世間ではもうその噂はほとんど聞こえてくることもなく、
その姿は地下に静かに佇む土偶でしか見ることはできない。
そんなこの土地に。
彼は再び帰ってきた。
***
「ふんふんふ〜ん♪ ただいまー」
「あら、おかえり。」
「ヤァ、ヒサシブリ」
ご機嫌にノロージョハウスに帰宅するノロージョは、
出迎える母の声に、金属質な声が被さるのを聞いた。
「うわっ、カラクロイドさんだっ!!」
思わずノロージョが飛びつくと支えきれずにふらふらとよろける華奢な身体。
錆びた機械油の香りがどこか懐かしい。そう。居間に佇みのんびりと談笑を交わすのは、
そう、ここ数年、このあたりでは見かけることのなかったカラクロイドの姿だった。
「いままでなにしてたの?いつ戻ってきたの??」
「まぁまぁ、少しは落ち着きなさいな。そう質問ばっかりじゃ答えられないじゃない」
「アイカワラズ元気ダナー。スコシハ女ラシクナッタカト思ッタノニ」
「そんなことないもーん」
などとたわいのない会話が笑いと共に漂っていた。
***
「で、いままでどこにいっていたの?」
「それが、新しい罠を開発するため、遠い異国の地で修行してたんだって」
「へー。すごーい。」
「異国ノ地ニハ、我々ノ知ラヌ技術ヤ概念ガイロイロアッテネ‥」
罠の話になったとたん。
いきなり自信満々に語り出すは生粋の罠マニア。
彼の性癖をよくわかっているノロージョ一家はそのままフンフンと期待混じりの視線で続きを促す。
「今回一番勉強ニナッタノハ、カブキ庁トヨバレル絡繰職人ガ集ウ街デネ‥」
そういってどこからかごそごそと取り出すは自慢の逸品。
以下では簡単に、彼が修行に修行を重ね、新たに開発した今回の発明の一部を紹介しよう。
***
■桃色ガス
ほわわーんとピンクのガスがあたりに漂う。
これを吸うと20ターンの間、自分の周囲にいるキャラが同族の異性の姿に見えてしまう。
攻撃や特技に制限はないが、間違って本当に異性をぶってしまったり、
変なところを触ってしまうとあとあと大騒ぎだ。ある意味それが恐ろしい。
■ぞわぞわの吐息
この罠を踏むと10ターンの間、直接攻撃をしようとした瞬間に
背後からうなじにフッと悩ましげな息が吹きかけられ、思わず背中がぞくぞくしてしまう。
反射的に振り向いてしまうから、背後にいる人を攻撃しないように気をつけろ!
■くすぐり地獄
六本腕の罠。5ターンの間、四肢をがっちり捕まれたうえに、
残りの二本の腕で脇の下からあちこちまで、ひたすらくすぐられてしまう。
HPはぐんぐん減るし、移動も攻撃もできないし、口も使えないので大ピンチだっ。
■ヘリウムガス
この罠にかかると25ターンの間、なぜか話し声が高音になってしまう。
この間に直接攻撃を受けてしまうと、ついつい「アンっ」とか「キャッ」とか
可愛い声が漏れてしまうせいか、近くにいるモンスターがオオイカリ状態になるので気をつけよう。
その場合は人にもよるが、モンスターに対して正面を向くと、時々モンスターも我に返ることがあるらしい。
■ぬるぬるローション
頭上から透明でぬるぬるべたべたする生暖かい液体が落ちてくる。
10ターンの間、どうにも滑って転びやすくなるので、物を落とさないように注意しよう。
そのかわり、敵の攻撃も滑るのかかわしやすくなるので、この罠を愛用する風来人もいるらしい。
当然、おにぎりはどろどろになってしまいます。
■ミニミニ821
特殊な召還の罠。周囲に当社比1/10のくねくねハニーが20匹ほど召還され、しばらくの間
四方八方から体当たりで攻撃してくる。当たり所が悪くなければダメージはほとんど受けないし、
レベルドレインといった特殊攻撃もしてこないが、こっちの動作が時々邪魔されてしまう。
■べたべた絨毯
転び石と組み合わせて配置される高級トラップ。
主に通路に設置され、転んだ先にべたべたの粘着シートで相手を捕獲する。
へんな体勢で転ぶと5ターンほどの間、苦しいポーズのまま身動きが取れなくなるため、
この罠にはほんとうに気をつけよう。
etc....
***
「うわー」
「な、なんというかすごいわねぇ‥‥」
「というか、、、なんか方向性かわった‥‥?」
「あ、でも、これ、なんかいいかもー。ふふふ」
「デ、コノ罠ノ画期的ナトコロハネ‥」
この日の新製品発表会は深夜まで続いたという‥‥。