ここは…誰もいないであろう神社。  
傍目から見れば人はおろか動物すらの気配はないに等しい。  
ただ、静かに微風がそよぎ真っ暗な闇を落とすだけ。  
と、そこに正面の石段から一つの明かりが灯る。  
小さな提灯が風で揺れ、朧に光を辺りに放っていた。  
明かりで照らされたその姿は一人の男と…肩には白いイタチが。  
 
「…神社に着いたか…」  
「よし、早速賽銭箱を調べようぜ、シレン」  
シレンと呼ばれた男は三度笠を頭に被り縞合羽を纏った青年、イタチは語りイタチと云われる珍しい存在だった。  
「コッパ…またタンモモが眠りこけてたりしないよな…?」  
胡乱げに肩に乗ったイタチ…コッパに苦笑しつつ問う。  
が、コッパは聞かれるなり肩を竦めて軽く返してきた。  
「まさか、今は誰の気配もしないってば」  
「………それもそうか、こんな夜更けだもんな」  
ぶつぶつと言いながら、石段の頂上で止めていた足を進める。  
草や砂利を踏みしめる度にジャッ、ジャッ…と僅かな音が地に響く。  
間もなく、シレンの眼前には賽銭箱が見えてくる。  
提灯でそれを照らすと、中を覗き込む。  
「えっと…巻物はここにあるんだよな、っと」  
「そうそう、村長がそう言ってたンだし」  
覗くだけではよく分からなかったのか、提灯を側に置き手を伸ばして蓋を外しにかかる。  
ガコッ…という音と共に簡単に外れ、蓋を賽銭箱に立てかける。  
「お、賽銭泥棒か、シレン」  
「アホか、お前は…巻物探してるだけだよ」  
「ははっ、冗談だってば」  
コッパの横槍にムッとしながらも賽銭箱の中を改めて覗き込む。  
しかし、その中には幾つかの銭しかなく巻物の影も形もなかった。  
あちこちと提灯を照らしていくも、巻物は見つけれなかった。  
「おかしいな、何処にもないぞ、巻物が」  
「ええっ?そんな馬鹿な……って賽銭箱の下とかじゃないの?オイラ見てやるよ」  
そう言ってコッパがシレンの肩からひょいっと降りていく。  
とととっ、と駆けていき、首を下ろして賽銭箱の下を覗き込んだ。  
「おい、あったか?」  
「……………な、ない……巻物が…ない…」  
「どういう…事だ?まさか村長が俺達に嘘をついている訳でもないし…」  
シレンとコッパはお互いを見やると頭に?マークを浮かべて困惑していた…。  
 
場は変わり、神社脇の森に潜んでいたヨシゾウタは…。  
 
「クックック…やっと来たか、何も知らずにな…」  
側に倒れていた全裸のケヤキを肩に担ぎ上げながら低く呟く。  
難なくケヤキを担いだまま、茂みをかき分けて進んでいき森を出ようとする。  
その先には賽銭箱を困った顔で眺めているシレンとコッパが。  
「イタチが邪魔だな…殺すのも何だし眠ってて貰うか…」  
徐に懐から吹き矢を取り出すと、強力な眠り薬を仕込んだ矢を吹き矢に入れる。  
そのままそれを吹き口を咥え、視線の先で小さな腕で何とか腕組みをしているコッパに狙いをつける。  
狙いをきっかり定めるや否や鋭く息を吐いて矢を飛ばす。  
発射された矢は、風を切ってただ真っ直ぐにコッパへと飛んでいく。  
「全く…どうなってン……ぐっ!…う……ぁ…」  
寸分違わず狙い通りにコッパの首元に矢が突き刺さる。  
即効性の薬がすぐにその効果を現し、コッパを眠りの世界へと誘う。  
「…?お、おいコッパ?いきなりどうしたんだ?」  
咄嗟にシレンは、妙な呻き声を上げるコッパに怪訝そうな面持ちで見やる。  
しかし、手を伸ばそうとした矢先にコッパはひっくり返ってしまいそのまま眠りこけてしまった。  
急に微かな鼾を立てて寝始めるその様子に、シレンは何故か嫌な予感が脳裏に走った。  
「…………何かが…誰かは分からないが………いる…?」  
すぐさま、腰の刀に手をかけて警戒し辺りを注意深く見回す。  
最初に来た時と変わりのない神社…そよ風が頬をくすぐり、何の音も声も聞こえず闇が広がるのみ。  
 
ガササッ…ドサッ!  
 
「…っ!」  
不意に何処からか、草木を掻く音が立ち何かが落ちた。  
シレンは瞬時にそちらを向き、鋭い視線を送る。  
暫しの間、ジッと睨んでいたがそれ以上は何も起きなかった。  
「……………」  
ふと、意を決したのか息を潜め警戒を強めながら音がした方へと向かう。  
手にした提灯を突き出して、一歩一歩慎重に歩みを進めていく。  
なるべく足音は立てないようにして無音行動を心がける。  
そして、着いた先には…。  
「ここから、だったな………ん?………なっ…!?」  
突き出した提灯の明かりにぼうっと照らされた地面には、シレンもよく知っている者がいた。  
「ケヤキ…ちゃん?」  
今、シレンの目の前にいるのは間違いなくケヤキだった。  
だが…その姿は衣服の類を一切身に付けておらず、全裸のまま仰向けで倒れていた。  
それを見たシレンは無意識の内に唾を飲み込んでいたが、気付く筈もなかった。  
 

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