「あー、今日もよく働いたー」  
「よく働いたかどうかは雇用者側が決めることですが、ともあれお疲れ様でした」  
「…あんたいつも一言多いんだっての!」  
 
三角巾を外しながら、片付けの最終確認のため、  
十子さんが閉店後の店内を歩き回っています。  
今日は店長がいない上にお客様もたくさんいらっしゃいましたから、  
十子さんも負担が多くて疲れてるはずなんですけど…  
…その足取りはなお力強いことこの上ありません。  
擬音をつけるとしたら「のしのし」でしょうか。体力オバケですね。  
あれでは嫁の貰い手がないでしょうねえ……ないほうが…僕は嬉しいですけど。  
 
「あれ? どーしたのこれ?」  
 
気づいてくれましたか。  
わざとらしく置いておいた中華まんに、気づいてくれましたか。  
 
「お客様の食べ残しです」  
「えー、ぜんぜん手がついてないじゃん、もったいなーい」  
「ええ。どうせ処分するものですから、食べてもかまいませんよ」  
「ほんと? やったー、いただきまーす!」  
 
閉店間際にこっそり蒸し上げたんですから、手がついてるわけありませんね。  
そうです。僕が、十子さんのために、用意したんです。  
食べてくれなきゃむしろ困ります。どうぞ召し上がってください。  
一応、ホワイトデーのお返しのつもりなんですが……、  
…僕がそんなふうに気を遣う人間だ、ということを悟られてはいけませんからね。  
うう、こういうときは僕の素直でない性分がイヤになります。  
 
どさっ。  
 
…え?  
一個目の中華まんを食べ終え(速い!)、二個目へ手を伸ばした十子さんが、  
そのままの姿勢でカウンターの下へと力なくへたり込みました。  
そんなに美味しかったんでしょうか。  
普段よっぽどいいもの食べていないんですね。  
お給金を下げるのも考えものでしょうかねえ。  
立ち上がることもできない従業員では、雇っている意味がなくなってしまいますよ。  
…なんて言ってる場合ではありませんね。どうしたんですか!  
 
「と、十子さん!?」  
「ふや〜……?」  
 
意識を失ってはいないようですが、しっかりしているとも言えません。  
瞼がとろんとしています。目線は泳いでいます。  
顔がぽわっと赤いです。呂律もまるで回っていません。  
…もしかして、酔ってます、か?  
 
いや、悪いものを食べさせたのではなくて安心しましたけど…なんで酔ってるんでしょう。  
…可能性があるとすれば紹興酒です。中華まんの餡に入れました。  
でも、ほんのちょこーっとですよ。香り付けにもならない、文字通りの隠し味なんです。  
子供でも酔ったりしないと思いますけど…めちゃくちゃ弱いんですね。知りませんでした。  
 
「…はぁ。しっかりしてくださいよ、十子さん」  
「あうう〜、なぁにがよぉ〜?」  
「ほら、立ってください」  
「……ぅぷ…おみずぅ〜……!」  
「はいはい、水ですね」  
 
流し台のところへ行き、グラスに水をそそぎながら  
改めて十子さんの姿を眺めてみます。  
いつもは雄々しく恐竜のような存在感を誇る十子さんも、  
今ばかりは儚げな視線としおらしい仕草で、  
以前、お給金を前借りに来たときのようですね。  
今の十子さんもあんな感じで…ええ、不覚にもときめいてしまってますよ。  
 
普段からああしていれば、贔屓目抜きに美人なんですけどねえ。  
目がとろんとして、身体に力が入ってなくて、頬まで染めて。  
色っぽい、とまではいかないかもしれませんが、ちゃんと女らしくて弱々しい感じです。  
 
…弱々しい?  
 
…ああ、そうです。  
今の十子さんならば、僕の背丈でも。僕の腕力でも。  
 
「うぅ〜……ピンクの象がぁ〜」  
「幻覚を見ないでください」  
「ピンクの象がぁ〜…素早くてぇ…背後が取れない〜…!」  
「幻覚を倒そうとしないでください。水、持ってきましたよ」  
「…あ? …あ〜、ありがと〜、ちょ〜だい〜」  
「ええ、ちょっと待ってくださいね」  
「……ふぇ?」  
 
僕はしゃがみ込んで十子さんの目の前に顔を持っていき、  
持ってきたグラスの水を口に含みます。  
そのままグラスをカウンターに置くと、  
何をしているのか、といった表情を浮かべる十子さんの顔を両手で挟み、  
少し引き寄せて、一気にキスをしました。  
 
「んむっ!? んー、うー、んー…んん、むぅう!」  
 
僕の口内の水を十子さんのほうへ流し込みます。  
十子さんは目を白黒させ、僕の腕の中から逃れようと肩に手を掛けてきますが  
今の十子さんでは僕を持ち上げることさえできません。  
身体を気持ち程度に揺すり、声にならない声を上げるだけです。  
 
「んぅ…! …ん…むぅ…ちゅ、ちゅ……」  
 
十子さんはすぐにおとなしくなり、諦めたのか、  
それとも水を摂取することが最優先だと脳が判断したのかは定かではありませんが、  
目を瞑って水をこきゅこきゅと飲み下してゆきます。  
僕から口移しした水が、十子さんの体内に。なんだか無性に興奮しますね。  
 
舌で水の流れを妨害してやると、  
十子さんはそれに抗うように舌を動かしてきました。  
思うツボとばかりにその舌を絡め取り、蹂躙します。  
 
「ん…ん…ぷあ…ん…ちゅっ…」  
 
頬に当てていた手を後頭部と背中にそれぞれ回し、  
なにせ相手が座った姿勢ですからちょっと不格好ですが、きつく抱きしめました。  
十子さんの貧乳…もとい、つつましい胸が当たり、  
つつましいなりに柔らかいことがよくわかります。  
ううん、筋肉質なわけでもない、小さくて細い肩ですね。  
これにヤクザをボコボコにするようなパワーが秘められてるんですから、女体の神秘です。  
…女体の神秘はちょっと違うでしょうか。  
 
しばらく空中を彷徨っていた十子さんの両手が、  
僕の頬に着地し、そっと添えられる形になりました。  
柔らかくて優しい、しかしやたらと熱を帯びた手です。  
お酒のせいなのか、それとも…。  
…いや、いくらなんでも自惚れすぎですかね。  
 
十子さんの口内を堪能し尽くした後、唇を離して見つめ合います。  
僕と十子さんとを繋ぐように、つう、と引いた糸を回収するかのごとく、  
もう一度口付け合い、さらに唇以外へもキスの雨を落とします。  
 
「…んむ、ふぅ、十子さん…十子さん……好きですっ!」  
「ぷは……あぅ、私もぉっ…×××さん…んっ…! …大好きぃ…!」  
 
……ん?  
 
……いま、僕じゃない男の名前が聞こえたような気がしましたけど。  
以前、十子さんがひらひらの可愛らしい服を着てきたときに言っていた、  
あの「好きな男(ひと)」というやつでしょうか。そいつの名前でしょうか。  
 
…腹が立ってきましたよ。  
つまり、今のキスも、僕じゃなくそいつとしている気分だったんですね。  
僕のキスでソノ気になってくれたんじゃなくて、  
酔いのせいで希望と現実がごっちゃになってただけなんですね。  
 
…キスだけでやめておくつもりだったんですが、気が変わりました。  
どうせ酔ってるんです。何をしても明日には覚えてないでしょうし、  
覚えてたとしても「そういう幻覚でも見たんでしょう」で片づけられます。  
ズボンのベルトを外しながら、十子さんの耳元で囁きます。  
 
「…舐めてください」  
「……ふぇ?」  
 
意味が分かっていないらしい十子さんを見据えながらズボンとトランクスをずり下げると、  
既にがちがちに屹立している僕自身が顔をのぞかせました。  
十子さんは手で目を覆いながら「わあ!?」と声を上げましたが、  
開いた指の間からしっかり見てくれているようです。  
…一応、身体のわりにはかなり大きいつもりですが、  
大きさに驚いたわけではないでしょうね、たぶん。  
 
「舐めてください」  
「…あうぅ…わかり…ましたぁ…」  
 
敬語ですね。やっぱりその好きな男が相手ならどんな命令でも従うみたいです。口惜しい。  
僕自身を顔の前に突き出して促すと、  
十子さんは一度舌をちろりと出した後、僕自身に手を添えました。  
十子さんの熱い吐息を感じます。  
 
「む…ん…れろっ……ちゅう…んっ」  
「…ん……!」  
 
十子さんの舌が、はじめはおずおずと、しかしすぐに積極的に  
僕自身を這いまわってゆきます。  
その己も感じているかのような表情と、  
ぬめぬめかつちょっとザラザラな舌の感触だけでもう達してしまいそうですが、  
そこをぐっとこらえ、綺麗なピンク色の舌の動きに意識を集中させました。  
鍛えている人は舌の筋肉もよく動くんでしょうか。関係ないとは思いますけど。  
 
「ぴちゃっ…ちゅっ、つつぅー……むっ、んむ、んぅうぅ……」  
「!! うあ…っ!」  
 
先端から根元までを唾液塗れにするほど舐め回した後、  
十子さんは僕のお尻側に手を回して固定し、  
僕自身を口いっぱいにくわえ込んでいきました。  
正直そこまでは期待してなかったんですが…嬉しい誤算です。  
…まさか、経験済みじゃないでしょうね?  
 
「…くぅ……! …そのままっ…前後に動いてください…!」  
「(こくこく)  
 んっ…むっ、んぐっ…うん、んぅ、んちゅ…」  
 
小さくうなずいて、じゅぷじゅぷと音を立てながら  
十子さんは僕自身を口内に納めてゆきます。  
全部納まったところで口内に馴染ませるように舌の根元をぴくぴくと動かし、  
さらに僕が頭に手を置いたのをきっかけに  
十子さんはそのままゆっくりと顔を動かし始めました。  
狭い十子さんの口内をしごかれるように僕自身が移動し、  
しかもときどき歯が掠れるため、二種類の刺激が協力し合いながら僕を襲います。  
 
「ん…ちゅ、ぷあ……ん、ちゅぷ、ちゅぱ、ちゅ…」  
 
段々とペースが速まってゆき、ものすごい快感の波が僕自身に叩き込まれます。  
頭が真っ白になってきました。  
限界はとっくに超えていましたが、限界の向こうの限界ももう限界です。  
 
「じゅぷっ、にゅぷっ、んむ、ちゅっ、むぅっ、んんぅっ!」  
「と、十子…さんっ…! くぅ、ぅああ…っ!」  
 
びゅくびゅく、と音が聞こえた気がします。  
身体の中に通ってる芯が抜け出たんじゃないか、とも思える感覚で、  
僕は十子さんの口内に、大量の欲望を叩きつけました。  
 
「!! んむぅ! …ん、ちゅ、ん、ぅん、んく……んぷぅ」  
「…十子…さん…! …愛してます……!」  
 
十子さんは僕自身から口を離すことなく、液体を飲み下してゆきます。  
その淫靡な光景も手伝い、あまりの快楽から意識朦朧としてきました。  
ちゅるん、と十子さんの口から僕自身が抜き去られると、  
自由のきかない僕の身体は、そのままゆっくりと後ろに倒れ込んでいきます。  
…ああ、少しだけ休みましょう。  
 
 
「…ん…ふぅ。  
 …まったくもう、あんた小さいのに、こんなにいっぱい出してくれちゃって……」  
 
……え?  
……いま、なんて、言いまし…た?  
 
「…愛してくれてるんだし、まだいけるよね?」  
 
放出してもいまだ固さを失っていない僕自身に、  
にぎにぎと品定めされているような感触が伝わります。  
…意識を手放す直前、割烹着の裾に手を掛ける十子さんが  
「にぃ」と笑ったように見えました。  
 
 
 
 
<了>  
 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!