杉並の旧街道……その名が示すとおり、すでに街道としての役割は終えた道  
であったが、テーブルマウンテンへたどり着くためには最初に踏まねばならぬ  
道であり、山頂を目指す風来人たちがもっとも多くたむろす地形であった。  
 
 やがてこの地にその名を轟かすことになるシレンも、この旧街道に隣接する  
場所にある、渓谷の宿場での休息を終えて足を踏み入れていた……。  
 木漏れ日が差す森の中で、得物の刀をびゅんと振るうと彼を囲んでいた数体  
の怪物を一刀両断にして葬り去る。  
 
「こいつらじゃ敵にならねえな」  
 
 怪物達は切断面から大量の血しぶきをあげて大地に倒れ伏す……その返り血  
をぐいっとぬぐうと、そうつぶやいた。  
 刀を鞘に戻して、わずかにずれた三度笠を直す。  
 
 そして合羽をひるがえして再び道を往こうとするが、その背後に再び気配が  
感じられた。またか、と、ばっと振り向いて居合い抜きの構えを見せる。  
 しかし、その目に映ったものは――  
 
「あぁら怖い」  
「……なんだ、あんた」  
 
 後ろに立っていたのは、人間の女だった。それを見てシレンは構えを解いて  
直立するが、警戒は解かなかった。人間であろうとも害を成さないとは限らな  
いからだ。  
 その女は姿も変わっていた。  
 シレンが三度笠に旅合羽と、純和風の姿をしているのに対し、この女は胸の  
上半分も露出させたようなタイツの上に風変わりな手袋とブーツといった、珍  
妙な格好をしていたのだ。おまけに王冠の様な髪飾りまでしている。  
 
 服装だけ見ると半端な道化のようであったが、しかしその顔は目鼻立ちが整  
って美しくふくよかな部分と引き締まった部分がバランスよく調和した肢体に  
、ぶら下がるように張り出した形の胸は、男の目を誘うのに十分であった。  
 
 本人もそれを意識してか、わざと屈む様な格好でシレンに見入ると、  
 
「さっきの戦いぶりといい、なかなか男前じゃん。気に入ったわぁ……どう?  
私とイイコトしない?」  
 
 と、接近して、上目遣いに息を吹きかけるかのようにして言う。  
 大抵の男ならばこれで参ってしまう所であろう。だが、シレンは仁王立ちの  
まま微動だにせず、目だけをぎろりと見下ろすと、  
 
「女ぁ買ってる銭はねえんだ。他、当たってくんな」  
 
 と、低く言った。  
 もとよりそこらの道で言い寄って来る女などにロクな人間がいないことは、  
旅でさんざん経験したことだったので、邪険そうに扱う。  
 
 下手をすると後ろに筋者が控えている事もざらであった。もっとも風来人も  
ロクな人間とは言えず、そのロクでも無い者同士、いさかいを起こす事もあっ  
たが。  
 しかし旅慣れたシレンは余計な闘争を避ける手段も身につけていた。  
 
 こういう場合は大抵、貧乏人を装えばあちらから去っていってくれるものだった。  
こういうときは親友の形見、薄汚い合羽が役に立つ。  
 シレンは今回も同じようにして追い払うつもりだったが、ふと引っかかるものを  
感じて開きかけた口をまた閉じる。  
 
 いくら旧街道といっても、今となっては怪物が出現する危険な地形なのだ。  
ただの娼婦風情がのんきに出歩ける場所では無いはずだった。  
 
(……と、すりゃあ。こいつも風来人か?)  
 
 シレンがそんな風に思っていると、顔に表れていたのだろうか。  
 
「あん。そんなんじゃないんだって、本当に気に入ったんだからぁ」  
 
 と、女が反応する。  
 その聞き慣れた妙に甘える様な声色を、耳の右から左へと通り抜けさせて、  
シレンは「へぇそうかい」と、ぶっきらぼうに答えた。  
 しかし女はそれに気分を害した風でもなく、シレンに擦り付きながら甘えを  
続ける。  
 
「ちょっと目をつむってておくれよ……ね、いいことしてあげるから」  
 
(目をつむって、ねぇ)  
 
 女のあからさまに怪しげな態度に、シレンはもう少しまともな演技ができな  
いものかと内心で吹き出す。  
 いくら男が色気に弱いといっても、よほどの間抜けでもなければ、知りもし  
ない女が、突然いいことをしようなどと言って寄ってくれば、警戒するものだ  
。  
 目をつむれと来ればなおさらである。  
 
(新手の盗人かなんかかね)  
 
 そのように女の正体を推測したが、どの道、盗まれて困るものなど三度笠と  
合羽、そして刀以外にはない。道具袋には役に立つかどうかは解らないが、  
一応の門番も入っている。  
 それにシレンには、たとえ首筋に刃物を突きつけられたとしても、どうにで  
も出来る自信があった。  
 
(せっかくの美人なんだ)  
 
 言い寄ってきてくれたのだから、その真意がなんであれ乗ってみよう……シ  
レンはそう思うと、ふっと殺気を消して、表情を和らげる。そして、  
 
「じゃあ、いいことしてもらおうか」  
 
 といって、目をつむる。ばれると信頼を損なうので、薄目は開けていない。  
 それを見た女はにんまりとすると、よりシレンに体を密着させて言う。  
 
「そのまま目を開けないで……じゃあいい? やさしくいくわ……」  
 
 だが、甘い言葉とは裏腹に、その細い腕をシレンの顔めがけて走らせる女。  
それと同時に破裂する音に合わせて威勢よく叫ぶ。  
 
「ドーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」  
 
 すると顔で暴発した何かに、シレンが一瞬ぐらりと揺らめく。それを認める  
と女はケタケタと笑いながら逃げようと、身を翻すのだった……。  
 
だが。  
 
「待ちな」  
「うぇっ!?」  
 
 逃げようにも女はその場から移動できなかった。虎ばさみの罠に引っかかって  
しまったのではない。  
 シレンの太い腕が、女の細い腕を掴んでいたのだ。ぎりぎりと音が立ちそうな  
ほどに握りしめると小さく悲鳴があがる。  
 
「悪ぃな、俺は目ぇつむってても動けるんだ」  
「ううっ」  
 
 今までで失敗した事がなかったのであろう、女はあり得ないといった風に、  
驚愕の表情を浮かべていたが、それが視界を奪われたシレンに見えるはずもなく、  
彼はお構いなしに腕をひねり上げると、そのまま女を背負い投げて地面へ叩きつけた。  
 ぎゃっと悲鳴があがる。  
 そして逃げられないように、勢いのまま馬乗りになると女の首根を掴んで言った。  
 
「もう少し気の利いた事するかと思ったら、つまんねえ悪戯しやがって」  
 
 その体勢のまま残った左腕で道具袋をまさぐって、シレンは目薬草を煎じた  
薬を取り出して服用する。  
 それはすぐに作用して、奪われた視界が戻ってくる……この辺りで採れる薬  
草類は、まさしく医療品級の回復性能を持っているのが特徴だった。  
 いや……下手をするとそれを上回っているかもしれなかった。  
 
 それはともかく、戻った視界に映ったものは、恐怖におののいた女の顔だった。  
さきほどまでの余裕が嘘のようである。  
 それを見てシレンはつまらなさそうに口をへの字に曲げ、目だけ上向きにして  
少し考えるそぶりを見せたあとに再び視点を戻すと、  
 
「お前、なんて名だ」  
 
 睨み付けるようにして言う。  
 お竜は、かすかに震える声で答えた。  
 
「お、お竜……目つぶしのお竜」  
「お竜っての、あんたも大方風来人だろうが、つまんねえ悪戯で俺に手を出し  
たのが運の尽きだったなぁ。風来人にが風来人にちょっかい掛けるなら、殺す  
位じゃなきゃいけねえぜ」  
 
 シレンはそう言って三度笠を脱いで置くと、瞬時に飛び下がって刀を引き抜  
き目にもとまらぬ速さで幾度も剣を交差させる様にして振り払う。  
 それにお竜の悲鳴が上がるが、しかしその斬撃が彼女を傷つける事はなく、  
着衣しているもののみを見事なまでに破断してしまった。  
 ぱらぱらとこぼれる衣服の中から、豊満な肉体が露わになる。  
 それを見て、にぃっとするシレン。  
 
「ひ、ひぃぃ」  
 
 お竜が這いずるように後ずさるが、シレンはその肉体の上に再び馬乗りにな  
ると大きな胸を捕まえて軽くもみしだく。  
 
「逃げんなよ」  
 
 さきほどの怪物の返り血で真っ赤になった顔を、お竜がやったように近づけ  
ると凄惨なまでの笑みを浮かべて凄む。  
 その迫力に再び悲鳴が漏れるが、すぐに口をシレンの唇に塞がれてしまう。  
 
「んん、んんんーっ!?」  
 
 突然の接吻に目を白黒させるお竜だったが、シレンはかまわず彼女を抑えつ  
けたまま、ねっとりとそれを楽しんでから、ゆっくりと顔を引く。  
 残った唾液がつーっと垂れ落ちて彼女の胸を汚したが、二人のどちらもそれ  
を気にするそぶりはなかった。  
 シレンが軽く口をぬぐってから言った。  
 
「おっと。まだ名を言ってなかった……俺はシレンってんだ。どんな事でも、  
 けじめのつかねえ事は大嫌いな男でさ」  
「け、けじめって」  
「けじめは、けじめよ……女が男にちょっかいかけたんだ」  
 
 そこまで言うと、再びお竜に顔を近づけてその首筋に舌を這わせる。  
 なまめかしい感触にお竜がぶるりと身震いを起こして反応すると、シレンは  
耳元で「解るだろ?」とつぶやいた。  
 
 裸に剥かれた上で、男にのし掛かられて求められる事など、ひとつしかあるまい。  
 それはお竜とて百も承知の事であろう。  
 
「ううっ。わ、解った……」  
 
 ふいと顔を背けて言う。  
 それを確認したシレンはおもむろに立ち上がると、自らの着物の下を剥ぎ  
取ってしまう。  
 すると、ぶるんと大きな肉棒と金玉が現れる。それはすでに太く固くいきり  
立っており、起き上がってきたお竜の頬にぴたぴたと当てて、  
 
「ほれ、しゃぶりな」  
 
 嫌みたらしく言う。  
 しかし、お竜はその要求を即座に飲んだ。  
 
「……あむっ」  
 
 逆らえばどういう目に合わせられるかわからない、と思ったのだろう。躊躇  
することなく肉棒を口に含むと、亀頭をちろちろと舌で突きながら上下しはじめる。  
 
「ううっ久しぶりだ。しびれるぜい」  
「んぶっ……んんん……」  
 
 口をすぼめて肉棒をこすり上げるお竜に、シレンはぶるりと腰を振るわせて  
応える。  
 そのまましばらくの間、お竜の愛撫に身を任せていたが言葉通り、長いこと  
溜めていたのであろう。  
 その我慢はあっという間に限界に達して両の手でその頭を抑えつけると、  
自身の腰を振り始めてなお快楽を得ようとする。  
 
 無理矢理肉棒を喉の奥に突き入れられる感覚にむせかけるが、シレンを怒ら  
せればどうなるか解らないと思うお竜は、必死に耐えて彼を貪り続ける。  
 
 やがてその運動が終局に差し掛かると、速度を上げてシレンが呻く。  
 こみ上げる射精感に合わせて、だんだんと玉も持ち上がってくる。  
 
「も、もう我慢できねえ……出すぞ。全部吸い取りな」  
「んううっ!」  
 
 言うやいなや、肉棒から白濁液が勢いをつけて飛び出していく。その全てが  
お竜の咥内に溢れると彼女は必死にそれを吸引する。  
 それによって射精の快感が高められ、シレンが深く呻いた。  
 
「う……案外上手いじゃねえか、お竜。こんな所でうろつくより、本職にでも  
なった方が良い人生送れるぜ」  
「それもいいかも……」  
「ん?」  
 
 半分茶化すつもりで言ったシレンだったが、それに返ってきた言葉は妙に  
艶の含まれた肯定だった。  
 見れば、先ほどまで恐怖におののいていた顔が再び初対面した時のように、  
いや、それどころか上気した様になって、瞳の中に渦巻きの様な模様が浮かび  
上がる。  
 とろんとした目つきでシレンを見返すと、小さく口を開いた。  
 
「私ねぇ……乱暴にされると燃えちゃうタチなんだ。あんた男前だから、本当  
にゾクゾクしちゃうよぉ……」  
「こいつはまた」  
 
 とんでもない性癖の持ち主がいたものだ、とシレンは自分の行為を棚に上げ  
て頭を垂れ、頭をかいた。長めの前髪が目を隠すように垂れ下がる。  
 髪に隠れた瞳を、爛々と輝かせるとお竜を抱きすくめて再び押し倒すと、そ  
の手を彼女の股間にやりながら深く口づけを交わす。  
 既に濡れそぼっていたそこに刺激が加わって、お竜は塞がれた唇の隙間から  
悲鳴を漏らして喘ぐ。  
 
「なら、もっと酷い事をしてやろうか」  
 
 シレンは相変わらずとろんとした目つきで自分を見るお竜からわずかに離れ  
ると、腰の刀をしゃらんと抜いて刀の腹を彼女の首筋にぴたり、と当てる。  
 研ぎ澄まされた刃は触れただけで、その部分を切り裂いてしまう。  
 薄く血が滴った。  
 
「あ、あぁ」  
 
 首筋に伝わる金属の冷たい感触と、走る痒い様な痛みにお竜は震える。  
しかしそれでも、先ほどの様な恐怖を感じている風ではなかった。  
 シレンとおなじく渦の巻いた様な瞳が爛と輝くと、その口端をつり上げて言う。  
 
「痛いわ……」  
「乱暴にされると燃えるんだろう?」  
 
 シレンは楽しそうに笑いながら、ゆっくりと刀を離すとそれを逆手に持ち、  
股間へと持って行く。  
 そしておもむろに柄を彼女の肉ヒダに押し当てると、ぐりっと突き入れて入  
れてしまう。  
 
「ひぃぃっ」  
 
 固い異物の挿入に激痛が走って鳴くお竜。  
 それにも構わずシレンは逆手に持った刀をゆるやかに抜き差しすると、  
びくびくと肢体を痙攣させるお竜に、肉棒をひときわ大きく反り返らせて被虐的な  
笑みを浮かべるのだった。  
 
 しばらくそれを楽しむが、しかしふと気配を感じて顔を見上げる。すると視  
線の先に、首だけの龍の怪物が間近に迫ったのを捉えるのだった。  
 
「ドラゴンヘッドか……珍しいな、こんな所に」  
 
 本来はもっと深く踏み言ったところにしか居ない怪物である。大方、どこか  
で変化の杖でも振った風来人が居たのだろう。  
 
 お竜を犯している最中に龍の怪物がやってくるとは、ずいぶんな洒落だと思  
ってまた笑ったが、相手はマムルなどとは違う強力な敵だ。放っておけば手痛い  
傷を負わせられてしまうだろう。  
 ゆえに二人の喉元までドラゴンヘッドが迫った瞬間、秘所からずぶりと刀を  
引き抜くと、逆手のまま向かって横へ一閃する。  
 
「出歯亀してんじゃねえよトカゲ頭」  
 
 触れただけでお竜の首筋を裂いた刀の切れ味は鋭く、一撃で顎から上を吹き  
飛ばすと、そこからどばっと噴出した血液が二人へ降り注ぐ。  
 それを浴びて血の臭いを体中に吸い込むと、気持ち悪くなる様な感覚に異常な  
興奮を覚えたお竜がその身を悶えさせて蠢く。  
 
「うぅぅ……たまんない……」  
「ついでに血を見ると興奮するタチか? 安心しな、俺もだ」  
「もうダメぇ。シレン、その太いのぶち込んでっ」  
 
 その求めに、シレンはさっと刀を紙でふいて鞘に戻すと、今度は自身の刀を  
しごきあげながら、こつんと秘所の入り口へと突きつける。  
 そしてそのまま腰を押し出すと、亀頭が割れ目を押し入って中へと進入して  
いく。  
 柄などとは違う本物に満たされる感触に、思わず甘い吐息を漏らして反応す  
るお竜。  
 シレンもまた、肉棒を包み込まれて刺激される感触に久しぶりの充足感を覚  
えると無意識のうちに腰を動かしていく。  
 
「ひっ、ひぃっ」  
 
 一突きされる度にお竜から喘ぎが漏れた。  
 薄暗い杉林の中、まとわりつく虫にも構わず二人は獣のように繋がる。何度  
も何度も腰を振って打ち付ける。  
 時々止まってかき混ぜるように腰を捻ったりしながら、豊満な胸を掌に包ん  
で揉みしだくと口吻する。  
 
 そんなやりとりを延々と続ける内に、お竜の喘ぎ声がひときわ甲高くなる。  
限界が近くなってきたののだろう、それに合わせるかのようにシレンもグライ  
ンドする速度がだんだんと速くなっていく。  
 
「うぅっ、うっ」  
「くっ、俺もそろそろ……出してやるぞ、お前の中に」  
「それは、だ、だっ駄目ぇぇ」  
「俺に関わったのが運の尽きだって言ったろう。孕ましてやるぜぇ」  
「ひぃぃぃ……」  
 
 わずかに身をよじって抵抗するお竜を抑えつけると、いっそう腰の降りが速く  
なっていき、いよいよシレンが呻く。  
 
「ううっ出るっ……!」  
「いやぁぁぁっ」  
 
 そして体を密着させると、彼女の中に大量の子種を注ぎ込んでいく。それは  
ずいぶんと長く続いた様に感じられた。  
 やがて、射精を終えたシレンがゆっくりと肉棒を引き抜いてお竜から離れる  
と注ぎきれなかった分が溢れて地面へと零れる。  
 それをすくってお竜の唇に塗りたくって再び口吻を交わす。  
 
「うう。あんた最低よ」  
 
 口づけから解放されたお竜は、シレンをのけて起き上がると恨みがましく  
言った。  
 だが自身のこれまでの行いを棚にあげているあたり、最低さは二人とも  
大差がないだろう。  
 シレンがそのように笑って言った。  
 
「風来人に紳士なんかいやしねえよ」  
 
 そう言われると、お竜も自分のしてきた事を思い出したのだろう。  
目つぶしでからかってきたのは、なにもシレンだけではない。数多くの男を  
同じようにしてきたのだ。  
 目つぶしの後に怪物に襲われて命を落とした者もいたかもしれない。  
 シレンの指摘に、目を泳がせると話を逸らすようにお竜は言った。  
 
「……あんたもテーブルマウンテンを目指してるのかい」  
「ああ。俺はこれからあの山を制覇する男よ、覚えときな」  
 
 自信ありげに言う。お竜にはその根拠をうかがい知る事はできなかったが、  
その眼光に有無を言わさず納得させられてしまう。  
 それと同時に、彼女の心の奥底にめらめらと感情が入り混ぜになった炎が  
燃え上がる。  
 その火力に動かされて、お竜は手刀をシレンに打ち込むが軽くいなされてしまう。  
まだやるか、と言わんばかりに睨まれるが、無言で今度は抱きつく。  
 
「忘れない……ずっと付きまとってやるから。女にこんな目を遭わせておいて  
あんた一人だけ良い思いはさせないよ」  
「付いてこられるなら勝手にしな。寝首をかかれる位の方が面白え」  
「女を慰み者にした代償は高くつくんだからね! だからとりあえず……」  
「?」  
「まだ足りないからもっとしてよシレン」  
 
 その言葉に一瞬、呆気にとられたシレンだったが、にやりと笑うと再び彼女  
へ覆い被さっていくのだった。  
 
 静かな杉並の旧街道の昼下がりに、男女の喘ぎが響く。幾人かの風来人たち  
はそれを聞き届けて、その日の艶話にでもするであろう。  
 しかし、その喘ぎ声の主が近い将来に伝説の黄金のコンドルに乗ってテーブ  
ルマウンテンから生還してくるなどとは、誰も夢にも思っていない事だった……。  
 
 
終わり  
 
 

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