あの情事から一ヶ月の後の事だ。
若者―― シレンは未だ脱出できないでいた。
いや、言い回しとしては脱出「しないでいた」の方が正しいのかもしれない・・・
矮鶏が鳴く頃・・。
「・・また戻ってきたのかい?大変だねぇ、あんたも。」
女将さんが半分呆れた顔で言う。
「いやぁ、ハハハ・・」
・・・・笑うしかない。
持ち帰りの巻物で戻ってきたので幸い大怪我は無かったが。
女将さんが退室する。と、入れ替わるようにケヤキが入室する。
「良かった・・ 大した傷が無くて。」
胸を撫で下ろし一息つくケヤキ。その仕草に少しドキッとする。
一月前にあんな事をしていてもそんな感情が湧くなんて不思議だ。
そういえば――
「今夜だよね?」
彼女は顔を背け、紅潮しつつも頷いた。
その相変わらずの仕草に、またドキッとする。
その後彼女は退室し、シレンはぼんやりと天井を眺める。
そのまま何事も無く時は過ぎ、紅くなり。藍くなり。
そして月光の無い宵闇へと変わっていった。
シレンはととやから出て倉庫の方へと向かう。
今夜の情事の場だ―――。
彼女はまだ来ていない様だ。とある巻物を読む事にした。
闇の店主とかいう明らかに怪しい者から300ギタンで買ったものだ。
以前のシレンなら間違いなく買わなかっただろう。
ただ、今のシレンにとってはとても興味深いものだったらしい。
題は・・「性器性交」。・・・・・・何かのネタだろうか。
性行為について書かれた物らしい。
丁度一通り読み終わった辺りにケヤキが薄暗い倉庫へと入ってきた。
「あ、ケヤキさん。まずコレ。」
先程の巻物が入っていた袋から草を取り出す。
それを磨り潰して自分の分とケヤキの分、二つに分ける。
不思議そうな顔をしつつも飲み込むケヤキ。
・・何故か口元が緩まるシレン。
「どうしたの?」
「実はそれ――」
――媚薬。性欲を催させる薬だ。それを知っても後の祭り。
媚薬の効果はゆっくりと、しかし確実にケヤキの精神を蝕み支配していく。
「じゃあ、始めようか」
二人とも前回の情事で要領を得ている。
しかし前回と違うのは・・・「知識」と「媚薬」。
一度経験があったためか、シレンはスムーズに性知識を吸収できた。
衣服を脱ぐ二人。衣が擦れる音のみが倉庫内に響く。
―――準備は整った。
じきに二度目の情事が始まる・・・。
シレンは唇でケヤキの唇を塞いだ。
次第にシレンの舌がケヤキの歯列を割って口内への侵入を試みる。
ケヤキはその行為に応じて自分からも舌を伸ばす。
二人の舌が絡み合う。蕩ける様な感覚。
二人の顔が離れると唾液が弧を描き、崩れた。
ケヤキが床に横たわる。既に両者の息は荒く、紅潮している。
「いいかな?」
そう言いつつシレンは自分の誇張した性器をケヤキの前に示す。
大きく、太い。それがケヤキの率直な感想だった。
「いいって・・ 何が?」
きょとんとした目でシレンを見つめるケヤキ。
シレンは口頭で話すのも何だか恥ずかしいので、巻物のその部分を指差した。
顔をより一層赤らめるケヤキ。こくっ、と頷いて口に咥える。
媚薬の効果なのか。素質なのか。初めてとは思えない口での愛撫。
最初は亀頭の先をくすぐる様に舐め、次第に五寸程度はあろうそれのほとんどを頬張っていく。
側面を、ほぐすように。裏筋を、擦るように。雁首を、絡めるように。
シレンの性感は昂ぶっていく。そして――
口への射精。いきなりの衝動に驚くケヤキ。
「あ、えーと、無理に飲まなくていいよ?」
ケヤキは口に残った物を飲んでみる。
生臭い香りが口に広がり、同時に苦く甘かった。
・・・不味かったようですぐに口から出したが。
「じゃあ、今度はこっちが・・・」
彼女の性器へと顔を近づけるシレン。
「!?」
突然の事に対応できないでいるケヤキ。
シレンも、当然のように舌での愛撫を始める。
だが、正確には膣口の横。直接の刺激を与えないような場所に。
それでもその辺りには性感帯が集中しているため、かなりの刺激が送られる。
「もう濡れてるよ?」
「―――っ・・」
その事実を認めまいとして顔を背ける。
その反応を楽しみつつ次の箇所を選ぶシレン。
「はぁっ・・」
その感覚にため息が出るケヤキ。
豊かとは言えないが貧しいともいえない、程よい大きさのもの。
形のいいそれの先端をつまみ、指でピンと弾く。
「あんっ」
思わず喘ぐ。シレンはそのまま乳首を咥えた。
舌で絡めるように、丹念に愛撫する。
ねちっこく、蛇のように。弾力性を確かめるように。
そして耳、手の指の間、足の指の間・・・。
性感帯と言う性感帯を舌で、指先で愛撫する。
それぞれに微妙に違う喘ぎ声、反応を見せてくれるケヤキ。
それがシレンには少し嬉しく感じられた。
と、同時に最後の箇所へと到達する事になる・・。
性器。最も多くの性感帯が集中した場所。
愛撫を始める。男性器の裏筋の部分を女性器の筋に。
そのまま体を上下させる。
「っ・・!!ぁ・・ ぁあ・・」
相当の刺激がケヤキに流れ込む。
勿論、シレンにも押し寄せてはいるが。
そのまま先程愛撫した場所を全身で愛撫する。
耳の裏、うなじ、首筋、脇、手の指の間、乳房、脇腹、足の指の間。
そして膣。ケヤキの全身が震えている。
当然、恐ろしさから来るものではない。
それでも心配してしまうほど全身で歓喜に打ち震えている。
とめどなく流れる愛液。目を閉じて涎を垂らすケヤキ。
それほどまでに感じてくれているのか・・。
美しい青い髪は床に乱れて広がっている。
それは最初にたたんだ着物とどこか対照的だった。
全身で愛撫をするシレン。
全身で愛撫を受けるケヤキ。
どちらにもそろそろ限界と言うものが近づいているのは確かだった。
9月。肌寒くなり始めているこの季節。
この倉庫の中は暖を付けてあるかのようだ。
上下運動をやめるシレン。
ケヤキに壁に手を付いて立つように促す。
そしてシレンは自分のものを・・ 突いた。
「―――!」
言葉にならない言葉を紡ぐケヤキ。
背後から激しく突くシレン。
挿して――抜くごとに混ざり合った液体がケヤキの大腿へと流れる。
ぽたん、ぽたんと水音を立てながら落ちていく液体。
そして涙、涎。3つの液体が水溜りを作る。
ケヤキの膣は、シレンのものを相変わらず強く締め付ける。
そしてびらびらとしたものがシレンの陰茎に絡みつく。
くすぐったい、と言う感覚と性感が隣り合わせだと言う。
それは案外本当なのかもしれない、とふと感じるシレン。
そして『その時』が来た。
シレンの射精。その勢いは凄まじく、全てを押し流してしまうかと思うほどだった。
入りきらなかった精液が溢れ、勢いよく外に出る。
―――同時に絶頂を迎えたケヤキの液体も混ざって。
へた、と座り込むケヤキを抱えて寝かせるシレン。
そのまま軽い口付けをして両者は眠りについた。
・・・その数年後、月影村には茶色い髪の無口な男の子がいたそうな。
夢幻の彼方 終