「あむ」
「なによ」
口唇を尖らせた子供っぽいムスくれた表情。
そっけない返事。
それでも華奢な身体に回した腕から逃れようという気は、もう無いらしい。
暖かな布団の中、みぞおちの辺りに埋めるように押し付けた俺の頭をぎこちない動作で小さな手が撫でていく。
柔らかい仕草にささくれだっていた心ごと抱き締められている気になって、自分がもし本当に猫だったなら、
今頃、ゴロゴロと喉を鳴らして喜んでいたのだろうかと馬鹿な思い付きに至った。
「イクト…ねちゃった?」
囁くような問い掛けに無視を決め込んで黙っていると、溜息をついた唇から、やがて規則的な寝息が聞こえてきた。
どうやら俺を抱えたまま本当に寝入ってしまったらしい。
「…信じられねえ」
無神経で無防備な少女。
自分が今までで散々、敏感な彼女をからかうように触れてきたのに、異性に対してあまりにも警戒心が無さ過ぎる。
昼間もそうだ。幾ら想い人とはいえ、簡単に自室に男である唯世を上げて、そのまま告白までされるとは。
クローゼットに隠れたまま様子を伺った限り、二人はかなり親密な雰囲気だった。
顔を寄せてぎこちなく想いを伝え合う様を思い出して、凪いだ筈の心にまたジリジリと焼け付くような焦燥感が湧いてきた。
自分以外の者が少しでもあむに触れる事を許さない。許したくない。
唯世に触れる事を許したあむ自身にも黒い感情は向かっていた。
誓いを交わした訳でも無いのに彼女自身にそんな無茶を望む自分を、幾斗は愚かだと自覚しながら止められない。
軽く頬に手を滑らせてみても少女は小さな吐息を漏らすばかりで起きる気配が全く無い。
このまま悪戯されたって文句言えねえんだぞと頭の中で勝手に告げて、薄い生地の夜着の上から未成熟な肢体を確かめるように辿った。