「法行のセックスフレンド100人できるかな・浄里編」  
 
 なんだか妙なことになったな。  
 隣のソファに腰掛け、適当に入れて出したお茶をすすりながらTVのニュース番組を眺める五部浄里をちらりと眺めて、後白河法行はぽりぽりとこめかみをかいた。  
 親戚間の仕事で急用ができたとかで、花音がばたばたと出かけていったのが夕刻のこと。  
 家に一人で残された法行がぼんやりと筋トレに勤しんでいると、唐突にチャイムが鳴って来訪を告げる者があった。それが浄里だ。  
 珍しい来客もあったものだなと話を聞くと、どうやら法行ではなく花音に用事があって訪ねてきたらしい。  
「……急用、ですか? 彼女には今日、訪問することを伝えてあったのですが……」  
 花音の不在を告げると、浄里は声音に少しだけ落胆の色をにじませた。  
「そうだったのか。そりゃ悪かったな……でも、あの花音が会長との約束をすっぽかすとも思えないし、意外とすぐ帰ってくるかも知れないな。連絡があるまで家で待っていたらどうだ?」  
 内心悪いなと思いつつも、法行がまた適当なことを言う。同意されるか遠慮されるか、法行としてはどちらでも良かったのだが、想像に反して浄里が「……では、そうさせていただいても宜しいですか?」などと同意し、この事態を招いたというわけだった。  
 浄里とは普段、仲が悪いわけではもちろんないが、かといって仲良しというわけでもない。  
 最初のうちは淡々と会話し、花音や法行の家庭の事情を知らなかったらしい浄里に大変驚かれたりと話題にも事欠かなかったのだが、一時間を越えたあたりからさすがに話すことが無くなってしまった。はっきり言って、めちゃくちゃ気まずい。  
 間を持たせるためにTVを付けたところ、二人して間抜けにもそれをぼーっと眺めるなどという、今の構図ができあがった。  
 時計を見ると、すでに女子が一人で帰るにはかなり遅い時間帯になってしまっている。法行も浄里もまだ夕飯も食べていないし、これ以上待たせるのも酷だろう。  
 浄里なら一人でも大丈夫だとは思うが、夜中に女子を一人で帰らせたとあっては男の名折れ。彼女の家まで送っていって、その帰りに何か外で食うか。  
 そんなことを考えて、法行が「さてと」とソファから立ち上がると、何故か浄里がびくりと身を震わせた。  
 なんでそんなにビックリしてるんだ? と法行が逆に驚くと、浄里は普段の彼女からは想像もつかない、どこか怯えを帯びた瞳で法行をじっと見上げて来た。  
 そして、急に意を決したように立ち上がり、鞘に収めたままの愛刀を法行にびしっと突きつける。  
「後白河法行!」  
「な、なんだ!?」  
「……わ、私を……セックスフレンドになさい!」  
 
 浄里は、約束通りの時間に千住花音の家を訪ね、そして心臓が口から飛び出すのではないかと思うほど驚いた。取り次いだのが後白河法行だったからだ。  
 法行が花音の家に居候していることは知っていたが、知り得ることと実際に見ることの間には天と地ほどの開きがある。  
 さらに驚いたことに、花音と法行はこの家で二人暮らしというではないか。  
 法行は花音の両親のもとで暮らしていると思いこんでいた浄里は、その事実を知って逆上しかけた。一つ屋根の下で若い男女が同衾! 法行は恋愛禁止令を遵守するなどと軽々しく口にしておきながら、最初から守るつもりなどなかったのではないか!  
 しかし続く言葉で、花音も法行も両親がすでに鬼籍に入り、特に法行など両親を失ったのがつい先日のことであると聞くに及び、浄里は当初の勢いとともに言葉を失ってしまった。  
 法行が入れてくれた茶を飲みつつ、浄里は内心落ち込みを禁じ得なかった。彼がそのような事情を抱えていたことなど、露ほども知らなかった。  
 法行の幼馴染みである柴又かずちもそんな事まで知り得ていなかったとすると、法行は周囲に気を遣わせまいと敢えて伝えていない可能性が高い。  
 浄里が三十三間堂学院の生徒全員の家庭の事情を知り得ている必要などもちろんないのだが、法行はこの学院初めての男子生徒であり、浄里の信頼に値する人物でもある。  
 生徒会長として、彼が少しでも快適な学園生活を送れるように尽力することこそ、生徒会長である浄里自身に課せられた任というものではないのか。  
 思えば彼が「友達百人計画」などという妙なことを言い出したのも、両親を失った寂しさへの反動に違いない。  
 彼は天涯孤独の身。その寂しさを埋められる特別な存在が必要なのだ(ちなみにこの時点で、法行と一緒に暮らす親戚の花音のことなど、浄里の脳裏からは綺麗に忘れ去られていた)。  
 それなのに、ああそれなのに。浄里は法行が学院に転入してきた直後、学院を二分する大騒動の末、彼に「卒業するまで校内の女生徒と一切付き合わない」という恋愛禁止令を宣言させてしまった。  
 あれは法行自身の発言だが、元はといえば浄里が学院の安寧のために「私と付き合うか、退学かを選べ」などと強引に迫ったことに起因する。  
 浄里は自分自身と学院のために、法行の事情も考えずに彼に犠牲を強いてしまったのだ。  
 申し訳なさと気まずさで心がいっぱいになった浄里は、法行に顔を向けることもできない。  
 普段見もしないTVをぼうっと眺めながら、どうやったら彼に詫びることができるだろうかと、ぐるぐると思考を堂々巡りさせるだけだ。  
 
 ふと、TVの内容に気づいて浄里はぎょっとした。どうやらサスペンスドラマのようだが、なんと裸の男女がベッドの中で蠢き始めたではないか。  
 二時間ドラマのお約束とも言える、時間的テコ入れのための濡れ場演出などというものを知っている浄里ではない。  
 顔を真っ赤にしつつも、家人が見ている番組に勝手に口出しすることも憚られて、結局じっとその男女を凝視してしまう浄里。  
 愛し合う男女が何をするのかまで知らないほど、浄里は初心ではない。しかし知識として知っているのと、実際に見るのとでは天と地ほどの開きがある。  
 二時間ドラマの濡れ場などたかが知れているが、それでも初めて見る浄里には充分刺激が強いものだったのだ。  
 男女の営みというものは、保健体育の授業で学んだ内容からは想像もつかないほど熱く、そして淫靡なものと浄里の目に映った。  
 続けて内容に見入ってしまっていると、濡れ場は割合あっさりと終わった。そこで浄里ははっと我に返る。一体私は何をしているのだ。  
 後白河法行に対して詫びなければならないというのに……。再び落ち込みかけた浄里は、しかしドラマの次の展開に再び目を見張ることになる。  
 先程あれほど熱い営みを見せていた男女は、実は夫婦でも恋人同士でもないというのだ。ただ性行為だけを共にする、友情で結ばれた関係。セックスフレンドというらしい。  
 そんなものがあるのか! 日本刀を振り回す武人としての一面が目立つが、なんだかんだ言ってお嬢育ちの浄里にとって、その言葉は新鮮かつ不思議な響きを持っていた。  
 そうだ、もしやこれが最適解なのではないか……? と稲妻にも似た衝撃が浄里の体内を駆けめぐる。  
 法行は、浄里自身の良人としてもおかしくないほどの立派な男だ。そんな男と情を交わすことには何の抵抗もない。  
 加えて噂に聞いた話だが、男という生き物は性衝動を抑えきれないのだとか。恋人や妻との営みによって衝動は発散できるらしいが、その相手がいない男が性犯罪に走ったりと異常な行動をとってしまうのだという。  
 法行の強靱な意志を疑うわけではないが、彼とて健康な男子。相手もいずに衝動を鬱屈させるだけでは、いつか爆発してしまいかねない。そのとき、三十三間堂学院の女生徒たちに被害が及ばないとは限らない……。  
 彼のセックスフレンドになり、彼の衝動を発散させ詫びの代わりにするとともに、法行の友人の一人として寂しさを紛らわせる……引いては、学院の危機を救うことにもなる。  
 そうだ。これは学院のためなのだ。そのために私の破瓜の一つや二つ、安いものではないか……!  
 そんなことを考えながら一人で意気込んでいると、法行がすっくと立ち上がって「さてと」などと声を出した。  
 ま、まさか後白河法行め、こんな時に性衝動を? いくら何でも心の準備というものが……。  
 浄里は支離滅裂なことを考えるが、とうに冷静さを失ってしまっていた彼女の脳内がまともな結論にたどりつこうはずもない。  
 あまつさえ、ここは彼に押し倒される前に、先んじて手を打つべし! 先手必勝! 撃ちして止まぬ!   
 浄里は意を決して愛刀を振り上げ、法行にびしっと突きつけた。  
「後白河法行!」  
「な、なんだ!?」  
「……わ、私を……セックスフレンドになさい!」  
 
 生徒会長の思いがけない言葉に、法行は一瞬ぽかんとしてしまった。  
 確かに法行は友達百人計画という、余人に理解されがたい野望を持っている。  
 だがフレンドはフレンドでも、今彼女は何と言った?  
 そんな法行の戸惑いをよそに、浄里は顔を真っ赤にしたまままくし立てていた。  
「あ、あなたも健康な男子です。男性がそういった欲望や衝動を抱くことは  
当然のものとして私も理解しています。しかし! あなたの若い性への衝動が  
我が学院の女生徒たちに向けるわけにはなりません! だから私で発散なさいと  
申し上げているのです!」  
 ……以前から唐突というか突拍子もない人だとは思っていたが、一体どういう  
思考回路をもってすれば、そんな結論に至るのだろうかと法行は内心頭を抱える。  
「いや、会長。俺は別にそんな……」  
「そ、それとも……!」  
 突きつけていた日本刀を下ろし、戸惑い気味に両腕で制服姿の肢体をかき抱く浄里。  
「……わ、私では、その、役不足とでも……」  
 必死な様子の浄里を前にして、法行は思わずごくり、と喉を鳴らした。  
 浄里の言う通り、法行も健康な男子の一人だ。普段は強靱な意志によって無理矢理  
抑えつけている、というか忘れるように勤めているが、周囲に女子しかいないという  
状況を時折ふっと意識してしまうことがある。一度意識の端に上ると、男としての本能  
から来る狂おしい欲望を止めるのに苦労する。法行が職員用のトイレに行くため北校舎に  
走るのは、純粋な生理的欲求から来るものだけではないのだ。  
 しかし学校の休み時間は短いし、家に帰れば花音がいるので気を遣う。自慰によって  
欲求を発散するにも、思うように行っていないのが事実だった。  
 そこに来て、浄里から発せられた据え膳発言。動揺するなと言うほうがおかしい。  
「……いや、そんなことは……」  
 思わずそんなことを口走ってしまう法行。転入当初、周囲の大騒動を鑑みて一度は浄里の  
申し出を退けた法行だったが、彼自身とて浄里に魅力を感じていないわけでは決してない。  
 絹のような艶のある黒髪と、見る者をはっとさせる凛とした美貌。そして制服の下に包ま  
れている抜群のプロポーションは、以前臨海学校の視察で生徒会の面子と一緒に海に行った  
とき、思いの外大胆だった水着姿によって確認済みだ。  
 その、彼女が。  
(セックスフレンドになれ……だって?)  
 まるで空腹のシッダールタを前にして自ら焚き火の中へと身を投じた兎のようなことを。  
(ということは、つまり……その、してもいいってこと……だよな)  
 もう一度法行の喉がごくり、と鳴る。今度はその音が届いてしまったのか、浄里がびくり  
と身体を一瞬すくませた。  
「ご、後白河法行……目がギラついていますよ」  
「……えっ?」  
 舐めるように浄里の肢体を眺めてしまっていた視線を、あわてて逸らす法行。  
「そう、そのような目を我が学院の女生徒たちに向けて欲しくないからこそ、このような  
申し出をしているのです。か、勘違いしないで下さい。私は決して、あなたに付き合えとか  
恋人になれと申しているわけではありません」  
 大分落ち着いてきたのか、それでも紅潮した頬は隠しきれずにこほん、と浄里は息をつく。  
「あくまでも性的衝動を発散させるための割り切った関係です。そのためならば私自身の  
犠牲など惜しくはありません。で、ですから……」  
 色気の無い事を言っているようだが、わずかにもじもじと身をよじらせていることに  
法行は気づいた。清廉を絵に描いたような普段の彼女とは違う、何とも言えない色香を  
その所作に感じ、法行の胸の奥でどす黒い欲望の窯が開きかけた。  
「……ですから卒業するまで、貴方の性的衝動は私一人に向けてください。私などでよければ……その、どのような事をしても構いませんので」  
 私を好きにして。  
 その言葉が限界だった。  
 法行は決意を瞳に込めると、一足歩み出て浄里の肩に手を置く。びくっ! と目に見えて  
彼女が震えるのが分かった。  
「……いいんだな?」  
 驚愕、不安、そして安堵の色が、見上げてくる浄里の瞳に次々と浮かんでは消える。  
 そして最後に残った色は……焦燥。狂おしい欲望に身を焦がしているのは、何も法行  
一人というわけではないようだった。  
「相手が貴方ならば……」  
 これから始める行為に反して、二人の言葉はまるで一騎打ちに望む侍のようだった。  
 
わずかな距離を挟んで、後白河法行が折り目正しく正座して自分を見つめている。  
 千住家の二階、後白河法行の部屋の自室のベッドの上である。  
 そんなに見つめないでほしい、と浄里は思った。提案が受け容れられたのは予想外の喜び  
だったが、緊張するものは緊張する。浄里とて契りを交わすなど初めてのことなのだ。  
 浄里はとりあえず三つ指をつき頭を下げながら言った。  
「ふ、ふつつか者ですが……お情けを頂戴しとうございます」  
 自分でも何を言ってるんだと思う。しかしどういった作法をもってすれば良いのか  
分からないのだから仕方ない。そうだ。とりあえずは裸にならなければと、浄里は制服の  
上着に手をかけてするりと脱ぎ、素早く折りたたんで床に置いた。しかし視線を法行に  
戻すと、片手を上げて制止するポーズをとっている彼の姿がある。  
「……いや、ちょっと待ってくれ」  
「何ですか。よもや今さらやめようなどと……女に恥をかかせるつもりですか」  
「違うんだ」  
 そう言うと、法行は器用に正座したまま距離を詰めてきた。息のかかる位置にまで接近  
した法行の顔に、すでに高鳴っていた浄里の心臓は爆発しそうになる。  
「俺が脱がす」  
 え、と声を出す暇もなく、法行の手が浄里の制服のブラウスにかかった。止める暇もなく  
ボタンが外されて行く。最後は引きちぎるかのような勢いで、法行はブラウスをはだけた。  
浄里の引き締まった白い肌が露わになり、思わずブラジャーに包まれた胸を護るように腕で  
身体を覆ってしまう。  
「そ、そんな乱暴に……ひっ……」  
 抗議の声も耳に入れず、続けざまに法行の手が伸びてきた。浄里の腕を取って強引に  
開かせると、ブラジャーの肩紐に手をかけて一気に下へとずり下ろされてしまう。  
 浄里の形の良い豊かな双丘が、法行の眼前にまろび出た。押しとどめる暇もなかった。  
 そして、浄里の腕を押さえたまま、法行の動きが止まった。恥ずかしさの余り顔を向ける  
こともできず、浄里はかーっと顔が熱くなるのを感じていた。  
(ああ、彼に見られている……! 誰にも見せたことのない、この身体を)  
 自分自身の美貌とスタイルには、それなりに自信を持っている浄里だったが、あくまでも  
自己評価に過ぎないことは重々承知している。彼の目に、私の胸はどう映るのだろう。  
 大きさと形には自信がある。だが乳首の色は濃すぎないだろうか。乳輪は大きすぎないだろうか。今さら悔やんでも仕方ないが、少しは美肌に気を遣うべきだっただろうか。そんな想いが次々と浄里の脳裏に去来しては消える。  
 しばらく、二人は固まったまま動かなかった。しびれを切らして、浄里が静かに呟く。  
「……な、何か言ってください」  
「……綺麗だ」  
 思わず法行の顔を見ると、彼は呆けたように一心に浄里の身体に見入っていた。そして  
ようやくその言葉の意味が心を満たし、浄里はじぃんと甘い痺れが身体を貫くのを感じる。  
 若干の心の余裕を取り戻した浄里は、凍ったように静止してしまっている法行に呟いた。  
「……さ、触っても良いのですよ……んうッ……!?」  
 浄里が言い終わるよりも早く、法行はその豊かな果実にむしゃぶりついてきた。  
 

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