夜。静寂が辺りを包む月影村。今宵は新月。
月の魔力に反応し、変身する体質を持つ村人達の限られた安息の日。
理性を無くした子供達に襲われることも無いこの日。本当に疲れを癒せるこの日。
皆穏やかな表情で寝ている。しかし、ただ一人の歩く女が灯に照らされ地に影を映している・・
私は思い出す。
・・ある日、ふらりとこの村に来たあの人。
・・供養峠に棲んでいた魔物を倒したあの人。
・・今朝村を去ったあの人・・
いつしか立ち止まった私の頬には涙が伝っていた。
――――あの人に会いたい。
自分の危険を顧みず、村を救ってくれたあの人に。
格好良いのだけれどどこか可愛い不器用なあの人に。
そして何より、想いを伝えられなかったあの人に―――。
どうしてだろう。あの人の事を思う度、切ない。辛い。胸が張り裂けそう。
でも、あの人は帰って来ない。風来人さんは、旅を求めて生きるから・・
もうこの村には帰って来ない。だから・・ もう、泣くのは止めよう。
泣いてもまた辛くなるだけだから。この想いは心の奥にしまっておこう・・
気持ちを整理したから眠れるかな。もう少し散歩したら家に帰ろう・・
そしてまた彼女は歩を進める。だが、月影村出入口の近くでまた立ち止まる。
見覚えのある人影。彼女はその影の持ち主を揺り起こし、あの人の名を呼ぶ。
「シ、シレンさん!?」
力なく倒れたシレン。肌の一部が裂け、息が上がっている。
ケヤキが額に触れると、額は相当の熱を持っていた。
介抱するべくケヤキはシレンを鳴き竜神社前の広場へと運ぶ。
気が付くと俺の目にはケヤキさんの背中が映っていた。
供養峠で倒れた後、目覚めるといつも彼女がいた。
「・・・ごめん」
「良かった・・ 気が付いたのですね・・」
「ケヤキさんが・・ 介抱してくれたんだよね?」
「はい。」
少し気になったことがあるので聞いてみる事にした。
「ケヤキさん、何故俺を『ととや』ではなく神社に?」
「はい、診た所シレンさんは瘴気に侵されていた様でしたので、熱は竜神様のお力を借りた方が速く冷めると思いまして。」
なるほど、瘴気にやられていたのか・・
「それで、この緑色の包帯は・・?」
「はい、そちらはこの辺りに生えている速効性の薬草の汁に浸した物で、傷の回復が幾らか早ま・・ ると・・」
声に元気が無い。それに最後の方、言葉が途切れ途切れだ。
不思議に思い顔を上げると、ケヤキさんの瞳は潤んでいた。
「ケヤキ・・・ さん?」
やだ・・ 私、せっかく涙を抑えたのに・・。
止まらない・・ シレンさんが無事だと分かったら・・。
また・・ 胸の辺りが苦しい・・。
「シレンさん!」
思わず抱きついた。出来る事ならもう離れたくない・・。
とても心配だった・・。心細かった・・。
仕方の無い事だとは分かっていても、心のどこかでシレンさんを求めていた・・。
私の言葉にできない想いが頬から滴り落ちる・・。
「ケヤキさん・・」
呼ばれて顔を上げる。
刹那。シレンとケヤキの唇が重なり合った・・。
「!?」
突然の事に戸惑うケヤキ。
「な、何するんですかいきなり!?」
ケヤキの顔は一気に紅潮した。
初めての口付け。動揺を隠せていない。
「嫌だった?」
何事も無かったかのようにシレンが放った言葉。
「・・・」
より一層紅潮する。
嫌な訳が無い。私は・・ シレンさんが好き。
叶うならこういう事もしてみたいと思っていた。
でも、それは素敵な幻想。叶う事が無いから。
そんな叶うはずの無い事が始まろうとしている。
それは現実味のない・・。まだ夢を見ているような心地だった。
また涙が溢れて来る。嬉しくて。
夢でも良い。夢ならこのまま覚めないで欲しい・・。
「嫌では・・ ありません・・」
かろうじて聞こえる位の弱々しい声で答えるケヤキ。
「じゃあ、もう少しいいかな?」
とシレンが聞くと、ケヤキは同じ位の声で
「はい・・」
と答えた。
「痛っ・・!」
傷を押さえて仰向けに崩れるシレン。
当然だ。今シレンは仮にも怪我人である。
「やめますか・・?」
心配そうに。申し訳なさそうにケヤキが問う。
「つ、続けよう・・」
痛みをこらえて。中途半端な所では終わりたくないのだろう。
「ではどうすれば・・」
と、困った表情。
「このまま乗ってもらえないかな・・?」
頷くケヤキ。シレンに跨り、ゆっくりと腰を下ろす。
恥部と肉棒がほんの少し擦れる。
それが2人にはとても気持ち良いものとなる。
広げてあてがい、ゆっくりと慎重に。
ケヤキは苦痛に顔を歪めつつより深く腰を下ろす。
ついに奥まで届く。
「動きますね・・」
シレンは頷いた。最初はゆっくりと動く。
痛みに慣らすため。涙を浮かべて腰を動かすケヤキ。
上下左右前後。あらゆる方向に動かして馴染ませようとする。
その摩擦。摩擦がシレンには早くも快感をもたらしていた。
ざらざらとしていて、根元を締め付け、絡みつく。
膣運動と摩擦が、快感を少しずつ蓄積させていく・・
少しずつ慣れてきたな・・。
それで・・ 何だか気持ち良い・・。
熱いものが私の中を・・。
ああ・・ 考える事ができなくなってきた・・。
痛いくらいガッチリと挟んで離さない。
そして蠢く襞が俺のものを中へ中へと・・。
こんなに気持ち良いのか・・
何だ・・ 頭がボーっと・・
少しずつ行為に目覚めていく二人。
貧欲に性感を貪る。
ケヤキは腰を円運動させ。
シレンは腰を突き上げて。
それが新たな摩擦を呼び、快感となって身を襲う。
溜まっていき。円運動。突き上げ。繰り返される。
次第に我慢が出来なくなっていく。
外に出した方が良いかと思ったシレンはケヤキの腿を軽く叩いた。
・・・それがいけなかった。
突然の別の刺激にケヤキは身を縮こまらせる。
その時括約筋が締まった。
シレンのものをより一層強く締め付ける。
今度はシレンに降りかかる不意の刺激。
耐え切れずにシレンは中に出した。
それは自身の意識が軽く飛ぶ程に凄まじいものだった。
かなりの量、かなりの水圧のものを、かなりの時間。
途中、膣から溢れ出てきたりもした。
当然我慢の限界だったケヤキも耐え切れず。
体全体を震わせながら軽く痙攣し、シレンの上に倒れた。
――数分後。
目が覚めたケヤキ。
介抱するはずだった想い人。
その人との明るくなり始めているのに気付かない位熱い行為。
そして今、逆の立場。
ケヤキの顔が思わず赤くなる。
「大丈夫?」
シレンが地を見ながら尋ねる。
視線の先には赤や白の斑の液体が。
ケヤキの顔がより一層紅潮した。
「ええ、大丈夫です・・。それよりシレンさんは?」
「あぁっ、折角忘れていたのに・・」
膝をついて胸を押さえるシレン。
それを受け止めるケヤキ。
「あ、ゴメン・・」
ケヤキは笑顔で返事を返した。
―――さらに数分後。
「どうですか?シレンさん」
「ん〜。柔らかくて気持ち良い、かな」
「―――っ」
またもや顔が紅潮するケヤキ。
今ケヤキがしているのは俗に言う『膝枕』というものだ。
「ここから見える景色は綺麗ですよ・・。朝陽、夕陽、月。
月も一緒に見られたら良いのですけれど・・。」
ふとシレンの顔を見ると。
「まぁっ」
シレンは既に寝ていた。この幸せ者め。
やはり相当疲れていたのだろう。
微笑んで愛しい人を見るケヤキ。
休みも必要だろう。今日は一日休んでもらおう・・。
その結論に達するまでさほど時間はかからなかった。
ますます幸せ者め。憎いぞ。
――しかし、その後ケヤキはあることに気付く。
「この後村までどう戻ろう・・」
服は濡れ、体も濡れ。この格好のまま帰ることも出来ない。
・・・頑張れ、ケヤキ。
夢現の狭間 終