(ぐうぅぅぅ…)
シレンの腹の虫が低い泣き声をあげた。
そう言えばもうこのダンジョンに入ってから随分と食べ物を食べてない。
シレンは懐を漁ったが食べられる様な物はなく、俯き、溜め息を一つ吐いた。
「あの…シレン殿…。」
アスカは後ろ姿に哀愁を感じさせるシレンに話しかけた。
「なんだい?」
シレンは空腹の辛さを表に出さない様、極力平静を装って返事をした。
「あの…えと…。」
「?」
アスカは後ろ手に少し俯き吃った。
「どうしたんだ?まさか怪我でもしてたのか!?待ってろ!確か薬草が…!」
「っ、そうじゃなくて!」
「えっ?」
また吃ってしまったアスカを見てシレンは首を傾げた。
(っ!ええーい!武士は真っ向から立ち向かうのみ!覚悟を決めろ!アスカ!)
「お…おに…」
「鬼?」
「おにぎりを作って来たんだが食べて頂けないだろうかっ!」
アスカは一気に言い切った。
アスカの顔は耳まで真っ赤である。
見ればアスカが差し出した手の上には笹の葉に包まれたおにぎりが乗っている。
「…。」
「…。」
沈黙。
シレンはアスカの突然の行動に戸惑った。
アスカから手作りのおにぎりを貰う渡される等とは考えたこともなかったのだ。
故に状況を理解するのに時間が掛かった。
アスカはその沈黙を拒絶と取ったのか、
「やはり、拙者の作った物は食べたくはないですか…。」
「い、いや!そうじゃなくて!」
シレンはまたも戸惑った。
急にアスカが目を潤ませ、俯いてしまったのだ。
「その、アスカが料理するなんて以外だなぁって思って…。」
「では…やはり…。」
「だから違うって!誰も欲しくないなんて言ってないだろ!?」
「なっ、ならば…。」
「えと、その、貰っていいかな?」
途端にアスカが明るさを取り戻した。
心なしか微笑んでいる様にも見える。
そんなアスカを見てシレンは少しドキッとしてしまった。「その、こう言う事は初めてなもので…余り上手く出来ていないが…。」
確かにそのおにぎりは不格好で大きさもそれぞれ違った。
所々形が崩れている所もある。
「形なんて関係ないさ。」
すっぱりとそう言ったシレンにアスカは何故か救われた様な気持ちになった。
「いただきます。」
そう言ってシレンはおにぎりを一口で…食べなかった。
いつもならこれくらいの大きさのおにぎりならば一口で食べてしまうのに。
アスカはそれを見てまた少し不安になった。
「何故一口に食べてくれないのです?」
「んー?ほりゃあ…(ゴクンッ)…折角アスカが作ってくれたおにぎりを一口で食べちゃうのは勿体ないからね。」
アスカは顔を赤くして俯いた。
嬉しかった。
何故かはわからない。
だが、シレンのその言葉を聞いた時何故か大きな喜びを感じた。
数分掛けてシレンはそのおにぎりを食べきった。
満腹である。
「ごちそうさま。」
「どうでしたか?」
「うん、凄く美味しかったよ。ありがとう。」
「そ、そうか。良かった…。」
アスカは満面の笑みを浮かべた。
その表情からは強い幸福を感じる。
その表情を見たシレンが顔を赤くしたくらいだ。
「っ、そろそろ先に進もうか!」
気恥ずかしさから顔をアスカから背け早足で先へ進みだした。
「あっ、シレン殿!」
「えっ!?」
突然の叫びにシレンは驚いた。
「あの…また作って来ても…宜しいでしょうか?」
「…。」
その言葉にシレンは少し驚きを感じたが直ぐに返事を返した。
「是非お願いするよ。」
アスカはまた柔らかい笑みを浮かべた。