「ああ、ああ、出来るなら、シレン殿が欲しい……精だけでは満ち足りぬ。ああ……」  
 
 そうつぶやきながら……。  
 アスカの身に、なにが起こったのか。  
 狂気を目に宿した彼女は、闇の中を潜って村の外れへ、外れへと歩いていく。  
 気づくと、昼間にシレンと情事を交した岩場に彼女は居た。  
 その時のことだ。  
 唐突に腰に帯びた忌火起が、鞘ごと青白く燃え上がる。  
 と、アスカはそれに同調するように、  
 
「う、うぐ、ううう……!!」  
 
 身をよじって苦しみはじめる。  
 最初はその豊かな胸を搾るように、つぎに細い首筋をかきむしるように、最後はぶるぶ  
ると震えながら、その場に崩れ落ちてしまう。  
 すると、忌火起より発する炎は彼女の全身に燃え移り、さらに意思を持つかのように蠢  
いてアスカから、ぼうっ、と離れていく。  
 
 それが空中でひとかたまりとなり、粘土細工を造るかのように人型を形作っていく。  
 そして地面に降り立ち……炎が消え去ると、その中から一人の男が現れた。  
 
 姿は真っ白の旅装束に、もはや骨と皮だけしか無くなってしまったような躯を包み、し  
かし細面の顔に浮かんだ目だけはギラギラと炎が躍っている。  
 まるで幽鬼のような男であった。  
 その男が、うずくまるアスカの元へ立ち、ふっと口を開いていう。  
 
「いつまで抵抗する気だよ」  
 
 これにアスカは、ぎりぎりと錆付いた歯車のように首だけを動かし、その男を見上げ、  
睨み付けると掠れるような声で返す。  
 
「お、オロチめ……これ以上、拙者の剣を殺戮につかわせぬぞ。幾人を殺めた罪、もはや  
許されぬ。だが、シレン殿だけは手にかけてたまるものか……っ」  
 
 さて……オロチという単語がでた。  
 このあたりで、真相を明かしてもいいだろう。  
 これまでのアスカの行った凶行は、むろん彼女本来の意思によるものではない。  
 ではなにかと問えば「忌火起」を介して、アスカの躯を乗っ取ったオロチの魂によるも  
のだった。  
 
 その忌火起は、どのようなもので、また、いつ、どの時点でアスカの手に渡ったのか。  
 順を追って解明していこう。  
 
 まずは忌火起そのもの。  
 これは、何あろうシレンがオロチの死骸に突き立てたはずの、折れたマンジカブラの、  
なれの果てであった。  
 というのは、死に際にオロチが放った言葉「オロチは不滅」という通りに、その魂は大  
蛇の肉体を離れても、すぐそばの刀に宿ってこの世に留まったのだ。  
 
 その妖力でもって、マンジカブラは妖刀・忌火起へと変化した。  
 カブラステギへの変化を見ても解るとおり、もともと進化する可能性がある剣だったか  
ら、なにかしら外部から影響を受けやすい性質があるのだろう。  
 
 だが、刀のままでは、自分で動くことは敵わない。  
 シレンへの復讐に燃えるオロチは、そこで、溢れるほどの妖力を情報伝達に使うことに  
した。  
 まず供養峠にたむろするモンスターを操り、これに自身を持たせ、人里へ人里へと運ば  
せていった。  
 そして、適当な剣士を見つけると、それに向かってわざと殺されてしまうことで自身の  
所有者を剣士とする。  
 むろん剣士の肉体を自分の物とするためである。オロチの圧倒的な妖力は、相手を支配  
するのに忌火起の柄を媒介とし伝えるだけで足りた。  
 
 こうして再び人間の肉体を手に入れたオロチは、かつてヨシゾウタと名乗っていた頃と  
同じ薬売りの姿に化けて、諸国を周り、シレンの噂を人づてに聞き歩いていった。  
 道中、かつて浴びるほどに飲んだ血の味が忘れられず、幾人もの人間や獣を惨殺しては  
その血をすすりつつ、だ。  
 
 果てに、シレンが旅の途中で作った女の中に、アスカという高名な剣士が居るというこ  
とを聞き知る。  
 オロチはこれを知るやいなや、アスカの肉体を支配してシレンに近づき、彼が油断して  
いる隙をついて復讐を遂げることを企んだ。  
 
 むろん、こういう方法ならケヤキあたりを支配すれば事は早く動いただろう。  
 だが彼女を素体として考えた場合、あまりにも貧弱で、シレンに気取られた場合、殺害  
に失敗する可能性が高かったから除外していた。  
 
 だから、オロチはアスカという人物を知ったときは狂喜した。  
 自分の女の手によって葬り去られるシレン、という状況を想像するオロチが、その復讐  
心をさらに燃え上がらせたのは書くまでもあるまい。  
 
 それから、幾月過ぎただろうか。  
 ついにアスカと対面することに成功したオロチは、最初、忌火起を彼女へ売り渡すカタ  
チをもって肉体を支配しようと考えた。  
 が、アスカが妖刀の類を欲しがるような人間でない事を悟ると、オロチは策を講じる。  
 
 彼女が往く道を先回りすると地に忌火起を突き立て、わらわらと寄ってくるモンスター  
から適当に傷を負いつつ、危機に瀕した風来人を演じたのだ。  
 そしてアスカがやって来るのを確認すると、  
 
「そ、そこの剣士殿!! すまんがその刀をよこしてくれえっ」  
 
 と、大仰にわめきたてた。  
 自身も同じ危機を経験したアスカには、効果てきめんであった。  
 目前の危機を放っておけぬと、一目散に忌火起へと駆け寄り、引き抜こうと柄をぐっと  
握ってしまったときだ。  
 
「うっ……!?」  
 
 ゾクッ、と手のひらから電流が伝わるような感覚を受けたのを皮切りに、一気に全身へ  
と寒気が走る。  
 
 ――まずいっ  
 
 思った時には遅かった。  
 柄を離そうとする自身の思考とは別に動く腕が忌火起を引き抜く。  
 脚が、今までオロチの支配下にあった剣士めがけて走ると、彼を取り囲むモンスターの  
間を縫って割り入り、その男を袈裟懸けにバッサリと殺ってしまった。  
 
 吹き出る返り血を浴びながら、返す刀で周りのモンスターの一匹の首を刎ね、一匹の腹  
を割って、もう一匹は脳天から一刀両断にしてしまう。  
 そのアスカの表情には、オロチの邪悪な笑みが浮かんでいるのだった……。  
 
 これが、アスカを襲った災厄のてん末である。  
 時に、彼女が天輪の国を発って一年ほど経過した頃のことである。  
 
 こうしてオロチに支配されたアスカは、忌火起を手中に、血に飢えた欲望を凶刃を振る  
うことで幾度も満たしつつ、シレンを探す旅を続けていった。  
 やがて彼女はシレンと、最悪のカタチで再開を果たすことになる……それが、この物語  
の最初に書かれた光景だ。  
 
 しかも都合のいいことに、アスカを演じて怒った様子を見せれば、なにを思ったのか、  
シレンは諸肌を脱いで無防備になったではないか。  
 オロチの心が、ほくそ笑んだ。  
 今なら何も労せずシレンを殺ってしまえる。  
 
(ここがてめえの墓場だ)  
 
 刀を振り上げ……  
 だがそこで誤算が起きた。  
 腕が、動かない。  
 どうやら、深層に眠っているはずのアスカ本来の意識が、シレンを目の前にしてにぶく  
覚醒したらしいのだ。  
 
 どうにもならず、とうとう後ろからのんきに寄ってきたアイアンヘッドへ刀を投げつけ  
るに終わってしまった。  
 その後も、情事に耽るフリをしつつ絞殺してやろうとしても、やはり爪を突き立てる程  
度でとどまってしまい、殺意を何度も邪魔される。  
 
 ……たまりかねて、今のように夜道へと連れ出してきたわけだった。  
 
「まあいいさ。てめえが抵抗するなら、こうするまでだ」  
 
 と、オロチが揺らめく腕を横に振ると、周囲にぼっ、ぼっ、と人魂が浮かんでから、ぼ  
うれい武者が三体ほど現れる。  
 それを目で見回してアスカがおののく。  
 
「な、なにを……」  
「こいつらの役目は決まってるだろ!!」  
 
 叫ぶオロチは、再び炎の塊になってアスカの口へめがけて飛ぶと、吸い込まれるように  
してその中へと消えていく。  
 続いて、ぼうれい武者の一体が憑依する。  
 と、それで支配力が強まったのだろう、おもむろに立ち上がるアスカは、残ったぼうれ  
い武者の前に立ちはだかり、羽織をはだけて、胸に巻かれたサラシを剥ぎ取り……彼らを  
誘った。  
 
「ほうれ……美貌の女剣士様がお誘いだぜ、落武者共。おまえら、どうせ死ぬまでロクに  
女も抱けなかった身だろう。  
 せっかくなんだ、完全消滅する前にたっぷり味わっておけよ」  
 
 ぐぐ、と両腕をみぞおちに交差させて、たわわに実る乳房をさらに寄せ上げるアスカは  
にやにやとした笑いを顔面に張り付け、目の前のぼうれい武者共を誘う。  
 その口から出てくる言葉は、本来の彼女であれば絶対に使わないような、粗野なものだ  
った。  
 
 肉体の奥底で、本来の意識が拒絶を叫ぶ。  
 だが、体は言うことを聞かない。  
 聞くわけがない。  
 オロチ単体に支配されるだけでも、最愛の人を手に掛ける寸前でにぶく覚醒できた程度  
だったのだ。  
 それが、ぼうれい武者の憑依でオロチの支配力を強化されては、どうになるものではない。  
 しかもオロチは残りの二体をも憑依させようとしている。  
 そうなれば、  
 
(もう、止められない……)  
 
 恐怖が、アスカの魂を染めていく。  
 なんとか抵抗しようとするのだが、肉体はそれと正反対の反応を示していく。  
 ぼんやりと立ちつくすぼうれい武者を前に、アスカはそのうち一体の身につけていた胴  
当てを、怪力で引きはがす。  
 そして中から露出した灰のような色に変色したペニスを引っつかみ、にやにやと笑った  
ままいった。  
 
「なんだ、おつむが腐って、女を犯す方法も忘れちまったのか? しょうがねえ……なら  
こっちから奉仕してやる。ありがたく思え」  
 
 その言葉を言い終わらぬ内に、アスカは灰色のペニスにむしゃぶりつくと、玉袋から亀  
頭までをかき回すかのように攻め立てた。  
 加えられる刺激に、肉の竿は瞬く間に膨張し、鉄のように固くなっていく。  
 
 焼けた鉄だ。  
 これで性欲も冥府の淵から取り戻したのだろう、ぼうれい武者は股間にかぶりついてい  
るアスカの頭をぐわ、と両手で掴むと腰を動かし始めた。  
 
「よーし、調子でてきたな……けけ、長いこと女の身をやってたら、ヤラれる方が気持ち  
よくなっちまったよ」  
 
 と、アスカはぼうれい武者が腰を前後させるのに合わせて、首を動かしていく。闇にと  
っぷりと浸かった静寂の空間に、粘ついた水音が連続して響き渡る。  
 
「じゅぶ……ぶぶ、ん、うあ……」  
 
 時折、艶めかしい声色があがる。  
 アスカの本能なのか、それともオロチの演技か……解らないが、連続する粘つく水音が  
いよいよ加速して、ついにはぼうれい武者のペニスが暴発する。  
 
 一瞬、全身をぶるりと振るわせると、怨念がこもっていそうな白濁液を、ありったけの  
量、アスカの口内へぶち込んだ。  
 アスカもとめどなく溢れるそれを、喉を鳴らしてすべて飲み込んでいく。  
 
 すれば、やがてペニスは放出を終える……が、まだ終わらない。  
 アスカは灰色のペニスを咥えこんだまま、そこからさらに吸引を開始する。  
 
「ず……ずずっ、ず……」  
 
 放出が終わってもなお加え続けられる刺激に、ぼうれい武者が低い低いうめき声をあげ  
た。  
 すると。  
 
 ぐにゃり  
 
 と、口のなかにあったペニスが形を崩すと、水飴のようになって、どんどんアスカの口  
内から喉の奥、体内へと吸い込まれていく。  
 形が崩れるのはそこだけにとどまらなかった。  
 ぼうれい武者はその股間から四肢へ向かって、放射線状に人型を崩しながら、アスカに  
吸われていく。  
 
 ものの、数十秒の出来事だ。  
 ぼうれい武者はペニスから体の全体を吸われ突くし、跡形もなく消え去ってしまった。  
 
 そうして「食事」を終えたアスカは、一部始終を例によって突っ立ったままみつめてい  
た、もう一体のぼうれい武者にゆっくり向き直り、  
 
「さあて……お前はどうしてほしい?」  
 
 と、さきほどよりもさらに歪んだ笑い顔で迫っていくと、しなだれかかって胴当てを引  
きはがす。  
 見ればペニスは既にカチコチに固まっていた。  
 一応、反応はしているらしい。  
 アスカはそれが可笑しかったのか、竿を片手で強く握りながら笑う。  
 
「くくく、さっきのよりはマトモか。じゃあせっかくだ、お前は下の口で喰ってやる」  
 
 そういいながら、アスカは袴を落して裸体を晒すと、ぼうれい武者を押し倒し、反り返  
ったペニスの上に腰をぐっ、と落とし込む。  
 行程を愉しんでいるのか、秘裂に押し当てたそれをやたらと時間をかけて飲み込んでい  
き……そして、ゆるゆると上下し始めた。  
 
 暗闇の中、二つの塊がゆさゆさ蠢き、ときおり溜息のようなあえぎ声を漏らしつつ、生  
者と死者のまぐわいが続けられる。  
 だが、死者はしょせん死者だ。  
 蠢く塊のうち、下敷きになった方がやがて人の形を崩していき、ずるずると上の塊に引  
きずり込まれていった。  
 
 事が終わると、辺りは静寂を取り戻す。  
 残ったのはアスカ独りだ。  
 だがその目がぼんやりと光り、二つの朱い灯を暗闇に浮かび上がらせている。  
 彼女はもう、アスカであってアスカでない。  
 
「ふ、ふ……」  
 
 彼女は剥ぎ取ったサラシをうち捨てたまま、羽織と袴だけを身につけて再び月陰村へと  
戻っていく。  
 頭にあるのは殺意。  
 心にあるは怨恨。  
 アスカはオロチの化身となって、シレンの下へと向かっていくのだった。  
 

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