とある日の放課後のこと。  
『あの日』以来、ヒメコは不安と焦りで頭が一杯だった。  
(あないな奴がスイッチを狙っておったなんて。あたしのスイッチは絶対に渡せへん。)  
スイッチと島田の会話を盗み聞きしていた時に、島田がスイッチに気があることが発覚してしまったのだ。  
実はヒメコはスイッチにひそかに片思いをしていたのだが、意外なことに今まで  
特定の男子を好きになったことがなく、どうすればいいのか分からなかった。  
ただイケメンと言えども、オタクな上にパソコンの音声合成ソフトでしか喋らない  
スイッチには誰も見向きもしないだろうから急がなくて大丈夫だ、などと油断はしていた。  
(島田なんかにスイッチの何が分かるん?どないせ普段ろくに会話なんかしいひんくせに。)  
このままではスイッチを他の女子に取られてしまうのではないかと危機感を募らせていた。  
(今日ボッスンは用事があってすぐに帰ったはず。やからチャンスや。)  
そう思って、ヒメコはスケット団の部室のドアを開けた。  
 
すると案の定部室に居たのはスイッチ一人だけで、どうやらネットで面白い動画を探していたようだ。  
『ヒメコじゃないか。今日はボッスンが居ないから部活は休みだぞ。』  
ヒメコは扉を閉めた後、無言で立ち尽くしていた。  
『取り敢えず座ったらどうだ?今ニコニコ動画で面白いのを見つけたんだが、見るか?』  
ヒメコは心臓の鼓動が速くなるのを感じた。  
「スイッチ……。」  
『どうした?』  
(不思議そうな目付きでだが)スイッチにじっと見つめられ、ヒメコはスイッチを直視することが出来なかった。  
「実はアタシ、前からスイッチのことが……。」  
『いきなり何を言い出すんだ?』  
「スイッチが好きなんや。」  
ヒメコは頬を赤らめた。  
『今日のヒメコは何か変だぞ?第一ヒメコからしたら俺なんかレベルが低すぎるだろ。』  
「そないなことない。アタシやからこそスイッチのことを知って好きになるんや。」  
スイッチは無表情で居ようとしていたが、ついに頬が赤くなるのを隠しきれなくなった。  
『こんな俺でも良かったら……、飛び込んでおいで。』  
「好きやー!!」  
ヒメコは椅子に座っていたスイッチを、勢いで部屋の隅の畳に押し倒してしまった。  
 
二人は暫くの間無言で抱き合っていた。  
『……驚いたじゃないか。そんなに勢いよく抱き付くな。』  
スイッチは手を伸ばし、長椅子にある自分の鞄からノートパソコンを取り出して少し経った後にふと言った。  
「スイッチ。」  
とヒメコは呟き、おもむろにスイッチのズボンのベルトを緩め、下に下ろそうとした。  
『何をする。』  
スイッチはズボンを上げ、必死に抵抗しようとした。  
「何をするって……、これから二人だけの時間を過ごすんや。」  
『やめろ。俺はまだ気持ちの準備が出来てないんだ。』  
なおもヒメコから離れようとするスイッチに対し、  
「アタシから離れようとするなんてええ度胸やな。もう逃げられへんよ。」  
と言い、スポーツバッグの中からコンドームを取り出してスイッチに渡した。  
「もう用意はしとるんや。生でやるのはやっぱり危ないし、これを見せたら逃げようとするのをやめるやろうと思って。」  
『……、分かった。』  
スイッチは大人しく服を脱ぎ始めた。  
「アタシだってちいとばかしは恥ずかしいんやから。」  
ヒメコは既に服を脱ぎ終わって、畳にタオルケットを敷きうつぶせになっていた。  
「何ぐずくずしとるん?早うせんかい。」  
まだ戸惑っているスイッチをけしかけた。  
 
ようやくスイッチが服を脱ぎ終わると、横になっていたヒメコはスイッチの腕を引っ張って倒した。  
ヒメコはスイッチの体を撫で回した。  
「アタシらもう高校生なんやから、こうゆう事も経験せんとあかん。」  
『そうだな。』  
そうこうしているうちに、やがてスイッチがヒメコに覆いかぶさるような姿勢になった。  
『ヒメコの体って温かかったんだな。』  
「好きな男の子とこないなこと出来るなんて幸せ。」  
スイッチは照れ臭そうだった。  
「早う、アタシを攻撃して。」  
『ヒメコの口からそんな言葉が出るとは……、アア……、ハァ。』  
二人共、興奮を抑えることはもはや不可能だった。  
『うわ……、あ、いく……。』  
スイッチが攻撃を始めた。  
「ア、ア……、ノアアアアアアアッ」  
二人はタオルケットの上を転がり込んでいた。  
『ハァ、ハァ……、アアアアアアアアアア。』  
スイッチはついにキーボードを打つことが難しくなり、Aのキーを押し続けていた。  
二人は体を激しく動かし続けていた。  
「ウーッ、ウーッ。」  
『アアッ。』  
「ハァー。ちいとばかし疲れてきたな。」  
『ああ。』  
二人は力を抜いた。  
「今度ディズニーランドに行こうな。ボッスンには内緒やで。」  
バッグからワンデーパスポート二枚を取り出した。  
『でも……、いいのか?』  
「ボッスンには申し訳ないけど、アタシら恋人同士なんやからええやない。」  
『そうだな。』  
二人はまた抱き合った。  
「昔ワルやってた時につるんでた男共は、どうもアタシの肌に合わなかったんや。  
それで大人しくて真面目そうなスイッチに一目惚れしちゃって……。ボッスンもええ奴なんやけどな。」  
ヒメコは恥ずかしそうに言った。  
その時、ドアの向こうでガサガサ物音がした。  
 
誰かがノックをしているようだ。  
「はぁい、ちょっと待っとき。」  
二人は急いで服を着た。  
「着終わったな?」  
ヒメコはスイッチに小声で確認した後、ドアを開けた。  
「ヤバ沢さん!」  
「どうしたの?今何かヤバいことでもあった訳?」  
「何もあらへん!!」  
「変に動揺してるね。絶対二人で何かヤバいことしてたでしょう!?」  
「で、何の用なん?」  
「鞄のキーホルダーを無くしてぇ、ヤバいと思って探してもらおうとここに来たんだけどぉ。」  
「分かった。まかしとき。」  
「てゆうか、ぶっちゃけ今やってたでしょ?ヒメコちゃん髪が凄く乱れてるし、入った時二人共様子が変だったし。チョーヤバイ!!!」  
「そんな事あらへん!」  
「本当?ヤバくない?」  
ヤバ沢さんはニヤリと笑いながら続けた。  
「私プラダのお財布欲しいんだけどぉ、お金無くてヤバいからぁ、ちょうどいい機会だからスイッチ君買ってくんない?」  
『それはちょっと……。』  
「じゃあヒメコちゃんと部室でやってたって、もし違うとしても言いふらすよ?ヤバいよね?」  
ヒメコとスイッチは顔を見合わせた。  
「スイッチ君お金あるんでしょ?いろいろ物をあげてるって噂を最近聞いたんだけど?」  
『え?あぁ……。』  
スイッチは歯切れの悪い返事をした。  
 
ヤバ沢さんのキーホルダも無事に見つかり、二人は学校から帰るところだった。  
ヒメコはふと足を止め、誰も居ない小さな公園のベンチにスイッチを連れ込んだ。  
「スイッチ……。」  
『ん?』  
「アタシはプラダの財布なんかいらんからな。スイッチが居てくれればええんや。」  
『そうか。』  
スイッチはヒメコの背中に手をまわした。  
「アタシは何かあった時にスイッチを守ることと、これ位の事しか出来へんけど……、」  
と言い終えるや否や、スイッチにキスをしようとした。  
『実は俺も、ヒメコに憧れてたんだ。』  
と言い、互いに口付けを交わした。  
『頑張って二人で同じ大学に行こうな。』  
ヒメコはコクリと頷き、そのまま二人は体を寄せ合った。  
段々と空が暗くなってきた。  
「さぁ、そろそろ帰ろうや。」  
ヒメコが腰を上げた。  
『おお。そうだな。』  
スイッチも立ち上がって、二人は再び家路に就いたのだった。  
 

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