前世の夢を見ていた。  
 
私はかつて住んでいた城の自分の部屋の窓際に立っていた。  
 
過去夢を見るのは何年ぶりだろうか。  
 
私は窓際から、過去の私を、映画のスクリーン越しに眺めるかのように見る。  
 
部屋の中で私は一人の男性と接吻ていた。  
 
相手は前世の兄くんだ。  
 
この時のことはよく覚えている。  
 
このあと、兄くんは辺境の地に戦争へ出て、棺に収められて帰ってくる。  
 
私は兄くんの死を悲しみ、毒をあおってあとを追った。  
 
気がつけば暗く、冷たいところにいた私。そこに、死神が現れてこう言った。  
 
「お前達は兄妹でありながら夫婦の契りを交わした罪により、永遠に結ばれる 
ことの無い転生を繰り返すだろう。」  
 
それは現実になった。  
 
私と兄くんは、今世にいたるまで、共に三度の転生を果たした。  
 
だが、死神の言葉どおり、私と兄くんは兄と妹として生まれ落ち、その度に罪 
を繰り返した。  
 
結ばれないと分かっていても繰り返す。  
 
いや、結ばれないからこそ繰り返す。  
 
それは四度目の転生。今世においても同じだった。  
 
誘いをかけるのは私。初めは拒んでも、それを越えれば、あとは堕ちるだけ。  
 
兄くんが離れ、部屋を出た。  
 
そこで目が覚めた。  
 
「・・・・」  
 
うっすらと目を開ける。  
 
外は朝を迎えていた。  
 
差し込む日の光。  
 
棺から出て外を覗きこんでいるうちに、脳が覚醒してくる。  
 
上着を羽織ってリビングに出る。  
 
そこには兄くんが朝食を用意して待っていた。  
 
「おはよう千影」  
 
「おはよう・・・兄くん」  
 
 
 
朝食を食べ終わり、ソファに腰掛ける。  
 
隣には兄くんがいる。  
 
「どうした?」  
 
「・・・なんでもない」  
 
兄くんの顔を見ていたのに気付かれたようだ。  
 
 
 
今、私と兄くんには時間が無い。  
 
兄くんは気がついていないことだが、転生は無限ではない。  
 
永遠に繰り返すかのように思えるこの転生にも、いつか終わりが来る。  
 
そして、それは近い。  
 
あと、三度の転生をしないうちに、兄くんの魂は消滅する。  
 
正確に言えば、私の元に還ると言うべきか。  
 
元々、私と兄くんの魂は一つだった。  
 
それがある時、何かをきっかけに二つに分離し、結果私と兄くんという存在 
が形作られた。  
 
だが、兄くんを形作っている魂が、存在し続ける力を転生のたびに弱め、限 
界が来ている。  
 
兄くんの存在をとどめる方法として、私は一つの結論にたどり着いた。  
 
何者にも邪魔されない、何者にも束縛されない、二人だけの世界に逝こう。  
 
私は、そのための儀式を果たした。  
 
あとは兄くんを連れて行くだけだ。  
 
ある夜、寝静まった兄くんを私の部屋の魔方陣へと運び出した。  
 
男性である兄くんを背負うのは苦労した。  
 
その苦労ももうじき報われる。  
 
魔方陣の上で呪文を唱え、目を閉じればそれで終わり。  
 
私と兄くんは、その世界に立った。  
 
 
「千影・・・?」  
 
「お目覚めかい?兄くん」  
 
「ここは、どこ?」  
 
「ここは・・・二人きりの世界だよ」  
 
「二人きりの世界・・・?」  
 
「そうだよ兄くん。私達は誰にも邪魔されない世界に来たんだ。」  
 
「それって・・・」  
 
「フフッ・・・さぁ、おいで兄くん」  
 
私は纏っていた衣服を脱ぎ捨てる。  
 
 
 
ここは影絵の街。  
 
私と兄くんだけの世界。  
 
牢獄であると同時に、絶対空間。世界の裏側。  
 
何人にも侵されざる領域。  
 
 
 
 
私は今日も最愛の人、兄くんと体を重ねる。  
 
 
 
= 完 =  

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