「お、お竜!? あんた、お竜じゃねえか」  
 
 が、女はその呼び名にキョトンとした表情を浮かべていたが、しばらくして、なにやら  
納得したような笑みを浮かべると、  
 
「なんだい若旦那。新手の口説き文句かい?」  
 
 けたけたと笑っていう。  
 
「なにいってんだ、どう見てもあんた、お竜だろう」  
「人違いだね。あたしはお辰っていうのさ」  
「おたつ……」  
「旦那、あたしと遊びたいなら「酔いどれ亭」から四軒先の娼窟に来なよ。あんたみたい  
にいい男なら、たっぷり、もてなしてあげるよ……?」  
 
 すす……と、お辰はシレンの腕をとりつつ、いう。  
 匂い立つような湯の香りがフワフワと、シレンの鼻から下半身にかけてまでを通り抜け  
ていった。  
 男には、なかなかに耐えづらい責めであろう。  
 シレンとて例外でなく、もしアスカが割って入らなければ、そのまま付いていってしま  
ったかもしれない所だった。  
 
「お辰さん、助けてもらったところ申し訳ないが、手前共は長旅で疲れている! そうい  
う誘いはまた、日を改めてからにして頂きたいな」  
 
 むろん、たとえ改めたって容赦はしないぞ、という無言の言葉を怒気にふくめて全身か  
ら放ち、シレンとお辰の間に詰め寄っていう。  
 さすがにシレンを捕えるお辰の腕を、力ずくで振りほどく様な真似はしない……が、忠  
告を聞き入れねば、振りほどくどころか、切り落してしまいそうな迫力である。  
 これに、お辰はシレンからぱっ、と離れると肩をすくめて、  
 
「おおっと……ふふ、あんまりいい男だから、大奥が居るのを失念したよ。じゃあ旦那、  
気が向いたら遊びにきておくれ」  
 
 そういい、最後に片目をつむって色を送ると、お辰は片手をひらひら振りながら去って  
いくのだった。  
 
「シレン殿。もう、行こう」  
 
 アスカはそれを見終えることもなく、シレンの腕を引っ張り足早に宿へ向かう。  
 逆に、腕を引っ張られる方は、お竜に瓜二つだった女のことがどうも頭に引っかかるよ  
うで、その場から動くことをためらったかのように思われたが、アスカが有無を言わせず  
引きずっていくのだった。  
 
 だがアスカの表情には、深い影が差している。  
 うつむき、前方に映るモノ全てを睨み付けるような表情に、後ろをついて行くシレンは  
気づいていただろうか。  
 さらには、彼女の腰に差さった忌火起の柄に、一瞬、蒼い炎が浮かびあがったのを見逃  
してはいなかっただろうか。  
 
 それらは結局、シレンが黙りこくったままで解らなかった  
 ……ややあって宿につく。  
 そして回廊を通り、宛がわれていた部屋にたどりつくやいなや、腰の大小すら離さぬま  
まアスカがシレンを押し倒す。  
 そのままにアスカがいった。  
 
「シレン殿。せめて、今だけは、他の女など眼中に入れぬで欲しい。この……通り」  
 
 いわれて数回、シレンは唇を奪われる。  
 酒臭い。  
 それに、旅塵の汚れと、肌から幾重にもこぼれ落ち、乾いた汗の痕が入り混じった独特  
の臭いがなんともいえぬ香しさを漂わせていた。  
 
 だが、アスカという女がそれと組み合わさった時、臭いはシレンを深みに引き込むよう  
な催淫剤となる。  
 ……気づいてみれば、ペニスがはちきれんばかりに隆起して股間の布を突いていた。  
 そこへ、にゅうっと伸びてきたアスカの手が触れ、  
 
「シレン殿ぉ」  
 
 甘えた声が、シレンの肌をくまなく舐め回す。  
 
「う、アスカ……」  
「シレン殿、そのままで……」  
 
 アスカはいうと、その手で軽く包み込んだシレンの股間をやんわりと刺激して、上体を  
ずるずると胸から下腹部へと移す。  
 そして露出している右の太ももに舌を置き、  
 
「ぴちゃ」  
 
 と、なめくじを這わすかのように動いた。  
 そのまま股間の方へ舐めあげていくと、布にこつんと当たるから一旦舌を離し、両手を  
邪魔な衣服を剥がすのに総動員した。  
 すれば、彼女の目の前にブルンと長大な肉の竿が露出する。  
 
 むせ返るような雄の臭いが放たれる。  
 シレンの方も長く旅をして、汚れきった後だから、常に布でカバーされて蒸れる箇所の  
臭いなど、鼻を突くこと凄まじい。  
 しかし、シレンにとってアスカの臭いが催淫剤であったように、アスカにとってもまた  
シレンの臭いは催淫剤であった。  
 
 アスカは餌を出された犬ごとく目の前のペニスにむしゃぶりつくと、空気を引きずるよ  
うな音をたてながら、激しく吸引を繰返す。  
 すればシレンの呻きと共に、肉の竿はどんどん硬度を増して反り返っていくので、気を  
よくしたアスカは、このまま一回、放出させてしまおうと企んだ。  
 
 そうして口を離すと、唾液と我慢汁の合わさった奇妙な液体が糸を引き、それがシレン  
の下腹に落ちる頃、  
 
「ふ、ふ……」  
 
 アスカの微笑む顔が、淫靡に塗れて歪む。  
 その間にも、にゅるにゅると溢れ出てくる我慢汁を舌先で舐め取ると、右手で竿をつか  
み取って、ゆるゆると上下運動をはじめた。  
 シレンにくすぐったい、震えるような快感が襲った。  
 
 細い指が、性器にからみついてくる。  
 シレンの男を満足させようと、やんわりかつ、激しく攻めたてられることに、長旅で欲  
望を溜めきっていたシレンは我慢ならず、あっという間に玉袋を収縮させて空に黄ばんだ  
精液を撒き散らしてしまった。  
 一部はアスカの顔にも引っかかり、端正な顔を汚していく。  
 
 彼女はそれを指ですくって口にくわえると、水あめでも食うかのように、ねぶりまわし  
てから飲み込む。  
 その仕草が、シレンをしてゾクリと体の芯に震えを走らせるほどに淫らだった。  
 おかげで精を放出したことで、ややくたびれたはずのペニスも、またすぐに硬度を取り  
戻してビクビクと脈打つ。  
 それを見て、アスカが桃色の吐息を吐きつつ、ふわりと腕を開いて男を誘った。  
 
「シレン殿」  
「……ああ」  
 
 合図で、シレンが飛びかかる。  
 彼は昼間やったのと同じようにアスカの胸をはだけさせ、さらに、戦闘で浴びた返り血  
が渇き、黒く変色していた血のこびりついた袴を剥ぎ取り、放った。  
 下着は、ない。  
 代わりに陰毛に護られた中心に、じゅくじゅくと濡れそぼった淫裂が覗き、男を受け入  
れる時をいまかいまかと待ち受けているようだった。  
 
「うう、シレン殿ぉ、はやく」  
「……」  
 
 だが、シレンはすぐさまその要望通りにはせず、己のいきりたった竿の先端だけを淫裂  
の口へ突けてから、何度もなぞる。  
 なぞるたびにアスカは股間から体の全体をビクリと痙攣させて苦しむので、それが面白  
くてシレンはつい調子に乗り、同じ動きを繰返すと、  
 
「い、意地悪しないでぇ」  
 
 根負けしたアスカが腰をくねって挿入をねだる。  
 その仕草は普段の姿とのギャップも手伝って、心臓に突き刺さりそうなほどに艶めかし  
かった。  
 シレンは思わずつばを呑むと、そのまま力を込めて相手の中へと入っていく。  
 
「う、うあ……うっ」  
 
 ぬり、ぬり、と体液の円滑剤を助けに下腹部から体内へ割り入ってこようとする異物に  
アスカが悶えて呻く。  
 あまり、多くの経験は無いほうなのだろう。  
 なによりもシレンを締め付けてくる肉の壁が物語っていた。  
 
 が、べつに処女という訳ではないようだから、シレンは遠慮せずに、己が体躯を躍動さ  
せてアスカを貪り尽くしてしまうつもりだ。  
 少しひいては、押しつけて、ひいては、押しつける。  
 その律動が細かな快楽を双方にもたらすが、シレンには単純な前後運動だけでは物足り  
ず、さらに路上に棄てられたミミズがのたくりかえる様にうごめいた。  
 少しでも快楽を得ようと、呼吸が荒くなっていく。  
 
 その動きのたび、アスカから悲鳴があがる。  
 自分を突いている相手が思い人だ、というだけでも強力な快楽になるのに、それに加え  
て奇妙な脈動を腹の中でされてはたまらない。  
 全身を揺さぶられるような感覚から脳を休ませようと、頭をふってもみるが、役に立た  
つものではなかった。  
 
 そういう間にもいよいよ呼吸が荒ぶっていき、肉の擦り合いも数百回目になろうかとい  
う頃、限界がきた。  
 すこし、シレンの方が早かっただろうか。  
 
「アスカ、悪ぃ、出そうだ」  
「あ、あぅ、も、好きに、してぇ」  
 
 アスカが言い終わるか終わらないかの内に、腰を勢いよく引き抜くと、「うッ」と彼女  
の端正な顔の上に、魚が卵にやるかのごとく精液を振りまいていく。  
 その強烈な臭いが鼻を突いたことで、アスカも駄目になったらしい。  
 
「…………ッ!!」  
 
 と、声にもならぬ声をあげて、昼間に見せた時以上に登り詰めて反り返った後、しばら  
く震えて、やがて魂が抜けるようにぐったりと床にうなだれた。  
 
 そんなアスカの精液まみれの顔を、シレンがどこから用意したのか濡れた手ぬぐいを使  
い、ふきとってやると、息も絶え絶えながらアスカがまた腕を伸ばしてきた。  
 シレンはそれをゆるやかに受け取り、彼女の隣に横たわると、アスカの体を優しく包ん  
で静かになるのだった。  
 
 そのまま、数分の間じっとする。  
 すると疲れに加えて安心が手伝ったか、アスカはうとうととした後、瞳が閉じたまま開  
かなくなるのだった。  
 
「おやすみ。布団も敷かねえままだったな」  
 
 ……全て終わると、ふと、部屋の上の方に設置された窓から、にぶい明かりが射し込ん  
でいることに気づく。  
 首をめぐらしてみると、真っ黒な空のはるか上に、半分になった月がある。  
 
(上弦の月か)  
 
 それを見つめながら、シレンは我が腕に眠る女の髪を優しくなでる……と、そのうち自  
分にも睡魔が襲ってくるから、重くなったまぶたをゆるゆると閉じていくのだった。  
 
・・・  
 
 そうやってシレンがまどろんでから、どれほど経っただろうか。  
 彼の腕に抱かれたままだったアスカが、ふっ、と目を開けると、暗がりの中、視線の先  
に寝息をたてるシレンの横顔を見つめる。  
 見つめて、軽く数分。  
 
(愛しい)  
 
 そう感じたのだろうか。  
 アスカは、ふいに顔をのばすとシレンの頬面に口付けをする……が、どうも落ち着かぬ  
様子で、しばし呼吸を大小していたが、やがて、しゅるりと腕を抜けて立ち上がった。  
 
「シレン殿。しばらく失礼いたす……拙者が戻ってくるまで、ゆるりとお休みくだされ」  
 
 アスカはひとりぶつぶついいながら、にぶい月明かりで刀を探し、それを腰に帯びる。  
 と、柄を二、三回撫でて、腹の底から漏れるように笑みを漏らすと、静かに部屋を退出  
していく。  
 後には、シレンの寝息だけが残った。  
 
 
 そして眼を転じて、アスカへ。  
 寝静まった宿をすきま風のように抜け出た彼女は、空を見上げる。雲が出ていて月は少  
し隠れがちだったが、それでもなお妖しげな光りを地上へもたらしてくる。  
 時は子の刻、三つごろであろう。  
 現代の時法で表すなら午前零時から二時にかけての時間帯だ。  
 
 この月陰村は、観光地でないゆえに日が落ちてからの様相は、それこそ魑魅魍魎しか住  
まわないのではないか思うほどに、真っ暗である。  
 もし月明かりがなければ、歩くのも大変だっただろう。  
 
 そのなかで唯一、人工の明かりがあるのは歓楽街の娼窟の周辺だ。  
 ふらふらと歩くアスカは、ちょうどその方角に移動していく。  
 あれほどに嫌悪感を示したにもかかわらず、光のある方へと脚が動いてしまうのは、人  
のサガなのだろうか。  
 
 だが、時折、止まる。  
 わなわなと体を震わせ、なにか物欲しげに身もだえし、しばらくすると収まるのでまた  
歩きだすのだ。  
 そのようにしてしばらく往くと、ぼんやりとアスカの視界に人影が映る。  
 
 月明かりが鈍いので人相を確認できなかったが、まさか幽霊ではないだろう。  
 人影は、アスカとぶつかる方向に近づいてくる。  
 そして互いの草履の音も聞こえる範囲に入ると、人影の正体が若い男であるのが判明す  
る。それも、顔見知りのだった。  
 
 どちらがあげたのか  
 
「あ……」  
 
 と、小さく声が出た。  
 
 昼間の肩をぶつけた、ため吉とかいう男である。  
 ため吉は自分の視界に映るのがアスカだと解ると、昼の記憶が甦ったのか嫌な顔をして  
彼女を横切ろうとするが、邪魔がはいる。  
 
「……待て」  
 
 アスカだ。  
 これに、ふ、と足を止めたため吉は、振り向きもせず答えた。  
 
「なんか用かよ」  
「用だ」  
「……てめえ、昼間の仕返しにきたのか」  
「違う」  
「なら、なんだ」  
「若い男に用があった。おぬし、丁度よい所に現れたな」  
「は?」  
「今な、血が欲しい。若い、男の……」  
「なにを……」  
 
 アスカの言葉を解せぬため吉だったが、とうとつに深くなった彼女の声色に不気味な寒  
気を感じて、その場から退散しようとする。  
 が、そのときだった。  
 ため吉が動くよりも速く身を捻ったアスカの左腕が、彼の首を後ろから引っつかむと、  
 
「お前の血をよこせえ!!」  
 
 叫び、腰の小刀「忌火起」を右手でしゃらんと引き抜く。  
 一瞬の間だ。  
 その行動とその音に、ため吉が恐怖を感じた時には、心の臓めがけて背中から胸へと刃  
が貫いていた。  
 さらにその瞬間、刀身には人魂のような青白い炎が、ぼうっと燃え上がり、突き刺した  
ところからつぎつぎに溢れ出る血液を、藍染めの布のごとく吸っていく。  
 
 だがアスカは止まらない。  
 背中から一気に忌火起を引き抜き、そのまま捕まえた首を捻るようにして地面へため吉  
をたたき落とすと、仰向けにする。  
 
 この時点ではまだ、ため吉は死んでおらず、アスカから逃れようともがいたが、もはや  
心臓を突かれては力など出るはずもなかった。  
 
 彼がその目に最期映したものは、口の両端を裂けてしまいそうなほどに釣り上げ、歯も  
剥き出しに邪悪そのものの笑みを浮かべる女の表情だった。  
 その女が、ズンッ、と刀をため吉の喉に突き立てる。  
 
 突き立てると、一気に真横に引いてから刃をぐるりとひねって肉を千切り、裂いた。  
 破壊された呼吸器から血と肉が溢れ、ごぼごぼと泡を立てる。  
 ここでアスカは忌火起を放り棄てると、真っ黒になったため吉の首筋にむかって、髪の  
毛を振り乱しながら吸い付いた。  
 
「じゅ……じゅ、じゅっ」  
 
 音を立てて、すする。  
 まるで畜生が液体をすするかのように、だ。  
 辺りにむわっと、吐き気を催すような鉄の臭いがただよいはじめるが、アスカはそれで  
もなお首の血と、首の内壁からはみ出た内臓を食うのを止めようとしない。  
 動かなくなった獲物を貪り食う野獣のごとしだ。  
 
 黒い影が、しばしの間、うごめいた。  
 
 やがて……満足したのか、アスカはゆらりとため吉の死骸から離れていく。  
 血だらけにした口の周りを手の甲でぬぐうと、彼女はほう、と深く血なまぐさい息を吐  
いて惚ける。  
 その姿は口周りだけでなく、全身血まみれだった。  
 服など、ため吉に取り付いた時にしみこんでしまった血液でどろどろになっている。  
 
 だが。  
 アスカが放り棄ててあった忌火起を手に取った時、再び蒼い炎をまとった刀身がその躯  
に塗れた血という血の成分を瞬く間に吸い取ってしまう。  
 ものの数秒もすると、アスカは凶行に及ぶ前と何ら変わらぬ姿になった。  
 
 そして物言わぬ骸となりはてた男の姿を無表情に見下ろすと、アスカはきびすを返し、  
来た道を戻っていくのだった。  
 
「ああ、ああ、出来るなら、シレン殿が欲しい……精だけでは満ち足りぬ。ああ……」  
 
 そうつぶやきながら……。  
 アスカの身に、なにが起こったのか。  
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル