「ヒヨさん、さっきからため息ばっかりついて、どうしたんですか?」  
友達のジェニーさんが私に尋ねる。  
表情や声で明るく振る舞ってたつもりなのに、うっかり何度もため息をついていたものだから、さすがに心配になったのだろう。  
「ご、ごめんなさい。ちょっと疲れてて…」  
「何か悩み事があるんじゃないですか?せっかく久々に喫茶店で一緒にお昼を食べてるのに、こんなに暗いなんてヒヨさんらしくないですよ?」  
「…………」  
「…まあ、話したくないならいいですけど…」  
ジェニーさんには悪いけど、この悩みはあまり話したくない。ジェニーさんまで巻き込みたくないから…  
私がこんなに元気が無い理由、それは…カントクのセクハラだ。  
ジェニーさんと過ごした休日が明け、またキャンプ地に戻った私は、みんなの練習をグラウンドで見守っていた。しかし…  
「ヒヨちゃん、どうしたんだマム?」  
「え!?な…何がですか?」  
「ふふーん、隠しても無駄マム!ボクには分かるマムよ〜!ズバリ、今ヒヨちゃんは何か悩んでるマム!!」  
「な…!」  
私は驚きを隠せなかった。マムロさんにまでばれてしまうなんて…そんなに私は分かりやすいんだろうか…  
「恋の悩みだったら彼女とラブラブのボクが聞いてあげるマムよ〜?」  
「い、いえ…大丈夫なので、練習を続けてください…」  
恋の悩みだったらどんなにいいか…マムロさんを練習に復帰させながら、私はそんなことを思っていた。  
 
「今日の練習、終わりました」  
練習後、私は監督室にいるカントクに練習終了の報告をする。しかし、それで帰れるわけがない。  
「お疲れ。んじゃ、今日も掃除よろしく」  
「…はい」  
素っ気ない返事になっているのが自分でもよく分かる。私は秘書として、カントクの身の回りのお世話をしなくてはならない。間違いなく一日で一番嫌な時間だ。  
最初はべつに嫌ではなかったし、むしろカントクやチームのためになると思えば楽しかった。だけど…  
「……っ!」  
「ふふ…」  
まただ。カントクは今日も嫌らしい手つきでお尻を撫で回してくる。もはやこれも日課になっているような気がする。  
しかし、悲しいけどこの程度のセクハラには慣れてしまった。今日はこの後何をされるのか…それを考えれば、この程度でいちいち騒ぐのも虚しくなってくる。  
初日は驚きのあまり「きゃっ!」なんて情けない悲鳴をあげて、「な、何するんですか!」と、カントクを威勢よく睨んだのを今も覚えている。  
「見てるだけでムラムラしてくるようなお尻してるからつい、ね。悲鳴をあげた時の表情は、最高だったよ」  
あの日のカントクのあの言葉、忘れたくても忘れられない。あの時、その言葉を聞いて怖じけづいてしまった私の隙をついて、カントクは私を押し倒した。  
めいっぱい抵抗したが、男性の力の前では私など全くの無力だった。あっさり裸にされ、顔ごと写真を撮られてしまった。  
「訴えようとか変な気を起こしたら、この写真をネットに流すよ。でも安心しなよ、俺は優しいから決して犯したりはしないから」  
そう言って写真で脅しをかけられている私は、毎日のように体を弄ばれている。  
確かに犯されてはいないが、それは私が妊娠したりしたらまずいとカントクも分かっているからだろう。  
 
「ほらほら、サボらないサボらない」  
尻だけでなく胸も服の上から揉み始めたカントクは、体を硬直させてしまった私に愉しそうに命令してくる。  
「っ…!」  
私は悔しくてたまらないが、仕事を再開する。しかし、カントクのセクハラは止まらない。  
「そうそう、頑張って頑張って」  
カントクは、掃除機をかけている私の服の中に手を入れて、ブラジャーの上から乳首を刺激し始める。  
「…や…あん…」  
我慢出来ず声が出てしまった。顔が熱くなる。きっと今私の顔は赤くなっているのだろう。  
「仕事中にエッチな声を出すなんてけしからんなあ。ちゃんと仕事に集中しなきゃ駄目じゃないか、反省しなさい」  
「は、はい…ぁ…すいません…」  
「ダメダメ、ちゃんと私を呼んで」  
「すいません…ご主人様」  
私は、カントクをこう呼ぶことを義務づけられている。恥ずかしさと、逆らえないこの悔しさに、涙が出そうになるが、なんとか堪える。  
「いやぁ、かわいいなぁヒヨちゃんは。その羞恥に染まった表情、最高だよ」  
そう言いながら、スカートの中に潜入してきた手が、私の恥ずかしいところをパンツ越しにいじくってくる。  
「…ひ…やぁ…ご、ご主人様…も、もうやめて下さい…」  
「んん?奴隷のくせに刃向かうのかい?」  
我慢出来なくなって、つい懇願してしまった。やめてくれるわけないのに…  
「も、申し訳ございません…」  
「こりゃあお仕置きが必要だなぁ」  
カントクはとても邪悪な笑みを浮かべながら、それぞれの手を下着の中に入れてくる。  
「!?」  
「お仕置きだ」  
「ひ…ひゃ…あぁん…や、やぁ…」  
指先で乳首と秘所を激しく刺激され、嫌でも甘い声が漏れてしまう。もういっそ、このままイカされて楽になりたい…  
「…え……?」  
「ほら、何ぼーっとしてるの?早く仕事仕事」  
「………!!」  
イカされる寸前で止められた。私は最初は訳が分からなかったが、カントクの狙いを、今理解した。  
 
「どうした?辛そうな表情しちゃって。お仕置きが物足りないのかな?」  
「い…いえ…大丈夫です…」  
白々しく話しかけてくるカントクに、適切かも分からない返事を返す。ここでカントクの卑劣なやり方に屈するわけにはいかない…!  
「ふふ、そうかそうか、問題無いか。それじゃ、続けて」  
「っ…」  
カントクも引く気は無いらしい。またいやらしい手つきで私をイカせない程度に弄ってくる。今度はなんとか声を我慢したが、正直もうほとんど限界だ。堪え切れなくなった涙が頬を伝う。  
「あ、あの…もう掃除するところもないので、帰ってもよろしいでしょうか…?」  
「そうか、終わったか。んじゃ今日はもう帰ってもいいよ。お疲れ!」  
「れ!」のところで強く刺激され、軽くイカされてしまったが、なんとか今日は乗り切った。  
しかし、毎日が楽しかったはずのこのお仕事で、仕事が終わった時に「乗り切った」なんて思う日が来るなんて…考えると悲しくなる。  
明日はどんなセクハラ…いや、拷問が待っているのか、そんな心配をしながら、浮かない気分で私は宿行きのバスに乗り込むのだった。  
 

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