アスカは不機嫌だった。
「どうしたの?アスカ。なんか機嫌悪そうだけど。」
今アスカはシレンと一緒にいる。
「いえ、何でもありませぬ。ただ…。」
「ただ?」
「いえ、お気に為さらずに。」
「そうだよシレン!早く行こうよ!」
今日はキララも一緒だ。
しかもシレンと腕を組んで歩いている。
(なんだこの気持ちは…!何故だ?何故こんなにキララが憎い…?)
(確かに彼女は昔村を荒らした鬼の娘だが今は我々の仲間だ。拙者はこの様な器の小さい者ではなかったはず…!)
(これが…嫉妬なのか…?)
アスカは積極的にシレンにアプローチをするキララに嫉妬していた。
自分は武士である以上不埒な事は出来ない。
そんな考えがアスカを消極的にさせていた。
武士である以前に一人の娘であると言う事を忘れて。
ぐぎゅるぅぅぅ…
シレンの腹の虫が鳴き始めた。
(そうだ!拙者にはこの手があった!)
アスカは懐を探りおにぎりを出そうと…。
「はいっ!シレンの為におにぎり作って来たヨ!」
(何いいいいいいい!?)
「えっ?あぁ、ありがとう。でも何で急に?」
「んー、今日シレンと一緒に冒険に行くって言ったらお父さんが…。」
〜〜回想〜〜
「どうしたキララ?やけに嬉しそうだな。お父さんにもその幸せを分けてくれないか?」
「んー、今は独り占めしたいからダメー。」
「ハッハッハ!そうかそうか。シレン絡みだな?」
「えっ!?何でわかったの!?」
「なんてったって父さんはキララの父さんだからな。キララの事で知らない事はないぞ。」
「お父さんスゴーイ!でもちょっと恥ずかしいカナ…。」
「ハッハッハ!そうかキララももうそんな年頃か。昔は『お父さんのお嫁さんになるー』なんて言ってくれたもんだが…。」(ホロリ)
「ごめんね。お父さん。」
「いや、いいんだ。あの男、いや、あの漢ならキララを任せられる!」
「活字でしかわからないネタはやめようよ…。」
「お父さんは嬉しくもあり悲しくもありだぞー。」
「そうだ!一つ良い事を教えよう!」
「ナニナニ?」
「キララにとってシレンは『いいひと』な訳だろう?」
「…うん…。」
「いいひとって言うのは漢字で書くと良い人。良人になるわけだ。」
「この良人を別の読み方で読むと『おっと』。つまり夫になるんだ。」
「へぇ〜。」
「さらに良人を縦に並べると『食』これがいいひとは食べ物で落とせと言う言葉の語源だと父さんは考えてる。」
「お父さん博識〜。」
「照れるな…。」(悦
「つまり何か食べ物を作って行けって事だネ?」
「ん…まあ、そうだな。」
「なにがいいかな。」
「おにぎり辺りがいいんじゃないか?」
「オニギリ?」
「人間の食べ物でご飯に塩を振って握るんだ。」
「よくわかんない。」
「うーん…。そうだ!第一回チキチキ“父の味”お料理講座〜!」
どこからかヤセオニ達が台所を運んで来た。
それも黒子の格好で。
「チキチキ?」
「キララ、父さんがおにぎりの作り方を教えてあげよう。」
「ホント!?お父さんダイスキー!」
〜〜回想終わり〜〜
「と、言う事があったの。」
「へ、へぇ〜。」(苦笑
シレンは親分に対する考えを少し改めた。娘に溺愛と。
そしてアスカは半ば忘れられいじけて近くにあった木を滅多斬りにしていた。
「一生懸命作ったから食べて!」
「う、うん。」
シレンは少し引いていた。
キララのテンションの微妙な高さに。
「いただきます。」
最低限の礼儀は忘れずシレンはおにぎりを一口食べた。
「ん。」
「どぉ?」
「ふぉいひいひょ。」
「ヤッター!」
シレンはそのままおにぎり二つをあっと言う間に食べ切った。
「ごちそうさま。」
そこへ木をタイガーウッホの彫刻に変えたアスカがやって来た。
「シレン殿。」
「ん?」
「あの、おにぎりを。」
アスカの手には前回と同じ様に竹の葉に包まれたおにぎりが乗っていた。
「…いただきます。」
正直キツかった。
シレンの満腹度が50%近く上がった。
正直ここまでハラヘリーニョが恋しいと思った事はなかった。
「ごちそうさま。」
「どうでしたか?」
「うん、おいしかったよ。」
「そうですか。」(微笑
先に進もうとしたシレンに災厄の種が降り懸かる。
「私のとどっちがおいしかった?」
「!!」
それは今シレンが一番言われたくない言葉だった。
「ねえドッチ?」
「それは拙者も知りたい所です。」
アスカまで加わってもうシレンの手に負えない。
「ええと…、それは…。」
「…。」
「…。」
シレンは知恵を振り絞った。
そして出た言葉が
「引き分け?」
「えーっ!?」
「納得が行きませぬ!」
この後散々揉めた後、アスカとキララがシレンの両腕を奪う様にして帰って来たのはまた別の話。