「…………言いたい事はそれだけ、楓?」  
「えっ……?」  
楓のからかい口調のお喋りを黙らせると、亜沙はフラフラと立ち上がってカレハの元に行き、  
その胸に倒れこんだ。今度はプリムラも邪魔しない。カレハは亜沙を抱くようにして支える。  
 
「カレハ……念入りに治療して……楓が邪魔しに来るまで……」  
「え……? は、はい……」  
カレハは気を集中し、亜沙の股間に手をあてがってその痛みを取って行く。  
痛みが徐々に消え、代わりにえも言われぬ快感が痛めた急所を包んでくれるのは嫌いな感覚  
ではなかった。無論、それを感じられるようになるための強打体験は好きではないが。  
 
「楓……止めに来るまで今度はしっかり治療しちゃうからね。次ぎ動けるようになった時が  
――キミの最後だよ」  
亜沙が少し意地悪な表情で楓を見る。楓は何も言い返さなかった。  
(本当に大丈夫なんでしょうか――?)  
カレハは亜沙の事を心配していた。強気に見栄を切るのはいいが、結果はいつもこうやって  
マン蹴り食らってダウンしているばかり。  
次もそうならないといいけど――と亜沙を見ながらカレハは溜め息をついた。  
 
 

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