その日は初めから運が悪かった。  
 おにぎりは早々に腐ってしまったし、いくら進んでも良い道具に出会う事が無かった。そして、5階層まで進んだ時にようやく拾った武器はこんぼうである。  
 こんぼう――。全ての武器の中でも最弱の攻撃力を誇る、およそ役に立つ機会の無い あのこんぼうだ。  
 (使えないうえに無駄に重い)こんぼうを構えながら、シレンは深い溜息をついた。  
「何か今日はついてねーなー……。こんだけ運が悪いのは久し振りじゃねえか?」  
 コッパも苦々しそうに愚痴をこぼす。  
 確かにこのままでは心苦しい。装備品の充実は、そのままダンジョン攻略の難度に関わる問題なのだ。おそらくこの調子では、山霊の洞窟あたりであっけなく倒れてしまうだろう。  
「……まぁ悩んでても仕方無いし、おにぎりでも食べたらどうだ?」  
「……」  
 コッパの提案にシレンは軽くうなずいた。「そうこなくちゃな」と言いながら、荷物入れの中にコッパが潜り込む。  
 そうしてしばらく経った後に手渡された朝ごはんは、  
「そういや、さっき腐ったんだっけな……これ……」  
「…………」  
現時点での唯一の食料品の、腐ったおにぎりだった。  
 怪しく緑色に光るそれを出来るだけ見ないように、一口で(間違っても噛まないように)飲み干す。すると瞬く間に、恐ろしい脱力感がシレンを襲う。  
「今回は力が下がったか……」  
 青ざめた顔で膝をつくシレンを見て、コッパが気の毒そうに呟いた。  
 
 そんな調子で山頂の森林、ネブリ山廃坑を抜け、二人はようやく二面地蔵の谷へと辿り着いた。  
 ちなみにギタンのほとんどをガマラに盗まれていたため、山頂の町では宿に泊まることすらできなかった。  
 そして右手には、朝方拾ったこんぼうが今も握られた状態である。  
「シレン、今日は本当に運が悪いよなぁ……。日頃の行いが悪いからじゃねえか?」  
 余計なお世話だ、と普段なら軽くあしらうところなのだが、今は何かを言い返す気力すら残っていない。  
 小さく溜息をつきながら、シレンは岩屋へと足を踏み入れた。  
 
「お、おい、あれ見ろよ! やったなシレン!」  
「!」  
 断崖の岩屋に入ってすぐ、店がある事を示す看板がシレンの目に映った。その看板のかかった小部屋に近付いていくと、薄明かりの中から少しずつ、武器や壷が並んでいる様子が見えてくる。やはり間違いない。今回最初の店の登場である。  
「お前、ギタン少ないけど……。またやるのか?」  
 無論やるつもりである。何をするのかは言うまでも無いだろう。めぐすり草を飲み、大部屋の巻き物がある事を確認した後、シレンは店の中へと入っていった。  
 いや、入ろうとしたところだった。  
「……あぁん! や、あぁっ、あはああぁっ……」  
 突然甲高い女の声が部屋の中から聞こえ、シレンとコッパは思わず顔を見合わせた。  
 初めは幻聴かとも思ったが、間を置かずに再び、艶っぽい喘ぎ声が辺りに響き渡る。  
「んんっ……くぅ……あああぁぁ!」  
 少し耳を澄ますと、ジュプジュプという水音も声に混じって時折聞こえてきた。  
「……シ、シレン、ここは立ち去った方がよくないか……?」  
 この声が嬌声らしいという事は分かっている。  
 普段のシレンであれば、コッパが提案するより前に立ち去っていただろう。  
 しかし今日は事情が違うのだ。たとえどんなに野暮であろうと、こんぼうとおさらばする為にも目の前の店に入りたいのである。  
 シレンは意を決して店へと入っていった。  
 
 店の中は案外狭く、日頃慣れ親しんでいる店よりほの暗い気がした。  
 だがそれ以上に奇怪だったのは、まるで迷路のように幾つも通路があった事だ。  
(へ、兵隊アリ……?)  
 ぼんやりと立っているシレンの後ろから、コッパが「右、右」と息を荒げて叫んだ。言われるままにシレンも右を向くと、そこにはどこかで見た事のあるような女の姿があった。  
「あ、お客様、大変申し訳ありませんが、ただ今取り込んでおりまして……」  
「ひぃん! あ、うぁ、シレン……!?」  
 どこかで見た事のあるような、などという次元ではなかった。  
 見ると店主の足元には、お竜がヒクヒクと震えながら倒れていたのだった。  
 店主の図体に隠れてハッキリとは分からないが、全身を縄で縛られたうえに、股間には深々と何かが挿入されているようである。時々そこからグチュグチュと音が聞こえ、その度に、お竜は叫びながら激しく痙攣していた。  
「んうっ……! あ、あっ……あああぁ――――――!」  
 ズチュッ、グプッ、と2度大きな音が聞こえた後、かん高い声が再び響き渡った。  
 もはや前後不覚といった様子である。シレンやコッパの目の前にも関わらず、乳房を上下に揺らしてお竜は身悶え続けていた。  
 そうした中で、ツンと鼻をつく艶かしい女の香りが一面に漂う。  
「み、見ないでえぇ! やっ、また……ふあああああぁぁ!!」  
 鼻にかかった甘い声で叫びながら、お竜の身体が一層大きく震えた。口元から一筋の涎を垂らしながら、淫らな音をしばらく立て続ける。  
「あふっ……。はぁ……はぁ……」  
 肩で息をしながら、段々その動きは静かになっていった。  
 
「お客様の知り合いなのですか、このドロボウは」  
 呆然とお竜の痴態を見ていたシレンとコッパに、店主がいぶかしげに問いかけた。  
 そういえば、ここが店の中だという事をすっかり忘れていた気がする。  
「ま、まあそんなところなんだけど……。ところで、ドロボーって、お竜が……? だから縛られて、その……」  
 コッパが慌てて取り次いだが、珍しく しどろもどろな喋り方だった。  
「ええそうですよ。しかし、兵隊アリの作った道に間違えて入ってしまったということでしてねぇ……。  
その時持っていた商品はおにぎり1個でしたし、私もさすがに警報を出すのは忍びなかったもので――」  
 息一つ乱さずに、店長はこれまでの経緯を簡単に述べていった。  
 お竜が店の商品を盗んだ事は確かなのだが、故意では無かったため店主は不憫に思ったらしい。それで見逃す代わりにこういう事になったそうである。  
「まあ特例ですがね。女性の風来人はあまり見かけませんし、手荒な事は控えた次第です。もちろん今回限りですが」  
 正直、こちらの方が暴挙である気はするのだが、店主の怖さを考えて反論はやめておいた。  
 それにしても心底恐ろしい。同じ男として、シレンは本気で恐れを抱いた。どうして店主はこれほど(下半身が)落ち着いていられるのだ。  
「おいシレン、お前もマズイだろ……?」  
 コッパの問いかけにシレンは無言で頷いた。  
 折角こんぼう一本でここまで頑張ってきたのだが、情けない事に自身がこんぼうになってしまった。もう一歩も動けない状態である。  
 しかしまさか、お竜の目の前でそれを解消するわけにもいくまい。  
「シレン、この旅はもうやめて、最初からだな……」  
 コッパがそう言うと同時に、猛烈な突風が吹いて二人を吹き飛ばしていった。  
 風来人の冒険には二つの終わり方がある。一つは志半ばにダンジョンで倒れるもの。そしてもう一つは、自らの意思で最初の宿屋に戻るものである。風来人として、後者はかなりみっともない終わり方である。  
 せめて敵に倒されて戻りたかった、とシレンは思ったのであった……。  
 
「ふふ、邪魔者はいなくなったわけだ。さて……また続きからだ」  
「ひぅ……っ」  
 お竜の乳首をつねり、店主がニヤリと笑った。  
 服の上からでも分かるほどにピンと張っていた乳首が、店主の指で柔らかく形を変えていく。  
「くぅ……ああ……! ああぁんっ……」  
 頬を上気させ、お竜は弱々しく身体をくねらせた。しかしその抵抗も、店主の欲情を一層煽らせただけで終わってしまう。  
 恥部では調教用の玩具が小刻みに震え続けていた。  
「ふぅ……。さっき一度お前の口で済ませておいたからこそ、あそこで店主の威厳は保てたわけだ。まあ礼ぐらいはしてやろう」  
「な、何して……。ひっ! ふあああぁっ!! あ、ああああぁぁん……!!」  
 店主の片手がお竜の秘裂を軽く撫でると、お竜は再び切なげに喘ぎ続けた。玩具の上から指を少し押し当てるだけで、お竜の口からはくぐもった艶やかな声が漏れる。  
「ひんっ! いっ……ああぁ! んううううぅ!!」  
 ニチャ、クプ、と蜜壺が淫猥な音をたて、愛液は失禁したかのように溢れていた。  
「ふむ、そろそろ終わらせてやるか……」  
「ひあぁ……! いやああああああぁっ!! ふああああああ……っ!!」  
 店主の指が肉芽をわずかに刺激した時、お竜の身体は一度大きく反り返り、太腿あたりに大きな染みができていった。  
 深く挿し込まれていた玩具を荒々しく店主が抜くと、ジュプッと小さな音と共に蜜がトロトロと漏れていく。  
「まぁ、訴えられて店を取り上げられたら困るからな……。また上で我慢しておくか」  
「うぅ、んむっ……!!」  
 お竜の口に、店主の太い陰茎が押し込められていった。嫌がるお竜の顔の上から、店主はそれを上下に動かしていく。  
「くっ、もうイカン……。しっかり飲めよ……!」  
「んんんんんっ……!! んう……」  
 店主の熱い白濁の液が、お竜の口内で大量に射精された。小さなお竜の口に入りきらずに精液は少しこぼれたが、後で舐めさせればいいと店主は軽く考えた。  
 
 
 シレンが後日お竜に会った時、両者とも相当気まずい思いをしたものだった。  
 だが、シレンとコッパが一番きまりが悪かったのは この時ではない。  
 あの状態のまま渓谷の宿場に戻った時、ずいぶんと弱ってしまった。  
 
「なんじゃ、まさかこのわしを見てそんなに興奮するとは……。ヒッヒッヒ」  
 
 徹底して運が無い時もあるのだとシレンは痛感した。目下の目標としているのは、老婆の誤解を解くことである……。  
 
 たまには逆風が吹く事もある。しかし次こそは、風の神クロンの追い風を――!  
 
 

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