『キーンコーンカーンコーン』
ここは風来中学校。
生徒達は皆一風変わった者達ばかりである。
そして、この物語はこの学校の屋上から始まる…。
「遅いな…。」
彼女の名はアスカ。この学校の2年である。
アスカはある人物を待っていた。
『ガチャン』
音を立てて屋上と校内を繋ぐドアが開く。
「あっ、いたいた、遅くなりましたー。」
彼の名はシレン。
アスカの後輩である。
「本当に遅いぞ。何をしていた。」
「一階の自販機でお茶買ってました。はい、先輩の分。」
シレンはアスカにお茶の入ったペットボトルを渡す。
「む、すまんな。てっきり今日は来ないかと思ったぞ。」
「すいません。来る途中で色々と仕事を頼まれちゃって。」
「そうか。君は人が良いからな。」
アスカは一口お茶を飲むとペットボトルを脇に置き、側にあったバッグを漁り一つの包みを取り出しシレンに手渡した。
「ほら、君の分だ。」
「いつもありがとうございます。」
「礼には及ばんよ。私が好きでやってる事だからな。」
「それでもありがたい物はありがたいですよ。」
「そうか。」
「そうですよ。」
アスカとシレンは包みを開け始めた。
包みの中身はラップに包まれたおにぎりだった。
二人は慣れた手つきでラップを剥してゆく。
「「いただきます。」」
言うと同時にシレンはおにぎりにかぶりついた。
「そんなに急いで食べなくてもおにぎりは逃げ…」
「んぐうっ!?」
シレンはおにぎりを喉に詰まらせた。
「言ってる側から…ほらお茶だ。」
アスカは自分のお茶をシレンに手渡し背中を擦ってやった。
「んぐっ…ぷはぁっ、すいませあっ!すいません!先輩のお茶殆ど飲んじゃいました!」
わたわたとシレンがアスカに謝る。
「構わんよ。後で君のを少し貰うからな。」
「そうですか…。」
「それよりもう少し落ち着いて食べれないのか?別におにぎりは逃げては行かないぞ?」
「だって美味いじゃないですか。」
「理由になってないぞ…。」
そう言ってアスカは少しだけ残っていたペットボトルのお茶を飲み干した。
(ハッ!こっ、これはもしや、か、かか、関節キッスと言う奴か!?)
途端にアスカの顔が赤くなる。
その事におにぎりを(今度はゆっくりと)頬張っていたシレンが気付く。
「アスカ先輩?」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「熱でもあるんですか?顔真っ赤ですよ?呂律も回ってないし。」
「なっ、なんでもないなんでもない。気にするな。」
「?…そうは言っても「気にするなと言っているだろう!」
「ごっ、ごめんなさい!」
「あっ、いや、その、怒ってるわけじゃないんだ。謝らないでくれ。ちょっとカッとなってな…。」
「そうなんですか…?先輩らしくないですね。取り敢えずお茶でも飲んで落ち着いて下さい。」
シレンはペットボトルのキャップを開けてアスカに手渡す。
「ん、すまんな。」
そう言いアスカはお茶を少し飲み込んだ。
「まあ、私らしくないと言えば私らしくないし私らしいと言えば私らしいな。」
「何言ってるんですか?そう言えば、今日は何を教えてくれるんですか?」
シレンはまたおにぎりを食べ始める。
「ん、そうだな…。飛び込み面辺りをやってみるか。」
シレンとアスカは同じ剣道部だが、部活動が終わった後も知り合いの道場を借りて二人で練習をしている。
シレンは素質があるようでなかなか飲み込みが早く顧問のシハン先生(国語担当)もその成長っぷりに驚いていた。
「ごちそうさま。」
「んむ。」
アスカはゴミを纏めカバンにしまった。
シレンは残ったお茶を飲んでいる。
「さて、そろそろ昼休みも…」
ふと、アスカがある事に気付く。
(飲んでる…これも関節キッスか…?)
アスカはシレンにキスされている様な感覚に陥り、またしても顔が赤くなった。
(シレンと接吻…ハッ!なっ、何を考えているのだ私は!変だ!今日の私は何か変だ!…シレンと…ひゃあっ、そんな…ああっ!そこはっ…!)
『キーンコーンカーンコーン…』
妄想に耽っているアスカを余所にチャイムが予鈴を鳴らす。
「ん、そろそろ昼休みも終わりか。じゃ、先輩、また放課後に。」
そう言ってシレンは去って行った。
一方アスカは、
(放課後の教室で二人っきり…ああっ!シレン!積極的過ぎるぞ!)
妄想がエスカレートしていた。
その日、アスカは午後の授業に集中できず、カラクロイド先生(技術担当)に6回も注意された。