「なに意識してんの?」 悪戯な微笑を浮かべて、イクトが体を乗り出す。
「い、意識なんてして無いもん!」 あむは少し声を尖らした。
抱えていたクッションをイクトに向けて突き出し、盾のようにして構えた。
おまけにイクトの顔が見えないようにして。まるでバリケードだ。
イクトは、突き出されたクッションの上に肘をつき、顔を乗せて頬杖をついた。
そして、徐々に体重を掛けながら、
あむにとって唯一バリケードの役目を果たしているクッションを、少しずつ押し下げていく。
少しずつ下がっていくクッションの向こうに、
尖った声とは裏腹に、全身で困惑を表しているあむの姿が見えてくる。
やがてクッションがバリケードの役を失い、二人の間に落ちると、
イクトの顔はあむを見上げる位置にあった。
そしてあむを斜め下からじっくりと観察するように覗き込み、
「ふ〜ん。じゃ、何? 期待してるの?」イクトは、いつもより低い声でゆっくりと訊ねた。
「期待なんてしてないしっ… わ!こっち来んな!」
慌ててあむはクッションを、再び自分の物にしようと引っ張るが、
クッションはイクトが抱えてしまって奪えない。
しかも、クッションを力いっぱい引っ張ったら、イクトまで一緒に寄ってきてしまったのだ。
「えー だって。おまえがクッションごとオレを近づけたんじゃん」
イクトは慌てているあむに、いつもの調子に戻って淡々と答えた。
いつもと変わらぬ彼の様子に、ちょっと安堵したあむがクッションを握る手を緩めると、
イクトは急に天邪鬼な色を瞳に浮かべ、
二人の間にあったクッション〜唯一の隔たり〜を、反対側のソファにどけてしまった。
「…え…」あむは、クッションの行方を改めて確認しながら呟いた。
「…なぁ…」ボソッと、でも甘えが潜んだイクトの声に、
あむが視線を戻してみると、相変わらず斜め下から天邪鬼な瞳で見つめている。