「さすがシレン殿」  
「ち、また相打ちか……」  
 
 であった。  
 刀は、お互いの首筋に触れるか触れないかのところでピタ、と止まっていた。  
 ……果たし合いに見えるが、これは風来人同士、剣士同士の握手のようなものなのだ。  
 ただの握手と違うところは、これでお互いの意思が確認できてしまうところである。  
 
 格闘家なら拳で語り合う、とでもいったところだろうか。  
 やがて二人とも刀を仕舞う。  
 余韻を楽しむかのような沈黙が流れたが、しばらくしてそれを破ったのは、アスカの方  
だった。  
 
「シレン殿、長旅でお疲れであろう? この先をゆけば、村落にたどり着くはず……拙者  
が案内つかまつろう」  
「お、悪いね」  
 
 くるり、と彼に背を向け歩み出すと、シレンがその背を追い掛ける。  
 追い掛けつつ、唯一、肌の露出した首筋を眺めてみる……。  
 日に焼けたせいで、少々あさぐろくなってはいたが、汗ばみ、ぬらぬらと艶がかったそ  
れは、旅で女日照りの続いていたシレンの性欲を刺激するに十分だった。  
 
「しかしさ、美人になったもんだよなあ、アスカ」  
「……戯れを」  
「その固すぎな言葉さえなきゃ、今すぐにでも押し倒しているところよ」  
「!! し、シレン殿……」  
 
 アスカが口を半開きに、空を見上げた。  
 その後ろでは、いつの間にか彼女へ寄り添ったシレンが、アスカの肉付きのいい腰に腕  
を回している。  
 が、抵抗はなかった。  
 アスカにしてみれば、相手は一〇年も昔から忠義を誓った相手だ。  
 手も気も早いシレンに誘われたとしても、もはや童ではなくなった男と女の付き合いを  
するに、やぶさかではなかったかもしれない。  
 
「シレン殿……こ、このような所で」  
「いいじゃねえかよ。どうせ、誰も通りゃしねえ。通ったら見せつけちまえ」  
 
 いいながら、その耳元に口があたるほどの距離でシレンはなにごとかをささやくと、ア  
スカの眼前に顔を回してニィ、と笑った。  
 対してアスカは目をぐるぐると回しているようだった。  
 なにか言おうと口を開きかけるが、シレンはその紅く濡れた唇を、我が唇でもってふさ  
いでしまう。  
 やはり抵抗はなかった。  
 
 それどころかアスカは、とろりとした目つきでシレンを見つめる。  
 太陽の熱で流される汗のせいで雰囲気は艶を帯び、塞がれた口からは甘ったるい息が漏  
れた。  
 永遠に続くかと思われたが、しばらくするとシレンの方がふわりと身を彼女から離して  
しまう。  
 
「あっ……」  
 
 と、名残惜しそうにアスカが切なげな視線を投げる。が、シレンは相手にならず、一方  
的に笑みを浮かべると、  
 
「御馳走さん」  
 
 いたずらっぽく言って、一歩引いた。  
 が、誤算か。  
 それが彼女に正気を取り戻させることになってしまったようで、  
 
「ふ、ふ、不埒なっ!!」  
 
 アスカは身を震わせると腰の太刀に手を掛けて、ずいっと一歩迫る。  
 うかつな言葉を喋れば、シレンを斬ってさらにその場で自らも腹を切り、果てそうな勢  
いであった。  
 が、シレンはいった。  
 
「俺を斬るかい」  
「えっ……あ、そ、それは……」  
 
 と、アスカはいいかけたがそこで黙ると口を真一文字に結んでから、再度開いた。  
 
「斬る! このような辱めは、シレン殿といえど許すわけには参らん!!」  
「……しょうがねえや。ならこいつで頼む」  
 
 と、腰の太刀をサヤごと抜いて逆さまにするとアスカにずい、と向けた。  
 これで斬ってくれ、というのである。  
 それをアスカは言われるがまま手にとってしまう。  
 
 柄に手を掛けた瞬間からずしり、と重みが伝わるが、それと共に禍々しさを感じる障気  
のようなものまでが伝わってきた。  
 あまり長く持っていたくないような、しかし、逆に振り回してみたくなるような、そん  
な矛盾する奇妙な感覚だった。  
 アスカはおもわず、  
 
「抜いてもよろしいか」  
 
 などと、小娘のようなあどけない声で聞いてしまう。  
 これが今し方まで自分を斬るとわめいていた人間の言葉だろうか。シレンは内心噴き  
だしてしまいそうだったが、せっかくなので、  
 
「ああいいぜ」  
 
 と、けしかけてみた。  
 
「で、では」  
 
 必要もない許しを得て、しゃらり、と長い太刀をサヤから抜き放つ。  
 現れたものは、紅がかった色味の、鮮やかなまでの美しさをたたえた刀身だった。  
 どうしてこんな色がついているのか理解できなかったが、そんな理屈を考える余裕を奪って  
しまうほどに、この太刀は美しかった。  
 
「……綺麗」  
 
 アスカは、おもわずつぶやいてしまう。  
 シレンは、彼女のそのおちつかない感情の起伏に、ついに笑い出しながら、  
 
「そいつは「かまいたち」だ。妖刀っていわれてる代物だが、俺は好きな刀でさ……」  
 
と、軽い講釈を垂れる。  
 その言葉にアスカは深く頷く。まるで、刀にこころが奪われているようである。  
 シレンは、なおも続けた。  
 
「さて……アスカ。殺るならバッサリとやってくれよ。どうせ死ぬなら派手に死にてえん  
だ。こう、上半身をえぐるように頼む。首もきっちり落としてくれよ」  
 
 ばさりと諸肌を脱いだ。服の下から鍛えられたしなやかな筋肉に覆われた上半身が現れ  
る。それにアスカはちらりと目をやり、  
 
「では」  
 
 といった後、刀を中段に構えた。そしてぐっと溜めたあとに一歩踏み出して、そのまま  
シレンに向かい猛然と突進していく。  
 アスカは、くわっとその目を見開きシレンの面を狙って矢のようになって突いた。  
 ……かのように思われたが、突き入れられたはずの刀はアスカの手を離れ、シレンの顔  
の横を素通りし、いつの間にか後ろにあったアイアンヘッドの顔面を襲った。  
 
 ギャアッ、と悲鳴があがる。  
 弾丸と化した刀の威力は凄まじく、敵の頭をスイカのごとく砕き、ばしゃっ、と赤黒い  
血や脳漿やらを目玉やらを、飛び散り果てさせたほどだった。  
 が、まだ終わらない。  
 
 アスカはすかさず飛びかかり、刀を取り戻すと同時に飛んできた目玉を引っつかんで手  
の内でぐしゃり、と握りつぶしながら敵の胴を蹴り倒すと、そのまま刃を突き立てトドメ  
を刺す。  
 そして惨殺された敵を見下しながら、ゆるりと刀を引き抜くが、懐紙がないことに気づ  
くと、仕方なしに自分の袴でもって刀身の血を拭う。  
 
 白い生地が、赤黒く染まった。  
 彼女はゆっくりと振り返る。すると、右の頬から血を垂らしたシレンがニヤリと笑って  
その様を見つめていた。  
 アスカは、かまいたちをゆっくりと、厳かに、宝物でも献上するかのようにシレンに返  
却する。  
 と、そのシレンが口を開いた。  
 
「やるじゃねえか」  
「いや、つい力が入って……シレン殿、頬にお怪我を」  
「俺を斬るんじゃなかったのか」  
「今ので冷め申した」  
「じゃ、なんだ。俺ぁこいつのおかげで命拾いしたのかい」  
 
「さて……? が、この刀は本当にこころが高鳴る」  
 
 とアスカはシレンに近寄ると、べろりと舌を出し、彼の血が伝う頬を這うように  
舐めあげる。  
 
「うっ」  
 
 刺激に、シレンは身震いする。  
 さらにアスカは詰め寄り、鼻先が触れあいそうな距離でもって、シレンの瞳にじいっと  
見入りながら、  
 
「それにしても……シレン殿、悪いお方だ。こんな人を惑わす刀など持って」  
「知らねえなぁ。俺は普通の刀として使っていただけなんだが」  
「ウソなど、まかり通らぬ」  
 
 詰問に口笛を吹くシレンに業を煮やしたのか、アスカは彼の胸に爪を突き立てた。  
 剣士にあるまじき鋭くとがったそれが、肉をわずかに裂いてそこにも血を滲ませる。  
 
「痛えよぅ」  
「シレン殿。拙者とて、妖刀使いでござるぞ……その本性を知らぬで使えるほど、甘い物  
でないのは承知の上のこと」  
「なに?」  
「ご覧あれ」  
 
 ふ、とシレンから離れるアスカが、腰に差した大小の内、小をしゃっと引き抜いた。  
 それは小太刀のようだったが、青白く輝く刀身はまるで氷のようだ。  
 いや、氷そのものか。  
 辺りは猛烈な暑さだというのに、その刃の周りだけ、凍てつくような冷気がただよって  
いるのだ。  
 妖刀の類であるのは間違いない。  
 
「これは忌火起と申す」  
「イマビキ、ねえ。ずいぶんおっかねえ名前だな」  
「うむ……なんでも、この刀は何人もの若い男を斬り殺したらしい。その怨念が刀身を凍  
てつかせている様だが、逆に斬りつけた時は焔をあげる」  
「恨みの火、ってわけかい」  
「左様。小太刀だが、並の太刀より威力がござるぞ」  
「そいつは凄え。だが、副作用はねえのかい」  
「……時々、やたらと若い男を斬りたくなる」  
 
 アスカは、くっ、と柄を持つ手を絞ると、ぞっとするような微笑をシレンに向ける。  
 
「おいおい」  
「ふふふ……冗談でござるよ。無論、先ほどの無礼も」  
「本当かね」  
「シレン殿が拙者に意地悪をするから、仕返しをしたまでのこと」  
「……どういうこったい、それぁ」  
 
 口をとがらせて不満をあらわにするシレンだったが、アスカはそれに応じず、笑うのみ  
だった。  
 シレンはかつてと何も変わっていないと思っても、やはり年相応に、会話の呼吸を身に  
つけているのだろう。  
 
 彼女は忌火起を鞘に収めると、笑うままに再びシレンに寄り添う。  
 寄り添うと、今度は先ほどの、ぞっとするような微笑を吐息に変えて、シレンの耳元に  
吹きかける。  
 
「さ。続きを……誘ったのは、シレン殿でござるぞ」  
「わかったよ。そっちの岩場が影になってるか、来な」  
 
 と、シレンはアスカに抱き取り返すと、側の岩場に彼女を連れ込む。  
 そこは、長い年月の間に雨風に削られてちょうど、日差しを防ぐように変形していたか  
ら、これから及ぼうとする事には、うってつけの形状といえた。  
 
 おあつらえ向きに、畳のような形状をした部分まである。  
 シレンはそれへとアスカを押し倒し、再び唇を奪った。  
 今度は、先ほどより激しい勢いで彼女を貪りつつ、空いた手を着物の裾から、桃色の柔  
肌へと侵入させていく。  
 胸のあたりはサラシで巻かれていたが、それを片手で器用にしゅるりと解いてしまう。  
 そして、ツツ、と五つの指が肌を刺激したとき、  
 
「ひあ……」  
 
 肢体がビクンと反応する。  
 そのまま胸の突起へと手を走らせると、爪で極うすくつまみあげ、わずかな電流を彼女  
へ与えていく。  
 同時に唇をいったん離して、首筋に吸い付くと、汗と、塵の混じった塩辛い味が口内に  
広がるが、シレンはそれさえも愉しむようにアスカを愛撫する。  
 
 そうやって、しばし重なったまま脈動していたが、ふと、先ほどシレンがやったのと同  
じようにアスカの上着をぱっとはだけさせた。  
 こぼれ落ちそうなほど、豊かに実った乳房が現れる。  
 
 地球上で唯一直立歩行する哺乳類の女が、見えにくくなった尻に代わって男を誘惑する  
ためにも発達させた器官だ。  
 すぐにでもむしゃぶりつきたくなる衝動に駆られるが、シレンはぐっと耐え、その人間  
だけが持った肉体の芸術に魅入る。  
 
「……」  
 
 すると、凝視されて羞恥が沸き上がったのか、アスカは頬を赤らめ、ふい、と横を向い  
てしまう。  
 それが合図だった。  
 
「甘えさせてもらうぜ」  
 
 それだけいうと、ぱかっと空いたシレンの唇が、乳首を飲み込む。  
 ザラつく舌で神経の集中する箇所を徹底的に刺激しながら、時折の吸引をもって、片側  
の乳房を攻める。  
 余ったもう片側は、同じく余った手によってやわやわとこねくり回されていく。  
 
 その状態を延々と続けた挙げ句、やっと頭を離したかと思うと、唾液の糸も落ちきらぬ  
内に残った方の乳房に食らいつき、同じ動作を繰返す。  
 それがまた延々と続けば、再び頭を離し、片側の胸に吸い付き直す。  
 
 よほどココに未練でもあるのか。  
 が、アスカの方も、その一カ所だけに集中した執拗な攻めに、妙な快感を覚えてきたら  
しく、だんだんと呼吸が乱れていく。  
 肢体を痙攣させる周期も短くなっていき、そして、呼吸が乱れきった時、  
 
「う、ァ……ッ」  
 
 全身を収縮させ、果ててしまう。  
 胸への愛撫だけでだ。  
 ただ、異常に執拗であっただけのことである。  
 
「なんだ。果てちまったのか」  
「あ、ひは、申し訳、ない……」  
 
 アスカはだらしなく、惚けた顔でシレンを見つめる。  
 そんな姿をシレンはいよいよ犯したくなったが、ふと、顔を天に向けるといつのまにか  
太陽が沈み始めていた。  
 このまま行為を続行すれば、辺りはとっぷりと闇に浸かってしまうであろう。  
 
 そうなれば、逢魔が時である。  
 狂暴なだけでなく、厄介な毒を持った夜行性のモンスターが多く出没するし、さらには  
得体の知れぬ悪霊もただよい始める。  
 
 こういった連中を相手するのは、いささか面倒が過ぎた。  
 まともにやりあったら、人間の集落にたどりつく頃には疲弊しきってしまうだろう。  
 得策とはいえない。  
 真に強い風来人に求められるのは、戦闘狂のように戦える事ではなく、いかに無駄な労  
力を減らせるか、という一事に尽きるのだ。  
 
 たとえば、どれほどの強豪でも、空腹になりきったら為す術がない。  
 そういう事態に陥らぬように行動するのが重要である。  
 
「成仏のカマでもありゃ、余裕なんだがな……アスカ。潮時だ、人里に引き上げるとしよ  
うぜ」  
「あ……さ、左様でござるな」  
 
 そういい、お互いに衣服を直しあうと、二人は岩場を後にするのだった。  
 

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