【永遠に紡ぐ夢】
戦は終わった。
我がヒッタイト軍はあの方の采配で見事に勝利を収めた。
国に戻れば、残るのは あの方が立后なさる祭典が待っている。
兵舎の自室に戻ったルサファは、明かりもつけぬまま椅子にもたれかかった。
こめかみの傷はうっすらと包帯から血を滲ませている。
俺はあの方のために命を捨てる機会を失ってしまった。
エジプト兵の放った弓から、あの方をお救いするために我が身を盾にした。
そのまま死ねれば本望だと思った。
しかし、あの方は泣いて俺の無謀を責め、陛下は俺に仰った。
「ルサファ。真にユーリを思うなら子孫を残し、末永く我等の子孫に使えさせてくれ。」
子孫か・・・。俺の幸福はあの方のためにこの命を捧げる事だけだと心に決めているのに。
焦がれて焦がれて、触れる事も望めぬほどの不可触の女神。
元よりあの方になにも望むものはない。しかし、この想いが色褪せる事も考えられない。
この想いが成就するのは、あの方のためにこの命果てるときだけだ。
あの矢が、この額をもっと深く貫いてくれていたら・・・。
やはりあの方を悲しませてしまうだろうか。悲しみの記憶の中に、俺を留めて下さるだろうか。
あの方を悲しませるのは辛いが、あの方が俺の記憶を残してくれるなら、それは至上の幸福以外
何者でもない。
しかし、その機会は失われてしまった。
「ユーリ様・・・。」そっと名前を呟く。それだけで胸の中は熱い思いで締め付けられた。
「ルサファ?いるんでしょ?」暗闇の中で小さな明かりが揺れた。
ルサファはぎくっとして身構えた。独り言を聞かれたかという戸惑いは闇の中で動悸を早めた。
「ハディ・・。」ユーリ様の腹心の侍女だ。
「そんな格好で寝ていたの?薬湯を持ってきたわ。」どうやら聞かれずに済んだらしい。
「ああ、ありがとう。ハディ。」薬湯を受け取ると、明かりをつけようとルサファは立ち上がろうとした。
ハディはそんなルサファをそっと制した。
小さな明り取りをそっとテーブルに置くと、羽のように軽く、ハディはルサファの傷口に触れた。
「無茶をしたわね・・。死ぬつもりだったのでしょう?」そっと囁く。
「いや、咄嗟に体が動いちまっただけだ。あの方を守るためにも、簡単にくたばるわけはないさ。」
自分に言い聞かせるようにルサファは答えた。
「嘘ね。あの時あなたは死ぬつもりだった。いいえ、死にたがってるように見えたわ。」
ぎくりとしてルサファはハディを見つめた。ハディの瞳は静かに自分を見つめていた。
「あなたの気持ちはわかっているわ。あなたはユーリ様以外の方を愛する事は出来ない事も。
たとえ、それがお二方の望みであっても、あなたはユーリ様しか愛せない。」
「お、俺はあの方になにも望んじゃいない!今もそしてこれからもだ!」
ルサファは胸にかけた黒曜石の欠片をぎゅっと握り締めた。
「ええ。わかっているわ。あなたが望むのはユーリ様の幸福だけ。私の望みと同じように。」
「・・・・?何が言いたいんだ?ハディ。」
ハディの瞳は、ルサファを通り抜けて、遠くを見つめていた。
「私もユーリ様のためなら命を捧げても惜しくないと思っているのよ。あなたに負けないほどの気持ちで。」
「・・・・だから、なにが言いたいいんだ・・・?お前は女じゃないか。ハディ。」
「そうよ。私は女だし、ユーリ様に欲情してるわけでもないわ。でも今では妹以上にあの方が大事だし、
あの方のためなら、全てを犠牲にしたいという気持ちはあなたと同じなのよ。ルサファ。」
「そういう意味では私たちは同類なの。末永くあの方にお使えしたい、と言う気持ちもね。」
呆然として見つめるルサファに、ハデイは静かに、そして凛として言った。
「あなたも私もユーリ様を愛している。だから、私があなたの子供を産んでその子をユーリ様に
お仕えさせる事ができる。これは今宵一晩の賭けよ。」
「ば、馬鹿な事を言うな!ハディ!俺は誰とも結婚する気はない!」
「またも意見があったわね。私はあなたを愛してるわけじゃないし、結婚を望んでいるわけでもないわ。
同じ方を愛するもの同士から生まれた子なら、誰よりもあの方にお使えするにふさわしい子になるはず。
天が私たちの願いをかなえるなら、今宵一晩だけ、その希望にかけてみたいの。」
「は、ハディ・・・!」
「子孫を残し、末永くお仕えすること。これはユーリ様への愛を裏切る事ではないわ。
・・・・お願い。ルサファ。協力して頂戴・・・・。」
そう言うと、ハディは自らの衣服を脱ぎ落とした。
ほのかな明かりにハディの裸体が浮かび上がる。ルサファは言葉も出ないまま、ハディの肢体から
眼を離さず凝視していた。
「かなり無理があるのはわかっているわ。でも、今だけ私をユーリさまだと思って。」
ゆっくりとハディが近寄ってきた。ルサファの頭の中では警鐘がなっていたが、ハディの言葉が
ルサファの抗う力を奪っていた。・・・同じ方を愛するもの同士から生まれる子供・・・。
ハディは座ったまま固まっているルサファの頭を抱きしめた。
ルサファの顔は、ハディの形の良い乳房にうずめられた。うっすらと乳香の香りがする。
これは陛下から移された、あの方の香りだ・・。「少しお借りしてきたの。目を閉じて。」
ルサファはゆっくり目を閉じる。柔らかく滑らかな肌から、誰よりも愛しいあの方の香りがする。
「・・・・ユーリ様・・・。」ハディは声を出さず、優しくルサファの頭を胸に押し付けた。
思わずルサファの腕は、ハディの乳房をまさぐりだした。
「・・・!・・・」ハディは声を出さぬよう堪えながら、ルサファの耳朶に口づけをする。
ルサファは目を閉じたまま、ハディの乳首を口に含み、ゆっくり舌を動かし味わい始めた。
ハディの唇から甘い吐息が漏れる。ルサファの片腕を掴むと、自分の蜜壷に誘導する。
既に蜜壷には蜜が潤んでいる。「・・・触って・・・」ユーリの香りに包まれて、ルサファは
ハディの蜜壷に指を這わせる。
「・・ん・・っ・・・そう・・・そこ・・・・んっ・・・。」あくまで声を押し殺しながら、囁くように喘ぐハディ。
・・・ああ、ユーリ様・・・。ルサファはハディを愛撫しながら、閉じた瞳の中にユーリの姿を
思い浮かべていた。「そうよ・・・。ルサファ。今は私をユーリ様と思って・・。」
「・・・だ、駄目だ・・。ハディ・・。これはお前を冒涜する行為だ・・・。」
ルサファはユーリを思い浮かべて熱くなる股間をなんとか堪えようとした。
「いいの・・・。いいのよ。ルサファ。これは私が選んだ道・・・。」ハディは囁くと
屹立し始めたルサファの男性自身をゆっくり口に含んだ。
「・・・・く・・・っ・・!駄目だ・・・ハディ・・・。」柔らかい舌が、ルサファの男性自身に
絡みつく。唇はルサファ自身を緩く、優しく圧迫しながら喉の奥まで飲み込んでゆく。
「・・・う・・っ・・・」ルサファはハディの動きを止め様とするが、ずっと抑えていた欲望に抗えず、
ハディの口内で自らが怒張していくのを狂おしげに感じていた。
充分に猛ったルサファを確認するとハディはゆっくり咥えていたものを離し立ち上がる。
座ったまま猛り立っているルサファにゆっくりまたがると、自ら花芯を拡げ、ハディはルサファの
男性自身を自ら蜜壷に招きいれた。柔らかく暖かい肉襞が猛り立ったルサファを飲み込んでいく。
ルサファはハディから引き抜こうとハディの腰を掴むが、欲望がすっかりハディに埋まると、
久しく忘れていた快感で頭の中が真っ白になった。ハディの動きにあわせるように、だんだんと
ルサファ自身もハディを貫くように腰を動かし始める。
今にも消えそうになった明かり糊の光が、ひとつになった二人の影を床に映している。
荒い吐息と、淫らな音が個室の中で鳴り響く。絡み合った二人の体は激しく蠢き、やがてルサファは
耐え切れなくなった。ハディもまた同様に頂点を迎えようとしている。
「あぁ・・っ!ルサファ・・・・来て・・。」ルサファは弾けるようにハディの中に精を放った。
長年抑え続けてきた思いが、ハディの中に溢れ出ていった。
「・・・・ハディ。すまない・・・。」ルサファは荒い吐息で、ゆっくり離れてゆくハディに謝罪した。
ハディは脱ぎ捨てた衣を身に着けると、そっとルサファを抱きしめ、耳元で囁いた。
「謝る事はないわ。ルサファ。私があなたを利用したんだもの。愛するユーリ様のために・・ね。」
ハディの瞳は穏やかだった。「もう忘れて。これは今宵一晩限りの夢よ・・・。おやすみなさい。」
そしてハディはそっとルサファの部屋を後にした。室内にはかすかに乳香の香りが残っていた。
帰国すると、婚儀の日取りが決められ忙しい日々が過ぎていった。
そして、婚儀までの儀式を締めくくる最後の日、ナキア皇太后の最後の陰謀で悲痛な事件は幕を閉じた。
ルサファはユーリを守るために飛び出し、ナキア皇太后の握り締めた剣によって、自らの命に幕を閉じた。
泣きすがるユーリとネフェルト。儀式は混沌としたまま幕を閉じた。
ルサファは自らの望みを果たしたのだ。いつかユーリのために命を捨てるという望みを。
主人のいなくなった部屋にハディは静かにたたずんでいた。
・・・あなたは幸せだったのでしょう?ルサファ。今後は私がユーリ様をお守りして行くわ。
生まれてくるこの子と共に、末永くね・・・。どうか見守っていて頂戴。
一滴の涙を流すと、ハディは暗闇のまま、ルサファの部屋を後にした。