白いシーツの上に、長い黒髪が広がっている。  
格子窓から差し込んでくる月の光を受けて、艶やかな輝きを放っている様は、まるで大きな蝶のように見える。  
漆黒の髪とは対照的な、白い肌を覆うものは何も無い。  
細い首に華奢な肩、豊かな胸は横たわっても椀型を崩すことなく、折れるのではないかと思えるほどくびれた腰は、肉付きの良い尻へと滑らかな曲線を描き、すらりとした足が伸びる。  
もちろん、顔立ちも美しい。  
「……綺麗だな。」  
ため息とともに、素直な感想をもらす。  
「ありがと。…あんたにそう言ってもらえると、うれしいわ。」  
ウルスラは、どこかくすぐったそうにそう答える。  
 
恥らっているような、からかっているような、甘い響きを伴う声が愛しくて軽くキスする。  
数秒見つめあった後、もう一度キス――舌先で唇をなぞり、そのまま口の中へ差し入れる。  
抵抗無く受け入れられ、舌と舌とが絡み合う。歯列を丁寧に舐め、また絡ませる。  
送り込んでいた舌を自分の口に戻すと、それを追うようにして相手の舌が潜り込んでくる…。唇を離したときには、互いの息が軽くあがるほどに長い、長いキスを交わす。  
 カッシュはウルスラの耳朶に唇を移し、軽く歯を立てる。  
「…っ。ぁぁん」  
ウルスラが細い首をのけぞらせ、吐息をもらす。カッシュはそのまま首筋に吸い付き、徐々に下へとさがる。鎖骨に、肩に、胸に、小さな花びらのような跡がつく。  
その度にウルスラの息が弾んでいくのがわかる。  
 
豊かな胸のふくらみに片手を這わせると、ウルスラの躯がピクっとふるえ、乳嘴が尖る。  
硬くなった先端をほぐすように指の腹で押すと、ますます硬くなっていく。  
カッシュはもう片方の乳嘴を口に含む。  
「あ、はぁ…」  
乳房にカッシュの唇を受けただけで、ウルスラは身悶える。  
カッシュの舌は乳頭を転がすようにせわしなく動き、またねっとりと纏わりつかせるように舐める。  
手と舌で双方の乳房をいいようにまさぐられるウルスラは、こらえきれず声を上げる。  
 
「んん…、ぁあん。……は、ぁ」  
甘い声に促されるようにして、乳房を愛でていたカッシュの手は、ウルスラの下腹部へと伸びていく。誘うようにウルスラの脚が緊張を解き、心持ち開かれる。  
カッシュの指が、割れ目を優しく撫でる――それだけでトロリとした蜜が感じられる。  
ウルスラがすでに潤んでいるのをみて、カッシュの指が秘部を蹂躙する。  
花弁を開き、ゆるゆると溢れる蜜を掻きだすように、指を半ばまで出し入れする。  
一気に量の増えた蜜をすくうように指にとり、一番敏感に感じる肉芽にこすりつける。  
「やっ…あ、ああ。い……いや、ぁん」  
より大きな快感を与えられ、ウルスラは嬌声を抑えられない。  
すでに躯はしっとりと汗ばみ、薄紅色にそまっている。そんな反応の一つ一つを楽しむように、カッシュはさらに入念に愛撫を施す。手と指と、舌で。  
 
カッシュはウルスラの脚を大きく広げ、顔を埋める。舌を尖らせ舐め上げ、唇全部を使って吸い上げるようにし、割れ目の奥へ舌を差し入れて肉襞をかきまわす。  
指による刺激よりも、それは数倍ウルスラの官能をかきたてる。  
躯の最奥から、甘い痺れが波の様に広がり、ウルスラの躯を痺れで満たして、どこか高みへと押し上げるように感じる。  
「あああ、あ…っん。あっっ、ダメ。はぁ…ぅん、あああっ!」  
カッシュの愛撫が一際激しさを増したとき、ウルスラは極みへと達した。  
ヒクヒクと軽く痙攣するウルスラから顔を上げ、カッシュはウルスラと身体の位置を合わせる。  
 まだ快楽の波が収まりきらないウルスラにキスすると、カッシュはそのままウルスラの中へ怒張を押し入れる。  
ウルスラの中はヌメヌメとした熱い液体で満たされており、蜜はさらに奥から溢れ出てくる。進入してきたモノを咥え込むように、肉壁は締まり、肉襞は絡みつく。  
 
カッシュがウルスラの中に根元まで収まると、一際きゅうっと締め付けられた。  
 「―――っ!」  
油断すれば、それだけで達してしまいそうな快感をなんとかこらえ、カッシュはゆっくりと動き始める。  
小刻みな動きを繰り返し、ぎりぎりまで抜いて、一気に奥まで突き入れる。  
そうかと思えば、弧を描くように肉壁を掻きまわし、執拗にこすり上げる――。  
カッシュの動きに合わせて、ウルスラもまた腰を動かす。ぴったりとしたその動きは、他に見る者がいれば、まるで一体の動物のように見えたかもしれない。  
部屋の中には、荒い息遣いと、ウルスラの上げる悦びの声、二人の結びつきから漏れる水音と、寝台の軋みが響き渡る。  
 
はじめ、さして大きくなかったクチュクチュとした水音は、やがて淫靡さを増してジュプジュプ、ジュボッ…というような音に変わっている。それに伴うように二人の動きも激しさを増していく。  
互いに求め合い、ひたすら快楽という名の甘美な果実を貪る。躯と躯は、何処までが自分で何処からが相手のものか、判らなくなりそうなほど溶け合っている。  
そして――。  
「カ……カッ、シュ、もう…だめ。ガマンでき……な、い。」  
ウルスラが懇願するようにカッシュを見る。  
その眼差しに、カッシュの背筋がぞくりとふるえ、二人が限界まで密着したとき。  
「くっ……、あ、いやぁ……ああああああ!!―――ぅんんん!!!!」  
「―――ぅぁっ!」  
ウルスラの中で、何かがはじけたように感じ、蜜が溢れだす。同時に肉壁がカッシュのモノを締め上げる。  
その刺激に耐え切れず、カッシュもまた、ウルスラの中で悦楽を開放した。  
 
くたり、と横たわるウルスラの隣に、カッシュも力を抜き倒れこむ。  
 指だけを絡ませるように手をつなぎ、息を整える。  
「――このまま寝たら、風邪をひいちまうかな。」  
ようやくカッシュがそう言って、寝台の隅に追いやられていた毛布を引っ張る。  
「あら、戦車隊の隊長さんは、女と寝たくらいで風邪をひくほどヤワなの?」  
からかい混じりの言葉だが、声に宿る響きはどこまでも甘い。  
カッシュはウルスラのからかいには答えず、黙ったままウルスラの頭を抱き寄せる。  
ウルスラもそれ以上は何も言わず、カッシュの胸に頭を預ける。  
そのまま、二人は眠りに就いた。それまでに経験したことの無いほどの、満ち足りた想いを抱きしめながら。  
 
それは、二人の主君ともいえる、ユーリの計らいによって、二人が気持ちを通わせあえた日の夜のこと。  
カッシュがウルスラを抱いたのは、それが最初で最後であった。  
しばらく後、ウルスラは弑逆の罪人として処刑された。その時ユーリの置かれていた窮状を打開するために、自ら無実の罪を被る事を選んで。  
のちにウルスラの汚名は雪がれたが、失われた命が戻ることはない。  
 カッシュはふと、思う。  
あの夜があったから、自分は絶望することなく生きてこれたのか。  
それとも、あの夜のことが無ければ、これほど切なく狂おしい気持ちを抱えずに済んだのだろうか…と。  
 答えは出ない。  
 だから、カッシュは今日もウルスラの髪を抱いて眠る。  
彼女が唯一つ、彼に遺していった物――カッシュの愛した黒髪で作った、額飾りを抱いて。  
 月の光は、変わらずウルスラの髪を艶やかに輝かせる。  
 蝶のように広がることは、もう無いのだけれど―――。  
 
                    Fin  
 

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