――静かだ。  
 森には大樹が鬱蒼と繁り、虫の音が響く。夜空は枝に遮られ、月も星も見えなかった。  
 明かりと言えばパチパチと燃えている焚き火だけである。  
 私は虚空を見つめながら、ひとつ、溜め息をついた。  
 心の中で反芻するのはどうしようもない疑問。  
 いつから――いつから、この母性とも恋心ともつかぬ感情が、私の中に芽生えたのか。  
 傍らでおにぎりを頬張る少年に目をやる。  
 彼は私の視線に気付くと、手にしていたおにぎりを無言で差し出した。  
 物欲しそうに見えたのだろうか。何も言わないけれど、「食べる?」と訊いているような気がする。  
 その姿が堪らなく可愛くて、視線を交した状態のまま硬直してしまった。  
 ――まずい。とてもまずい。  
不思議そうな表情で、彼は首を傾げている。  
   
 ――思わず、口付けた。  
   
 これでは疑問も何もあったものではない。  
 罪悪感とか己の愚かさとか彼の唇の柔らかさとか、己でしでかしたくせに何が何だか分からなくなってしまう。  
 彼はと言えば、きょとん、と何が起きたのか理解出来ないといった様子の後、真っ赤になって俯いていたりする。  
 ああもう、恥ずかしいのはこっちだって同じなのだ。  
 いや、だからしでかしたのは私の方なのだけれど。  
   
「も、申し訳有りませぬシレン殿!今のは――!」  
 ――今のは何なのか。  
 適当な言い訳など見付かる筈もなく、あたふたとする私の体に。  
 彼は、不器用に抱きついて来た。  
 再び硬直。  
 必死で思考を巡らす。  
 この少年はきっと、私に対して男性として応えようというのだ。   
 いとおしさによって急に思考が冷静になってゆく。  
 ――ああ、私は本当に愚かだ。  
 こんな小さな少年が一生懸命になっているというのに、私は何を意気地も無く悩んでいるのか。  
 彼の頭を優しく撫でた。  
   
 彼はどうすれば良いのか分からない様子で、抱きついたまま私の胸に頬を擦りつけている。  
「あ、その……シレン殿、胸に興味がお有りか?」  
「……」  
 コクンと頷く。  
「構いませぬ。どうぞお好きなように……」  
 胸元をはだけて誘う。恥ずかしいけれど、ここは年上の私が導かなければ。  
 少年は懐に恐る恐る手を潜り込ませ、暫く興味深そうに乳房を弄っていたが、突然思い付いたように乳首に吸い付いた。  
「きゃっ!?ふあ……んぅ……」  
 まるで乳を吸う赤ん坊のようだな――と思いながらぎこちない愛撫に身をまかせる。  
 無意識の内に私の右手は股間へと伸び、己を慰めていた。  
 ちゅ……くちゅ……ぴちゃっ……。  
 
 二ヶ所から淫猥な水音が響く。  
 秘裂に指を這わせ、蕾を刺激する。乳首には柔らかくぬめった舌の感触。  
 片腕でその頭を抱え込みながら、自然と吐息を荒げた。  
「んふぅ……は、あ……良いです、シレン殿……」  
 ――ふと、先程からもじもじと脚を擦り合わせている少年の姿に気付いた。  
 しまった。私ばかりが快感に溺れてしまっている。  
 彼にも満足して貰わなければ情けなさ過ぎるではないか。  
「シレン殿、かたじけない。もう結構です」  
「……?」  
 ゆっくりと口を離させて、そのまま横にさせる。私は覆い被さるようにして体を重ねた。  
 もう一度口付け。今度は濃厚に、舌を絡ませて。  
 同時に彼の衣服を脱がせてゆく。下帯を外すと、一丁前に屹立した性器が姿を現した。  
 視線を受けて恥じらう少年の姿はやはり可愛い。  
 加虐心が沸き立つのを感じながら、彼の耳元で囁く。  
「シレン殿、このまま――しても構いませんか」  
 その意味は少年にだって理解出来るだろう。小さく頷く。  
 ならば私にだって迷いは無い。馬乗りの姿勢で、彼の性器を私の中へと挿入させる。  
 亀頭が入った。見ているだけではあんなに小さかったのに、体内ではとても大きく太く感じている。  
 
 漏れそうになる声を押し殺して、なるべく彼に負担が掛らぬよう気を付けながら腰を沈めていった。  
「あ……ふぅ――シレン殿、全部入りましたよ」  
 少し息をついてから優しく腰を上下に揺らすと、彼も少しずつ息を荒げてゆく。  
 悦んで貰えているようで何だか嬉しかった。  
 意識して彼の肉棒を擦り上げる。  
「あふ、んんっ!……あ、あ……っは!」  
 もう嬌声を堪えられない。暫く続けていると律動も段々と激しくなる。  
 気付くと、少年も自ら私を突き上げていた。  
「んふ……はっ、うあ……んぅうう、あ……んんんっ……!」  
 絶頂が近い。それは彼も同じようだ。  
 目をしっかりと開いて、少年の顔を見つめる。許しを乞う様な瞳に私が映っていた。  
 恐らく私もあんな表情をしているのだろう。  
「あくっ、あ……あっ、シレン殿、どうか、な、中に……」  
 そう告げるのが精一杯。律動は止まらない。  
 性器がより強い快感を求めてねじ込まれて来る。膣内のそれは酷く熱い。  
「……っ!」  
 彼が一層深く腰を突き出した時、熱は放出された。  
 じわりと、広がっていく。  
「ふぁあ……はあ、あつ……んあ、ああっ、あ……っ!」  
 足指が痙攣し、弓なりに体を大きく反らす。  
 彼を感じながら、私の頭の中は白く染まっていった――。  
 
 
 そして黒い森に静寂が戻る。  
 私達は並んで横たわり、何をするでもなくただ――小さくなった火を一緒に見つめていた。  
 ぎゅ、と。彼の手を握った。私とそう変わらない大きさの手。  
「シレン殿」  
 ――私は何を考えているのだ。馬鹿らしい。  
「シレン殿――これからも、一緒に居てくれますか……?」  
 ――馬鹿らしいとは解っている。けれど、私の弱い部分がそんな言葉を発した。  
「……」  
 案の定彼は答えない。  
 それは当然。彼は風来人。私も風来人だ。  
 そもそも風の吹くままに己が道をゆくのが風来人。  
 きっと彼と私もそう遠くない先、違う道を歩み出すのだろう。  
 ――だから今だけ。  
 彼の手の温もりが夜の空気へと逃げてしまいそうで、もう少し強く握ってみた。  
 

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