【其の壱】  
 
 
ザ――ッ……。  
 
温めのシャワーが私の胸から腹にかけて浴びせられる。  
茉莉花ってば、シャワーは熱めにしてって言ってるのに……。自分が熱いのは苦手なもの  
だから――。  
 
それでもシャワーを浴びていくうちに、私の思考力も段々と回復していった。  
さっきの晴樹に指摘された恥かしさ。それに優しいキス――。  
私は湯煙に曇る鏡に映る自分を見た。シャワーを浴びているせいか、口元はルージュを  
引いた様に紅い。  
 
(この唇に――私はキスされたんだ――)  
 
勿論、理性ではそれが違う事は分かっている。自分の頬に触れたのは鏡の中の自分では  
ない。晴樹の唇だ。……だけど――。  
 
「お姉ちゃん。シャワー、熱くない?」  
可愛らしい声で聞いてくるのは茉莉花だ。この子はこれでも熱いと思うのか?  
湯温のデジタル表示を見ると39度だった。まだまだお子ちゃまなんだから――。  
 
「大丈夫。これでいいよ――。ありがとう、茉莉花。綺麗にしてくれたんだね」  
「エヘヘ……。お兄ちゃんの言いつけだもん♪」  
茉莉花は恥かしそうに微笑む。  
 
そうだった――。今、体を洗ってるのは、この後、晴樹にお仕置きされるため――。  
そう思うと私の体の奥からゾクゾクとこみ上げてくるものがあった。思わず両腕で胸を抱え、  
太股をキュッと内股に捩じらせてしまう。  
 
(お仕置きの後は『調教』だ。電気あんまでの、な――)  
 
晴樹の声が脳裏に響き渡る。きっとお仕置きそのものも電気あんまだろう。私のあの様子を  
見て他のお仕置きをするとは考えにくい。  
それにわざわざ『お仕置き』と『調教』を分けているのは、それぞれ違った趣きの責め方を  
思いついたからだろうか。  
 
さっきの私のうろたえた様子を見てニヤリと微笑んだ晴樹の顔――私は多分一生忘れる事が  
出来ないだろう。だけど、それが初めてではなかった気もする。  
私と同じ瞳の色。私と同じ髪質。私と同じ口元――。  
でも、私にはあんな表情はきっと出来ない。あれはきっと、いやらしい男の子が生贄の女の子を  
見る時特有の、たちの悪い笑顔なのだろう。  
 
(私はどうして女の子に生まれたんだろう――)  
 
シャワーで濡れた体を茉莉花に柔らかいバスタオルで拭かれるままになりながら考える。  
これからされる事は同じ体を持った晴樹と私のうち、私だけが体験する事なんだ――。  
半ば妄想的に私はそう思った。晴樹は男の子だ。獲物を狩り、嬲り、弄び、犯す。  
生贄である女の子を支配し、思うがまま陵辱する側にいるのだ。そして、私はその生贄――。  
 
(でも……こうなる事は分かってた気がする――)  
 
私は手入れされる人形の様に茉莉花に身を任せながら、幼い少女の頃のある出来事を思い  
浮かべていた――。  
 
 
          *           *           *  
 
 
今までは私の方が優位に立っていた。  
私は晴樹をいじめるのが好きだった。私と同じ顔で同じ声で同じ匂いがする晴樹――。  
その晴樹の唯一私と違う所――そこを責めるのに私は幼い嗜虐心を掻き立てられた。  
物心ついてから、私は何かと晴樹にちょっかいを掛ける事が多かった。大抵はなんでもなく、  
晴樹がちょっと怒って私がちょっといじめて泣かして、でもすぐ仲直りする程度の事だったが、  
日に日に自分の中に黒い渦の様な欲望がこみ上げてくるのを私は自覚していた。  
 
そんな時の私は晴樹の男の子のシンボル――オチンチンに注目していた。  
お風呂に入るときなど、一緒に入って何度も股間に手を入れ、晴樹を驚かせた。  
少し大きくなるとそれだけではすまなくなり、わざとプロレスごっこを仕掛け、電気あんまを  
多用するようになった。最初は擽ったそうな晴樹だったが、私が執拗に長い時間やっていると  
女の子のように泣き叫んだ。その時はやめてあげたが、それは晴樹の事を思い遣ってでは  
なかった。お母さん達にばれない様にする為の悪知恵だった。  
 
勿論、晴樹には固く口止めしておいた。お母さんに告げ口をしたら、逆に私が晴樹にエッチな  
事をされたと泣いて抗議する、と脅して。晴樹は口惜しそうだったが、気弱げにうつむいて  
私の言いなりになっていた。その表情が更に嗜虐心を掻き立てて、私は背筋がゾクゾクする  
気持ちを抑えられなかった。  
 
晴樹をそうやっていじめた夜は私はなかなか寝付けなかった。そんな時は晴樹が寝るのを待ち、  
そっと寝室を抜け出して、全身鏡があるドレッサーの前に立って裸になった。  
カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされて、鏡に映し出される自分の裸身を見つめ  
ながら、私は自分の股間に手をやってそのあたりをまさぐっていた。  
 
(晴樹のここについてるモノを……いじめたんだ――)  
電気あんまで――。男の子が電気あんまされるってどんな気持ちなんだろう。ここを蹴られる  
と凄く痛いみたいだけど。私は女の子である自分にはわからないその感覚を想像しながら、  
あそこを擦るようにして自分を慰めた。  
 
(この鏡に映っているのは――晴樹?)  
私は自慰で呆然となった頭で夢想した。鏡の中にいる晴樹にキスをして、昼間に電気あんまで  
いじめた所を優しく撫でてあげた。  
勿論、そこには昼間踏みつけたオチンチンはない。あるのは一筋の割れ目――その割れ目に  
そって指でなで上げると私は全身に電気が走ったようにゾクゾクと震えていた。  
 
(私は男の子をいじめたかったのかな――?)  
違う、と私は思った。男の子の急所だからいじめたのじゃなく、晴樹の急所だからいじめた  
――晴樹が電気あんまで悶えて可愛い悲鳴を上げるのを聞きたかったからいじめたんだ。  
私と同じ顔の晴樹が――。  
火の気もなく冷え込む夜、しん……と静まり返った居間で、まだ少女の私は火照る体を  
持て余していた。荒くなった息が白く、じんわりと汗が滲む肌――私は一心不乱に自分の  
いけない所を弄んでいた。  
 
(もし、それが晴樹じゃなく――私自身が電気あんまされたら)  
一体どうなるのだろう――。幼い私はそれを想像したくもなかった。今優しく触っただけで  
電気が走り抜ける場所を男の子に責められる――。  
もしそんな事になったら、どうなってしまうか分からない。  
なぜか私は、鏡の中から晴樹が抜け出して自慰に耽るイケナイ私をお仕置きする事を想像した。  
 
その効果は……絶大だった――。  
 
(はぅああ……!!)  
私は膝がガクガクするような震えを腰の辺りに感じ、そのまま崩れるようにへたり込んだ。  
だけど、妄想はそれだけには留まらなかった。晴樹の両手が私の両方の足首を掴み、右足が  
私の割れ目の部分をしっかりと踏みつけた。  
 
(い……いやっ……)  
泣きそうになる私を容赦せず、鏡の中から抜け出してきた晴樹は私の女の子そのものを  
ブルブルと震わすように電気あんました。  
(だ、だめ……! 晴樹……許して!!)  
私はそこが女の子も急所である事を知った。それもただの急所ではない。痛さの急所でも  
あり、快感の急所でもあるのだ。そして電気あんまはその両方を責め立て……或いはその  
どちらでもない世界に女の子をいざなう、神秘の技になる――。  
私はされた事のないその技について何故か如実にその感覚を味わった気になった。  
だけど、それは多分真実である事を少女の私は悟っていた。。  
 
(この事は晴樹には知られちゃいけない――)  
なぜか、はっきりとそう思った。電気あんまに弱い女の子の秘密――それを知られたら最後、  
私は晴樹の性奴隷として一生を送る事になるだろう――なぜかそんな気がした。  
 
そして――。  
 
その時の事を私は鮮明に覚えている。鏡には私自身が投影した晴樹だけでなく、もう一人の  
晴樹が映し出されていた事を。その晴樹は裸ではなかった。パジャマを着て私の痴態を  
冷ややかに見つめていた。私は晴樹に見られながら昇り詰めて――失神したのだ。  
 
 
          *           *           *  
 
 
鏡に映っていた晴樹は、本物だったのか――?  
 
それとも単なる私の思い込みか幻覚だったのか。  
翌朝、理性を取り戻した私は心配になり、思い切って晴樹に尋ねてみた。  
(昨日の夜、居間で私が何をしてたのか、見た――?)  
さり気無く――少なくとも自分ではさり気無く出来たはずだと思った――聞く私に晴樹は  
きょとんとした表情をする。姉ちゃん、寝ぼけてるの――? 朝食のパンを咥えた晴樹の  
顔にはそう書いてあった。  
(……なんでもないわ。変な事聞いちゃったみたいね)  
私が照れくさそうに髪をかき上げると晴樹は首を傾げていた。安堵の表情を浮かべる私を  
不思議そうに見つめながら。  
その後は、いつもの様に一緒に朝食を摂っているお父さんとお母さんに今日の学校の予定  
などを話し、日常が失われていない喜びに浸っていた。  
 
その一幕を忘れ、身支度をして学校に行こうとした時、先に玄関を出たはずの晴樹とすれ違った。  
昨夜に現れた晴樹が自分の妄想だとわかり、気が楽になった私は晴樹に微笑みかけた。  
(晴樹? 忘れ物でもしたの?)  
しょうがないなぁ、とお姉さんぶった笑顔を向ける私に晴樹は俯いてこう言った。  
 
(…………覚えてるよ、紫苑。……僕の名前を叫びながら裸でオナニーしてたよね?)  
 
私の笑顔はその場で凍りついた。晴樹の俯いた顔にはアルカイックな笑みが浮かんでいた。  
私の日常は既に崩壊していたのだ。少なくとも晴樹と私の間では――。  
私が覚えていた晴樹のタチの悪い笑顔――それはきっとこの笑顔だったに違いなかった。  
 
 
          *           *           *  
 
 
あれから2年――。  
晴樹はその事を口に出したのは一度も無い。  
だけど、忘れるはずがない。今日のこの時まで取っておいたのかもしれない。  
晴樹のいやらしい微笑みは私の脳裏に張り付き、消えなくなっていた。  
 
 

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